1391.構文篇:書くべきテーマと最短距離

 今回は「寄り道やインターミッションを入れない」ことについてです。

 小説を書いていると、つい入れたくなるのが「寄り道」「インターミッション」の類いです。

 人物を掘り下げようとか息抜きをしてもらおうとか。

 意図はさまざまですが、本筋を「最短距離」で書いたほうが「小説賞・新人賞」に近くなります。





書くべきテーマと最短距離


 本コラムをここまで書いてきて、コラムを書くコツが見えてきました。

 これは小説にもじゅうぶん役立つと思いますので、ここで備忘録を記しておきたいと思います。




あなたの命題を見つける

 まず「骨子」を明確にします。小説では「テーマ」と呼んだほうがよいでしょう。

 読み手になにを伝えたいのか。

 これが明らかでない文章は、読み手になにも伝えられません。

 人が文章を読むのは、そこに得るべきものがあるからです。

 もしなにも得るものがなければ徒労であり、まったくの「時間の無駄」です。

 そんな目に遭った読み手が、続けてあなたの文章を読みたがるでしょうか。

 そんなありがたい読み手は存在しません。検索結果であなたのペンネームを見たら目が上滑りして視界から消えるのがオチです。


 では「骨子」「テーマ」にはなにを選べばよいのでしょうか。

 そのコラムや小説でのあなたのスタンスによって選んでください。

 私が小説で「命題」と呼んでいる「あなただから語れる根源的なもの」がこれに当たります。

「命題」は十人十色、百人百様、人の数だけ異なるので、「あなただから語れる根源的なもの」はすでに定まっているのです。あなたはそれを見つけ出すだけでかまいません。

 ちなみに私の「命題」は「説諭」と「探究」です。ある概念を読み手へ伝えて行動変容に導きます。そうでなければ、本コラムを千三百日以上も毎日連載できるはずがありません。必ず「もうこのへんでよいだろう」と途中で投げ出していたに決まっています。

『小説家になろう』や『ピクシブ文芸』には私の小説をいくつか投稿しています。そのすべてが「説諭」ある種の「思想」を読み手へ伝える作品となっているのです。

「世の中にはこんな考え方の人もいるから、行き詰まったら参考にしてみたらよいのでは」のスタンスで書いています。

 私自身、己の「命題」を見つけたのは本コラム連載開始後です。

 まだまだ小説の書き手としては未熟な作品が多いのですが。共通点を探してみたら「思想」の「説諭」ばかりしていると気づきました。

 しかもひとつの「思想」の繰り返しではなく、作品ひとつずつに多様性のある「思想」を盛り込んでいます。

 この「思想」を仕入れて学ぶために取材は厭いません。

 デイトレーダーを作品に出したいがため、株式投資を始めるくらい行動派です。

 私の生きるうえでの「命題」そのものは「探究」だと思います。

 デイトレーダーを知りたければデイトレードを実際にやってみる。俳優を出したければ俳優養成所に通ってみる。歌手を出したければボイストレーニングを受けてみる。戦略小説を書きたくなったら中国古典とくに孫武氏『孫子』、呉起氏『呉子』などの「武経七書」を深く研究してみる。主人公の特異な体の鍛え方を編み出すために筋肉トレーニングを始めてみる。

 興味を持ったら「探究」せずにいられない。これほど金と時間のかかる「命題」もないかもしれません。疑問があったら勉強して実践してみる。試行錯誤を繰り返し、正しい道を見つけ出すのです。

 誰もが「命題」に則って生きています。「命題」は人生の土台なのです。




書くべき骨子を明確にする

「命題」が見つかったら、それを活かした「骨子」「テーマ」を考えます。

 たとえば本コラムでは「説諭」するネタが「骨子」に当たります。

 伝えるべき「骨子」を明確にして、「どういう道筋で骨子にたどり着けばよいのか」を考えるのが本コラムの書き方です。

 たとえば今回は「伝えたいものを順序立ててまとめていく」筋道で考え、執筆しています。

「骨子」が決まれば、論理的な筋道で流れるように展開していくのです。

 論の出発点から、どんな進め方をしながら読み手を惹きつけて、結末つまり「骨子」へ導けばよいのか。

 小説も同じです。まず「テーマ」を決めて、そこへ流れていくようにエピソードを積み重ねていくのが無駄のない物語へと繋がっていきます。

「水は高きより低きに流れる」ように、エピソードの積み重ねを工夫すれば、寄り道もせず読み手に雄壮な滝を見せられるのです。

「小説賞・新人賞」では単行本一冊・原稿用紙三百枚・十万字と限られた分量で最大の見せ場を作らなければなりません。寄り道したりインターミッションを挟んだりする余裕はいっさいないのです。

 読み手へ伝えたい「テーマ」を最大の見せ場で掲示するには、寄り道やインターミッションなんて蛇足もよいところ。そんな部分を見たら選考さんは十中八九、一次選考で落とします。本来なら寄り道やインターミッションなどしている場合ではないからです。たった十万字で読み手になにを伝えられるのか。

「テーマ」を最短距離で書いてみて、十二万字でも十五万字でも二十万字でも。どうしても十万字に収まらない作品で、シーンを泣く泣く削って十万字に収めようにするのです。だから「書きたいことが山ほどあったんだろうな」と選考さんは発展の可能性を見ます。

 しかし寄り道やインターミッションを入れた小説は、詰まるところ「水増し」でしかないのです。それらを飛ばして読んだら内容が限りなく薄かった。これもありえます。というより寄り道もインターミッションも、「水増し」以外のなにものでもありません。

 もし「小説賞・新人賞」へ応募したいのなら、絶対に寄り道やインターミッションを入れないでください。それらは本来必要のないものだからです。物語の本筋にはなんの影響もありません。

「最短距離で書ききったら十万字に達していた」

 これがベストです。




最短距離で書くのが小説賞・新人賞への最短距離

「最短距離」がビタッと決まれば、まったく無駄のない極上の作品に仕上がります。

 どんなに素晴らしい作品であっても、寄り道やインターミッションを入れた時点でボツです。そんな余裕があるのなら、本筋をもっと詳らかに書くべきです。

「小説賞・新人賞」は一字の無駄もない、きわめて精緻な作品が求められます。

 無駄がある時点で選考さんが原稿をハネます。

 応募作が数千を超えるため、選考さんひとりで百以上の作品を読まなければなりません。そのとき選考さんが一度「引っかかる」と、そこから先は読まれないのです。

 いちおう選考の仕事をしているので、選評は書きます。そのとき「引っかかり」を理由にしてボツ選評を書くのです。

 だから「引っかかり」を感じさせずに最後まで読ませるレベルが最低限要求されます。

「引っかかり」とは「無駄」です。

 読んでいるときに読み手が「欲しい」と思う情報をさっと出して読ませるから「無駄」がない。読み手に「そんなことはわかってる」とか「それが今必要な情報なの?」とか思われたら。それが「引っかかり」です。

 要らない情報つまり「無駄」が選考で大きなマイナスになると理解できますよね。

 要らない情報は、字数が足りないときに混ぜやすい。

 つまり本筋を最短距離で書いたら、単行本一巻・原稿用紙三百枚・十万字に届かなかったときに、「水増し」のためだけに要らない情報を書いてしまうのです。

 小説において「文章」は「最短距離」でなければなりません。

 物語のエピソードで伏線が仕込まれ、欠くべからざるシーンの連続にワクワク・ハラハラ・ドキドキする。

 そこに「無駄」は要りません。

 応募原稿が規定に達していなければ、シーンを増やすかエピソードを増やすか、いっそ登場人物を増やしましょう。

 この中で最も字数を稼げるのは「登場人物を増やす」です。

 とくに物語に登場する人物が少なければ少ないほど、ひとり増やしたときに分量が飛躍的に多くなります。

 しかしそこまで足りないほどの作品であれば、その物語は中編小説で書くべきです。

 登場人物を増やしてまで書くほどの物語ではありません。

「小説賞・新人賞」への応募作は、求められる分量に適したサイズの物語を選びましょう。

「最短距離」で書いた文章が募集要項に適う作品。それが「小説賞・新人賞」に求められている物語です。

「最短距離」で書いた物語が自然と募集要項を満たしていた。そういう作品こそが「小説賞・新人賞」の「最短距離」となるのです。





最後に

 今回は「書くべきテーマと最短距離」について述べました。

 まずは「命題」を見つけましょう。そうすればあなたが書くべき「テーマ」も見えてきます。

「テーマ」が決まれば、それを「最短距離」で書いてください。

 応募要項はいったん置いておいて、書きたいものだけに絞り、ムダを省いて「最短距離」を目指すのです。

 書きあげた結果、募集要項に適った作品だけを応募しましょう。

 もし長かったら、勇気を持って削れるシーンを削ってください。たとえばAシーンとBシーンのうちBシーンを削ってAシーンと統合する。Aシーンはいくらか長くなりますが、書きたいものも収まるはずです。

 もし短かったら、その物語は別の「小説賞・新人賞」へ応募しましょう。

 足りないのがほんの五パーセント程度ならなんとかなりますが、一割ともなればかなりの「水増し」をしなければなりません。この「水増し」がよくないのです。

 どんなに魅力的で素晴らしい物語も「水増し」ひとつで台無しになります。

「小説賞・新人賞」を獲りたければ「最短距離」で書いた作品が募集要項に適っていた。それが「最短距離」なのです。



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