1374.物語篇:物語118.スポーツとバトル

 小説はとくにスポーツとバトルを書くのが難しい。

 映像を見せられたら一発で理解できるのに、小説は文字だけしか使えませんからね。

 まさかアスキーアートで表現するわけにもいきませんし(σ・∀・)σゲッツ!!





物語118.スポーツとバトル


 前回「e−Sports」を取り上げましたので、今回はスポーツものとバトルものをピックアップします。

 どちらも小説で書くのが難しい物語です。




小説におけるスポーツの見せ方

 スポーツはマンガやアニメだからこそ見栄えがよくなります。絵の迫力が技の美しさやダイナミズムを際立てるからです。

 フィギュアスケートを扱った久保ミツロウ氏&山本沙代氏&MAPPA『ユーリ!!! on ICE』がなぜ大人気となったのか。なにより映像の美しさが際立っていました。モーションキャプチャーや3DCGを巧みに織り交ぜて、まるでテレビカメラの前で滑っているかのような印象を持たれた方も多かったはずです。

 では『ユーリ!!! on ICE』を|小説化(ノベライズ)しようと考えてみてください。どのように表現したら、あのスケーティングの美しさを表現できるでしょうか。

 これを考えるだけで、あなたの映像美が文字になって読み手の脳内で再生されるのです。考えない手はありません。ぜひ時間を使って「文字で映像美を描き出す」工夫をしてみましょう。

 他のスポーツも考えてみます。

 日本でメジャーなスポーツは野球とサッカーです。それぞれマンガやアニメが多数作られていますよね。

 バレーボールは浦野千賀子氏『アタックNo.1』から長らく作られず古舘春一氏『ハイキュー!!』まで空いていたように記憶していますが、合ってるかな? Google検索では1981年3月から『アタッカーYou!』が放送開始とヒットしましたが見た記憶がないですね。

 バスケットボールは六田登氏『ダッシュ勝平』、井上雄彦氏『SLAM DUNK』『BUZZAR BEATER』、八神ひろき氏『DEAR BOYS』、藤巻忠俊氏『黒子のバスケ』、日向武史氏『あひるの空』などいくらかありますね。まぁ野球、サッカーほどではありませんが。

 どのスポーツでも作品でもかまいません。小説化ノベライズに挑戦してみましょう。実際にダイナミックな動きや繊細なコントロールなどをどう表現するのが適切なのか。書いてみなければわかりません。

 大好きなスポーツ、大好きなマンガやアニメを実際に文章だけで映像が浮かぶように読ませられるか。

 そこに注力しながら、書いてみましょう。


 と、ここまで煽りましたが、正解をここでお伝えしましょう。

 スポーツを題材にしたマンガやアニメを文章だけで映像化できるほど描写するなんて技はプロでもできはしません。頑張れば、技や技術や動作くらいはそのスボーツを体験した人にならなんとか伝わるかもしれません。ですが、そのスポーツをプレイした経験のない人にも映像が浮かぶような文章などというものはありえないのです。

 一度も見ていないスポーツを、文章だけで伝えるのは不可能。しかしマンガやアニメは絵がありますから、絵を見ればどんな技や技術や動作をしているのかは一目瞭然です。

 だから「スポーツ」ものは、そのスポーツを経験した人しかハマりません。経験のない人にまでウケるスポーツ小説が書けたら、あなたは稀代の天才作家であり、ノーベル文学賞は間違いないでしょう。文学に立ちはだかる大きな壁を突破した小説には、それだけの価値があるのです。

 だから「不可能」だと言っています。

 であれば、スポーツ小説を書いてはならないのか。そんなことはありません。そのスポーツを経験している人が臨場感を覚えるような作品なら書きようはあるのです。

 ダイナミックな動きや繊細なコントロールを丁寧に書き分けられれば、体験者は臨場感を覚えます。

 逆に言えば、書き手であるあなた自身が経験していないスポーツを題材にした小説を書いても、読み手にスポーツの迫力や醍醐味が伝わらないのです。




小説におけるバトルの見せ方

 ボールゲームだけでなく、格闘技として柔道や剣道、空手や相撲、ボクシングやプロレスなども考えてみましょう。

 柔道と言えば浦沢直樹氏『YAWARA!』が筆頭でしょうし、剣道なら主人公は剣術使いなので脇役として登場する和月伸宏氏『るろうに剣心〜明治剣客浪漫譚』の神谷活心流、空手なら川原正敏氏『修羅の門』の古武術・陸奥圓明流、相撲なら川田氏『火ノ丸相撲』なんていうのもありましたね。ボクシングは森川ジョージ氏『はじめの一歩』、プロレスなら言わずもがなのゆでたまご『キン肉マン』でしょう。

 これらのバトルものにおいて、文章のみでどれだけ迫力や醍醐味を伝えられるか。こちらも挑戦してみるに値します。

 ですがこちらはすぐにネタバラシしてもよいですね。

 どんなにダイナミックな動きや繊細なコントロール、格闘技などの武道・武術を書いたところで映像が浮かんでくるような文章など書きようがないのです。

 たとえば「相手の僧帽筋を観察していると、ジャブを打つ直前わずかに動くクセを発見した」とします。これは観察力をもとにした「技」になりますが、これをどのように書いても「技」を説明してしまうんですよね。

「相手の僧帽筋を観察し、動いたら反射的にダッキングをする。どうやら自分のクセに気づいていないらしい。ジャブは虚しく空を切るだけだ。」

 やはり説明になってしまいます。

 しかしマンガやアニメなら絵で見せられるので、わざわざ言葉にしなくてもバトルの空気感や迫力を伝えられるのです。




小説の限界と可能性

 このように小説には限界があります。

 スポーツやバトルのように、ダイナミックな動きや繊細なコントロールといった迫力や醍醐味を表現できないのです。

 では小説でスポーツものやバトルものは書けないのでしょうか。

 少なくとも私たちは「バトル」ものの小説はたくさん読んでいるはずです。

 小説投稿サイトで人気のある「剣と魔法のファンタジー」は、バトル以外のなにものでもありません。

 バトルをどうやって魅力的に書けるか。

 この問いの答えこそが「剣と魔法のファンタジー」なのです。

 もちろんバトルの「心理戦」に特化した作品も数多くあります。

「心理戦」に特化すれば、スポーツものもバトルものも「さも経験しているかのごとく」書けるのです。技の細かな違いについて書くには経験している必要があります。しかし「心理戦」は実戦を経験していなくても書けるのです。

「剣と魔法のファンタジー」でも、剣術や剣道の経験がなくても「心理戦」メインなら剣士に活躍の場を作れます。また「魔法」なんて現実世界で使える人などいませんから、ダイナミックな動きや繊細なコントロールなど書きようもありません。

 それでも迫力のある「魔法」が書けるのは、中二病に刺さる「呪文」のおかげです。

 剣でも魔法でも「心理戦」が書ければなんとかなります。

 剣と剣での戦いであれば、相手を観察してどう動こうとしているか、どんな攻撃を考えているかを主人公の剣士の心理で読み解いていけばよいのです。

 ただし主人公の心理をそのまま書いてはなりません。

「相手がこう動いてきたので、こう捌いて返しの太刀を浴びせ、もしバックステップでかわされたらそれに合わせて追撃して突きを放つ。」

「心理」を先に書いてから、そのとおりに動作を書いたとしたら。かなり冗長になるだろうと察せられますよね。

 たとえ主人公の一人称視点であっても、主人公の「心理」をありのまま書いてはならないのです。先にどう動くのかが読み手にバレてしまえば、緊迫感がなくなります。

 命のやりとりをしているのに「緊迫感」がなくなる大きな理由は、先に「心理」でネタバレしてしまうからです。

「俺は意を決して相手の一太刀を待っていた。」とだけ書いて、残りは「心理」をいっさい書かない。すべて動作として読ませれば、「心理」でネタバレして「緊迫感」がなくなってしまうおそれはありません。

「こうしたらこうしよう」を書いてはならないのです。

「緊迫感」を出したければ、たとえ主人公の一人称視点であってもすべての「心理」を書いてはなりません。「心理」を書かずに動作で読ませれば、読み手は主人公がどんな算段でその動作をしているのかがわからないのです。だから、主人公の算段が成功するのか失敗するのか、読み進めていくまで知りようもない。そこに「緊迫感」が生じるのです。




バトル描写はリズム重視で

 現在入手しやすく、かつ実践的な剣術指南書があります。宮本武蔵氏『五輪書』です。

「青眼」であったり「目配せ」であったり「二刀の構え方」であったり。『五輪書』はひじょうに実践的な注釈をつけています。

 それを「剣と魔法のファンタジー」に持ち込むだけで、それっぽい「剣豪」感は出せるのです。

 もうちょっと具体的に書きましょう。

────────

 後ろにひと飛びして間合いをとり、腰から愛用の長剣を引き抜く。巨漢は大きなツルハシを振り上げてその体勢のまま突進してきた。俺は意に介さず右前へ大きく踏み込むと同時に長剣を真横へ一閃する。握っていた右手に柔らかなものを斬り裂いた手応えが伝わってきた。振った剣の勢いを利用してバックステップしながら正面を巨漢へ向けた。巨漢は胴体から激しく血を噴きながら前のめりに倒れる。痛みを訴えながらあがいているが、それも弱まりじきに動かなくなった。動かないと確認してから、俺は長剣をひとつ血振るいしてから納刀する。

 ひと呼吸し、振り向いてその場を後にした。

────────

 今回の作例では巨漢と剣士の戦いで、剣士が手練という設定です。

 注意したのは、

1.一連の流れで読ませるところでは改行を入れない。

2.読点や句点ひとつで時間経過が変わってくるので、それを意識して意図的に打つか打たないかを決める。

3.一文を短くして矢継ぎ早な動きを表現するか、長くして動作の余韻を持たせるか。

4.現在形と過去形をうまく使いこなして、動作開始と動作中を書き分ける。

5.一人称視点で視点が剣士の「俺」から離れないようにする。 

 この五点です。

 たとえばこれに「長剣の重さ」や「長剣の長さ」といった情報を盛り込みたがる方もいらっしゃいますが、剣士にとってはどちらも日常で使い慣れているので、戦闘中にそれを感じるはずもありません。つまり書いてはならない情報なのです。

 対して「巨漢の腹を斬り裂いた」描写は、単に動作を書いては駄目です。感触だけを書いてその後を書けば、「巨漢の腹を斬り裂いた」と書かなくても伝わります。

 バトル描写では、リズムを重視してください。

 注意1・2・3でリズムが決まりますので、うまく調整してください。

 私は一人称視点がとりにくくなるためあまり重文は書かないのですが、リズムをよくするためにあえて重文で畳みかけることがあります。

 これはバトル描写ですが、スポーツも考え方は同じです。

 リズムよく読ませるために「改行」「句点・読点」「重文」「一文の長短」を駆使してください。

 臨場感のあるバトル描写、スポーツ描写には「リズム」が重要です。

 MBS系列『プレバト!』の俳句査定コーナーはとても参考になります。俳句は五七五調が基本のリズムです。しかしときとしてこのリズムを崩した「破調」の句を読む方が現れます。そのとき講師の夏井いつき氏は、その「破調」の是非について語っています。一般的な五七五調でよい句なのか破調が合っている句なのか。

 日本語の細やかな使い方を学ぶためにも『プレバト!』は散文の小説にも役立つ名番組と呼べます。

 毎週欠かさず観てください。皆様に言葉や語順やリズムを整えるたいせつさを感じていただきたいのです。

 英語は構文がほぼ決まっているので、「言葉や語順やリズムを整える」たいせつさを感じづらい。だから英語の小説を翻訳している小説書きは日本語に疎くなります。

 母国語である日本語を極めないで英語の勉強ばかりしていては、リズム感のある文章は書けません。単調になってしまうのです。英語は比喩に富んでいるので、比喩はうまくなるでしょう。しかしそれだけです。


「ハルキスト」を抱えているとある書き手は、比喩こそ独創的なのにリズムが悪くて単調になっています。

 ノーベル文学賞を獲った川端康成氏も大江健三郎氏も、自ら英語訳をしなくても作品が世界に広まりました。とある書き手は自ら英語訳しているかもしれませんね。その姿勢があるかぎり、ノーベル文学賞には手が届かないでしょう。彼の知人であるカズオ・イシグロ氏は英語圏で生活していますから、英語で書いたものが日本語訳され、私たちはそれを読んでいます。

 ノーベル文学賞級のヒット作はその手順でしか生み出せないと考えています。

 単なる娯楽小説がノーベル文学賞を獲れるのなら、彼よりも『ハリー・ポッター』シリーズを執筆したJ.K.ローリング氏が先に選ばれるべきですからね。商業的には彼女のほうがはるかに売れています。それでもノーベル文学賞の声はかからないのです。





最後に

 今回は「物語118.スポーツとバトル」について述べました。

 最近コラムが長くなっていますね。書きたいことが明確にあると書けるものだなと自ら感心しています。しかし読み手にとっては短くてタメになるほうがよいですよね。

 ちょっとしたジレンマを感じます。

 日本語について深く考えさせるテレビ番組はほとんどありません。ここは日本なのに、NHK Eテレですら英語や韓国語などを取り上げるのに日本語はほとんど見向きもしていないのです。

 だから数少ない「日本語を深く考えさせる番組」としてMBS系列『プレバト!』の俳句査定コーナーはひじょうにタメになります。

 毎週欠かさず観てくださいね。たとえ録画してでも観るべきです。 

 俳句は「リズムのある日本語」そのものですからね。



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