1348.物語篇:物語92.奇跡と祈り

 魔法と並んで「剣と魔法のファンタジー」に華を添えるのは「奇跡」つまり「神の力を借りた魔法」です。

 他に精霊魔法などもありますが、それらは「魔法」にまとめてよいでしょう。

 今回は「奇跡」の力について書きます。





物語92.奇跡と祈り


「剣と魔法のファンタジー」において「魔法」と双璧をなすのが「奇跡」です。

「魔法」は魔術師の領分、「奇跡」は神官の領分になります。

 神に祈りを捧げて、さまざまな事象を呼び起こす超常的な力です。




祈りを捧げ

 神官は「祈り」「願い」を神に捧げて加護を引き出すのが職分です。

 主に回復を司ります。傷を癒やしたりアンデッドモンスターの魂を昇天させたり。

「神」の摂理を引き出すのです。

 神官が「神」の摂理を引き出すためには「祈り」や「願い」を捧げなければなりません。どんなに軽傷を癒やす「奇跡」であろうと、「神」への「祈り」や「願い」がなければ発動しません。

 もちろん「奇跡」が発現したら「神」に感謝の言葉を捧げます。力を借りたのですから、感謝するのは当然です。

 信心が足りないと「奇跡」は発現しないとされ、信心深く高度な「奇跡」を呼び起こせれば司祭、司教、大司教と昇進もしていきます。

 神官の中には戦士のように肉弾戦を厭わない集団もおり、これを「神官戦士」と呼びます。

 神官は基本的に刃の付いた武器を使えませんが、「神官戦士」は刃の付いた武器も使えるのです。通常の神官はメイスやフレイル、モーニングスターなどの打撃武器を得意とします。しかし「神官戦士」なら両手剣を振るっても不思議はありません。

「神」が流血を好むかはわかりませんが、神官の信心によれば「神」は流血を好まない。だから刃の付いた武器で相手が流血するのを避けるのです。

「神官戦士」は「神」の加護がある「戦士」なので、基本的には「戦士」になります。だから「戦士」のように両手剣や片手剣、レイピアなどを用いてもかまわないのです。

「神官戦士」とは言いますが、基本的には「戦士」だと思ってください。

 わかりにくいようなら「神」の力を使える勇者と考えましょう。

 現実では聖地エルサレムをイスラム教徒から奪還するための「十字軍」のようなものです。しかし「十字軍」は目的を達成せずに役割を終えました。聖地を奪還したのは第二次世界大戦後であり、イスラエルの建国を待たなければなりません。

「十字軍」や「イスラエル」に「神」の加護があったかはわからないのですが、少なくとも彼らは「神」の加護を信じています。組織がまとまる要だからです。

 ただ「祈り」に関してはキリスト教よりもイスラム教のほうが熱心です。キリスト教は日曜礼賛が常ですが、イスラム教は毎日決まった時間に聖地へ向けて「祈り」を捧げなければなりません。

 宗教として異端なのは、キリスト教とイスラム教のどちらなのでしょうか。

 おそらくどちらも異端です。

 歴史的に見て一神教は出現が遅い。仏教や北欧神話、ギリシャ神話、日本書紀など古くからある土着宗教は多神教です。

 一神教が起こったのは早くて西暦元年以降のはず。それまでは仏教やギリシャ神話や北欧神話などのように多神教の世界でした。それが「唯一神」を標榜するイスラム教とキリスト教の台頭によって急速に勢力を落としていきました。

「悪貨は良貨を駆逐する」

 一神教は他の神をすべて否定します。だからこそ十字軍が設立されたのです。




奇跡にも呪文が欲しい

「奇跡」も「魔法」同様「呪文」を必要とする場合があります。こちらも「魔法」のように「中二病に刺さる」には必要です。

 仏教だって「奇跡」を起こすには念仏を唱えますからね。死者の魂が安らかに天界へと昇るには、僧侶が木魚で念仏を唱えるのです。

 ただ念仏が「中二病に刺さる」のでしょうか。

 もし刺さるのなら、僧侶を希望する若者が多くなるはずです。でも「なりたい職業ランキング」で僧侶がランクインした話など聞いたためしがありません。つまり念仏は若者に刺さらないのです。

 仏教で思い出しましたが、なぜ戒名をつける必要があるのでしょうか。死後の世界での地位を確約するためのものだとされています。死後でも地位争いをしているのかと思うとげんなりしてしまうのではないでしょうか。

 仏教の「呪文」は主に真言と呼ばれ、たとえば不動明王の力を借りたければ梵語で「ナウマクサンマンダバザラダンカン」や「ナウマク・サンマンダバザラダン・センダ・マカロシャダ・ソワタヤ・ ウンタラタ・カンマン」と唱えます。

 なにやら意味不明な言葉です。これが「中高生に刺さる」かと言えば難しい。

 ですが過去にこれが刺さった時期は確かにありました。

 タツノコプロが1989年に放映したアニメ『天空戦記シュラト』です。

 主人公は不動明王の化身、「対になる存在」は夜叉王の化身とされています。このふたりの関係が、物語を大きく左右するのです。

 八部衆はそれぞれ真言が異なっており、意味不明ながらもそれが「呪文」のように聞こえて「中高生に刺さり」ました。

 ちなみに『天空戦記シュラト』は仏教版『聖闘士星矢』と言ってもよい作品です。

 仏教や八部衆などは人数が限られますから『聖闘士星矢』ほど長大な物語にはなりませんでしたが、なかなかの良作だったと思います。

 仏教社会を舞台とした伝奇ファンタジーに藤川桂介氏『宇宙皇子』があります。これは単行本全五十巻の大作で、「中高生に刺さる」呪いの言葉はなかったと記憶していますが、主人公が神仏の領域まで到達する一大叙事詩です。




奇跡の種類

 奇跡には主に「治癒」「状態異常解毒」「ターン・アンデッド」「神の降臨」で、補助的に悪魔を攻撃する「フォース」を操るとされています。

 まず「治癒」ですが、傷を癒やすだけでなく、病を克服したり、欠損した部位を再生したりと「元気な体に戻す」奇跡です。

「状態異常解毒」はその名のとおり「毒」を打ち消すほか、麻痺や催眠、減速などの異常な状態を解除する奇跡になります。

「ターン・アンデッド」は不死アンデッドの魂を昇天させて土へ還す奇跡です。神官のレベル次第では最強のアンデッドさえも昇天させられます。普通はレベルや判定によって昇天させられるアンデッド数が変わってきますが、最強のアンデッドさえも昇天させる可能性があるため、アンデッドが相手なら必ず唱えておきたい奇跡です。

「神の降臨」は現世に神を召喚して降臨してもらう奇跡になります。これは相当レベルの高い神官にしかできず、たいていは神官の命と引き換えにして発現されるものです。

「フォース」は気の塊を相手にぶつけてダメージを与える攻撃的な奇跡になります。流血を好まない神官の性質から相手を斬れないのですが、ぶん殴るのは「あり」とされているのです。もし後頭部を強烈に殴られたらたいていは死ぬと思うんですけどね。

 ジョージ・ルーカス氏監督『STAR WARS』シリーズに出てくる「フォース」はこれとは少し異なります。どちらかといえば超能力に分類されるのです。





最後に

 今回は「物語92.奇跡と祈り」について述べました。

 神の力を借りる「奇跡」は魔法使いの「魔法」同様「剣と魔法のファンタジー」には欠かせません。

 ただし「現実世界ファンタジー」だと「神」の存在自体が怪しく、もしふたり以上に「奇跡」を起こしたら「聖人」と扱われます。そのくらい「奇跡」は起こらないものなのです。マザー・テレサ氏も複数の人物に対して「奇跡」を起こしたと認定されて「聖人」として扱われています。

 だから「現実世界ファンタジー」では「魔法」ほど一般的ではありません。

 そのあたりに注意して神官を登場させましょう。



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