1380.物語篇:物語124.異世界転生

 今回は物語篇のラストとして「異世界転生」を扱います。

 現在の小説投稿サイトの潮流ですが、本当に「異世界転生」にする必要があるのでしょうか。

 いったん立ち止まって考えてみてください。

 本来なら「異世界転生」は連載小説には向いていません。そこまで博識の主人公なら、現実世界でも相当活躍できたはずですからね。それなのにわざわざ「異世界転生」にする。その理由がわからない作品が多いのです。





物語124.異世界転生


 異世界転移ファンタジーは、現実世界人が異世界に「移動する」ので世界観の説明に苦労しません。

 今回のテーマである「異世界転生ファンタジー」は、現実世界人が一度死んで、異世界で生まれ変わる物語です。

 しかし転生者が現実世界の技術や知識を成長の途中で思い出さなければ、ただの異世界ファンタジーにしかなりません。また現実世界の技術や知識を転生したときからすでに憶えていたら異世界転移ファンタジーと大差ないのです。単に異世界を胎児から経験しているにすぎません。

 また転生先が必ずしも人間とは限りません。もちろん人間である場合が最も多いのですが、モンスターだったり魔王だったり。また無機物であるアイテムであったり。現在のライトノベルではどんなものにでも転生しています。「話せるアイテム」にもなります。所有者と語りながら魔王を倒す物語もじゅうぶん「あり」です。




なぜ転生でなければならないのか

 小説投稿サイト『小説家になろう』には、数多くの「異世界転生ファンタジー」があります。

 しかしそもそも「転生」する意味があるのか疑問を呈する作品も散見されるのです。

「この物語なら異世界転生にするより異世界転移のほうがすんなり受け入れられるんだけど」という作品が多くを占めます。

 そこで次の問いが浮かんでくるのです。

「その物語は異世界転生に設定する必要がありますか?」

 異世界転移のほうがしっくりくる作品がほとんどではないでしょうか。

 たとえば伏瀬氏『転生したらスライムだった件』、棚架ユウ氏『転生したら剣でした』なら「転生」する意味があるのです。人間ではないものになるには「転移」では不可能。だから「転生」する必然性があります。

 しかし現実世界の技術や知識を思い出して異世界で「無双」するような作品の場合、「異世界転移」を選ばずに「異世界転生」にする意味があるのでしょうか。

「異世界転生」を選ぶと主人公は異世界人となり、読み手が知りたい世界観や設定などはすでに主人公の日常であって、取り立てて書き出す(意識する)なんてありえません。

 その点「異世界転移」なら主人公は現実世界人ですから、異世界は初めて見るので世界観や設定などさまざまな感想が湧いてきます。

 つまり世界観や設定を違和感なく語りたいなら、「異世界転生」では駄目なのです。「異世界転移」にするべきであり、そのほうが簡単に書けます。

「異世界転生」で異世界人に転生したら、その世界の設定や規範や法律などは主人公にとって当たり前であり、あえて考えるなんて野暮はしません。

「でも主人公に現実世界の技術や知識を使わせたいから」という理由だけなら「異世界転生」は選ばないほうがよいのです。素直に「異世界転移」で書いてください。

 現実世界の技術や知識を、ピンチに陥った途端思い出してほしいから「異世界転生」を選ぶ。これも相当な場当たり感が否めません。読み手として「都合がよすぎる」と思いますよね。毎回ピンチに陥るたび、現実世界の技術や知識を思い出すのです。

 とても「都合がよすぎる」と私には思えます。多分に「作為的」です。

 先ほど書いた問いを再掲します。

「その物語は異世界転生に設定する必要がありますか?」

「都合がよすぎる」と感じさせないで「現実世界の技術や知識を思い出させる」のはかなりの無理筋です。

 それが物語でたっとひとつの技術や知識だけならまだいいほう。

 なにか事件が起こるたびに「現実世界の技術や知識を思い出させる」のでは、「ご都合主義」にもほどがあります。

 そういった物語が多くの読み手にヒットするものなのかどうか。

 読み手の気持ちになって、少し考えてみてください。




弊害は連載が続くほど深刻になる

 この「現実世界の技術や知識を思い出させる」は、その小説が長期連載されればされるほど頻度が高くなります。

 中には「そんなにスゴい技術や知識を憶えているのなら、なぜ現実世界で活躍できなかったんだよ」という意見すら発生しかねません。

 単行本一冊・原稿用紙三百枚・十万字の中で思い出せる「現実世界の技術や知識」がひとつだけだとして、連載が十巻も続くと十もの「スゴい技術や知識」を主人公は憶えているのです。

 翻って、現実世界のあなたは「剣と魔法のファンタジー」の異世界に持ち込むと「革新的な技術や知識」をいくつ知っているでしょうか。

 よほど多趣味でなければ、十もの「スゴい技術や知識」なんて憶えていられません。

 そしてどんなに「スゴい技術や知識」を憶えていても、肝心の「理論」と「構造」がわからなければ異世界で再現できません。

 たとえば異世界で「コンピュータ」という技術を思い出したとして、それがどんな「理論」と「構造」で出来あがっているのかを知らなければまったく使えないのです。

 そこまで詳しい「理論」と「構造」を憶えている「スゴい技術や知識」なんて、ほとんどの方は持ち合わせていません。

 たとえば「火薬」の化学式を憶えている日本人なんてほとんどいませんよね。でも日常で「火薬」の存在は結構身近にあるもので。「火薬」は「爆弾」にもなりますし「花火」にもなりますし「銃弾」にもなりますし「マッチ」にもなります。とても便利で「異世界」の体系を変えるだけの存在になりうるのです。

 ですがほとんどの日本人は「火薬」の化学式を知りません。どんな素材を混ぜ合わせれば「火薬」になるのかすら知らない方がほとんどです。

 これでどうやって「異世界」に「火薬」を持ち込めばよいのでしょうか。主人公の前世が現実世界人で「花火職人」だったとか「軍需産業の研究者」だったとか。とにかく主人公を特殊にする以外にありません。一般人であるあなたは「火薬」の化学式をご存知ですか。私はまったく知りません。せいぜい「火薬」には「黄色火薬」と「黒色火薬」がある、くらいな知識です。

 この程度の知識で異世界に「火薬」を持ち込むのはやめたほうがよいでしょう。




技術や知識のヒントとして

 どうしても「火薬」を持ち込みたいなら、「異世界の技術者にヒントを与える」形をとるのが自然かもしれません。

 元々「火薬」を研究している技術者に「銃弾にできますよ」と教えるだけなら、そんなに深い技術や知識は要求されないからです。

「技術や知識のヒント」だけなら、私たち一般人でもかなりのものを憶えています。

 大相撲を観るのが好きな人なら、投げ技のパターンを数多く憶えているものです。ですがそれを実践できるだけの技術も知識もない。

 それでも異世界の格闘家に「こんな投げ技があるんだけど」と提案するだけで、格闘家が必死で真似ようとしてくれます。

 これなら深い技術や知識がなくても、異世界に持ち込めるのです。

 もちろん弊害はあります。

「主人公に万能さがなくなる」のです。

「異世界で現実世界の知識を使って無双する」から「異世界転生ファンタジー」は面白い。

 ですが「ヒント」を出すだけでは「主人公が無双する」話にはなりません。よくて「ヒントを教えた相手が無双してくれる」くらいでしょうか。

「主人公が無双する」ほどの爽快感は味わえそうにありません。

「異世界転生」ものは単発だから面白いのです。

 連載作品にしてしまうと、どんどんボロが出てきます。つまらなくなっていくのです。

 もし連載に堪えうるほど技術や知識があるのなら、現実世界でも相当役に立っていたはず。

 それこそ化学兵器だって作れるでしょうし、原子力発電所だって建設できるかもしれません。そんなとんでもない技術や知識を持っているのなら、あえて「異世界転生」にしなくても面白い話になります。

 現実世界で、環境負荷のまったくない原子力発電所を開発する話。

 とても夢がありますよね。また原子力といわず、量子発電所とか素粒子発電所とか、代替エネルギーを考えだしたら。おそらくノーベル物理学賞クラスの発明です。

 原理はファンタジーでもよいので、そういった「とんでもない技術や知識」を作り上げれば、後世の人が実現してくれるかもしれません。

 数学における「フェルマーの最終定理」は、ひらめきから生まれたものですが、それを証明するまでに長い期間を要しました。しかし証明する人物が実際に現れたのです。

 だから、もし「太陽光を使って水を水素と酸素に分け、それを燃焼させて水に変えるときのエネルギーでまた水を水素と酸素に分ける」なんて考えたら、永久機関が完成しますよね。今の技術では夢物語でも、将来エネルギー転換効率が飛躍的に改善すれば、実現できるかもしれません。

 レオナルド・ダ・ヴィンチ氏は「人類が空を飛ぶ」道具として、鳥の羽の構造を解剖してスケッチにまとめ、ヘリコプターの原型とも呼べる螺旋プロペラを着想しています。

 後世の人がそれらをもとに飛行機やヘリコプターを開発したのです。

 だからすべての小説には「ファンタジー」があってよいと思います。

「異世界転生」クラスの「ファンタジー」には、「とんでもない技術や知識」をさも当然のごとく書いても「あり」です。

 そもそも「異世界転生」なんて現在の「ファンタジー」では最高峰に位置します。

 であれば「とんでもない技術や知識」くらいすぐに馴染んでしまうのです。

「ファンタジー」の極致には、「ファンタジー」な技術や知識を積極的に持ち込んでみましょう。





最後に

 今回は「物語124.異世界転生」について述べました。

 物語篇の最後は、小説投稿サイトで絶大な人気を誇る「異世界転生」にしようと決めていました。ずっと温めていたのです。

「異世界転生」はかなり「ファンタジー」度が高い物語なので、「ファンタジー」の技術や知識を前提にしてもかまいません。というより積極的に組み込めば独特な「異世界」を演出できるので、他の「異世界転生」と差別化できます。

「異世界転生」もので「小説賞・新人賞」を狙うなら、「とんでもない技術や知識」を混ぜて独特な「異世界」を演出しましょう。



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