1399.構文篇:キャラクター重視

 今回は「キャラクターを活かす」ことについてです。

 とくに主人公に惹かれない物語は読み手を魅了できるのでしょうか。





キャラクター重視


 ライトノベルはキャラクターの魅力がすべて。

 もし主人公にまったく惹かれない作品なら、どんなに世界観やストーリーがよくても台無しです。

 主人公を活かす世界観や、主人公を活かすストーリーを考えなくてはなりません。




主人公を活かす世界観

 ライトノベルは「いかに主人公を活かせるか」にかかっています。

 主人公の設定を最大限に活かせる世界観とはなにか。まずそれを探してください。

 逆に、世界観を先に決めて「それ(世界観)を最大限に活かせるキャラクターとはなにか」だと思考が空転してしまいます。

 大きな世界観から要素を見つけ出して、それをひとつにまとめてみる。

 かなりたいへんな作業です。

 そうではなく、先に主人公のキャラクター設定をがっちり固めます。そこから主人公が「無双」できるような世界観を後付けで決めてしまえばよいのです。主人公の能力を遺憾なく発揮できる世界観は、明らかに後付けのほうがラクだしフルに活かせるものが生まれます。

 サンシャイン水族館で展示されている「空を飛ぶペンギン」だって、明確に「キャラ先」で作られているのです。「ペンギンが空を飛んでいる姿をお客さまに見せたいな」と水族館が思ったからこそアイデアが生まれたのです。透明の水槽をビルの外壁に設置して、ビルの谷間を飛びまわるペンギンの姿を見せる展示が思いつきました。もし先に透明の水槽をビルの外壁に設置して、これでなにを展示すればよいのだろうと考えられるでしょうか。意図もないのに水槽だけ用意する水族館なんてどこにもありません。

 先にキャラクターありき。少なくとも世界観よりもキャラ先で考えないと、フィットしたキャラクターと世界観は生まれないのです。

 とはいえ、先に世界観が決まってしまう例もあります。

「お題」です。

 たとえば「将棋」をお題にした小説を応募してください、という「小説賞・新人賞」があったとします。

 こうなると主人公は囲碁やチェスでプロになるわけにはいきません。

 どうしても「将棋指し」の主人公でなければ一次選考すら通過しない。と考えがちです。

 主人公は必ずしも「将棋指し」でなくてもよい。それこそ「将棋指しの親」であったり「将棋指しのファン」だったりしてもよいはずです。

 いっそのこと「昼食でいつも将棋番組を観る建設業の鳶職」が主人公でもよいはず。「将棋」を「お題」にした小説には違いありませんよね。




主人公を活かすストーリー

 この「昼食でいつも将棋番組を観る建設業の鳶職」が主人公という世界観。実は「主人公を活かすストーリー」を考えるうえで避けて通れません。

「主人公を活かすストーリー」は「主人公を活かす世界観」の下に存在するからです。

 この主人公は単に「将棋番組好き」なだけかもしれません。しかしより面白くするために、見取り稽古でプロ顔負けの棋力がある設定にして話を膨らませられるのです。

 そうなら働いている建設会社の社長とたまたま「将棋」を指す機会があり、おぼえよろしく難事件の解決を持ちかけられるかもしれません。

 するとただの「鳶職」が「令和の世直し人」となって社内や取引先のトラブルを解決してまわる、いわゆる『課長島耕作』『特命係長只野仁』もののストーリーにだって仕立てられます。

「将棋」に挑むように、理詰めでトラブルを解決するさまはとても映えるでしょう。

 問題は、書き手にも相応の知識が要求される点です。

『課長島耕作』『特命係長只野仁』スタイルをとる場合、どうしても業界や会社組織について詳しくなければならず、すべてを創作で乗り切るわけにはいかなくなります。

 どうしても『課長島耕作』『特命係長只野仁』スタイルをとりたいのなら、自分がいくらでも業界や会社組織を構築できる「異世界ファンタジー」にするべきです。

「異世界ファンタジー」に文句が言えるのは、あなた以上にその「異世界」について詳しい人物だけ。アマチュアならそんな人はこの世にいません。プロになると担当編集さんと二人三脚で物語を創っていきますから、書き手以上にその「異世界」に詳しい人がいる可能性もあります。一緒に創っている担当編集さんですね。

 つまり自分以上に物語世界を知る人がいないアマチュアなら、どんな物語世界にしても誰もツッコんでこられません。

「小説賞・新人賞」を狙うにも、「荒唐無稽」な世界観で主人公を無尽に活躍させる物語ほど魅力が高まります。

 存外「小説賞・新人賞」で大賞を射止めようと「安牌あんぱいを切る」人が多いのです。

 しかし「小説賞・新人賞」を射止めた作品は、たいてい「なにかが振り切れて」います。「荒唐無稽」上等。褒め言葉と受け取りましょう。

 こぢんまりとした作品が多い中で、限界を攻めるような「荒唐無稽」さはよい意味でも悪い意味でも「目立ち」ます。それが吉と出るか凶と出るかはやってみないとわかりません。

 しかし小さくまとまった作品は、そもそも「目立ち」ません。選考さんの印象に残らないのです。そんな作品を何十作応募したところで、一作も佳作にすら残らないでしょう。

 それなら「荒唐無稽」な作品で一か八かの大勝負に出て、大賞か一次選考にすら残れずか。まさに「俺か、俺以外か」の状態です。そのくらいの大勝負に打って出ないかぎり「小説賞・新人賞」を狙う他の作品との差別化は図れません。

 そう。この「荒唐無稽」な作品こそ、「主人公を活かすストーリー」の本質です。


「主人公を活かすストーリー」とは、主人公の能力つまり「できること」のすべてを使い倒すほど活躍させる物語を指します。

「昼食でいつも将棋番組を観る建設業の鳶職」だとすれば、主人公は「将棋」に興味があるはずです。となれば戦術にも詳しいでしょうし、定石だってかなり憶えているでしょう。建設会社の社長と「将棋」を指して才能を見込まれ、鳶職で鍛えた身体を武器に「令和の世直し人」となってもよいですし、社長の子息がプロになるまで指導する「将棋の家庭教師」の役目を与えられるかもしれません。

 ちょっと形は違いますが、白鳥士郎氏『りゅうおうのおしごと!』は最年少で「竜王」の冠を頂く主人公のもとに、弟子入り志願の九歳の少女が押しかけてきた物語です。

 どうです。なにか似たものを感じませんか。「将棋の家庭教師」と「竜王への弟子入り」です。

『りゅうおうのおしごと!』は将棋界で活躍する主人公ですから、まだ「将棋ライトノベル」の形になっています。しかし「将棋」でつながった人脈を駆使して「令和の世直し人」をやる主人公にすれば、とくに「将棋」に詳しくなくても長編小説くらいラクに書けてしまうのです。

 要は「荒唐無稽」を落とし穴と見るかチャンスと見るかの差と言えます。

 私は「小説賞・新人賞」を狙うなら「荒唐無稽」でなければ大賞は射止められないという立場です。

 そつなくこぢんまりとした物語なら平均点はそれなりに高いでしょうが、爆発力に欠けます。しかし「荒唐無稽」でどこかネジが緩んでいたり飛んでいたりするような物語は平均点こそ低いでしょうが、相当な爆発力を秘めているものです。


「読書感想文の書き方」でお話ししましたが、基本は「演繹えんえき法」でまず「主人公を活かす世界観」を示してください。そこから主人公に活躍の場を与え、大暴れさせるだけさせて「主人公を活かすストーリー」へ発展。ストーリーで張った伏線を回収しながら「帰納法」で一気に束ねて落着させてしましょう。

「荒唐無稽」な作品は、ある人には受け入れられなくても、他の人には大ウケする可能性を秘めています。

 そのためには、できるだけ「こんなストーリー、ありえないよ!」くらい振り切ったほうがよいのです。そのくらいでようやく手練と対等に戦えると思ってください。

 そもそもマンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』の孫悟空は「こんなストーリー、ありえないよ!」くらい振り切った展開をしていますが、多くの読み手を「熱狂的ファン」に変えるほどの爆発力を秘めていました。

 またマンガの北条司氏『CITY HUNTER』の冴羽リョウも「こんなストーリー、ありえないよ!」を地で行っています。ヨーロッパでは『Nicky Larson』という名前でマンガやアニメが大ヒットし、昨年は新作アニメと『Nicky Larson』の実写映画(フィリップ・ラショー氏監督・主演)も大好評でした。

「少年ジャンプ黄金期」のストーリーの特徴は、とんでもない主人公が、ありえないストーリーを、当然のようにこなした点です。

 武論尊氏&原哲夫氏『北斗の拳』のケンシロウ、ゆでたまご『キン肉マン』のキン肉スグル、車田正美氏『聖闘士星矢』のペガサス星矢、宮下あきら氏『魁!!男塾』の剣桃太郎、徳弘正也氏『ジャングルの王者ターちゃん』のターちゃん。いずれも「とんでもない主人公」が「ありえないストーリー」をさも当然のようにこなしていました。ガモウひろし氏『とっても!ラッキーマン』のラッキーマンなんかも別の意味でのとんでもなさとありえなさでしたね。


 小説でも、私が毛嫌いする村上春樹氏の作品は「とんでもない主人公」が「ありえないストーリー」を当然のようにこなしていたともとれます。

 しかしバクチの度合いが『少年ジャンプ黄金期』よりも大きいため、コンスタントに売れる作品は作れず、忘れた頃に新刊を出してはひと儲けして、世界でサイン会を開いてまわり、講演をして収入にあてているのです。

 そもそも「荒唐無稽」よりも「意味不明」のレベルに達しているので、取るに足りない例かもしれません。

 少なくともライトノベルでは、『少年ジャンプ黄金期』くらいの「荒唐無稽」さで書かなければブームなんて起こせないでしょう。





最後に

 今回は「キャラクター重視」について述べました。

 まず特徴のあるキャラクターを作って主人公にします。その主人公が最大限に活かせる世界観を構築するのです。どんな世界観になるかは主人公の特徴次第。いかようにも変わります。ひとりとして同じ世界観にはなりません。ホームズとワトソンはどちらを主人公にしても異なった世界観になります。

 世界観が定まったら、主人公を活かすストーリーを考えるのです。

 できるだけ「荒唐無稽」と紙一重を目指しましょう。そのまま「荒唐無稽」になってもかまいません。こぢんまりとした作品よりも圧倒的に目立てます。

「小説賞・新人賞」は「ビックリドッキリショー」のようなものです。目立てなければ参加した意味がありません。



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