1354.物語篇:物語98.ヒーローになりきれない勇者
今回は「アンチヒーロー」についてです。
物語上では「ヒーロー」なのですが、なにかが欠けている。
強くないとか正しくないとか清くないとか。
でもそんな人間くさいところが共感を抱けるポイントでもあるんですよね。
物語98.ヒーローになりきれない勇者
「勇者と魔王」の物語と見せて、「未熟な勇者」が主人公の物語があります。
本来なら「魔王」と互するべき「勇者」が未熟でまったく役に立たないのです。
いつ本物の「勇者」へと成長を遂げるのか。
それがこの物語のキモです。
実は欠陥スーパーマン
物語の形の宝庫であるマンガの藤子・F・不二雄氏に『パーマン』があります。
ヒーローの星「バード星」からやってきたバードマンに見出だされた小学生男子・須羽ミツ夫は、パーマンセットであるヘルメット・マント・バッジを受け取りパーマン1号となりました。
しかしこのパーマンセット、ひじょうに万能そうですが、使う人物の能力に多くを依存するのです。ミツ夫は小学生なのでいくら怪力が出せても、百十九キロで飛べても、バッジで仲間と通信したり水中で酸素ボンベにできたりしても、最善な使い方はできません。
使用者をスーパーマンにできるほどのアイテムなのに、それを小学生に渡してしまったバードマン。なにを考えていたのでしょうか。しかもパーマン2号は猿のブービー、パーマン3号は国民的アイドルの星野スミレ通称パー子、パーマン4号は関西人で通称パーやん。とてもまともに選んでいないように思えます。バードマンの採用基準とはいかに?
まぁこの「欠陥スーパーマン」たちが人助けに奔走するさまが、子どもたちをワクワクさせたのは事実です。
藤子・F・不二雄氏の作風は自身が掲げたスローガン「すこしふしぎ」に表れています。「SF」でありながらも身近にありそうな物語です。
実は藤子・F・不二雄氏の連載作品でも「ヒーロー」が活躍するのは『パーマン』くらいなもの。師である手塚治虫氏同様、ひとつとして似た作品を書かなかった稀有なマンガ家です。まぁ『ドラえもん』と『キテレツ大百科』は「ひみつ道具」「キテレツ斎の発明品」のようにさまざまな便利な道具を活かした物語、という点では同じですが。
だから「ヒーロー」ものは『パーマン』に集約しているのかもしれません。
藤子・F・不二雄氏にとって「完璧なスーパーマン」なんて子どもたちにはウケないものだった。少なくともそう信じていたからこそ『パーマン』は「欠陥スーパーマン」として描いていたのではないでしょうか。
「欠陥スーパーマン」だからこそ、ドタバタによる面白さが加わって子どもたちにウケる作品に仕上がったのです。
それに気づいた藤子・F・不二雄氏は、やはり稀代の天才マンガ家といえます。
説明書を失くしたスーパーマン
マンガの『パーマン』に刺激を受けたのか、アメリカのドラマでも「欠陥スーパーマン」ものが生まれました。
ウィリアム・カット氏主演『アメリカン・ヒーロー』です。邦題は『UFO時代のときめき飛行 アメリカン・ヒーロー』。
自動車を運転中にUFOと遭遇し、乗せられてコスチューム「スーパースーツ」を渡され、ヒーローとして活躍するよう求められます。その「スーパースーツ」があれば、空を飛べるし怪力も出せる、文字どおり「スーパーマン」となれるアイテムでした。
ここだけ読むと「完璧なスーパーマン」のように感じますよね。しかし主人公ラルフ・ヒンクリーは、説明書を失くしてしまうのです。しかも初回に。
これで「スーパースーツ」の使い方がわからなくなります。さりとて「スーパースーツ」を受け取った手前、ヒーローとして活躍しないわけにはいきません。
空もまっすぐには飛べず、看板に激突するのは当たり前。乗用車を軽々持ち上げられるほどの怪力も制御不能。超速の走力、透視、サイコメトリー、手から高熱を発する、離れたものを発火させる、全身透明化するなどの能力もすべて中途半端にしか発動しません。意識しないでも使える、弾丸を跳ね返し、炎にも耐えるほどの「防御力」のおかげでなんとかヒーロー活動を勤め上げていきます。
数え上げたらきりがないほどの特殊能力を秘めた「スーパースーツ」も、説明書なしでは偶然発動してひとつずつ使い方を研究しなければ使いものになりません。
とくに飛行は全編思いどおりには飛べず、毎回着地に失敗するありさまです。
コメディーとして成功したドラマですが、やはり『パーマン』の発想が加わっているように受け取れます。
パーマンも当初はまっすぐ飛べませんでしたからね。ただパーマンはなにかあるとバードマンが指示してくれていたので、ある程度使い方はわかるようになっていました。小学生に完全不明なものを扱えるはずもありませんからね。
その点『アメリカン・ヒーロー』は主人公が高校教師ですから、完全に使い方がわからなくてもなんとかできてしまいます。この差はやはり年齢の違いとお国柄が表れているようです。
不完全なヒーローにこそ共感する
『パーマン』にせよ『アメリカン・ヒーロー』にせよ、不完全なヒーロー「欠陥スーパーマン」だからこそ、読み手や視聴者が共感できたのです。
もし「完全無欠のスーパーマン」だとしたら、どんな出来事もあっという間に解決してしまいます。それはそれで人気は出ます。DCコミックスのジェリー・シーゲル氏&ジョー・シャスター氏『スーパーマン』のように定番として人気を博しているのです。
ですがスーパーマンには憧れこそすれ「自分みたい」とは思えません。設定がかけ離れているからです。
その点『パーマン』は小学生がパーマンセットを、『アメリカン・ヒーロー』は高校教師がスーパースーツを授かります。一般人でもヒーローの力が手に入るのです。これなら「自分もいつかは」と思って共感しますよね。この共感こそが受け手を惹きつける鍵なのです。
あなたの「勇者」は「完全無欠のスーパーマン」でしょうか「欠陥スーパーマン」でしょうか。
もちろん「完全無欠のスーパーマン」なら憧れは強くなります。しかしライトノベルを見ていると「完全無欠のスーパーマン」なんてほとんどいません。たいていなにがしかの欠陥を抱えているのです。その欠けているものによって、読み手の共感を得ていくのが「欠陥スーパーマン」最大の強みとなります。
鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』の上条当麻は「完全無欠」でしょうか。マンガの堀越耕平氏『僕のヒーローアカデミア』の緑谷出久は「完全無欠」でしょうか。
違いますよね。
これが一昔前のマンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』主人公・孫悟空、マンガの尾田栄一郎氏『ONE PIECE』主人公モンキー・D・ルフィあたりになると、「完全無欠のスーパーマン」の側面が強いですね。しかし主人公を「完全無欠」にすればするほど、対する敵も「さらに強く」していかざるをえなくなります。まさにインフレ状態です。
『とある魔術の禁書目録』『僕のヒーローアカデミア』はともに「欠陥スーパーマン」だからこそ、弱点を克服し補強する点に注力すれば、敵が宇宙一強くなくてもじゅうぶん面白い物語となったのです。
最後に
今回は「物語98.ヒーローになりきれない勇者」について述べました。
俗に「アンチヒーロー」ものと呼ばれるこの物語は、「欠陥スーパーマン」を主人公にするからこそ読み手の共感を得るのです。
もし「完全無欠のスーパーマン」を主人公にすると、憧れこそすれ共感は抱きません。
そうなれば読み手がお伽噺好きな小児に限られてしまいます。
憧れる主人公より、共感できる主人公のほうがより多くの人に刺さるからです。
社会現象となっている吾峠呼世晴氏『鬼滅の刃』の竈門炭治郎も、共感できる主人公になっていますよね。
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