1293.物語篇:物語38.代表と決戦
オリンピックで金メダルを獲る。
そのためにはオリンピックの決勝レースに出なければなりません。
決勝レースへ行くには予選を勝ち抜かなければならない。予選に出るには日本代表にならなければならない。日本代表になるには選考レースを勝ち抜かなければならない。
スポーツで一番になるにはつねに「代表」に選ばれて「決戦」を勝ち抜くしかないのです。
物語38.代表と決戦
あらゆるスポーツは、各地域から「代表」が集まって勝ち抜いていき「決戦」を行ないます。
そしてどの地域が最もすぐれているのかを競うのです。
「剣と魔法のファンタジー」でも、各地域から「代表」の戦士が集って、勝ち抜いていく「決戦」スタイルは取り入れられます。
おおもととなるのは隣村と優劣を決めるための「年中行事」です。
競技は地域によって異なりますが、たいていは力比べをします。
代表になる
「代表と決戦」の物語は、主にスポーツもので見られます。
まずはその地域の「代表」になるために戦う。「代表」になれたら全地域の「代表」と雌雄を決するのです。
ひとつずつ勝ち抜いていき、最後の「決勝戦」が大トリとなります。
そのためにも、まずは「代表」に選抜されなければなりません。そのための「地方大会」を行なうものもありますし、強制的に「代表」をやらされる人もいます。
神候補たちに次の神を決めさせる物語である、マンガの大場つぐみ氏&小畑健氏『プラチナエンド』。自殺を図った人が天使たちに助けられて、強制的に「神候補」となるのです。
スポーツものでは、スターティングメンバーに選ばれるための努力も「代表」入りの手段となります。ベンチ入りなら試合に出るためのアピールが必要ですし、スタメン入りできたら地区予選から主戦力として戦うのです。
そうやって地区予選を勝ち抜いて県代表に選ばれたら、全国大会で日本一になるまで戦い続けます。
戦って勝ち抜いて、ようやく掴んだ「決勝」の大舞台。
ここが「代表と決戦」のヤマであり、最も書きたかった場面です。
しかし「小説賞・新人賞」へ応募する長編小説では、ベンチ入り、スタメン入り、県代表、全国制覇までをすべて書けません。そんなに悠長だと十万字はあっという間に過ぎてしまいます。
「代表と決戦」において最も読ませたいのは「決戦」シーンです。
「決戦」で盛り上がらなければ、「代表と決戦」の物語は失敗しています。
本来であれば最も盛り上がる「決戦」が不可避なのに、盛り上げるだけ盛り上げて「決戦」を書かずに終わった名作マンガがあります。
井上雄彦氏『SLAM DUNK』です。
『SLAM DUNK』はインターハイの緒戦で物語が終わっています。その後どのような「決戦」になったのか誰もわかりません。
本来スポーツものは「決戦」に勝って有終の美を飾るのが筋です。
しかし『SLAM DUNK』は全国一になることもなく、途中で連載が終了しました。だから読み手は結末に飢えているのです。井上雄彦氏が新しい連載を始めるたびに『SLAM DUNK』の続きを書いてくれと読み手側から注文されます。それもすべては「決戦」を書かなかったから。スポーツもので肝心の「決戦」を書かなかったのでは読み手は消化不良を起こします。とくにそれまでの過程が面白ければ面白いほど「決戦」で勝つところを読みたいのです。
たとえ負けるとしても「試合に負けて、勝負に勝つ」ような形が望ましい。
それがスポーツものの宿命と言えるでしょう。
剣と魔法のファンタジーなら
ここまでスポーツものを例に挙げましたが、「剣と魔法のファンタジー」でも同様です。
駆け出しの頃から成長を重ねて、一流の戦士や魔法使いとなり、勇者と認められて魔王を討伐する。この魔王との「決戦」こそが「剣と魔法のファンタジー」最大の見せ場です。
もし魔王との「決戦」を『SLAM DUNK』式にすっ飛ばしたらどうなるか。
その小説はまったく評価されません。『SLAM DUNK』は評価されたのに、「剣と魔法のファンタジー」ではいっさい評価されないのです。
なぜなら「勇者と魔王」の物語は「魔王との決戦」を読ませるために書かれます。読み手も「勇者はどうやって魔王を倒すのだろう」とワクワクしながら読み進めるのです。しかし肝心の「決戦」がなく、紙幅はすでに尽きています。ここまで盛り上がってきたのに結末は「決戦」前までなのです。読み手は期待を裏切られたと思うでしょう。だから評価されないのです。
小説は「完結した物語」だから面白い。「未完の大作」などというものは存在しません。
小説では描きにくいスポーツものだとしても、「決戦」がなければどんなに面白い過程でもまったく評価されないのです。
小説投稿サイトにはこのような「未完の大作」が山のように存在します。「エタった(エターナル:永遠に終わらない)」連載小説です。
毎日、毎週楽しみに読んできた作品は、すべて「決戦」に向けて盛り上がっていきます。
それなのに肝心の「決戦」を書かずに連載が途切れてしまう。
これで評価される書き手はいませんし、評価される作品もありません。
だから私は小説を書く際「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」の順に経るよう勧めています。こうすれば「決戦」がどんなものになるのか。本文を書き出す前からすでに確定しています。これで「よい決戦が思いつかない」という原因は生じません。だから必ず「決戦」を書いて完結できるのです。
正直に言えば、「決戦」さえ書いたらその後の後日談は書かなくてよい。「決戦」に勝ったところで連載を終えても多くの読み手は満足するのです。
後日談は「あったらいいな」程度しか重要性がありません。
だからマンガの尾田栄一郎氏『ONE PIECE』も「ひとつなぎの大秘宝」を見つけなくても「海賊王」になれたらその場で連載が終われます。それでも誰からも文句は出ません。「決戦」で「海賊王」になれたのですから。「ひとつなぎの大秘宝」が秘密のまま終わってもよい。というより、今の展開だとそうしないと終われないと思いませんか。
マンガの森川ジョージ氏『はじめの一歩』は一歩と宮田の「決戦」を書かずに終われない。マンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』は工藤新一が仲間たちとともに「黒の組織」を壊滅させる「決戦」が不可欠です。
そして『ONE PIECE』同様、そこで物語が終わってかまいません。へたに「あの後ああなりました」「こうなりました」と後日談を書くのも野暮ったいですよね。
後日談を書くとしても、主要キャラだけでじゅうぶん。すべてのキャラの後日談が気になる方などまずいません。
最後に
今回は「物語38.代表と決戦」について述べました。
主人公はまず「代表」に選ばれる必要があります。
「代表」となれたら「決戦」までを丁寧に書き、最大の見せ場「決戦」で魅了するのです。
この物語は「決戦」を読ませるために存在しますので、「決戦」が終わったらいつ連載をやめてもかまいません。長編小説でも「決戦」の結果さえ書けたら後日談など要りません。よくて主人公のエピソードだけでじゅうぶんでしょう。すべての人物がどうなったかまで書いていたら「小説賞・新人賞」は獲れない。後日談は水増し以外のなにものでもないからです。
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