1386.構文篇:表記:接続詞と副詞は原則ひらがなで書く

 今回は「極力ひらがな書きしたほうがよい言葉」についてです。

「文豪」の作品を読み慣れていると、接続詞も副詞もすべて漢字表記になっています。

 だから「文豪」に親しむほど、文章の漢字が多くなる傾向になります。

 小説に限らず文章全般では「程よい濃さ」が求められるのです。

「文豪」並みの濃さでは現代人には読みづらい。「児童小説」並みに淡いと、意味がとりづらくてこちらも読みづらい。

 そこで、適度に漢字を間引けるテクニックが「接続詞と副詞をひらがな」にする方法です。





表記:接続詞と副詞は原則ひらがなで書く


 漢字で書くと混乱しやすいものに「接続詞」と「副詞」があります。

 十層で構成されたダンジョンに潜る物語だとして、主人公が「一層頑張ります!」などと書いてしまったら。主人公は第一層だけを頑張って、下に潜らないつもりのかと思ってしまいませんか。

 また「この世で一番好きなのはあなただ」などと書いてしまったら。じゃあ二番目に好きなのは誰だよって思いますよね。

 こういう勘違いはなぜ起こるのでしょうか。標題にありますね。「副詞が漢字で書かれている」からです。




接続詞は漢語が多い

 たとえば「若し」「然し」「但し」「譬えば」などの「接続詞」は元々中国語で用いられているものです。

 しかし和語に見えなくもないので「わかし」「ぜんし」「たんし」と読んでしまう方もある程度いらっしゃいます。「譬えば」は「なんて読むんだ?」となりがちです。

 とくに「わかし」はなかなか難しい。

 そこで「接続詞」は「ひらがな」で書くのが推奨されています。

「もし」「しかし」「 ただし」「たとえば」なら読み間違いませんよね。

「接続詞」を漢字で書いてしまう方は「文豪」の作品に親しんでいると思われます。

 明治から昭和中期までの小説は、「接続詞」が「漢字」表記だったため、それに慣れてしまうのです。夏目漱石氏や芥川龍之介氏といった「文豪」も「接続詞」は「漢字」で書いています。

「たとえば」については「例えば」と表記する方もいらっしゃいますが、これは「当て字」なので、できれば「ひらがな」表記にしてください。




副詞の漢字は当て字が多い

 たとえば「折角」「兎角」はともに漢字の「当て字」です。「無理矢理」も「当て字」。

「せっかく」「とかく」は「ひらがな」表記のほうが読みやすいしわかりやすいですよね。

 では「無理矢理」はどうでしょうか。漢字の表意性を活かすなら「無理」は残したいところ。「ことわりが無い」になります。一方で「矢理」は完全に「当て字」なので「ひらがな」表記にするべき。つまり「無理やり」が現代日本語では正しい表記です。

「相変わらずお綺麗ですね」も漢字で書かれるとちょっと固めな印象を与えてしまいます。ひらがなで「あいかわらずお綺麗ですね」と書けば「相変わらず」が持つ仰々しさはいくらか和らぐのです。

「生憎留守にしています」の「生憎」も当て字なので「ひらがな」のほうがわかりやすいし伝わりやすい。そもそも漢字で書かれたら「せいぞう」「しょうぞう」ならまだましで「なまにく」と読んでしまう方だっていらっしゃるかもしれません。まぁ「なまにく」と読む人がいたら、それはそれで面白いのですが、国語の授業だったら赤っ恥ですよね。

「ひらがな」で「あいにく留守にしています」と表記すれば、かなり語感が和らぎますし子どもでも読みやすい。

 今さらりと書いた「かなり」も漢字では「可成り」と書きます。読めなくはありませんが、スムーズには読めないと思います。これも「当て字」だからです。やはり「ひらがな」のほうが読みやすいしわかりやすい。




副詞をひらがなで書くのは誤読と誤解を避けるため

 副詞は名詞とは異なり、漢字の字義どおりのものを指していません。

「一層頑張る」は「今以上に頑張る」意なのですから、ダンジョン第一層だけで無双しているお話ではないのです。

「今以上に頑張る」意を明確にしたいなら「第一層」と誤解される「一層」という表記を表意性が薄くて和語を表す「ひらがな」で表記しましょう。

「いっそう頑張ります!」

 これなら間違いようがないですよね。

「この世で一番好きなのはあなただ」も「一番」「二番」という順序を表しているのではありません。「最も」を意味しているので、誤解されないよう和語を表す「ひらがな」で書きます。

「この世でいちばん好きなのはあなただ」

 これなら間違いようがないですよね。

 今触れた「最も」が実はやっかいなのです。

 これも「副詞」なのですが、困ったことに「尤も」という同じ読みをする「接続詞」があります。

 原則に従って「副詞」「接続詞」を「ひらがな」で書くと、「最も」「尤も」は区別がつかなくなるのです。「接続詞」を漢字で書く方法もありますが、「尤」は常用漢字ではありません。

 どちらかを漢字で書かないかぎり正確に伝わらないのであれば、常用漢字の「最」を残すのがベストです。

「最も速い電車がリニアモーターカーに変わろうとしている。尤も静岡県内での着工が後れているため、完成するのはとうぶん先だ。」

 この「最も」「尤も」をともに「ひらがな」にしてしまうとわからなくなります。

「もっとも速い電車がリニアモーターカーに変わろうとしている。もっとも静岡県内での着工が後れているため、完成するのはとうぶん先だ。」

 なにが言いたいのかさっぱりわかりません。「速い電車がリニアモーターカーに変わったら」なんだというのでしょうか、と思うはずです。

 このように「副詞」と「接続詞」という珍しい二者択一では「常用漢字を残す」のが一例になります。

「最も速い電車がリニアモーターカーに変わろうとしている。もっとも静岡県内での着工が後れているため、完成するのはとうぶん先だ。」

 この「最も」は漢字の表意性もクリアしているので、あえて漢字で書いておきたい副詞です。

 例外はいくつかありますが、基本的に「接続詞」「副詞」は「ひらがな」で書くと憶えておきましょう。

 もし「接続詞」と「副詞」で同じ読みがあったら、「接続詞」を「ひらがな」で書きましょう。接続詞は文章の流れを表すだけですが、「副詞」は用言を微妙に変化させる言葉だから「漢字」の表意性を活かしたいところです。

 これなら「最も」「尤も」は「接続詞」の「尤も」を「ひらがな」で、「副詞」の「最も」を漢字で表記すればわかりやすくなります。





最後に

 今回は「表記:接続詞と副詞は原則ひらがなで書く」について述べました。

 誤読を防ぐため、そしてすんなりと読めるようにするために、「接続詞」と「副詞」はできるだけ「ひらがな」で書きましょう。

「最も」「尤も」のような例外は、「接続詞」または「常用漢字でないほう」を「ひらがな」表記にしてください。



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