1349.物語篇:物語93.超能力とマジック

 今回は「超能力」についてです。

「超能力」はテレビによって世間に認知され、テレビによって消えていきました。

 ほとんどの「超能力」にはタネと仕掛けがあったからです。

 テレビが録画されるようになり、高精細化するにつれ、そのタネと仕掛けがバレてしまいます。

 だから、今ではテレビで「超能力」を見なくなったのです。





物語93.超能力とマジック


 超能力いわゆるサイキックパワーを物語の軸にする物語もけっこうあります。

 ただ古典は存在せず、1970年代以降に巻き起こった「超能力」ブームが火付け役となったのです。

 そもそも「超能力」ってなんなのでしょうね。




ユリ・ゲラー氏と超人ロック

 超能力を語るとき、外せない人物がいます。

「スプーン曲げ」で社会現象を起こしたイスラエル人のユリ・ゲラー氏。彼はテレビが開局して初めての「超能力者」として記録されています。

 彼がテレビで「念」を送るとスプーンが曲がるのです。これが引き金となって、家庭にある多くのスプーンが曲げられました。ちょっと曲がった主張ですね。

 スプーン曲げにはステンレスのスプーンは難しいとされています。それも当たり前。支点・力点・作用点の法則と、熱膨張と、催眠術による力のコントロール不良を組み合わせて、金属のスプーンが「少ない力で曲がる」だけなのです。

 だからステンレス製は曲げられない。曲げられるのは力を入れれば簡単に曲がるアルミ製だけでした。

 また「止まった腕時計を強く握りしめて「念」を込めると動き始める」というものもありました。こちらは油カスが歯車やゼンマイに付着して動かなくなった時計を強く握りしめることで、油カスが溶けて歯車やゼンマイの詰まりがとれただけなのです。だから動く腕時計と動かない腕時計がありました。

 そう考えるとユリ・ゲラー氏が使ったのは「超能力」というよりも「科学を用いたフェイク」だったわけです。

 それでも当時は人気絶頂で、視聴率男となりました。

 それだけ世間はユリ・ゲラー氏の「超能力」を信じたのです。

 ユリ・ゲラー氏によってもたらされた「超能力」の概念は、小説やマンガの世界にも当然波及します。小説での端緒はわからないのですが、私が知っているのは以前ご紹介した平井和正氏『幻魔大戦』です。マンガでは現在まで連載が続いている聖悠紀氏『超人ロック』が挙げられます。1967年に同人誌で初出して、商業誌連載は1977年です。まさに「超能力」の草分けでしょう。『超人ロック』は永遠の命を持つ超能力者ロックが宇宙を股にかけて活躍します。スペース・オペラも組み込まれた壮大な「超能力SFマンガ」です。




Mr.マリック氏とデビッド・カッパーフィールド氏

 ユリ・ゲラー氏に疑惑が持たれて一時「超能力」が下火になりました。

 そんな中でまたしてもテレビで「超能力」のようなエンターテインメントを行なう人物が登場します。

 Mr.マリック氏です。

 彼は自ら「超魔術」と呼ぶ、タネも仕掛けもあるトリックを、さも「超能力」であるかのように披露する手品師でした。

 アメリカでは堂々と「魔術師」を名乗るデビッド・カッパーフィールド氏が登場します。「飛行場に停まっている飛行機を消す」という代表的なトリックを始めとして、「存在するものを消す」のが得意です。

 彼ら「超能力第二世代」は頻繁にテレビに出演して手品を披露していきます。そしてネタは簡単にはバレない工夫も凝らしていたのです。これでコロッとだまされた視聴者が多かった。

 彼らはほぼテレビでしか見られないため、テレビという媒体に特化した「超能力者」だったのです。

 そしてテレビが簡単に録画され、ワイド化するにつれて自然消滅していきました。つまり高画質でコマ送りされるとネタがバレてしまうわけです。

 だからテレビが高精細化するにつれ、多くの「超能力者」「マジシャン」は姿を消していきます。

 先日亡くなられたマンガ家のまつもと泉氏の代表作『きまぐれオレンジ☆ロード』にもMr.マリック氏と見られる人物が登場しているのはご愛嬌でしょうか。




メンタリスト・DaiGo氏

 テレビが録画でき、コマ送りできるようになってから頭角を現したマジシャンがいます。自身を「メンタリスト」と称するDaiGo氏です。名前の表記が似ているビジュアル系バンド「BREAKERZ」のボーカルであり北川景子氏の夫であるDAIGO氏と混同されやすいので注意しましょう。

 DaiGo氏の特徴は巧みな話術で相手を誘導して、確度の高い選択肢をさらに絞らせるテクニックです。つまり「心理学」を応用した手品師といえます。だから「メンタリスト」なのです。

 使っているのは「超能力」でなく「心理学」。ここが今までの「超能力者」とは異なります。つまり始めから仕掛けがあるのに、それを知らないと見事に当てられてしまうのです。合同コンパでは人気者だったでしょうね。

 これまでのユリ・ゲラー氏やMr.マリック氏、デビッド・カッパーフィールド氏のようにテレビが録画され、高精細化されても「心理学」による誘導までは見抜けませんから、「超能力第三世代」と読んでもよいでしょう。

 しかしDaiGo氏は心理学の本を多数書いて、自らのテクニックをビジネスへと応用させようとしています。つまりツカミこそテレビでしたが、本業は「心理学」を土台とした「精神誘導」の書籍販売にあったわけです。




めぼしい超能力

 超能力とひと言で語ってもその種類は多種多彩です。

 まず「念力」。「テレキネシス」とも呼ばれ、触れていないものを動かす超能力です。

「テレパシー」も有名でしょう。遠く離れた人と心の声で会話できる超能力です。

 そして「瞬間移動」の「テレポーテーション」。遠く離れた場所へ一瞬で移動する超能力です。

 この三つがだいたい「超能力」の三種の神器となります。

 藤子・F・不二雄氏『エスパー魔美』の主人公・佐倉魔美も基本的にはこの三つを習得しています。

『きまぐれオレンジ☆ロード』でも主人公の春日恭介は「念力」「テレポーテーション」の使い手です。いとこの一也は「テレパシー」の使い手で、このふたりで主要な超能力は完備されています。

 他にも「予知夢」を「超能力」に入れたり、「透視」「千里眼」はまとめて「クレアボヤンス」とも呼ばれ、安童夕馬氏&朝基まさし氏『サイコメトラーEIJI』で有名になった触れた物体に秘められた記憶を読み取る「サイコメトリー」あたりが有名ですね。レアものなら、他人からは別人に見えるなんていうのもあります(『きまぐれオレンジ☆ロード』で恭介のいとこであるあかねが使います)。

 また『超人ロック』では攻撃に使う「光の剣」や防御に使う「シールド」、不死身を可能とする「若返り」すらあるのです。

 ロックに使えない超能力はないので、「超能力」ものを書きたい場合は『超人ロック』を買えるだけ買って読んでみましょう。

 またヤマグチノボル氏『ゼロの使い魔』、鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』などでも「異能」はいわゆる「超能力」として扱われます。

「異能」といえば「個性」がふんだんに使われているマンガの堀越耕平氏『僕のヒーローアカデミア』も外せません。さまざまな「個性」の中にもいわゆる「超能力」が含まれています。





最後に

 今回は「物語93.超能力とマジック」について述べました。

「超能力」は戦争での活用を目的として研究されていました。

「超能力」を鍛えるという「ESPカード」も元々はソ連の軍事訓練の一種です。

 それが時代を経て『超人ロック』となり、ユリ・ゲラー氏がスプーンを曲げ、Mr.マリック氏が「超魔術」の形で披露しました。

 現代では「超能力」に見せかけた「マジック」はテレビで観なくなりましたが、創作のジャンルでは依然として高い人気を誇っています。

 元々「魔法」も「超能力」の一種と考えられていたようです。

 ギリシャ神話で「全知全能の神」であるゼウスがさまざまな魔法を用いています。これも「全知全能」だから「超能力」の一種とみなせます。



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