1373.物語篇:物語117.ゲームのような物語

 今回は「ゲームライク」な物語についてです。

 最近の異世界ファンタジーは多分に「ゲームライク」な世界観をしています。

 読み手を増やそうとする手段ですが、どれだけ機能しているのでしょうか。





物語117.ゲームのような物語


 現在小説投稿サイトで隆盛を極めているのが「ゲームのような世界観」の作品です。

 レベルやスキルやランク、職業といったものを「ゲーム」から拝借して「ゲームライク」な物語に仕立てています。

「小説」を読み慣れていない「ソーシャル・ゲーム」時代の若者も楽しく読める利点があるのです。

 読み手も小説に「爽快感」を求めるため、「レベルMAX」「スキルMAX」「SSランク」「最強の魔法剣士」といった「主人公最強」「無双」を演出しやすい。

 世は「ゲームライク」な作品が全盛期を迎えています。

 それに迎合するのか、あえて独自路線を行くのか。




ゲームライクは読み手を増やしやすい

 小説投稿サイトに掲載されている物語のタイトルにずばり「最強レベル」「最強スキル」「SSランク」といった単語を書いている作品がかなりの数見受けられます。

 iPhoneの発売以来、小説投稿サイトは多くのスマートフォンから読まれているのです。そしてスマートフォンを持つ若者は「ソーシャル・ゲーム」に親しんでいます。今の小説投稿サイトは「ゲームライク」な作品との親和性が抜群によいのです。

 ゲームに求められる「爽快感」を提供する小説は、それだけで評価が高まりやすい。

 つまり「ゲームライク」は時代に求められています。

 試しに『小説家になろう』のランキングを見ていきましょう。

 2020年11月16日のハイファンタジージャンルの上位で「ゲームライク」なタイトルを抜き出してみます。

 1位:縛炎氏『「もう・・・・働きたく無いんです」冒険者なんか辞めてやる。今更、待遇を変えるからとお願いされてもお断りです。僕はぜーったい働きません。』冒険者パーティーを連想

 2位:サケ/坂石遊作氏『迷宮殺しの後日譚 ~正体を明かせぬままギルドを追放された最強の探索者、引退してダンジョン教習所の教官になったら生徒たちから崇拝される。ダンジョン活性化につき戻ってこいと言われても今更遅い~』迷宮・ダンジョン

 3位:haka氏『雑用付与術師が自分の「最強」に気付くまで〜迷惑をかけないよう、出来れば役に立つように生きてきましたが、追放されたので好きに生きることにしました。そちらのパーティーが崩壊しているようですが知らないです〜』最強・追放・パーティー

 4位:力水氏『最弱で迫害までされていたけど、超難関迷宮で10万年修行した結果、強くなりすぎて敵がいなくなる~ボッチ生活が長いため、最強であることの自覚なく無双いたします。』最難関迷宮、10万年、最強

 5位:可換 環氏『無職の最強賢者 〜ノービスだけどゲームの知識で異世界最強に〜』無職・最強・ゲーム


 と、このように「ゲームライク」なタイトルであふれています。

 異世界ファンタジーなのに、世界観は「ゲームライク」なのが『小説家になろう』のお約束にすらなっているのです。




カードゲーム・TRPGの世界観

 日本で最初にカードゲームを物語の主軸に据えたのはおそらく『遊戯王』が初だと思います。

『遊戯王』はトレーディング・カードゲーム『MAGIC THE GATHERING』が人気を誇っていたときに連載が開始されました。

 手札がまわってきて、その中からどの札を切っていくか。そして「トランプ」をいつ出すか。それがカードゲームの戦局を大きく左右します。

 ここで「トランプ」という単語を見て奇異に思った方もいるでしょう。

 英語で「TRUMP」は「切り札」を意味します。これを出したら勝敗は一気に決するのです。アメリカにとって「President Trump」はまさに中国共産党の拡大を防ぐ「切り札」だったのではないでしょうか。だからこそスイングステートで民主党ジョー・バイデン氏と僅差の接戦を演じているのです。

 カードゲームを小説にするとまったく面白くなくなります。マンガやアニメなら絵で見せられるので臨場感を出せるのです。しかし文字だけで表現しなければならない小説では、カードゲームの醍醐味は表現しようもありません。

 ではカードゲームはあきらめるべきでしょうか。それはいささか早計です。

 カードゲームにはそれぞれ固有の世界観があります。『MTG』の世界観がひとつの指標となっていますが、『ガンダム』のカードゲームだってあるのです。固有の世界観でどのような物語を紡いでいくか。物語はプレイヤー同士の対戦の数だけ存在します。

 つまりまったく同じ世界観でありながらも、どんな物語に発展するのかは戦前には予想しようもないのです。

 この先を読ませないストーリー展開こそ、カードゲームの醍醐味であり、魅力となります。実際にカードゲームの世界観で戦いが行なわれたら、結果がどうなるか誰にもわかりません。

 そこで、物語の大筋は書き手自身が決め、戦闘パートだけ実際にカードゲームをプレイしてこの過程を文章化する「リプレイ」が効果を発揮します。

 これはTRPGテーブルトーク・ロールプレイングゲームでも効果的です。

 水野良氏『ロードス島戦記』シリーズは、『Dungeons&Dragons』の「リプレイ」で物語が進んでいきます。パーンが血気盛んなのもスパークが不幸なのも、「リプレイ」のプレイヤーの振る舞いやダイス運に左右されているのです。

 現在でもTRPGの「リプレイ」は書籍化され販売されています。それを読めば物語を創る過程がよくわかるはずです。

 しょせん人間同士の戦いですから、味方の考えだけでなく、敵の意図も組み込まなければなりません。主人公サイドの都合だけで戦いが繰り広げられるのであれば、ただの「ご都合主義」です。手に汗握るはずのバトルシーンが、一方的な勝ち方をするだけになってしまいます。

 現在の小説投稿サイトでは「主人公最強」「俺TUEEE」「チート」「無双」が人気です。これは前述した「ご都合主義」以外のなにものでもありません。

 とりあえず見せ場のバトルシーンを書いたから、読み手の皆が主人公の大活躍だけを心待ちにしていればよいのだ。

 これで手に汗握るバトルシーンなど描写できるのでしょうか。

「主人公最強」「俺TUEEE」などの「ご都合主義」で進めていくだけでは、勝って当たり前。手に汗握るバトルシーンなどというものもまったくありません。つねに勝つのが決まっているバトルシーンなんて、刺身のツマです。

 バトルシーンの書き方に関しては、明日一項設けますので、ここまでで控えます。




ヴァーチャル・リアリティー

 私たち現代日本人にとって最も身近な異世界は「夢」です。

 次に身近な異世界が「ヴァーチャル・リアリティー」でしょう。

 とくに多数がインターネット上の仮想空間に集まって繰り広げられるゲームはVRMMORPGと呼ばれています。

 川原礫氏『ソードアート・オンライン』と、ほぼ同時期の『.hack//』シリーズで確立された「ゲームライク」な小説のジャンルです。

 異世界転移ほど大がかりではないものの、現実世界人が現実世界以外を舞台にする点に関しては、より手軽に書けます。

 なにせ主人公たちプレイヤーキャラクターは全員現実世界人です。異世界風の世界観であっても、現実世界の話題で盛り上がれますし、ゲームのシステムをあれこれ工夫すれば、差異も簡単に生み出せます。

『ソードアート・オンライン』のように、異世界ファンタジー風の世界観に、一万人の現実世界人が集う物語もあるのです。「浮遊城アインクラッド」の攻略に乗り出す「ダンジョン」ものを、異世界の説明ではなくゲームの世界観の説明だけで乗り切れます。そうなれば単に異世界ファンタジーを書くよりはるかに書きやすく、異世界転移ファンタジーの「ご都合主義」を気にする必要もなく、まるで現実世界を描くかのように表現できる。

 まさに「書き手」は書きやすく、「読み手」は違和感を覚えづらく、双方WIN−WINの関係でいられるので、VRMMORPGは物語の舞台としてひじょうに重宝するのです。




システムの説明は最小限に

 このようにゲームを小説に組み込む場合、とかく「ゲームのシステム」を説明しようとしがちです。

 しかし「ゲームのシステム」をあれこれ説明していたら、私たちは「ゲームのシステムの解説書」を読んでいるにすぎません。肝心のストーリー展開が頭に入ってこないのです。

 解説するなら一回だけ。必要なところにだけ書けばよいのです。

『ソードアート・オンライン』が秀逸なのは、VRMMORPGが舞台であること、一万人が参加していること、誰かがゲームを攻略するまでログアウトできないこと、ベータテスターが先行者利益を有して効率よくレベルアップしていること。これらをたった一回説明しただけで物語を「ゲームのシステムの解説書」にしなかったところにあります。

 細かな描写も基本的に解説は一回のみです。たとえば「ゲームのシステム」の解説に全体の五割を費やした物語と、全体の五パーセントに抑えた物語のどちらが読み物として面白いのか。答えは明白ですよね。

 私たちが読みたいのは「ゲームのシステムの解説書」ではありません。魅力的なストーリー展開と手に汗握るバトルシーンをこそ読みたいのです。

 極端な話、「この世界はVRMMORPGの中である。」と書くだけでもかまいません。今の世にVRMMORPG作品は雲霞の如く満ちています。それを一から説明しなければならない時代でもないのです。もちろんこの作品が読み手にとって初めて読むVRMMORPGものかもしれません。しかしライトノベルの多くは年嵩が読みます。主要層は中高生なのですが、商業ベースで言えば購買力のない中高生だけに訴求するのでは経済が成り立ちません。社会人となりコンピュータを購入してMMORPGに興じているような年嵩のゲーマーこそがメイン・ターゲットなのです。




プロゲーマーの物語

 おそらくこれからのゲーム小説は「プロゲーマー」の物語になるはずです。

「e−Sports」がジャンルを築き、「プロゲーマー」が世界各国で鎬を削っています。実際に優勝賞金が一千万円を超える大会も開かれています。「プロゲーマー」のトップは年収一億円を超えているそうです。

「e−Sports」はアジア大会でも体育競技に位置づけられ、小学生がなりたい職業の第二位と言われています。ちなみに一位はYouTuberです。

 であれば「プロゲーマー」は今後の小説界で必ずトレンドになります。

 もし『ソードアート・オンライン』が「プロゲーマー」の話だったとしたら。

 そんな物語を書けるのは、あなただけかもしれません。(まぁこれを書いている私にも書けるでしょうけどね)。

 ゲームを題材に選ぶのなら、最新技術には敏感になってください。

 今ならSONY『PlayStation 5』が話題です。抽選予約が100倍を超えた販売店もあったと報道されています。

『PS5』の技術はパソコンとして見ても世界最先端です。それが五、六万円で手に入るのであれば、競争率が高くなって当然でしょう。

 これからの「e−Sports」でも『PS5』が大活躍するはずです。

「プロゲーマー」の物語は「e−Sports」を舞台に『PS5』で対戦する世界となるのかもしれませんね。





最後に

 今回は「物語117.ゲームのような物語」について述べました。

 ゲームの小説化は主に「リプレイ」の形をとります。

 人気が出てくると、それが小説化されてより多くの読み手に物語が広まるのです。

 今は「ゲームライク」な物語が増えました。少数派で目立っていた時代は終わりました。

 数ある「ゲームライク」から抜きん出た作品を書くには、より先鋭化するかより大衆化するか。とにかく方針を固める必要があります。

 誰も目をつけなかった物語に仕立てられるなら、ぜひそれを目指してください。

 ランキング上位を占める「ゲームライク」な物語に太刀打ちするには、「郷に入っては郷に従え」でいくしかありません。



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