1304.物語篇:物語48.離別と絆

 人間関係を描いたもので多く見られるのが、一度離れ離れとなり、のちに再び結びつく物語です。

「追放」さけて「ざまぁ」するわけではありません。

 泣く泣く別れざるをえなくて、期間をおいたらどこかでばったりと再会するのです。今は別々の道で生きていますが、ある出来事をきっかけに戦列に復帰します。

「青春」ストーリーでは定番ですね。





物語48.離別と絆


 ある出来事がきっかけで、主人公は仲間たちと別れます。

 しかしある日、かつての仲間がやってきて再び仲間になってほしいと頼まれるのです。

 一度断ち切れていたはずの絆が、今結び直されようとしています。





離別する

 どんなに親しくしていたパーティーであっても、あるきっかけで別れはやってきます。

 たとえば主人公よりもすぐれた魔術師が現れたら、あなたは見捨てられてパーティーから放り出されるのです。

 この場合、交代で入った魔術師が死んだり再起不能になったりしないかぎり、主人公の出番はまわってきません。まさかそのために新入り魔術師の足を引っ張り続けるなんて、普通はできませんよね。

 そういった「見捨てられた」ケースではなく、たとえば主人公の母親が危篤状態に陥ったとします。主人公は母親の死に際を見届けるために勇者パーティーから離れる場合もあるでしょう。

 この場合、勇者パーティーとしても主人公は「欠かせない戦力」ですから、もし主人公が母親の最期を看取ったら、再びパーティーへ誘う機会もあるでしょう。

 それまでパーティーを組んでいたのに、離別しなければならないのにはそれなりの理由があります。理由もなしにパーティーを追い出されるのはおかしい。もしかして主人公に怪しく見える動きがあって、それが原因で追い出されようとしているのかもしれません。主人公としては普通に振る舞っているだけなのに、他のメンバーから不審がられるのです。一度そうなってしまうと不審を晴らす行動をしないかぎり、パーティーは組み続けられなくなります。

 理由もなく離別させられる主人公はまずいません。たとえ「追放」ものだったとしても、パーティーから「追放」されるには理由が必要なのです。それが前述したように主人公よりも優秀な人物が加わるからかもしれませんし、重篤な母親の死に目に会うためかもしれません。

 離別には必ず理由が必要なのです。

 物語を決めるうえで、まず「追放」ものにしようと考えたとします。

 そのあとで「ざまぁ」にするか「離別と絆」の物語にするかを選ぶのです。

「ざまぁ」を選ぶなら「能力不足」や「和を乱した」などの理由をつけて追い出されます。しかし「離別と絆」の物語なら基本的に主人公側に理由があってパーティーを離れるパターンが多いのです。

 たとえば自分より優秀な魔術師と出会ったとき、パーティー・メンバーから追い出されるのが「ざまぁ」で、主人公自身が身を引いて優秀な魔術師に譲って立ち去るのが「離別と絆」の物語になります。




緊急事態発生

 一度パーティーを離別した主人公は、離れる要因となった出来事を片づける必要があります。

 母親が危篤状態なら、治療のために魔力を使ってもよいし、死を看取ってもよい。とにかく離別した理由が解消されなければ、パーティーへは復帰できないのです。

 その間にも勇者パーティーは先へと進んでいきます。強い敵と命懸けの戦いをしながら、魔王へと向かっていくのです。

 しかしここで勇者パーティーに緊急事態が発生します。

 たとえば新入りの優秀な魔術師が、戦闘中に死んでしまうのです。

 こうなってしまうと勇者パーティーは先へ進めなくなります。

 魔術師もいないのに魔王へ立ち向かえません。

 もし入れ替わりで入った魔術師が死んでしまったのなら、加入前まで仲間だった主人公を再びメンバーにしようと勇者パーティーが戻ってくるかもしれない。

 そのとき、まだ離別した理由を果たしていなければ要請を断る場合もあります。しかしたいていは「せめてこれが終わるまでは」と理由を述べて勇者パーティーに待ってもらうのです。勇者パーティーとしても、実力がわかっていて気心の知れた魔術師は主人公以外にいないとなれば、主人公の用件が片づくまで待ってくれます。

 もちろん待たせる代わりに、優秀な魔術師を紹介してもよいのです。それで勇者パーティーが先に進めるのであれば、主人公としても憂いなく用件を片づけられます。

 それでもまた勇者パーティーが主人公の元へやってくるかもしれません。




縁か絆か

 それだけ縁があったのか、絆が強かったのか。

 いずれにせよ、主人公は勇者パーティーへ復帰します。

 このあたりは羅漢中氏『三国志演義』で後に蜀の帝となる劉備が、軍師として諸葛亮を引き入れるために行なった「三顧の礼」がふさわしいですね。

 劉備を勇者にして、諸葛亮を主人公にする。

 勇者パーティーが主人公の元へ足しげく通います。主人公も用件を片づけ、要請に応える形で合流するのです。

 ただ「三顧の礼」と異なるのは、パーティーに所属していてそこから一度離別しています。それでも主人公の元へ通い続けるのですから、相当パーティーに必要な人物なのでしょう。

 縁があるのか絆が強いのか。

 ただし、よほど巧みに理由を考えないと書き手の「ご都合主義」になりやすい。

 なにかと理由をつけては勇者パーティーが主人公の元へ何度もやってくるなんて、常識ではありえませんからね。

 妥当な理由がなければただの「ご都合主義」です。この塩梅が難しい。

 もし主人公しか会得していない魔法が、魔王攻略には必要だと判明したとしたら。

 勇者パーティーが主人公のもとへかよってくるのも理に適いますよね。

 でも「離別と絆」の物語を書くたびに、主人公しか有していないものが必要になるのでは、ワンパターンもよいところです。

 であれば「優秀な魔術師が自己中心的で勇者の言うことを聞かないばかりか、作戦を勝手に押しつけてきて困る」ように、代わりが足を引っ張るので、仕方なく主人公と再び交換しようとする。といった別の理由が必要です。

 勇者が主人公を必要としてくるのは、主人公自身に原因があるのか。代わりの人物に問題があるのか。他のメンバーが新入りを見限ったか。

 だいたいこの三パターンで説明がつきます。

 もちろんこれだけではないはずです。私には想像もつかない理由だってあるでしょう。

 主人公が勇者パーティーに不可欠な存在である「理由」を必ず作ってください。

 そうしなければ「離別と絆」の物語にはなりません。





最後に

 今回は「物語48.離別と絆」について述べました。

 一度は勇者パーティーを去った主人公を迎えにくるには、なんらかの理由が必要です。

 別れるのにも理由が要りますし、再び引き入れようとするのにも理由が要ります。

 その理由を明確に示さなければ「離別と絆」の物語にはならないのです。

 もし理由を示さずに勇者パーティーが主人公のもとへやってきたら。なにかとても不安になりませんか。まるで主人公を始末しにきたように感じられます。

 離れる理由、戻るように説得しにくる理由、復帰する理由。

 少なくともこの三点は必ず書きましょう。



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