1342.物語篇:物語86.荒廃と復興

 今回は「荒廃と復興」についてです。

 ただ脱線が長いような気もします。前書きを書いている段階でもそう思ってしまうんですよね。

 ただ「荒廃」に重きを置いて、「復興」はあまり語られない点はほとんどの作品で一貫しています。ギリシャ神話や北欧神話での最終戦争による世界の「荒廃」は描かれていても、復興した世界の描写はそれほど書かれていないのです。





物語86.荒廃と復興


 ある地域・組織が「荒廃」し、主人公たちの努力で「復興」していく物語です。

 まだ記憶に新しい東日本大震災。東北太平洋沿岸地域は今も「荒廃」したままの地域が多い。全面的な「復興」にはまだ長い時間がかかりそうです。

 ゆえに「復興」を目指す物語は、現在の日本人には身近だと言えるでしょう。




さまざまな荒廃

「荒廃」とひと言で表してもその種類はさまざまです。

 前書きで記したように「東日本大震災」は大地震と大津波という自然が引き金となった「荒廃」です。

 また若い衆が都会へ引っ越してしまい、残されたのは老い先短い人たちだけ。このような田舎も「荒廃」と呼べますね。

 太平洋戦争で激戦地となった沖縄も「荒廃」した世界でした。

 マンガの武論尊氏&原哲夫氏『北斗の拳』のように、核戦争後の地球も「荒廃」しています。

 このように人為的な「荒廃」もありますし、歴史や自然による「荒廃」もあるのです。

「荒廃」「退廃」は物語の世界観を大きく左右します。

 荒れ野原かもしれませんし、朽ちた廃屋かもしれませんし、苔むすビルディングかもしれません。

 物語の舞台となるのは、どのように「荒廃」した世界でしょうか。




アルマゲドンとディープ・インパクト

 アメリカのハリウッド映画にマイケル・ベイ監督&ブルース・ウィリス氏主演&リブ・タイラー氏助演『アルマゲドン』と、ミミ・レダー監督&ロバート・デュヴァル氏主演『ディープ・インパクト』があります。

 どちらも地球に小惑星や彗星が衝突するので、それを破壊するミッションを描いているのです。『アルマゲドン』『ディープ・インパクト』はともに1998年公開です。面白いですよね。似た物語が同じ年に公開されました。

 これはハリウッド映画の創作術に問題があるのです。まず公開年がいわゆる「ノストラダムスの大予言」の一年前1998年。ハリウッド映画の製作には数年単位で時間がかかりますから意図的に計画しなければこの年に公開できません。つまり「1998年に「ノストラダムスの大予言」に絡めた、地球に天体が衝突する映画を上映しよう」と企図しないかぎりバッティングするはずもないのです。

 逆に言えば、構想段階からまったく同じ「企画書」を思いついた脚本陣がふたつありました。

 両作は「近未来の地球の荒廃」を予感させる「天体衝突」が現実足りうるのか。それを問うための映画なのです。




インディペンデンス・デイと北斗の拳

 1996年公開のハリウッド映画にローランド・エメリッヒ監督&ウィル・スミス氏主演『インディペンデンス・デイ』があります。

 こちらは世界各地に現れた「宇宙からの侵略者」である直径24キロの巨大UFOと交渉するため、元戦闘機パイロットであるアメリカ大統領ホイットモア率いる部隊が活躍するSF映画です。

 これも「ノストラダムスの大予言」を解釈した映画のひとつでしょう。

 2016年にローランド・エメリッヒ監督が続編『インディペンデンス・デイ:リサージェンス』を公開して三億九千万ドル規模の興行収入を叩き出しています。

 日本でも五島勉氏が書籍『ノストラダムスの大予言』を発表してから「世紀末」を意識した作品が相次いで発表されました。マンガの武論尊氏&原哲夫氏『北斗の拳』も、核戦争後の世界という「荒廃」した世界での物語でしたよね。




ノストラダムスの大予言

 ここに挙げたように「ノストラダムスの大予言」に影響され「人類滅亡」をテーマとした物語が20世紀末に相次いで登場しました。まさに世紀末ブームです。

 奇しくもユリ・ゲラー氏に代表される「超能力」ブームと合わさり、一大「オカルト」ムーブメントを巻き起こしました。

「ノストラダムスの大予言」は海外では「ノストラダムス現象」のひとつと考えられています。

「ノストラダムス現象」とは、16世紀フランスの医師で占星術師だったミシェル・ノストラダムスに関して、同時代から現代に至るまで続いた影響のことだとされています。『予言集』『暦書』などさまざまな「予言」を残しています。それが「ピタリと一致する」と主張する一派を生みました。

 まぁ元々「占星術師」だったのですから、西洋占星術に精通していたはず。なので、ある程度「予知」はできたのでしょう。西洋占星術とは、たとえば金星が何々座にあり、木星が何々座にあるから、こんなことが起こるだろう、という一種の「象徴的な出来事」を提言するものです。科学的に立証されているわけではありません。中国陰陽に詳しい方なら「当たるも八卦当たらぬも八卦」という言葉はご存知でしょう。占いなんてものは半ば当たり、半ば外れるものだ、ということです。

「ノストラダムス現象」もまさにそれ。当たっているものも多かったのですが、外れているものも多かったのです。ノストラダムス学者たちは、当たったものばかりを主張するので「百発百中」のような印象操作をしていましたが、外れにはいっさい言及していないのです。

 そもそも戦争なんて毎年のように世界のどこかで起こっており、それが「第一次世界大戦や第二次世界大戦の発生を的中させた」と捉えること自体「論理の飛躍」ではないでしょうか。

 そして「ノストラダムス現象」の最たるものが「1999年7の月」に示されたという「人類滅亡」なのです。

 ですが、現実に人類は滅亡したでしょうか。今も健在ですよね。予言は外れたのです。それも最も重大な「人類滅亡」を。

 しかし「ノストラダムス現象」のおかげで『インディペンデンス・デイ』『アルマゲドン』『ディープ・インパクト』は大ヒット映画となりました。

 日本でも小松左京氏が『日本沈没』を著すように、便乗商法が横行したのです。

 創作界隈では「ノストラダムスさまさま」の状況で、「世紀末」は世論を巻き込んで大ヒットしました。

 あの名作『北斗の拳』(1983年連載開始)だって「世紀末」の予言がなければ生まれなかったでしょう。

「ノストラダムス現象」で国内最大のヒット作は『北斗の拳』でしょうが、おそらく元祖はSF作家の平井和正氏とマンガ家の石ノ森章太郎氏が共作した『幻魔大戦』シリーズだと思います。アニメ映画の『幻魔大戦』(1983年公開)は平井和正氏による小説を原作としています。

 同年発表の映画とマンガですが、映画『幻魔大戦』が3月公開、マンガ『北斗の拳』が10月前後に連載開始されているので『幻魔大戦』の影響はあったはずです。




廃れた世界を復興する

 創作の「世紀末」にしろ現実の「東日本大震災」にしろ、一度荒廃しても必ず復興するものです。問題は「荒廃」した世界の魅力ほど、人は「復興」へ惹かれない点にあります。

「東日本大震災」にしても、東北地方への十メートル級の大津波による都市破壊の映像は今でも頻繁に流れますが、荒廃した世界からの復興はほとんどニュースにすらなりません。「復興」は現在進行形なのにです。

 2011年3月11日に発生した太平洋沖を震源とするマグニチュード9.0の大地震それ自体が特異であり、それに端を発した十メートル級の大津波も衝撃的でした。福島第一原子力発電所で原子炉内部での核燃料棒の溶融つまりメルトダウンが発生しています。こちらは工程表でも2030年以降に核燃料棒の排出処理を始めるという、気の遠くなるほど長い時間のかかる「復興」の前処理なのです。

 だから福島県の海岸沿いはまだ「復興」が始まってすらいません。

 小説でも「荒廃」した世界はたっぷり書きますが、「復興」するさまはちらっとしか触れないものです。そこに「想像の余地」があります。

 読み手はちらっとしか触れられていない「復興」へ着手した結末エンディングを読んで、その先がどうなるのかを想像できるのです。

 読み手にどこまで「想像の余地」を与えるのかも、書き手の裁量です。

 小説書きの器の大きさは、この「想像の余地」をどこまで読み手に与えるかにかかっています。

 書き手がすべての登場人物の結末を書いてもかまいません。とくにすべてをコントロールしたい書き手は、全員を落着させます。

 一方で「こうなりそうだ」と示唆するにとどめる書き方でもよいのです。こちらは「想像の余地」を読み手に与えるので、これまで長編や連載を読んできた人へのプレゼントとなります。「あとはあなたが思うような結末が待っていますよ」と作品の結末を読み手に委ねてしまうのですから。

 あなたは全員を落着させるタイプでしょうか。すべて書かず「想像の余地」を読み手に与えるタイプでしょうか。

 それによって作品の書き方そのものが変わってきますよ。





最後に

 今回は「物語86.荒廃と復興」について述べました。

「荒廃」はすべてを失った状態。「復興」はそこから生み出す状態です。

 小説では「荒廃」で始まって「復興」で終わるべきなのですが、「復興」は読み手に委ねてもかまいません。それだけの器を持っていればですが。

 正直、結末を読み手に委ねるのは勇気が要ります。

 どんな曲解が待っているかわからないからです。

 書き手の希望どおりに想像してもらうには、細かな描写で情報を小出しにして読み手を誘導していなければなりません。それだけの技量があなたにあるでしょうか。



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