1353.物語篇:物語97.隔絶の地
今回はサスペンスものに多い「隔絶の地」についてです。
嵐の孤島や山奥の屋敷など、たやすく世間から隔絶する場所が生み出せます。
それが被害者を足止めし、犯人が暗躍する場所となるのです。
物語97.隔絶の地
サスペンスものに「隔絶の地」とも呼ぶべき「鉄板」の展開があります。
「山奥の屋敷」に大勢が集まって、橋やトンネルや道路といった移動手段、固定電話や携帯電話やスマートフォンなどの通信手段を寸断する。
人々は行き場をなくして、連続殺人の餌食となってしまいます。
似たような「隔絶の地」は無人島です。逃げ場がありませんからね。
嵐の孤島と山奥の屋敷
推理マンガの天樹征丸氏&さとうふみや氏『金田一少年の事件簿』で「隔絶の地」は頻繁に登場します。たとえば主人公・金田一一とヒロイン・七瀬美雪がワケアリ集団とともに嵐で孤島に取り残される、というものがあります。船は出せないし通信機も壊され、携帯電話もつながらない。完全に孤立した状況に陥ります。
そうして始まる連続殺人事件。犯人は嵐のために外部から入り込めませんから、当然内部犯です。
怪しげなワケアリ集団の誰が犯人なのか。それを解き明かすのが『金田一少年の事件簿』の物語です。
「嵐の孤島」はこのように物語世界を孤島に限定し、物語で影響が及ぶ人物も孤島にいる人たちだけとなります。
だからこそ緊迫感つまりサスペンスにはうってつけなのです。
この「嵐の孤島」に似たのが先ほどの「山奥の屋敷」で、たとえば崖に囲まれていて屋敷への出入りには吊り橋を渡らなければならない。しかしその吊り橋が何者かによって落とされてしまう。しかも電話線が切断されており、携帯電話もつながらない。
これも立派な「隔絶の地」です。
『金田一少年の事件簿』では、とても都合よく「隔絶の地」を用いています。まぁそうしないと推理が成り立たないのですが。
「隔絶の地」は「密室」と同じで、その中に犯人がいることを示唆します。
「推理もの」であれば、容疑者は三名にとどめておきたいところです。
十人も容疑者がいては、読み手が真犯人を突き止める前に次なる殺人が起こってしまいますからね。
この点が『金田一少年の事件簿』のまずかった点かもしれません。
ときに容疑者が十人ほど出てくるので、読み手は頭の中にハテナマークをつけながら読んでいたはずです。「どんなトリックか」よりも「誰が犯人か」のほうに頭が向いてしまいます。
名探偵コナン
誰もが出入りできる場所で殺人事件が起こると、その場所にいない人が犯人でもよくなるのです。それだと推理はどうしても穴だらけになりますよね。
その場合は「自供」を引き出せないと事件は解決しません。
しかし外部犯の可能性もありながら、内部犯に「自供」させるのも無理があります。
まぁそれでも犯人は自供してしまうのが推理ものなのですが。
推理マンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』では、外部犯の可能性がある事件で、コナンの推理で追い詰められた内部犯が「自供」して解決するパターンが多い。ときどき「隔絶の地」を用いていますけれども、たいていは第三者でも犯行が可能な状況になっています。
そこで『名探偵コナン』では犯人をいかにして追い詰めて「自供」を引き出すか。徹底的にこだわっています。
コナンが事件の早々に「これは内部犯だ」と確信し、三人いる容疑者の誰が真犯人かを推理するのです。
この「三人」が絶妙なのです。人間「3」という数字は容易に頭の中で考えらます。脳内のワーキング・メモリーはだいたい3〜5程度あるとされているのです。「3」人なら全員を横並びにして推理できます。つまりコナンが容疑者を三人に絞ってくれるからこそ、読み手の誰もが推理を堪能できるのです。
そしてコナンが真犯人とトリックを見抜いたら、毛利小五郎を眠らせて名指ししてトリックを話します。そうして追い詰められた真犯人が観念して「自供」するのです。
だから『名探偵コナン』の犯人は、ひじょうに物わかりがよい。無駄なあがきはせず、トリックを暴かれたら観念して「自供」します。
まぁ老若男女、誰にでも読める推理マンガとしてはそのくらいのほうがわかりやすくてよいですよね。
もし犯人が「自分は犯人じゃない」を連呼したら、『名探偵コナン』の世界観は崩壊します。『名探偵コナン』の世界観では、真犯人はトリックを見破られたら敗北して「自供」するのです。
だから『金田一少年の事件簿』よりも連載が長期化できたのだと思います。
もし『金田一少年の事件簿』のように「隔絶の地」にこだわっていたら、ネタはすぐに尽きてしまうでしょう。
本筋である「黒の組織」との対決もほとんどが「心理戦」であり、いかに「思い込み」を誘発できるかに力点を置いています。
吹雪の山荘
最後に取り上げたいのが「吹雪の山荘」です。
ここは不可能殺人の舞台となりやすい。
まず吹雪のため雪が積もる。なので、誰かが外部からやってきて殺人を犯して去っていったとすれば「足跡」が残ります。
次に殺害した遺体を足跡のついていない場所に運んで「不可能殺人」にしやすいのです。
また山荘は造りが単純なため、トリックを仕掛けるのもけっこう簡単。
このように「不可能殺人」を演出するために「吹雪の山荘」を舞台にする「推理もの」が多いのです。
逆に言えば「不可能殺人」とするためだけに「吹雪の山荘」を舞台にするのは、凡百な発想になります。多くの書き手が「吹雪の山荘」を舞台にしてしまうからです。
名作ゲームのチュンソフト、我孫子武丸氏脚本『かまいたちの夜』も「吹雪の山荘」が舞台となっています。
これほどの名作に採用されているため、「吹雪の山荘」ものは『かまいたちの夜』の焼き直しとしか見えないのです。
これから「推理もの」を書こうと思ったら「吹雪の山荘」だけは避けましょう。
それだけで初見切りを防げますよ。
最後に
今回は「物語97.隔絶の地」について述べました。
物語世界を小さく限定して、その中で起こるイベントを書くのが「隔絶の地」の特徴です。
それこそ「世界を股にかける大作」でもなければ、行動範囲・影響範囲は狭いほうが格段に書きやすくなります。
水野良氏『ロードス島戦記 灰色の魔女』が成功したのも、とある島での出来事だったからかもしれませんね。
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