1340.物語篇:物語84.秘密と真相
今回は「秘密と真相」についてです。
この世は「秘密」なことばかり。あなたは世界のすべての「真相」を知らないはずです。
物語の主人公も自身に影響を及ぼす「秘密」には気づかない日々を送っていました。しかし「秘密」の一端に触れてしまい、平穏な日々が崩れるときがやってくるのです。
物語84.秘密と真相
主人公はある「秘密」にまつわる出来事へ巻き込まれます。
それがなぜ主人公に関係するのか。糸口はまったくありません。
アクティブな主人公は、その「秘密」を解き明かすべく行動します。
そして隠されていた「秘密」の「真相」を捉えるのです。
秘密の圏外にいる主人公
「秘密」はある範囲内でのみ共有されています。
物語当初、主人公はその範囲内にはいません。完全に蚊帳の外です。
ですが主人公はその「秘密」の一端に触れてしまいます。
しかし「秘密」ですから、当然なにごともなかったのような日常が訪れるのです。
「おかしい」
そうです。主人公が「おかしい」と思わなければ「秘密と真相」の物語は先へ進みません。
ですので必ず「おかしい」と思わせてください。
「なにかが違う」「あれは夢なんかじゃない」
そう思っていれば、人間「探求心」を刺激されて「秘密」に向かって突き進んでいきます。
「秘密」とは「本来知るべきものではない」ものです。
知ってしまったが最後、「秘密」を共有している圏内に踏み込んでしまいます。踏み込んでから抜け出そうとしてももう遅いのです。
アニメの富野由悠季氏『機動戦士ガンダム』なら主人公アムロ・レイは地球連邦軍が秘密裡に開発していた「V計画」のモビルスーツ「ガンダム」の操縦マニュアルを手にし、トレーラーに横たえられた「ガンダム」へ乗り込んでジオン公国軍のザクを二機撃破します。しかし「ガンダム」は軍の最高機密です。アムロはその後「ガンダム」を地球のジャブローへ運ぶため、軍に組み込まれます。そして兵士としてジオン軍のモビルスーツと戦わされる羽目になるのです。「秘密」にかかわってしまったツケがまわってきた形です。
かかわらなければ影響はないものであり、普通に暮らしていたら知らなかったもの。それが「秘密」です。
秘密に踏み込んでしまったら
「秘密」はただの人にとってはなんの意味もありません。しかし「秘密」を共有している組織にとっては、漏れてはならない一大事です。
それは陰謀かもしれませんし、野望かもしれません。ささやかなテロリズムかもしれませんしゲリラかもしれません。秘密警察や宇宙刑事かもしれません。
いずれにせよ圏外の一般人に「知られてはならない」「触れられてはならない」「踏み込まれてはならない」もの。それが「秘密」です。
時代劇の『水戸黄門』の水戸光圀や『暴れん坊将軍』の徳川吉宗のように、「秘密」を知らず、ただの「越後のちりめん問屋の隠居・光右衛門」「貧乏旗本の三男坊・徳田新之助」としか知らなければなんの影響もなく暮らしていけます。
「秘密」を知ってしまったら、もはや「先の副将軍」「天下の征夷大将軍」として扱うほかなく、無礼講と言われても絶対に軽口など叩けません。
水戸光圀も徳川吉宗も「秘密」を知られる範囲を極端に絞っています。「秘密」を知られると「お忍び」で市井を見まわれなくなるからです。まぁいずれも史実ではなく創作なので、仮に「秘密」が知られても皆知らぬふりで過ごしていてもかまわない。というより、世間に名前が知れわたるとあとあと面倒になるので、たとえ名乗りをあげて「秘密」を知られても翌週までには皆が忘れてくれるんですけどね。
もしどこかの組織が「秘密」にしているものに踏み込んでしまったら。
「口封じ」のために必ず誰かがやってきます。
その諜報員は主人公がどこまで「秘密」に踏み込んでいるのかを確認するのです。もし半歩程度しか触れられていなければ、なかったものとして忘れてくれる約束で放免される可能性もあります。しかし明確になにかを知られてしまったら、諜報員は主人公の口を封じるために動くのです。金を渡せば忘れてくれるのか、外国へ亡命させて国内で噂が広がらないよう手を打つのか、いっそ暗殺して完全に口封じをするのか。そんな中で最も可能性が高いのが「組織」への加入を求めるケースです。
秘密を守るために組織へ勧誘
誰かに知られると困る「秘密」がバレたら、たいていは「口封じ」されます。
その中でも確率が高いのは「組織」への勧誘です。
つまり「知られてしまったのなら仕方がない。ついては私たちに協力してほしい」という流れになります。
実はこれ、偶然「秘密」がバレたときによく用いられますが、主人公を意図的に「組織」へ加入させるため行なわれるケースも多いのです。
『機動戦士ガンダム』のアムロ・レイだって、富野由悠季氏が「アムロをガンダムのパイロットにしよう」と意図的に「地球連邦軍」へ所属させるため、第一話で軍の最高機密「ガンダム」へ乗せました。
この、いかにも強引な展開も、主人公を「組織」に引き入れるための策略だったのです。
もし民間人が軍の最高機密に触れてしまったら、たいていは独房入りか消されます。民間人の命と軍の最高機密とでは、最高機密のほうが重要だからです。だからもしアムロが第二話以降で「ガンダム」を降りたら、おそらく独房入りか最悪殺されます。「死人に口なし」。殺してしまえば「軍の最高機密」が敵に渡る最悪のケースは回避できるのです。だから「組織」が強大で強権的なら、殺すのが最も手っ取り早く確実な方法となります。
サンライズの『新機動戦記ガンダムW』の主人公ヒイロ・ユイは、地球降下作戦においてOZのエース・パイロットであるゼクス・マーキスによって最高機密「ウイングガンダム」を彼もろとも海中に沈められます。そしてノーマルスーツを着て海岸へ打ち上げられていたところをリリーナ・ドーリアンに見つかります。ヒイロの存在はコロニーの抵抗勢力の最高機密に属しているのです。だから存在を知られたと判断したヒイロは、リリーナの通う学園へ入学して、彼女に「お前を殺す」とためらいもなく告げます。この惹きで第一話が終わるため、「秘密と真相」の物語における理想的な初回を演出できたのです。もしこの「秘密」を知られたと勘違いしたシーンがなければ。リリーナがヒイロに惹かれることも、彼に命を狙われることもなく、単なる戦争アニメで終わった話です。
「秘密と真相」は『ガンダムW』のテーマのひとつと言ってよいでしょう。五人のガンダム・パイロットはそれぞれの存在を知らされず同時に地球へ送り込まれました。つまりコロニー側の反撃の意志を代弁する「ガンダム」の存在が各々「五機」あるとは知らなかったのです。五機のガンダムを誘き寄せるために、OZのレディ・アン特佐がモビルドール輸送計画を意図的にリークしてガンダム・パイロットたちへ伝わるように情報を流します。当然阻止すべくガンダムが五機現れたところを集中砲火下に置いて撃破を画策するのです。
「ガンダム」が「秘密」、ガンダム・パイロットが「秘密」、目的も「秘密」、所属も「秘密」。物語のありとあらゆるものが「秘密」なのです。
だから『ガンダムW』はただの「戦争アニメ」ではなく「秘密と真相」の物語としての側面が強くなっています。ロボットアニメでありながらも、「ガンダム」が無双するだけではなく、適切に「秘密」を作って「真相」を隠していたからこそ、視聴者がガッツリと食らいついたのです。
「秘密」は知られてはならないもの。知られたら「口封じ」に動かなければならないもの。どこか田舎や外国へ移住させたり、金品で買収したり、最悪殺したりするのです。
主人公に「秘密」を知られた「組織」がなにもしない。これがいちばん悪い展開です。
真相はクライマックスで明かされる
『ガンダム』でアムロが独房入りを免れたのは、彼がジャプローまで最高機密「ガンダム」を届けたからです。そこでアムロたちホワイトベースの仲間は正式に地球連邦軍へ加わります。
このように、素人パイロットが歴戦の勇士を相次いで退けたのですから、「ニュータイプ」の存在に賭けたいレビル将軍の気持ちもわからないではありません。
アムロが「ニュータイプ」として覚醒したのは、同じく「ニュータイプ」のララァ・スンとの邂逅にあります。それまでも片鱗は見せていましたが、ララァとの出会いがアムロの「ニュータイプ」能力を完全に引き出しました。
物語が大詰めを迎えるまさにそのとき、アムロの「秘密」の「真相」が視聴者にはっきりと伝えられます。アムロは激戦を経験して、思惟が拡張された「ニュータイプ」となったのです。
その「真相」を伝えるために物語のほとんどを費やしています。
だから『ガンダム』は「勇者と魔王」の物語でありながらも「秘密と真相」を大枠に据えた作品となったのです。
隠されたものがあれば知りたくなる。
視聴者の本能をくすぐって『ガンダム』の視聴率はうなぎのぼり──とはいきませんでした。以前からお話ししているように『ガンダム』は打ち切り作品だったのです。おそらく地球での時間の使い方がまずかった。無意味なガンダムの空中ドッキングのバンクを使いまわし、物語も締まらなかった。オデッサ、ジャブローにたどり着く前に脱落した人が多かったのです。
逆に、打ち切りになったからこそ「ニュータイプ」を物語のクライマックスに据えられ、アムロが最強の戦士として終われたのだと思います。
もし自由に作らせていたら、アムロは戦死していたはずだからです。監督の富野由悠季氏が書いた小説版『機動戦士ガンダム』において、アムロはジオン軍のニュータイプ兵、ルロイ・ギリアムに撃破されて死亡しています。でも不思議なことに、小説版『機動戦士Ζガンダム』や『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』にもアムロが登場しますから、初代の小説はなんだったのかと思いたくもなります。
まぁこういった「真相」を明らかにするため、連載小説は読まれ続けるのです。
最後に
今回は「物語84.秘密と真相」について述べました。
とくに「異世界ファンタジー」では、主人公は最初に組織の「秘密」に触れてしまいます。もちろん当人に自覚はありません。
ですが組織は「秘密」を知られたと思い込んで、主人公の口封じに動き出します。
そうして組織と対峙した主人公に「秘密」から「真相」を見抜く瞬間が訪れるのです。
いつどこまでの「真相」を明かすかは書き手の自由裁量となります。だからたいていの物語ではクライマックスで「真相」が語られるのです。
「物語56.記憶と真相」で「真相」を使っていますが、ここでの「真相」は「秘密」に関するものなので別ものととらえていただけると助かります。
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