1408.構文篇:キャラクターに会いたい

 今回は「会いたい主人公とは長い付き合いになる」ことについてです。

 魅力的な主人公とは「なにをおいてでも会いたい」キャラクターが多い。

「主人公に会いたい」と思わせなければ、大ヒット作にはならなのです。

『カクヨム』にて総文字数が500万字を超えました。『小説化になろう』ではまえがきを「前書き」欄に記載しているので、485.7万字止まりです。

『カクヨム』の皆様、ここまでご愛読いただきましてありがとうございます。そろそろ連載も終わるかなぁ、というところですので、今しばらくお付き合いいただければと存じます。





キャラクターに会いたい


 小説は物語が第一だ。

 これはストーリーテリングの観点からは正しい。

 ですが、読み手の気持ちは汲み取れていません。

 読みたいのは、正確には「物語」ではないのです。

 主人公や「対になる存在」といった「キャラクター」がどう立ち回るかに触れたくて小説を読みます。

 基礎を疎かにすると、多くの方が読みたくてしょうがない作品は書けません。




主人公を詳しく知りたい

 小説とは、詰まるところ「主人公」の魅力が大半を占めます。

「物語」の面白さは、主人公の魅力が遺憾なく発揮されているかにかかっているのです。

 意外でしたか?

 先日書きましたが、主人公に魅力がない「物語」なんて見かけ倒しもよいところです。

 主人公が謎に包まれていると、それだけで吸引力が発生します。

 たとえば鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』の主人公・上条当麻は、右腕に「幻想殺しイマジンブレイカー」という検出されない能力を宿しているのです。この能力は神の力さえもかき消せるほどの性能を誇ります。しかし「幻想殺し」の秘密は物語がかなり進んでから明かされたのです。それまではずっと謎に包まれていました。

 謎だから知りたい。

 その欲求は人間が根源的に持っているのです。

 川原礫氏『ソードアート・オンライン』の主人公キリトは、VRMMORPG「ソードアート・オンライン」にβ版から参加していた通称「ビーター」です。そしてデスゲームと化した浮遊城アインクラッドの攻略にソロで挑んでいきます。キリトたち「ビーター」が持つ浮遊城アインクラッドの「攻略知識」は、完成版から参加したプレイヤーにとって喉から手が出るほど欲しいもの。それを独占している「ビーター」は一般プレイヤーにとっては妬みと蔑みの対象だったのです。では物語の中で「攻略知識」は明かされたでしょうか、活かされたでしょうか。実はほとんど明かされていませんし活かされていません。そもそもブログでの連載小説だった作品が単行本一冊に収まるまで圧縮と間引きを徹底されたのです。「攻略知識」を披露する紙幅がありません。しかも物語は百層を待たずに終了します。そこにも謎があるのです。

『ソードアート・オンライン』は主人公キリトが謎に包まれているので、強い吸引力が発生しました。


 そもそも「文豪」の作品でも謎を持つ主人公が吸引力を発揮しているのです。

 最も有名なのは夏目漱石氏『吾輩は猫である』でしょう。タイトルからしてハテナが付きますし、本文も「吾輩は猫である。名前はまだない。」といきなり謎を投げかけられています。

 ノーベル文学賞の川端康成氏『雪国』も、主人公は謎に満ちた島村です。物語が始まっているのに主人公が「島村」という名前で、なんのために越後湯沢を訪れたのか、それらがすべて謎に包まれています。

「謎の主人公」は「文豪」の切り札でもあったのです。

 それに対して太宰治氏『走れメロス』の主人公メロスはどうでしょうか。「メロスは激怒した。」はいかにも謎のように見えますが、答えはすぐ書かれています。つまり文を進めるための表現であって謎ではないのです。

「謎の猫」「謎の島村」は、上条当麻やキリトとなにが違うのでしょうか。

 まったく同じで、主人公に謎がある。

 実は、現在の純文学よりもライトノベルの名著のほうが「文豪」の作品に近いのです。主人公は謎に包まれているので、魅力的に見えてきます。

「謎に包まれた主人公」こそ、読み手を惹きつける秘訣だったのです。

 もし主人公のすべてが明らかだったら、あれほど主人公に惹きつけられません。

 太宰治氏のように冒頭から主人公について滔々とうとうと語ってしまうと、主人公に魅力を感じないのです。

 そんな太宰治氏を師と仰いだ芥川龍之介賞作家であるお笑い芸人ピースの又吉直樹氏の受賞作『火花』は、けっして『走れメロス』のような作品ではありませんでした。

 実は意外とライトノベルに近かったのです。だから三百万部を超えるビッグヒットとなりました。ライトノベルの読み手層にとって身近だったテレビで観るお笑い芸人が書いた小説。試しに読んでみたらハマってしまった。それもそのはず。「文豪」の作品のように、そしてライトノベルの名著のように、主人公が謎に包まれたお笑い芸人だったからです。その書きぶりはまるで川端康成氏の作品を読んでいるかのよう。それこそ「謎の島村」そのものでした。風景描写を続けながら自然と主人公へとたどり着く筆致は『雪国』を彷彿とさせます。

 もしこれから「文豪」の作品で小説を学ぼうとお考えなら、又吉直樹氏『火花』を読んでください。現代の多くの読み手が好む表現とはどんなものか。明治から昭和中期までの「文豪」が書いた旧仮名遣いとは異なり、現代文で読みやすく現代社会に即した世界観で書かれています。まさに現代の中高生が読むライトノベルに近い作品なのです。

 その証拠に、又吉直樹氏より前に三百万部売った書き手はおらず、また氏の後にそれ以上のヒット作を書いた書き手もいません。「純文学」の王道を歩こうとしすぎて、表現が現代の中高生に響かなかったから。

 中高生がいつも読むライトノベルと似た、謎に包まれた主人公がまず登場する。その周りで出来事が起こる。少しずつ主人公の謎が語られて解き明かされていく。

 そこにエンターテインメントを感じる読み手が多かったので、又吉直樹氏の後に『火花』以上のヒット作は生まれていないのです。

 主人公が謎に包まれている。言い換えればミステリアスな主人公は、いつだって読み手を惹きつけてきました。

 世界初の長編連載小説である紫式部氏『源氏物語』でも、主人公の光源氏はあまりの美しさから「光の君」と呼ばれて数多の女性と恋愛を謳歌するというプレイボーイぶりですが、出生だったり都落ちだったりは謎に包まれています。謎に包まれたプレイボーイでハーレムもの。まさにライトノベルの定番設定です。

 水野良氏『魔法戦士リウイ』の主人公リウイや、弓弦イズル氏『IS〈インフィニット・ストラトス〉』の主人公・織斑一夏を彷彿としませんか。




いかに謎が明かされるか

 主人公の謎は、いかに明かすべきか。

 この問題には多くの書き手が腐心してきました。

 あなたが好きな小説では、主人公の謎をどのように明かしてきたでしょうか。それが参考になります。

 リウイは魔術師の修行をしているくせに、ケンカっ早くてすぐ手が出てしまう武闘派です。なぜでしょう。織斑一夏は男子なのにISを装着できました。なぜでしょう。

 この「なぜでしょう」をどのように明かしたのか。いかに自然な形で明かせばよいのでしょう。

 エピソードを通して明かしていくほかありません。

 そうです。物語にとって、エピソードとは「主人公の謎を明かす」ために存在します。

 ときとして主人公の謎が深まるエピソードもありますが、謎に触れて解き明かすか深めさせるかは書き手の自由に選んでよいのです。

 ひとつ考えていただきたいのは読み手の受け止め方。謎を明かしたほうが惹きつけられるのか、謎を深めたほうが惹きつけられるのか。

 あまりにトントン拍子で謎が明かされるのも、実は好ましくありません。謎を抱えている姿を見るのが最もワクワク・ハラハラ・ドキドキして惹きつけられるからです。かと言って新作エピソードを何回読んでも、主人公の謎ひとつすら明かされないのでは、次第に魅力を感じなくなって飽きられてしまいます。マンガの尾田栄一郎氏『ONE PIECE』がこのパターンです。マンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』もそうなりつつあります。

 理想的なのは、主人公の謎をひとつ明かしたら、新たな謎が持ち上がってくるパターンです。

 現在テレビアニメが好評な堀井雄二氏&三条陸氏&稲田浩司氏『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』の主人公ダイはひじょうに謎が多い人物です。先週の放送ぶんまでなら、なぜモンスターに育てられたのか。なぜすべての魔法と契約できたのか。なぜ額に紋章が輝くと強さがさらに増すのか。他にも多くの謎があります。その中でも額の紋章が「主人公の謎をひとつ明かしたら、新たな謎が持ち上がってくるパターン」になっているのです。タイトルのイラストにもなっている、物語の鍵を握る謎となっています。

 おそらく『ダイの大冒険』は、あの額の紋章が「主人公の大きな謎」であり読者・視聴者を惹きつける源なのです。そしてその謎を解き明かすために大魔王バーンや六人の軍団長が存在し、関門を通過するために出来事を起こしてひとりずつ倒していきます。

 そして額の紋章の謎が解き明かされたとき、物語は佳境を迎えるのです。


 物語の創作方法としてこれまで、「命題」を見つけてそこから「テーマ」を据え、「企画書」を書く手順を記してきました。「企画書」で主人公の情報や隠された謎を決めておくのです。

 そして出来事エピソードを起こして「主人公に影響を与え」ます。ここで謎に包まれた主人公の謎がひとつずつ明かされるような出来事とその結末を組み上げていくのです。

 主人公の謎を無視した出来事エピソードはすべて要りません。長編小説・十万字に起こせる出来事は限られています。謎に影響を与えない出来事は、主人公の魅力をまったく引き出せないのです。そんなものを書いておく理由も必要もありません。

 とくに「小説賞・新人賞」を狙うなら、余分な出来事なんて水増し以外のなにものでもないのです。

 こんな出来事を起こしたいな、と思っても割愛してください。省いても主人公が魅力にあふれていれば、その端々から「ここでは語られていない出来事があったに違いない」と主張するものです。

『ソードアート・オンライン』のように『紙の書籍化』で割愛していた出来事を含めて再構成した『ソードアート・オンライン プログレッシブ』が連載される場合だってあります。

「小説賞・新人賞」を狙いたいなら、このくらい潔い姿勢を持ちましょう。





最後に

 今回は「キャラクターに会いたい」について述べました。

 謎のある魅力あふれる主人公を真っ先に創ってください。

 出来事エピソードは主人公の謎を明かすためのきっかけにすぎません。

 先の気になる展開とは、主人公の謎に迫るエピソードが待っている状態です。

 だから「こんな展開をすると魅力的な主人公」を創るのではなく、「主人公の謎を明かしていく展開」を創る順番のほうが物語は格段に「面白く」なります。



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