1292.物語篇:物語37.変身と二面

 今回は「変身」ものについてです。

 誰もが持っている「変身」願望は、どんな作品が原点だったでしょうか。

 そして「変身ヒーロー」や「魔法少女」がなぜ「二面性」を持っているのでしょうか。

 今回は「変身」ものに迫ってみます。





物語37.変身と二面


 現在「変身ヒーロー」ものがブームです。

 当然小説でも「変身ヒーロー」「魔法少女」ものには一定の需要があります。

 しかし需要に見合っただけの供給が足りていないのが実情です。

 なぜ「変身ヒーロー」「魔法少女」ものが少ないのでしょうか。




誰もが持っている変身願望

 人間は想像力が豊かなので、今の自分のほかに「理想の自分」を持っています。

 他の動物は「理想の自分」なんてものは持っていません。

 というより高度な自我を持っている動物は人間だけです。

 だから「理想の自分」は人間であれば誰もが持っています。

 そして社会的な生き物である人間は、「理想の自分」に近づきたいと願うものです。

 学校で落ちこぼれていても、「理想の自分」は東京大学現役合格をする人物かもしれません。

 このギャップを埋めるには「理想の自分」へ近づくために研鑽を積むしかないのです。

 しかし人間は元来「自堕落」なもので、地道に努力するのを厭います。

 そこで考えられたのが「変身」です。今の自分が「理想の自分」へと「変身」して活躍したい。そう考えるのが「夢の実現」でもあるのです。

「変身ヒーロー」の草分けはアメリカの『スーパーマン』かもしれません。ただしスーパーマンは元から異星人であり「理想の自分」と言うよりは「本来の自分」です。普段は冴えない新聞記者クラーク・ケントとして過ごし、地球の平和を脅かす存在と戦う際にはスーパーマンへと変身します(「元の姿に戻ります」が適切な表現ですが)。

「変身」は、日本ではドラマの川内康範氏『月光仮面』が爆発的な人気を得たのです。

 しかし当時はまだテレビがそれほど普及しておらず、子どもたちの憧れの存在として空き地で「月光仮面」ゴッコがされていたくらいでした。

 テレビが普及して新たに人気を集めたシリーズが二つあります。1966年放送の円谷プロダクション『ウルトラマン』と、1971年放送の東映『仮面ライダー』です。

 この二大シリーズが以後の特撮「変身ヒーロー」の元祖と言えるでしょう。(ウルトラマンは変身ではなくスーパーマン同様「元の姿に戻ります」が適切な表現です)。

 マンガ界隈では「魔法少女」ものの草分けのような手塚治虫氏『ふしぎなメルモ』が1971年アニメとともにスタートしています。翌年には永井豪氏が『デビルマン』をヒットさせて「変身ヒーロー」が子どもたちの心に根づきます。

 それにしても手塚治虫氏の偉業はスゴイですね。かなりのジャンルの開拓者でありヒット作を持っています。『鉄腕アトム』は日本初のテレビアニメであり、動物が主人公の『ジャングル大帝』、無免許医師が主人公の医療マンガ『ブラック・ジャック』など、つねに時代を切り拓いてきました。

 今回は「魔法少女」ものの元祖として『ふしぎなメルモ』を出しましたが、「自分はこんな物語だって書けるんだよ」と、未知のジャンルを開拓していった制作意欲は高く評価されるべきです。

「誰もが持っている変身願望」を極端に表したのがマンガの桂正和氏『ウイングマン』です。「理想の自分」である無敵のヒーロー「ウイングマン」へ変身したい、と思い続けていた広野健太が、ドリムノートを拾って実際にウイングマンへと変身したところから物語が始まります。「夢と実現」でも述べましたが、「変身と二面」でも取り上げたい作品です。




変身ヒーローは二面性を持っている

 ほとんどの「変身ヒーロー」「魔法少女」は二面性を持っています。

 先述したようにスーパーマンも普段は新聞記者として暮らしていますし、広野健太も中学生として過ごしているのです。正体を明かして活躍する「変身ヒーロー」は数少ないと思います。

 ウルトラマンだって仮面ライダーだって、正体がバレるのはたいてい最終回です。

 ではなぜ「変身ヒーロー」「魔法少女」は二面性を持っているのでしょうか。

 普段から頼られないため、というのがあるかもしれません。

 もしスーパーマンはその姿のまま暮らしていたら、誰もが彼を頼るはずです。自分たちの努力で解決しなければならないものも「スーパーマンに解決してもらえばいいや」と思われたら皆が他力本願になってしまいます。

 今だと「変身ヒーロー」ではないですが、マンガの堀越耕平氏『僕のヒーローアカデミア』のオールマイトがまさにそのような存在です。ヴィランが現れればそれと戦い、平時はちょっとした困りごとを解決してまわる。だからこそ「平和の象徴」として絶大な人気を誇っていたのです。しかし「平和の象徴」が崩れるときがやってきました。それによりヴィランが活動を活発化させたのです。

 なぜ「変身ヒーロー」「魔法少女」は二面性を持たなければならないのか。

 この問題の答えこそ、彼ら彼女らが正体を明かせない理由なのです。

 なんでもかんでも頼られてしまったら、平和な日常生活など送れません。

 マンガの武内直子氏『美少女戦士セーラームーン』だって、アニメの東映『プリキュア』シリーズだって、おおっぴらに正体を明かしたりしませんよね。明かすときがあるとすれば、最終回に近いラスボス戦の直前くらいです。それ以外では基本的に「ただの中学生」を装っています。「魔法少女」だって人並みに恋愛や青春もしたいですからね。

『ウイングマン』の広野健太は、変身できる前まで「自分はウイングマンだ」と主張していましたが、実際に変身できるようになったらその事実を隠しています。

 そう考えると「変身ヒーロー」「魔法少女」は変身できることを隠す「様式美」があるのかもしれませんね。

 変身ものは斯くあるべし。

「二面性」を持つことが「変身ヒーロー」「魔法少女」の前提となっているのです。

 もしあなたが「変身ヒーロー」や「魔法少女」に変身できたら、その事実を公にできますか。

 私なら公表しませんね。厄介なことを頼まれるのが目に見えているからです。

 どんなことでも嫌がらずに成し遂げようとする律儀な人なら、公にして皆を手助けするのでしょうけれども。私はそれほど律儀ではありませんからね。

 マンガで今も注目している大場つぐみ氏&小畑健氏『プラチナエンド』も、神候補が正体を明らかにしたのは、物語がかなり進んでからです。まぁ神候補狩りが行なわれていたので、その間は正体を隠さざるをえなかったわけですが。




正体を明かして最終決戦

「変身と二面」の物語は、ラスボス戦に際して正体を明らかにするパターンが多い。世界中からの応援や後押しを背に、力を振り絞って戦います。

 強大なラスボスと対等に戦うには、世界中からの応援や後押しが不可欠だからです。

 そもそも「変身ヒーロー」「魔法少女」の多くは、人々の希望が力の源になっています。

 だから世界を闇で飲み込もうとするラスボスと戦うには、世界中の人々の希望を集めなければ対抗できない、という設定になるのでしょう。

 そしてラスボスに勝ったら主人公は「変身」する能力や道具を潔く手放します。もはや戦う理由が存在しないからです。

『ウイングマン』が名作だと思うのは、広野健太がラスボスに勝ったあと、とある理由から「変身」する道具であったドリムノートを手放すところにあります。その行動によってウイングマンへ変身できなくなりますが、それすら人々や広野健太本人も忘れ去ってしまうのです。

 この無常観のある終わり方が、激しいラスボスとの戦いの終着点である事実。それが『ウイングマン』を名作にしました。

 1980年代の『週刊少年ジャンプ』連載作品の多くが、このような無常観のある終わり方をしています。強敵と戦って勝ち抜いてきた主人公が、最後に報われなさの中に一縷いちるの望みを抱いて終わるのです。

 頂点に君臨して下々を従える物語はほとんどありません。

 正体を明かしてラスボスに勝ち、その場を去るのが王道です。その場を去れない主人公なら「変身」する能力や道具を手放すしかない。

「変身」する能力や道具を手放したら、もう物語は続きません。後戻りできないのです。

 だから読み手は「ここで物語が終わるんだな」と悟ります。

「変身と二面」の物語は「変身」できるままではまず終われないのです。





最後に

 今回は「物語37.変身と二面」について述べました。

 今なら「ニチアサ」と呼ばれる日曜朝のヒーロータイムで放送される「プリキュア」「仮面ライダー」「戦隊ヒーロー」の各シリーズが「変身と二面」を端的に表しています。

 それらを観て「こんな物語が書きたい」と思い、「変身」ものを書こうとするのです。

 しかし「変身」には「二面性」が不可欠。世界を救う「変身ヒーロー」「魔法少女」は正体を知られてはならないのです。

 ですが逆手にとって「正体がバレている物語」も考えられます。

 そういう物語にするには、王道を知らなければなりません。

 王道を知って、そこからズラすのです。だから一種の「パロディー」として「正体バレの変身ヒーロー」ものが書けます。

 これも私の小説のネタになるなぁ。などと思いました。皆を煽っていたら、自分がいちばん煽られていた、というパターンですね。



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