1414.構文篇:キャラクターを立てる(毎日連載1,350日目)
今回は「キャラクターを立てる」についてです。
とくに読み手が感情移入する主人公の「キャラクターが立っ」ていないと、すぐに飽きられてしまいます。
どうすれば「キャラクターが立つ」のでしょうか。
ズームインしてみます。
キャラクターを立てる
前回「キャラクターが立っていない」「キャラクターが立つ」と言いました。
今回は「キャラクターの立て方」について考えてみましょう。
対になる存在を必ず出す
主人公ひとりだけでは「キャラクター」は立ちません。誰か比較対象となる人物が必要になります。それこそが「対になる存在」です。
「対になる存在」は主人公とは対照的であればあるほど魅力を増しますし、主人公の「キャラクター」も引き立ちます。
主人公の目標を争うライバルとして立ちまわる「対になる存在」もいるのです。たとえばノルウェーの探検家ロアール・アムンセンと南極点到達の偉業を競ったイギリス海軍のロバート・ファルコン・スコットはよきライバルだったはずです。だからこそ南極点到達の物語は人々を惹きつけてやみません。
もしライバルのいない「南極点到達」の物語を書いたら、どうやって盛り上げればよいのでしょうか。険しく厳しい大自然の脅威だけを書いて、主人公がそれをどう乗り越えるのか。ひじょうに地味な物語になってしまいます。
「対になる存在」一般にはライバルがいると、互いに競い合って抜きつ抜かれつになるのです。こちらがリードすれば突き放そうとしますし、劣勢ならなんとかして挽回しようと焦ります。自然とドラマが生まれるのです。
また「テーマ」は主人公と「対になる存在」との間で発生します。「勇気」が試されるのは、主人公と「対になる存在」との対決でです。「本心を打ち明ける勇気を持つ」なら主人公が意中の異性に告白する勇気があるかが問われます。
「テーマ」は主人公の最終決戦つまり「
アムンセンにはスコットという「対になる存在」がいて初めて「人類初の南極点到達」という「テーマ」を成し遂げました。「南極点」を求める「テーマ」は「スコットよりも早く」という条件がついていたのです。だからこそアムンセンの偉業は受け手をワクワクさせます。
「対になる存在」は「テーマ」そのものである証左です。
人に好かれる存在
「キャラクターを立てる」には「人に好かれる」存在に設定しましょう。読み手が感情移入できるキャラクターは、読み手が憧れたり同意できたりと入り込んでも嫌な思いをしない人格の持ち主です。「人から嫌われる」存在だと読み手が感情移入するととてつもなく重い。罵りや嘲りや侮りなどで扱われて堪えられるほど人間の出来た読み手は少ないのです。
もちろん渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の主人公・比企谷八幡のように物語開始時こそ「挫折したひねくれ者」でも、程なく「奉仕部」に放り込まれて新たな人間関係を構築しなければならなくなった例もあります。この場合はスタート地点こそ「人から嫌われる」存在でしたが、すぐに「人から見直される」ようになるのです。そうして関係線を築いて次第に「人に好かれる」ようになっていきます。
比企谷八幡に見るように、近年のライトノベルの主人公は今ひとつ「人に好かれる」要素が少ないのです。
川原礫氏『ソードアート・オンライン』のキリトだってパーティープレイは好きじゃないとソロプレイを長く続けていました。血盟騎士団との共同作戦でアスナと知り合っていなければ、その後もひとりで暗く攻略に向けたレベルアップを繰り返していたはずです。
そう考えると、「異世界転生」の人気も説明できるかもしれません。
主人公は元々「人から嫌われる」存在だった。現実世界で大きな挫折をした人のようですね。そういう人物が環境を激変させれば「主人公最強」「チート」で「無双」して世間の見方が変わってくれる。まさに現実世界で苦労してまで変わろうとする気のない「現代の若者」の姿を見ているようです。
ライトノベルのように、俺だって私だって環境が変われば誰よりも役に立つんだ。
それって壮大な「負け惜しみ」なのです。
現実世界の境遇は自力で切り開くしかありません。ライトノベルのように「異世界転生」などしないのです。だから「異世界転生」はファンタジーになります。
人はファンタジーでは生きられません。ファンタジーで空腹が紛れたり、ファンタジーで職に就けたり、ファンタジーでチートで最強になったりしないのです。
「異世界転生」ブームが過ぎたら、次に来るのは「現実世界を攻略してチートで無双する」主人公だと思います。その典型がまさに比企谷八幡だったのではないでしょうか。
八幡は問題に直面すると、不器用ですが有効な解決策を思いつくだけの「発想力」があります。しかし現実世界にいる皆様には「発想力」がないのです。ないから小説投稿サイトでウケのよい「異世界転生」ばかり書いては凡百に埋もれてしまいます。
現実世界を「ハックする」考え方がなければ、凡百から抜け出せません。いかに効率よく攻略していくのか。攻略の思想がなければ誰よりもすぐれた物語なんて書けやしません。
三人目も必ず出す
主人公と「対になる存在」だけしかいないと、物語は必然的に短くなってしまいます。
だって「主人公登場」「対になる存在登場で悪さを始める」「主人公と対になる存在の対決」「主人公が勝利する」のたったこれだけですよ。4コママンガのようなスピーディーな展開になってしまいます。よくてこの後に「そのあとどうなった」を付けるかどうかですが、四節しかないのに後日談に一節設けますか? という話です。
そこで「三人目」の出番です。もし「三人目」が「主人公の相棒」なら、「主人公と相棒登場」「対になる存在登場で悪さを始める」「主人公と相棒が対になる存在と対決」「主人公が敗北して相棒が捕らわれる」「挫折した主人公が特訓して強くなる」「主人公と対なる存在が対決・再び」「主人公が勝利して相棒を取り返す」と六節になります。
もし「三人目」が「主人公のライバル」なら、「主人公登場」「対になる存在の軍が登場して悪さを始める」「主人公とライバルの対決」「主人公が敗北する」「挫折した主人公が特訓して強くなる」「主人公とライバルの対決・再び」「主人公が勝利してライバルが改心する」「主人公&ライバルと対になる存在の対決」「主人公&ライバルが勝利する」の九節と、さらに長くなるのです。このくらい長くなれば後日談を付けてもよいでしょう。
「三人目」を味方にしたり敵にまわしたりしましたが、第三勢力の首領の可能性もあります。その場合はさらに複雑で、解決に二十節以上必要になります。陳寿氏『三国志』くらいの分量となるのです。とても「小説賞・新人賞」の分量には収まりませんよね。
あまりに長くなるからと、三勢力いずれも滅びず、バランスが多少変わるくらいで終わるならば、「小説賞・新人賞」に応募しても大賞は獲れません。「未完」だからです。
「小説賞・新人賞」へは完結した作品を応募しましょう。そのうえで物語を膨らませそうなら、選考にあたった編集さんから連載化の話が舞い込みます。最初から「未完」ではこの先どうなるのかがわからないため、大賞を授けるわけにもいかないのです。
「連載中の作品でもOK」な「小説賞・新人賞」もありますが、基本的には応募期間内に連載を終えましょう。物語を終わらせる力があるのかどうか。選考さんが評価するポイントのひとつになります。
最後に
今回は「キャラクターを立てる」について述べました。
「対になる存在を必ず出し」てください。主人公は「対になる存在」との対比でしか魅力を表現できません。
花咲かじいさんは、悪徳じいさんがいて初めて善人が際立ちます。主人公は花咲かじいさんであるべきです。悪徳じいさんが主人公では読んでいて気持ちがよくありません。
主人公と「対になる存在」だけが存在しても、物語はきわめて短くなってしまいます。そこで「三人目」を登場させてください。三人目の役割次第で物語は長くも短くもできます。分量の調節がきくのです。
「小説賞・新人賞」は書きたいものを存分に書いて「長さぴったり」の作品が好まれます。
どれだけ魅力的な「三人目」を仕立てるかで、物語の評価はよくも悪くもなるのです。
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