1343.物語篇:物語87.守りたいもの

 今回は「守りたいもの」についてです。

 あなたには「守りたいもの」があるでしょうか。

 主人公にも「守りたいもの」があるはずです。





物語87.守りたいもの


 主人公には「守りたいもの」があります。

「守りたい人」「守りたい物」「守りたい約束」「守りたい伝統」などさまざまです。

 これらは主人公が守らなければ潰えてしまうものが多い。

 



守りたい人

「守りたい人」を持つ重要さは人間関係の上位に位置します。

「あの人を命懸けでも守りたい」と思う気持ちが「愛」なのです。

「愛」とはディフェンシブなものであり、こちらから積極的に奪い取りに行く「恋」とは正反対となっています。

 外敵から「命懸けでも守りたい」と思う感情が「愛」ならば、その芽生えは「恋」よりも後となります。

「恋」は「あの人を独占したい」という感情であり、それは子どもが親に抱く感情に端を発しているのです。つまり「恋」とは「独占欲」の青春版と言えます。

 私は恋愛感情が欠落しているので、ひじょうに概念的な物言いですね。

 でもこの感情の見立ては正しいと思います。

 その感情が「恋」であるなら、「相手を独占しよう」とする感情はいつか冷めてしまいます。

 しかし「愛」であれば「苦労して手に入れたものを損ねられたくない」と思うので、苦労が忘れられないうちは継続して「守り抜きたい」と思うのです。

 よく言われる「博愛」とは「広く愛する」意であり、垣根を設けず一度でもかかわった人全員を「守ろう」とする感情になります。

「勇者と魔王」の勇者はときとして誰かひとりを守るために魔王に立ち向かうのです。しかし多くの勇者は全世界の人々の安寧を取り戻すために魔王に挑みます。

「安寧を取り戻す」は「安寧を守りたい」という感情の表れです。

 たったひとりを守るために戦うのも「愛の戦士」ですし、全世界の人々を守るために戦うのも「愛の戦士」でしょう。

 他人のために戦う者は、程度の差こそあれ「愛の戦士」なのです。

 もし自分自身のために戦う人がいたら、それは「愛の戦士」ではありません。

 守るべき者を持たない人は「愛」が足りないからです。

 そう考えれば「恋愛感情」のない私は「愛の戦士」にはなれません。「守りたい人」が誰ひとりいません。乾いた砂のようなとてもドライな感情しか持ち合わせていないのです。

 私は死ぬまでに誰かを愛せるのでしょうか。おそらく愛情が芽生えずに死ぬだろうと思います。それがよいのか悪いのかは別として。

 アニメの富野由悠季氏『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイは、ララァ・スンから「守るべき人がいないのに戦うのは不自然だ」の旨を言われます。アムロも「守るべき人」を持っていなかったのです。

 それが共通しているのか、劇場版第二作は『機動戦士ガンダム II 哀・戦士編』と題しています。そう「愛の戦士」ではなく「哀しみの戦士」なのです。「守るべき人」を持たない最強の戦士は、その果てになにを見るのか。劇場版第三作のタイトルが『機動戦士ガンダム III めぐりあい宇宙編』となっています。最強の戦士となったアムロが「宇宙でララァとめぐりあう」という象徴的なタイトルです。




守りたい物

 たとえば「蒐集家コレクター」は、あるジャンル、あるテーマに関するものを「すべて揃えたい」欲求を満たそうとする人たちです。

 彼ら彼女らは集められるだけ集めても、コンプリートするまで欲求が尽きません。

「蒐集家」の特徴として、本来なら人に向けられるべき「愛」が特定の「物」に向けられている点にあります。それゆえに人付き合いの悪い方が多い。

 たとえばアイドルグループのCDはすべて揃える。DVDやBlu−rayもすべて揃える。写真集や掲載雑誌もすべて揃える。ライブ限定グッズのため、すべてのライブに参加する。とにかく集めずにいられない。それは熱量が続くかぎり繰り返されます。

 関連しているのかわかりませんが、現在結婚する人が減ってきているのです。それは子どもにお金をかけるくらいならグッズを集めたいという「蒐集家」の側面が強いからかもしれません。

 また「家宝」を大事に守り抜いている家系の方もいらっしゃいます。

「家宝」にも「先祖代々受け継がれたもの」もあれば「当代が大枚はたいて購入したもの」もある。

「家宝」はやはり「守りたい物」なのです。

「先祖代々受け継がれたもの」であれば真贋はあまり問われません。先祖から受け継がれたというだけで「守るに値する物」とされます。テレビ東京の『開運!なんでも鑑定団』に出品して真贋をはっきりさせなくてもよいのです。先祖から伝わってきたから、後世にも残していく。ただそれだけでよく、真贋ではなく先祖の思いを伝えていくのが「家宝」なのです。

 それなのに最近では「家宝」の「鑑定」が相次いでいます。「先祖代々」に重きを置く人より、価値のあるものだけ譲り受けたいと思う人が多いのでしょう。

 そもそも「家宝」は証明書でもないかぎり真贋は素人にはわかりません。だから「鑑定」の需要があります。

 自分のコレクションと「先祖代々受け継がれたもの」のどちらに価値を置くのか。

 この問いの答えが「鑑定」商売が繁盛している証なのかもしれません。




守りたい約束

 守るものの中でも、人間関係に直結するのが「約束」です。

 誰かと「約束」して、それをすっぽかしても平気な人が最近増えてきました。

 しかし「約束」したものは人間関係を壊さないために必ず守らなければなりません。

 この「約束を守る」物語として有名なのが太宰治氏『走れメロス』です。メロスはディオニス王の怒りを買って処刑されることになります。しかしメロスは妹の結婚式に立ち会ってから死にたい、と主張するのです。そこで親友のセリヌンティウスを身代わりとして都の刑場に残し、決められた期日までに必ず戻ってくると「約束」をします。もし「約束」を破れば親友が処刑されてしまうのです。

「約束を守る」ために田舎まで走り、一晩明かして妹の結婚式を急遽執り行ない、すぐさま都へ取って返します。帰路では誘惑が襲いかかりますが、それをすべて振り払って「約束」を守って期日までに戻ってきました。暴君ディオニス王は「友情」のために「約束を守った」メロスの姿を見て改心するのです。

『走れメロス』は単なる「友情」の物語ではなく、「約束を守る」たいせつを教えています。ディオニス王はそもそも領民に慕われた王でしたが、ある出来事で人間不信に陥っていたのです。その憂さ晴らしで横暴な統治を行なったので「暴君」とあだ名されました。

「守りたい約束」は、それを試す人物の心を動かすために欠かせない要素です。




守りたい伝統

 各国・地域・民族・宗教にはそれぞれ「伝統」が存在します。

 歴史の浅いアメリカ合衆国にも「伝統」はあります。白人至上主義、黒人奴隷制度、超大国志向、銃火器所持の自由。これらがすべて現職のドナルド・トランプ大統領によって受け継がれています。

 白人のアメリカ民衆もこの「伝統」を共有しており、それが強固な岩盤支持層を形成しているのです。世論調査でいくら民主党のジョー・バイデン大統領候補が優勢でも、岩盤がある以上トランプ大統領がひっくり返す余地はあります。バイデン候補が勝つためには、浮動票である無党派層が大量に投票するしかないのです。だからトランプ大統領は「郵便投票は不正の温床だ」と言って無党派層の票を無効化しようとしています。現にアメリカ街角には、共和党が「偽りの郵便投票ボックス」を設置して票を操作しようとしています。

 それほどアメリカの「伝統」はなりふりかまっていないのです。





最後に

 今回は「物語87.守りたいもの」について述べました。

 主人公が「守りたいもの」はなんでしょうか。それが明確でなければ、物語の芯が立ちません。

 どんなものでもかまわないのです。人・物・約束・伝統の四つを例示しましたが、それ以外にもあるでしょう。

 たとえば「お金」や「自分」や「名誉」だけは守りたい人もいるはずです。



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