1316.物語篇:物語60.任務と遂行

 ある「任務」を受けた主人公が、それを「遂行」する物語です。

 アニメのサンライズ『新機動戦記ガンダムW』では主人公ヒイロ・ユイがドクターJからある「任務」を授けられて地球へ送り込まれます。ヒイロは゛とんな困難に直面しても「遂行」しようとする強い意志を見せているのです。

「任務」を受けたら、万難を排して「遂行」します。





物語60.任務と遂行


 鉄板の物語である「勇者と魔王」も「勇者が国王から魔王討伐の任務を託され、それを遂行して帰還する」物語だと言えます。

 しかしここで言いたい「任務と遂行」の物語は、通り一遍のものではなく、ある組織やチームなどに所属して「任務」や「依頼」を受けて、それを「遂行」していくものです。




任務や依頼を受ける

 主人公はまず「任務」や「依頼」を受けます。

 これだけだと勇者でも冒険者でもかまいません。

 ただし勇者なら「魔王討伐」でしょうから、「勇者と魔王」の物語になります。

 本項目「任務と遂行」の物語は、組織に属している主人公が上司や会社から「任務」を授けられるパターンと、冒険者や警察、探偵などが「依頼」されるパターンがほとんどです。稀に街なかで偶然出会った人物から「匿ってくれ」とか「こいつらを倒してくれ」といった「依頼」を受けるももあります。

 いずれにせよ主人公が果たさなければならない「任務」や「依頼」を受けると、自然と「任務と遂行」の物語となるのです。

 マンガのさいとう・たかを氏『ゴルゴ13』やマンガの北条司氏『CITY HUNTER』などの殺し屋が代表格でしょうか。探偵ものでもよいので、サー・アーサー・コナン・ドイル氏『シャーロック・ホームズの冒険』や田中芳樹氏『薬師寺涼子の怪奇事件簿』も「任務と遂行」に含まれるでしょう。

 なぜ「依頼と解決」の物語にしなかったのか。

 それは「職業として上役から任務を帯びる」者もいるからです。

 たとえばマンガの柳沢きみお氏『特命係長 只野仁』の主人公・只野仁は会長から直々に任務が下ります。これも「依頼」と言えなくもないのですが、「依頼」だと断れるのです。でも「任務」は断れません。上司と部下、君主と家臣、会長と平社員。すべて上役に任免権を握られています。だから「任務」は断れないのです。

 私自身、チェーン店ですが書店店長の経験があります。そこまで駆け上がるためには上役からの「任務」は断りませんでした。とにかく「任務」の「遂行」に注力しました。そうしたら、ただのアルバイトが就業一か月後には店長を打診されたのです。

 もちろんすぐに店長に昇格するわけにもいかないので、一年をかけて平社員、主任、店長と順繰り昇進していったのです。そして平社員を部下につけてもらいました。他のアルバイトは私の出世劇を見てどう思っていたのかはわかりません。ただ私は部下になった平社員やアルバイトにも、同じ立場として接しました。断れない「任務」は与えず、断ってもかまわない「依頼」をしていったのです。

 学校の授業を思い出してください。宿題は断れない「任務」でしたよね。部活動は入らなくてもかまわない、いつ辞めたってかまわない「依頼」だったはずです。

 もちろん当時これは「任務」だ「依頼」だと区別はしなかったでしょう。ですが、学校生活を続けていくにつれ、物事には「断ってよいもの」と「絶対に断れないもの」があると気づいたはずです。

 本項目では「断ってよいもの」と「絶対に断れないもの」を合わせて「任務」と呼んでいます。




任務に着手する

 主人公が動き出せば、物語も動き出します。

 中には物語の始まりから主人公が「任務」や「依頼」を受けるまでに何ページも費やす作品もありますが、明らかな間違いです。

 物語が始まったらすぐ主人公に「任務」や「依頼」を与えてください。そしてそれを必ず受けさせるのです。「任務」や「依頼」を受けなければ、そもそも「任務と遂行」の物語にはなりません。

 受けた「任務」や「依頼」は、やはりすぐに「着手」しましょう。

 せっかく主人公に「任務」や「依頼」が来たのなら、物語はすでに始まっているのです。

 どんな主人公かやどんな世界観や舞台かなんて、「着手」しているときに随時開示していけばよい。最初から主人公や世界観や舞台の説明をするから、いつまで経っても物語が始まらないのです。

 推理小説で言われる「死体を転がせ」は、とにかく冒頭で事件を起こすように説いています。「謎」がある「事件」です。だから物語は否応なく先に進みます。

 たとえ「剣と魔法のファンタジー」であっても、まず主人公を動かす状況を作るのです。そのための「任務」であり「依頼」になります。だから冒頭からなんの説明もなく主人公に「任務」や「依頼」を受けさせましょう。受けさせてから「主人公はどんな人物で、ここはどんな世界観で、どこが舞台なのか」と説明していけばよいのです。

「世界観語りや舞台語り、主人公語りを先にしたほうが読み手はイメージしやすいはず」

 これは誤った認識です。

 読み手に考えさせる暇なく、主人公を動かしてください。

 主人公が動けば、読み手もその動きに釣られます。そうして主人公が男性か女性か、年齢はどのくらいか、職業や学年は、などの情報を読み手に伝えていけばよいのです。

 先に説明するのではなく、動かしながら少しずつ情報を与えていってください。

 第一話の中で性別・年齢・職業といった主人公の情報を散りばめて読み手に提示するのです。

 動かす前に説明するのだけはやめてください。

 とくに「任務と遂行」の物語は主人公自身が実は脇役で、「任務」そのものが主役という状況になります。

 だから第一に書くべきは「任務」そのものであって、主人公ではないのです。




遂行する

「任務」を受け、「着手」したら、やり終えるまで「遂行」してください。

 基本的に一度受けた「任務」は「遂行」するのです。

 その過程で「この任務はなにかがおかしい」と気づいて、「遂行」の手を止めて状況を確認してもよいでしょう。そういう物語も実際にありますからね。

 ですがそういうイレギュラーな物語を書くためにも、まずは基本の「任務と遂行」の物語を一本書ききりましょう。

 なにも難しくはありません。RPGのように「クエストを受注する」「クエストの準備をする」「クエストに出発する」「クエストを遂行して帰還する」だけでよいのです。

 本当にゲームのような流れですが、これはゲームが現実を忠実に再現しているから表せます。

 たとえば「期末試験で合格点をとる」を「任務」とすれば、「学科授業を受ける」「期末試験に向けて準備をする」「期末試験に挑戦する」「期末試験で全問解き終わり提出する」。ゲームとまったく同じ手順ですよね。

 職種によっては「任務」を拒否できない場合もあります。兵隊が「任務」を拒否したら営倉入り。勇者が「魔王討伐」の「任務」を拒否したら魔王に与するとされて今度は勇者討伐隊が結成してしまう。一般人でも「任務」を達成しないと愛する者が痛い目をみるぞと脅される。

 こうなってしまうと「任務」はなかなか拒否できません。

「任務と遂行」はこのような「拒否できない任務」であってもよいのです。

 自主的に「任務」に挑むのか、強制されて「任務」を達成せざるをえないのか。

 その違いはあれど、物語の流れは同じものです。

「任務を受ける」「任務の準備をする」「任務に出発する」「任務を遂行して帰還する」

 この流れにいっさい変化はありません。

 その最中に「この任務はおかしい」と気づいたり、「遂行」してから「こんなはずではなかった」と思ったり。

 そんな展開も、基本的な物語の流れは同じですよね。

 だからまず基本形を身につけて、それから派生形に手を出しましょう。基本形も書けないのに派生形は書けません。中には最初から派生形が書けてしまう方もいらっしゃいます。その場合は本来の基本形こそがその方にとっての派生形なのです。たまにこういう天邪鬼な例も見られます。しかし「勇者と魔王」のような鉄板の物語があるように、「任務と遂行」にも鉄板の物語があるのです。





最後に

 今回は「物語60.任務と遂行」について述べました。

「任務」や「依頼」を受けてから、または受けた後から物語が始まり、それを「遂行」する物語です。

 どのような物語も基本的には「任務と遂行」で成り立っています。

 主人公がそう動かざるをえない状況と、それを達成するために努力する姿。これを見せるから、主人公は経験値を得るのです。小説はなにもしないで経験値が上がるほど単純なゲームではありません。

 もちろんどんな「任務」や「依頼」もあっさりと解決してしまう主人公だっているでしょう。

「主人公最強」だったり「迷宮なしの名探偵」だったり。

 そういう派生形は、まず基本形を書いてから挑戦してください。



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