1416.構文篇:オープニングから目立たせてキャラクターを立てる

 今回は冒頭から「キャラクターを立てる」についてです。

 物語が始まったらまず「主人公のキャラクターを立て」てください。

 物語の世界観や設定などを書いてはなりません。そんな暇があるのなら逸早く主人公を出すべきです。





オープニングから目立たせてキャラクターを立てる


 小説はツカミが重要です。ここでどれだけの読み手が主人公を受け入れるか。それで最後まで読んでくれる割合が変わってきます。

 小説のツカミとはまさに「書き出し」です。

 推理小説では、まず「死体を転がせ」と言われます。これもツカミで可能なかぎり多くの読み手を取り込む経験則です。




オープニングからひと騒動起こす

 おおかたの小説はひじょうに地味な入り方をします。そろりそろりとできるだけ波風を立てない作品が多いのです。

 ノーベル文学賞の川端康成氏『雪国』も列車での移動を慎重で丁寧に描いていきます。

 こんな小説もよいのですが、作品のよさを押し出すには惹きが弱い。

 夏目漱石氏『吾輩は猫である』の書き出しや太宰治氏『走れメロス』の書き出しはどうだったでしょうか。いきなり主人公がなにかしていますよね。それによって主人公の「キャラクターが立っ」ているはずです。

「吾輩は猫である。名前はまだない。」「メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。」この先どうなるのか気になりますよね。まぁ『走れメロス』は「メロスがどうなるか」だけに気がいきすぎて感情をストレートに書きすぎなので、全体の評価は「残念な書き出し」の例に含まれますが。

 ライトノベルでも祖のひとつである水野良氏『ロードス島戦記』はそろりそろりと探りながらの『雪国』タイプの書き出しになっています。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』は、いきなり銀河の歴史をつらつらと書き連ねているのです。正直に言って、物語が面白いとわかっていなければ、この歴史の授業でたいていの読み手は脱落するでしょう。旧アニメが「不朽の名作」だから、仕方なく黙って読んでいるだけです。


 ライトノベルでいきなりひと騒動起こす代表的な作品に賀東招二氏『フルメタル・パニック!』があります。

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「いい、ソースケ? A4のコピー用紙、二〇〇〇枚よ?」

 職員室の扉の前、のんびりした放課後の喧騒とは裏腹に、千鳥かなめは深刻な声で言った。

────────

 会話文からの始まりですが、これからなにか起こりそうな印象を受ける書き出しではないでしょうか。ここからさらにかなめと宗介が会話して、ある作戦が実行に移されます。それがとんでもない結果を引き起こすのです。

 気の強い千鳥かなめと、その命令に従順に従う相良宗介の関係性が明確であり、ふたりのキャラクターも立っています。

 これほど読み手をがっちりと掴んだオープニングは「見事」と言わざるをえません。

『フルメタル・パニック!』はライトノベルのお手本のような作品なので、未読であれば第一巻『フルメタル・パニック! 戦うボーイ・ミーツ・ガール』だけでも読んでみましょう。電子書籍で確実に入手できますよ。ただ、いろいろと書き込みながら読みたい作品でもあるので、できれば文庫本も手に入れたいですね。




主人公が動かざるをえなくする

 何度か書いていますが冒頭からまず「死体を転がせ」はきわめて原始的な感情を刺激します。

 読み手は「謎」を与えられたら解かずにおれません。「謎」のままにしておくと生存本能が警告を発するからです。もし夜道を歩いていて後ろから物音がしたら。正体を確かめずにはおけないのです。そんな勇気がなければ、一目散に帰途へつくでしょう。脇目を振っている余裕すらありません。

 そんな人が多いと思いますが、中には返り討ちに遭わせようと正体を暴きにいくでしょう。そういう「読み手とは異なる手段」をとる主人公の「キャラクターが立ち」ます。

 もちろん一目散で逃げる主人公なら読み手は主人公に親近感を覚えるのです。それはそれで読み手に安心感を与えて「キャラクターは立ち」ます。

 つまり主人公を「動かざるをえなく」すれば、自然と「キャラクターは立つ」のです。

 冒頭でキャラクターが立っていない、または誰が主人公かわからない作品だと、読み手は焦れてしまいます。すぐに「回れ右」してあなたの作品から離れていくのです。「小説賞・新人賞」応募作では致命的とさえ言えます。

 冒頭からダラダラと設定ばかり書いてはなりません。最初のシーンでするのは説明でないのです。動かざるをえない状況で主人公を出し、その対応を読ませて「キャラクターを立てて」ください。

 そういう状況を生み出した「対になる存在」も匂わせられますし、それを伏線にできます。書き出しと「佳境クライマックス」がリンクしていれば、その「佳境」には必然性が生まれるのです。読み手も「あぁ、冒頭に出てきた死体はこいつに殺されたのか」とわかります。

 その意味では『雪国』『ロードス島戦記』『銀河英雄伝説』いずれも欠陥作です。すべて書き出しで主人公に触れていません。主人公の「キャラクターが立つ」どころか登場すらしていないのですから。


『雪国』では最初のシーンにこそ主人公の島村が登場しますが、書き出しから相当離れたところにいます。それまでは汽車で「雪国」に向かっていることしかわかりません。到着した「雪国」が越後湯沢だとわかるまでさらに文字数を要します。

『ロードス島戦記』では最初のシーンには主人公の冒険者仲間であるドワーフのギムと、かつて六英雄のひとりと呼ばれた司祭のニースが登場します。「佳境」への伏線も語られていますが、本作の主人公はあくまでも聖騎士を夢見る村人のパーンです。そのパーンが出てこないシーンですから、どうしても蛇足の感が拭えません。

『銀河英雄伝説』なんて一章まるまる「銀河の歴史」を読まされます。その中に主人公はいっさい出てきません。これで飛ぶように売れるのですから、「売れるSF小説」がなんなのかわからなくなるんですよね。明らかに読み手が離れていくはずなのに、旧アニメが名作だから主人公ラインハルト・フォン・ローエングラムが出てくるまでじっと待っていられます。きわめて特殊な例なのです。





最後に

 今回は「オープニングから目立たせてキャラクターを立てる」について述べました。

 キャラクターの中でも、とくに主人公は必ず「キャラクターを立てる」ようにしてください。それには冒頭から出来事に巻き込んでしまいましょう。リアクションを見せるだけで主人公の「キャラクターは立ち」ます。

 また主人公陣営のサブキャラクターも同時に巻き込めば、一回の出来事で複数の「キャラクターが立つ」のです。

 いかに効果的で効率よく「キャラクターを立てる」のか。

『フルメタル・パニック!』の書き出しがベストです。主人公の相良宗介とヒロインの千鳥かなめのキャラクターを同時に立てています。

『ソードアート・オンライン』の書き出しは「浮遊城アインクラッド」の説明を五百字程度で切り上げて、すぐに主人公のキリトの一人称視点で進めているのです。



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