1430.構文篇:初回でいかに伏線を提起できるか

 今回は「伏線」の考察その1です。次回にその2を投稿します。

 とくに初回の伏線でどこまでカバーするのかが作品の質を大きく左右するのです。

 人によっては「伏線を張る」のをまったく考えずに書く人もいます。とくに初回に「伏線」がないのは論外。そんな作品は「小説賞・新人賞」では一次選考で落とされます。





初回でいかに伏線を提起できるか


 連載小説を書く際、最も気を配らなければならないのは「初回でいかに伏線を提起できるか」です。つまり「謎の伏線」で読み手の気を惹いてください。




初回でスッキリさせてはならない

 初回を読んだらスッキリした。

 書き手はそれがいちばんだと思い込んでいます。初回でスッキリすれば読み手が満足感を覚えるのは確かです。ですが「続きを読もう」とはなかなか思いません。だって初回でスッキリしてしまったのですから。

 たとえば初回で桃太郎が「鬼を退治してきます」と言って鬼ヶ島の鬼を倒して帰ってくる。

 主人公が宣言したものを達成して帰ってくるので読み手はスッキリします。

 ですがそこから物語が膨らむでしょうか。なかなか膨らみませんよね。

 そうなのです。最初に立てた誓いを初回で果たしてしまうと、そこで物語が途切れてしまいます。次の事態を始めるには、もう一度仕切り直すしかありません。

 もし十万字・原稿用紙三百枚の長編「小説賞・新人賞」応募作なら、初回でいったん事態が収拾してしまった時点で「ボツ」です。

 なぜ初回で事態が途切れては駄目なのか。「ぶつ切り」の印象を与える他、短編集よくて短編連作だと捉えられてしまうからです。

 極端な話をすれば、十万字以上の募集要項に、一回五千字の短編を二十篇詰め込んだらどうなるか。という話です。たとえ同じ主人公や「対になる存在」が出てくるとしても、短編連作にしかなりませんよね。それを長編「小説賞・新人賞」受賞作にするわけにもいきません。

 そもそも長編小説は、ひとつの事態を十万字以上で表現するから意味があるのです。短編連作でもよければ募集要項にそう書いてあります。

 だから長編小説の「小説賞・新人賞」に応募するなら、ひとつの事態を十万字で書ききるようにしてください。

 そのためにも、初回で提起された「謎の伏線」をそこで解決してはならないのです。




いかに初回を佳境の伏線とするか

 長編「小説賞・新人賞」は、とくに初回が物語「佳境クライマックス」の伏線になっていなければ選考さんに評価されません。

 しかし「佳境クライマックス」の伏線だと初回で気づかれても駄目なのです。

 たとえば初回に吸血鬼の話をしながら家に帰る話にして、「佳境クライマックス」で吸血鬼と戦う場合。これは伏線を直接書いていますから伏線にもなりません。ただの前フリです。

 そうではなく、初回は太陽の光、鏡、にんにく、十字架、白木、銀などが出てくるものの吸血鬼の存在にまったく触れないでおく。そして「佳境クライマックス」で「対になる存在」である吸血鬼と戦う。これなら初回の情報が伏線となっていますよね。

 ただしこれはあくまでもたとえです。ここまで露骨な伏線を書くと、読み手はすぐに「あぁこれは吸血鬼が出てくるな」と察しがつきます。

 そこで吸血鬼とバレそうな情報を間引きましょう。

「白木」「にんにく」「十字架」はどうしても吸血鬼を連想しやすいのでこれらは伏線に適していないので捨てます。残った「太陽の光」「鏡」「銀」だけならまず吸血鬼は連想できません。そこで初回では「太陽の光」「鏡」「銀」を登場させて、初回の話ではそれほど活用しないようにしてください。思いきり手を抜くなら「銀の鏡に太陽の光が反射した。」と書いてもかまいません。

「太陽の光」は基本的に吸血鬼と戦うのは夜中ですから、「夜明けの太陽光」にしたほうがよいので、初回は朝日を浴びて起床するところから始めるべきです。このときの「朝日」が「夜明けの太陽光」であり、「対になる存在」が吸血鬼だとわかったときに「だから初回で朝日を出したのか」と気づいてもらえます。

 また初回に「夜明けの太陽光」で主人公が起床し、「佳境クライマックス」で吸血鬼が「夜明けの太陽光」で滅していく。この対比も綺麗にハマります。

 こういう情報こそが正しい「伏線」となるのです。




桃太郎は悪い例

『桃太郎』の話をしたので、ここで『桃太郎』の初回を考えてみましょう。

『桃太郎』は初回でおばあさんが川で洗濯しているときに大きな桃がどんぶらこと流れてきました。それを家に持ち帰って割ってみると子どもが生まれたので「桃太郎」と名付けたのです。ここに「佳境クライマックス」の鬼を連想させる情報「伏線」はあるのでしょうか。ありませんよね。だから『桃太郎』は初回で物語が完結しているのです。

 大きな桃を割ると子どもが生まれたので「桃太郎」と名付けました。めでたしめでたし。そういう流れですよね。

 そこでいったん話の流れを切って、次に元服した桃太郎が「鬼ヶ島の鬼退治に行ってきます」と言い出します。唐突もよいところです。初回で「鬼」なんて単語は出てきませんでしたよね。

 構成で言うと「起転承結」と二番目と三番目が入れ替わった形になります。

「起」大きな桃から子どもが生まれて桃太郎と名付けた

「転」元服した桃太郎は鬼退治に行くと言い出す

「承」道中で犬・猿・雉を仲間にする

「結」桃太郎一行が鬼ヶ島の鬼たちと戦って退治し、金銀財宝を持ち帰る

 となるので「佳境クライマックス」にかかわる情報は「転」になるまで出てきません。

 もし現在の「小説賞・新人賞」に『桃太郎』が応募されたら、間違いなく一次選考で落とされます。それはそうですよ。初回は初回だけで物語が完結していて、次回になって初めて「対になる存在」が出てくるのですから。

 もし『桃太郎』を添削するなら「初回に鬼を匂わす情報を書いてください」になります。

 超解釈だと、大きな桃がとんでもなく大きくそれが大きな鬼を暗示していた、とも考えられるでしょうか。ただそれだけだと弱いですよね。やはり初回で「隣の村で鬼が暴れている」という情報を書いておきたい。

 また「金銀財宝を持ち帰る」ので「おじいさんとおばあさんの家は貧しい」と書いてあれば、富の象徴である「金銀財宝」への伏線にもなります。そのための「おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました」なのでしょうけれども。

『桃太郎』は初回伏線なしで物語が進みます。だから唐突感が強いのです。


 皆様の小説は初回でお話が一度完結していませんか。物語の「佳境クライマックス」につながる伏線は初回で出していますか。

 この条件をクリアした作品だけが、「小説賞・新人賞」で初回の選考を突破できるのです。





最後に

 今回は「初回でいかに伏線を提起できるか」について述べました。

 読み手に気づかれないように、初回に「佳境クライマックス」へつながる伏線を仕込みましょう。

 どれだけ巧みに読み手の推理を回避するか。

 推理小説だけでなく「異世界ファンタジー」でもうまく読み手の推理を回避してください。どれだけ気づかれないでいられるかは、数多く作品を書いた経験しか頼りになりません。

 だから長編小説の「小説賞・新人賞」に応募するなら、その裏で何十本、何百本もの長編小説を書いてあるべきなのです。

 少なくとも、長編小説の処女作で受賞するのは難しいでしょう。



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