1378.物語篇:物語122.平行世界(パラレル・ワールド)

 今回は「平行世界」つまり「パラレル・ワールド」ものについてです。

 単に「パラレル・ワールド」と呼ぶとき、現実世界とあまり変わらないけど、なにかが違う世界を指すか、ある選択をしなかった世界を指すか。ふたつの世界観があります。





物語122.平行世界(パラレル・ワールド)


「異世界転移」と似たものに「平行世界」つまり「パラレル・ワールド」ものがあります。

 違うのは現実世界から飛ばされる先がどこかだけです。

 主に「剣と魔法のファンタジー」世界に飛ばされるものを「異世界転移」と呼びます。

 現実世界とよく似た世界や、ある選択をしなかったほうの世界など、現実世界から派生したものを「平行世界パラレル・ワールド」とするケースが多いですね。




よく似た世界

「現実世界とよく似た世界」では、たとえば主人公だけが存在しない世界かもしれません。それ以外の人物は全員いるのに、なぜかその世界にはもうひとりの自分が存在しないのです。

 これは「主人公に特殊性を持たせる」ためによく使われます。

 つまり「主人公は平行世界を行き来できるため、どこの平行世界でも自分はひとりしかいない」というわけです。

 もし「もうひとりの自分」が平行世界にいたら、「主人公の特殊性」は演出できませんからね。

「もうひとりの自分」が平行世界に存在したら、タイム・パラドックスのような問題も考えられます。本来平行世界に存在している人物が同じ世界に存在したら、質量や魂はどうなってしまうのか、という問題です。

 私はアニメのAIC『デュアル!ぱられルンルン物語』をまず思い出しますね。もうひとつの世界で主人公・四加一樹がヒロインの真田三月とともに異世界で人型ロボットに乗って戦うロボットアニメです。もちろん元の現実世界にはロボットなんてありません。一樹だけ代わりがいない平行世界が舞台です。

 なんらかの理由によって代わりになる人物が存在しない。平行世界で元の現実世界の自宅に帰っても叩き出される始末です。これで一樹は高校の先輩である三月を頼って真田家に転がり込みます。一樹には平行世界に代わりがいない理由があり、それが物語の根幹を担っているのです。

 さらに『デュアル!ぱられルンルン物語』は同じくAIC『天地無用!』とも「パラレル・ワールド」の設定になっています。とことんパラレル・ワールドな作品となっています。

 物語の宝庫である藤子・F・不二雄氏『ドラえもん』にも「もしもボックス」という「パラレル・ワールド」へ自由に行き来できる「ひみつ道具」があります。本当に藤子・F・不二雄氏は物語の宝庫ですよね。とくに『ドラえもん』は「ひみつ道具」の形で、あらゆる物語を実現しています。単に未来から来た猫型ロボットのはずが、多くの物語へ派生する基点となるのですから。『ドラえもん』ひとつとってもほとんどの物語が実現できています。




選択しなかったほうの世界

「選択しなかったほうの世界」では、アドベンチャーゲームを元にした作品が多いですね。

 アニメにもなったエルフの菅野ひろゆき氏『この世の果てで恋を唄う少女YU−NO』が端緒かもしれません。さまざまなバッドエンドを迎えながら時空を駆け巡る作品です。これを成人向けゲームで実現してしまったのですから、菅野ひろゆき氏の才能がとんでもなかったと再確認できます。

 菅野ひろゆき氏はシーズウェアで視点キャラクターを切り替えながら推理を進める「マルチサイトシステム」を考案し『DESIRE 背徳の螺旋』『EVE burst error』を生み出します。

『YU−NO』に採用された「A.D.M.S」(Auto Diverge Mapping System)は、その後のアドベンチャーゲーム界を変えるほどの画期的なゲームシステムとなりました。「ある時点のとあるフラグを立てなければ分岐が発生しない」というのはゲームだからこそ実現できたアイデアですね。小説でこれを完全に再現しようとしたら、まず読み手が付いてこられません。

『YU−NO』のシステムの一部を使っているのが「死に戻り」の長月達平氏『Re:ゼロから始める異世界生活』です。

 登場人物の誰かが死んでしまうから、自分が死んで時間が巻き戻る「死に戻り」で回避しようと懸命になる主人公ナツキ・スバル。自らを殺す痛みに堪えてでも変えたい未来がそこにある。その強い気持ちこそが『Re:ゼロ』の最大の魅力なのではないでしょうか。




パラレル・ワールドはシフトしやすい

「平行世界」は一度だけしか移動できない理由が薄い。

 基本的にある種の能力を持つ者が、能力を活かして平行世界へと渡り、また次の平行世界へと旅立っていくのです。

『YU−NO』のように平行世界を次々と渡り歩いていくアイテムがあれば。一般人にも「パラレル・ワールド」を行き来する能力が身につきます。

『YU−NO』が秀逸だったのは、渡り歩くのが一般人であり、「パラレル・ワールド」を頻繁に行き来しても、物語が破綻しなかった点です。

 だからアニメ化もされて、視聴者は大きな感銘を受けました。

 一見「死に戻り」と思わせて、さまざまな平行世界を渡り歩き、フラグを立ててまわるのです。

『Re:ゼロから始める異世界生活』ではセーブ地点まで「死に戻り」する物語であるため、フラグ管理はとても簡単です。どこからやり直せばよいのかは、ナツキ・スバルに権限があります。しかしどこまで戻れば最良の結末になるのかがわからないまま「死に戻り」するので、納得のいく結果を迎えるまで何度も「死に戻り」でリセットしては選択し直すのです。

『YU−NO』は平行世界自体を発生させるフラグを意図的に立てて、バッドエンドではない「トゥルーエンド」を目指します。バッドエンドになったらアイテムを起動してセーブ地点まで戻り、新たに現れた分岐を選んで話を進めていくのです。つまり何度バッドエンドを味わっても、その都度アイテムで巻き戻り、新たな選択肢で分岐して新たなフラグを立てていく物語となっています。

 正直に言って『YU−NO』のシステムをそのまま小説で再現するのは難しい。なにせ「フラグを立てる」という、普通に生活している人にはわからないものを明確にして、新たな分岐が発生したことを主人公に伝える術がないからです。

 それでも『YU−NO』が指し示した物語の形には可能性が詰まっています。

 巧みな書き手なら「フラグを立てる」処理もうまく演出できるはずです。

 一本の物語としては作れないと思われながら、アニメ化もできたわけですから、小説化だってできなくはないはず。

 そこでアニメ版の『この世の果てで恋を唄う少女YU−NO』を観ることをオススメします。「パラレル・ワールド」をここまで駆使した作品も珍しいので、創作者として刺激を受ける部分があるはずです。





最後に

 今回は「物語122.パラレル・ワールド」について述べました。

「異世界転移」に近いとはいっても「異世界」のように「なんでもあり」とはいきません。

 現実世界との関係を明確にして、さまざまな「パラレル・ワールド」を演出していくのが本筋でしょう。

 しかし何度も「パラレル・ワールド」を行き来していると、本来の「現実世界」がどの世界なのかがわからなくなります。そこから世界の形が変わってしまう物語も面白いのではないでしょうか。



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