1400.構文篇:ストーリーは突然にやってこない

 今回は「エピソードを突然起こさない」ことについてです。

 現実世界を鑑みると、出来事は突然やってきます。しかし物語では出来事を突然起こしてはなりません。場当たり感が強くなって「なにも考えていない」印象を与えてしまいます。





ストーリーは突然にやってこない


 物語で突然出来事が起こるなんてありえません。

 エピソードはすべて必然で語られ、時系列に則って並べて一方通行で読ませるべきものです。

 しかし現実では突然出来事が起こりますよね。これが「事実は小説より奇なり」と呼ばれるゆえんです。




エピソードは突然起こしてはならない

 出来事であるエピソードを起こすとき、前フリいっさいなしはやめましょう。

 読み手の意表を突くために、エピソードのきっかけすら示さない書き手が存外多いものです。「荒唐無稽」を履き違えています。

 意表を突きたいのなら、エピソードをその形とは異なる導入によって始め、エピソード中で「なにか違うぞ」と気づかせて「あ、こんな出来事だったんだ」の展開にしましょう。

 ラブストーリーなら、最悪の出会いでとても恋愛になるはずがない、と思わせます。しかし読み進めていると、主人公はなにか心に残るものがある。すると読み手の心にも残るのです。

 当初「最悪の出会い」だと思っていたものが、実は「運命の出会い」だった。恋愛ものではよくある展開ですね。

 小説に「意味のないエピソード」なんて要りません。すべてのエピソードに意味を持たせるべきです。

 逆に言えば、小説に「意味のないエピソード」なんてありません。どんなに無意味と思われるエピソードにも、なんらかの意味が必ずあります。もし本当にまったく「意味のないエピソード」を読まされたら「時間泥棒」にあったようで、一気に興味が失せてしまうかもしれません。




大きなエピソードの中で展開する

 エピソードを突然起こさないためには、ますメインとなる大きなエピソードをひとつ作ります。

 そしてそのエピソードが物語の最初と最後に収まるように器を作るのです。

 あとは器の外壁である大きなエピソードの中に、関連する小エピソードを縦に立てて収納していきます。ちょうど収納ケースにコミックスを収めているような形です。

 物語はその収納ケースを横から貫いているように進めていきます。

 この方法のよいところは、最初に決めた物語のメインとなる「大きなエピソード」を小さなエピソードが「はみ出さない」点です。

 たとえば「最強の魔王が王国の姫をさらい、勇者が最強の魔王を倒して姫を奪還する物語」が「大きなエピソード」なら、「最強の魔王」以上の敵は存在しません。「大きなエピソード」をはみ出してしまいますからね。

 また「最強の魔王を倒したら、実は神が操っていて神との戦いになる」なんてエピソードを後づけしようとしても「大きなエピソード」からあふれてしまうため、思いとどまれます。この場合、物語の形を収納ケースにたとえると「収納ケースいっぱいにエピソードが詰め込まれ、仕方ないので収納ケースの外にどんでん返しのエピソードを置いてみた」になるのです。

 しかし物語そのものは収納ケースに収まっており、その外にどれだけ重要なエピソードが置かれたとしても、収納ケースの外ですから文章化しようもありません。

 それなら最初から「神が最強の魔王を操って王国の姫をさらい、勇者は魔王を操っていた神と戦って世界を守る」ような器「大きなエピソード」にするべきなのです。

 つまり「冒頭」と「結末」は同じ器でなければひとつの料理になりません。

 デザートを後で足すような行きあたりばったりな構成では「小説賞・新人賞」は獲れないでしょう。


「大きなエピソード」の器があれば、あとはそこに料理をどう盛り付けるかがたいせつです。

 最初の小エピソードが起こり、解決するときに伏線を張ってから次の小エピソードを呼ぶ。その小エピソードが起こり、解決するときに別の伏線を張ってからさらに次の小エピソードを呼ぶのです。

「大きなエピソード」の中で起きる小エピソードは、基本的に分岐せずドミノ倒しのように次々と導かれていくのが理想的な形です。

 これなら読み手は迷わず一本道のストーリーを味わい、満足度を高めます。




一本道RPGの衰退と小説の隆盛

 欧米からとくに「JRPG」と呼ばれる日本固有の、物語に特化したコンピュータRPGのジャンルは、基本的に一本道のストーリーです。

 海外ではオープンワールドつまりいつどこへでも行けて、自由に発生するイベントを楽しむスタイルのRPGがウケています。とくに現在、海外ではRPGが下火となり、FPSファーストパーソン・シューティングが全盛を迎えているのです。物語を味わうより、戦場の臨場感そのものにのめり込むプレイヤーが多い。e−Sportsも当然銃弾飛び交う戦場を舞台にした生き残り戦が主体となっています。家庭用ゲーム機の映像が進化しすぎて、ゲームに物語性を求めなくなったのです。

 ある意味本末転倒な状況ですが、日本でも映像を活かしたゲームは一本道のストーリーになりやすい。スクウェア・エニックス『FINAL FANTASY VII REMAKE』も、映像は綺麗になりましたが一本道のストーリーを味わうだけです。PlayStation版が海外でも大ブレイクした作品のリメイクですが、海外ではたいしたヒットはしていません。海外ではどんなに映像が綺麗になっても、一本道RPGの天下は終焉していたからです。スクウェア・エニックス「最後の切り札」とされていた『FFVII』のリメイクも豪快な空振り三振に終わりました。

 海外ではFPSが隆盛を極め、一本道RPGが廃れていったのです。

 小説なら二、三時間で読めるシナリオが、ゲームだと数十時間、百時間と拘束されてしまうからです。それだけの時間を費やしても、得られる物語はひとつだけ。これでは廃れるのも無理からぬところです。

 ちなみにゲームでいえば、日本は今スマートフォンのアプリゲームが主力で、家庭用ゲーム機を持って遊ぶ層は少なくなりました。

 しかし今年発生した「新型コロナウイルス感染症」による「ステイホーム」で状況は一変します。

 Nintendo Switchは品切れとなり、ソフト『あつまれ どうぶつの森』がSwitchの最多販売タイトルに躍り出ました。またSONY PlayStation5も発売され、こちらも各地で品切れが発生して抽選販売になるほどの大人気となったのです。冷静にソフトラインナップを見ると、PS5はとても遊べるようなタイトルがないんですよね。このあたりがSONYの戦略のまずさといったところでしょうか。PS5が品薄でユーザーは足止めを食らっていますが、ソフトラインナップの薄さが気になります。今は品薄で話題となっていますが、仮に手に入れてもプレイしたいソフトがないのでは本末転倒です。Switchの品切れは『あつ森』の人気に支えられていますが、PS5にはこれといったキラータイトルが存在しません。


 これはネット小説と似ているかもしれません。

 人気のジャンルである「異世界ファンタジー」はこれといったキラータイトルがあるわけでもないのです。ただ「異世界ファンタジー」の総量で人気化しているに過ぎず、一本一本はさして面白くなかったりします。逆に「純文学」「推理」「歴史」などの弱小ジャンルは総量が少なくても一本一本の完成度が高いのです。

「異世界ファンタジー」がPS5で、他のジャンルがSwitchにたとえられますね。

 読みたいタイトルが決まっている人だけが「異世界ファンタジー」でさらに絞り込んで読んでいるのです。

「異世界ファンタジー」も他のジャンルも、一本道のストーリーである点では変わりありません。家庭用ゲーム機のソフトも一本道になっている以上、無料で読める小説投稿サイトにスポットが当たっているのです。

 これからの小説投稿サイトは、二〇一〇年以前のRPGプレイヤーを取り込んで「一本道のストーリー」の頂点に君臨するかもしれません。なにせ無料でたくさんの「一本道のストーリー」を読めますからね。

 問題があるとすれば、有料となる「紙の書籍」化に耐えられるだけの作品が少ないのです。だから「小説投稿サイトでは人気だけど、紙の書籍化の声がかからない」「小説投稿サイトでは人気がないけど、小説賞・新人賞を獲って紙の書籍化された」という状況が起こります。「小説投稿サイト」と「紙の書籍」とでは、求められるものが異なります。これは後日書こうと思っています。





最後に

 今回は「ストーリーは突然にやってこない」について述べました。

 ストーリーは最初に器を用意して、その中で繰り広げられるべきです。器の外にエピソードを置いてはなりません。もし器の外にエピソードを起きたくなっても、絶対に堪えてください。どうしてもというなら、器そのものを変えましょう。

 海外では一本道RPGが淘汰され、自由度の高いFPSが全盛です。

 日本でもJRPGに代表される一本道RPGは以前ほど流行らなくなりました。スマートフォンのアプリゲームのほうが手軽に遊べるからです。

 そして同じスマートフォンでストーリーを味わいたければ、無料で読めるマンガサイトや小説投稿サイトがあります。これからはこういったフィールドで物語は読まれる時代となるのです。



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