1302.物語篇:物語46.疎外と見返し

 集団から阻害されて追放、のちに見返してやる物語。

 俗に言う「ざまぁ」ですね。

 なぜ「ざまぁ」が人気を集めるのでしょうか。





物語46.疎外と見返し


 主人公はある集団コミュニティーで疎まれています。

 孤独に生きてきた主人公ですが、転機が訪れてとある集団にスカウトされるのです。

 爪弾つまはじき者が集団に対して見返していきます。

 それまで誰にも頼られなかった主人公が、多くの人たちから頼られる存在へと変わるのです。




裏切られる

 最初から主人公が集団から疎まれているケースももちろんあります。

 それだけでなく、物語が始まった途端にパーティー・メンバーを外されたり仲間から裏切られたりする物語が小説投稿サイト『小説家になろう』では定番の物語となっています。

 なぜこんなネガティブな出来事に人気が出るのでしょうか。

 華麗な見返し「ざまぁ」を引き立てるためです。

「ざまぁ」は主人公がどん底まで叩き落されたら、それだけ振れ幅が大きくなります。

 たとえば勇者パーティーを外された魔法使い。確かに「ざまぁ」としては映えます。

 しかし「勇者パーティーを外された勇者」ならどうでしょうか。よりとんでもない「ざまぁ」が待っていると思いませんか。なにせ「勇者」を中心にパーティーを組んだはずなのに、なぜか「中心」だったはずの「勇者」が追い出されるのです。もう振れ幅めいっぱい。

 ここまでスゴい作品はないだろう。そう思って『小説家になろう』にて「勇者追放」キーワードで検索をかけると一作ヒットしました。すみもりかい氏『(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン』です。

 どこにでも発想する人はいるんだなぁと改めて小説投稿サイトの奥深さを認識しました。

 でも五千作ほどある「ざまぁ」でも「勇者追放」はこの一作のみ。つまりまだまだ可能性のある物語だと思います。

 パーティー・メンバーから疎まれて追い出される主人公は定番です。

 そこからいかにズラすか。発想の飛躍が目新しい作品を生み出します。

「疎外」の物語は、始まってすぐにパーティー・メンバーから疎まれるのです。理由はさまざまですが、中には「彼女を寝取られて」というパターンもあります。パーティー・メンバーから追い出されるだけでなく、彼女まで奪われるのです。主人公をよりどん底へ叩き落とそうという魂胆。そのぶんだけ「ざまぁ」が決まったときの爽快感は格別です。




ざまぁは意外と難しい

 とはいえ「ざまぁ」がうまく決まる作品はそれほどありません。

「ざまぁ」はとても難しいのです。

 事前の設定で「これだけ追い打ちをかければ、きっと主人公はどん底に違いない」と計算していても、それをどう「ざまぁ」するのか、つまり見返すのか。それを物語の形で読ませるのが難しいのです。

 人によっては「ひとりずつ「ざまぁ」していくのが面白い」と感じたり「全員を一度に「ざまぁ」するのが快感」だったりします。

 典型的なのは「裏切った勇者パーティーが全滅の危機に陥っているところへ颯爽と現れて、強敵をひとりで倒してしまう」といったところでしょうか。

 でもほとんどこのパターンなんですよね。

 通称「ビリギャル」こと坪田信貴氏『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』なんて「実話である」という点でも際立っています。

 皆から蔑まれていたギャルが、有名大学に現役合格する。見事なまでの「ざまぁ」っぷりです。今まで駄目さが際立っていて見限られた存在が、皆の度肝を抜くような大きな「ざまぁ」を一回で出し尽くしたところに快感があります。つまり「合格発表」で「合格したことを知った」ときに「ざまぁ」は完成しているのです。

 今ドラマを放送中の池井戸潤氏『半沢直樹』シリーズは、主人公・半沢直樹がさまざまな苦境・逆境に立たされます。もうこれでもかというほどです。しかし半沢直樹は反撃のきっかけを見つけるとそこに狙いを定めます。そして華麗な「倍返し」を決めるのです。見事に「ざまぁ」つまり競争相手を見返します。

 このように「ざまぁ」にはさまざまな種類があるのです。追い打ちをかけられてどん底にいる主人公が「どうやって」見返すのかには、どのようなどん底かによって最適解が存在します。それを適切に使えているかどうかが「ざまぁ」の成否を決めるのです。

 勇者パーティーから追放された主人公が決める「ざまぁ」は『半沢直樹』とは異なります。共通項はただ「ざまぁ」だけで、やり方は千差万別。世に同じ物語がひとつとしてないように、他の物語の「ざまぁ」があなたの作品でそのまま使えるわけではないのです。

 著名な書き手の「ざまぁ」作品を読んで、「私もこんな作品が書きたいなぁ」と思っても、同じ「ざまぁ」は使えません。あなたの主人公が置かれている状況や、見返す相手、世界観などによって、どんな「ざまぁ」が最適なのかは異なるのです。

 だから「ざまぁ」作品は読んでいて面白い。

 同じ「ざまぁ」はふたつとないのですから。




見返すにも展開がある

 仲間から手ひどく「疎まれ」、仲間外れや裏切りや追放されてしまう。

 そんな仲間たちを見返すのが「疎外と見返し」の物語です。

 ではどんなふうに「見返す」のがよいのでしょうか。

 連載小説ならいくら文字数を費やしてもよいので、ひとりずつ見返していけばそれだけで単行本五冊はかるく書けると思います。

 しかし「小説賞・新人賞」で求められている長編小説ではとてもひとりずつ「ざまぁ」している余裕なんてありません。必然的に何名かセットで「見返し」ていくか、全員いっぺんに「ざまぁ」するかしか選択肢はないのです。

 元々能力があったのに「疎まれて」追放された主人公であれば、実力に物を言わせてひとりずつ見返していってもよい。ですが、たいてい能力不足が原因で追い出される物語ですから、まずは実力を身につけてから「見返し」ていくことになります。

 だから「追放」⇒「修行・鍛錬」⇒「見返し」という流れが自然です。

 できればパーティーの中の弱い人から順に「見返し」ていって、そのたびにどんどん強くなっていく主人公なら、自ずとひとりずつ「ざまぁ」していく流れになります。


「勇者パーティーから追放された」あと、とんでもない師匠を見つけて弟子入りして実力を身につけることになります。しかし「小説賞・新人賞」へ応募するのであれば、修行の過程はすべてすっ飛ばしてかまいません。とある能力・技能を持つ人に弟子入りした。それだけを書いて章を終え、次の章ではすでに実力を手に入れている。そうしなければ長編小説で「ざまぁ」する余裕はありません。こうすることで主人公がどんな能力や技能を身につけたのかを読み手に教えずに済むのです。だから「ざまぁ」シーンで読み手も驚くような行動をとらせられます。

 しかし主人公がなんでもできてしまうのは正直いただけません。なにかひとつの能力や技能を極めるほうが明らかに自然です。そもそもすべての分野で最強なんて、冒険している「勇者パーティー」の旅に追いつけません。主人公が世界最強になった頃には魔王が倒されていたなんてこともじゅうぶんありえます。それでは「ざまぁ」のしようがないのです。

 だから手っ取り早く「ざまぁ」するために、一芸を極めさせましょう。一芸なら一、二カ月で習得できるかもしれませんからね。


 これを逆手にとって、「裏切られる」⇒「主人公が汗水垂らして修行する過程を書く」⇒「世界最強の一芸を身につける」⇒「ざまぁしに勇者パーティーを追う」⇒「追いついた頃には魔王は倒されていた」⇒「今までの努力はなんだったのか」というオチもつけられます。ただの「ざまぁ」かと思ったら、「ざまぁ未遂」で終わる。これもエンターテインメントとしてはありですね。

 ただコントのようなオチなので、できるだけコミカルなタッチで書きましょう。まぁこういうオチを真面目な文体で書くとオチが際立つ、という効果も期待できますが、初心者が安易に手を出せる物語ではありません。





最後に

 今回は「物語46.疎外と見返し」について述べました。

「ざまぁ」で読み手がスカッとするのは、どれだけのどん底に叩き落とされたのかによります。

 どん底が深ければ深いほど、やってくる「ざまぁ」は効果を発揮するのです。

 まぁたいていの「ざまぁ」は小説投稿サイトで出尽くしているとは思います。

 それでも「ざまぁ」で勝負したいのであれば、できるだけ「意外性」のある「裏切られ方」をして、予想外な一芸で「見返し」ていくようにしましょう。

「意外性」「予想外」が求められるため、書く人をかなり選びますが、うまく書けたら爽快感は人一倍です。

 腕に覚えがあれば、ぜひ「意外性」「予想外」の「ざまぁ」を書いてみましょう。



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