1288.物語篇:物語33.抗争と共存

 複数の勢力が戦うという意味では「戦争と平和」と同じですが、こちらは勝敗をつけずに和睦し、共存を目指す物語です。

 亜種だと思っていただければと存じます。





物語33.抗争と共存


 今回取り上げる「抗争と共存」は「戦争と平和」の亜種です。

 ただし「戦争と平和」が基本的にどちらかの勝利で終わるのに対し、「抗争と共存」では勝ち負けはつかずに仲直りする物語になります。





抗争は因習が多い

「抗争と共存」の物語に出てくる「抗争」は、物語以前から現在まで続いていることが多い。つまり因習と化しているのです。

 その「抗争」をいかに平定して仲直りするのか。それが書き手の腕の見せどころです。

「抗争」は因習であるがため、すでに血で血を洗う泥沼に陥っています。

 戦いが続いている中で、双方を「共存」へと導くためにはどうすればよいのか。

「非暴力」を唱えて相手にわざと反撃しない。気が済むまでやりたいようにやらせてやる。やることがなくなったら、そのときに仲良くなればよい、という方法があります。これは偉人として有名ないマハトマ・ガンディー氏が採った方針です。

 次に「勝った側が相手に譲歩」して対等合併を目指すものが考えられます。

 私が構想している『秋暁の霧、地を治む』はまさにこの形の物語です。つまり「戦争」を主体としながら、目指しているのは「戦争と平和」の物語ではなく「抗争と共存」の物語になります。

「抗争と共存」の物語の特徴は、両者を取り持つ「重要人物」が存在する点です。

 どんなに血みどろの戦いを繰り返していようとも、「重要人物」が介在して両者を取り持ちます。そのためには前提条件が揃っていなければなりません。

 私も「抗争と共存」の物語を書いているのでわかりますが、とにかく前提条件をクリアするのが難しいのです。そもそもどんな前提条件があるのかすらわからない方が大多数だと思います。

『秋暁の霧、地を治む』の前身中編小説『暁の神話』を書くにあたって、兵法を研究している私でも前提条件がどんなものかを知るのに苦労しました。

 ひたすら『春秋』『戦国策』『史記』を読みこなし、戦争が終わったきっかけを探すところから始めたのです。

 その過程で気づいたのは、「抗争」しているのは昔から戦ってきたから、でした。つまり「因習」ですね。「戦うのが当たり前」だと思い込んでいます。ですので、その国に生まれたら今まで争い続けていた国と「戦うのが当たり前」と信じているのです。

「昨日までも戦い、今日も戦った。だから明日以降も戦うだろう」

 そう思い込んでいるところに「抗争」のたちの悪さが見えます。




重要人物が不可欠

 ウイリアム・シェイクスピア氏『ロミオとジュリエット』は、悲恋に絡めた「抗争と共存」の物語です。

 主人公ジュリエットのキャピュレット家と、「対になる存在」ロミオのモンタギュー家は長年にわたって「抗争」してきました。

 ある日ジュリエットとロミオが出会い、恋に落ちます。しかし両家は「抗争」を続ける犬猿の仲です。

 そこに登場する「重要人物」がフランシスコ会の修道僧であるロレンス上人。

 ロレンス上人が手配せして策を案じ、ジュリエットとロミオは両家に隠れて結婚式を挙げます。しかし秘密の結婚ですから誰にも打ち明けられず、ロミオは奸計に落ちてヴェローナを追われます。そして両親から結婚相手を示されたジュリエットはロレンス上人に相談するのです。その提案に従って仮死の薬で「偽りの死」を演じ、葬式が執り行なわれました。ロミオはジュリエットの死を伝えられて密かにヴェローナへ戻ってきます。しかしロレンス上人の策がすべてロミオに届いておらず、ジュリエットが本当に死んでしまったと勘違いしてしまうのです。そして仮死状態のジュリエットのそばで毒薬を飲んで自殺します。仮死状態から醒めたジュリエットはロミオの死体を見て慟哭し、彼の短剣で後追い自殺をするのです。

 ロレンス上人から事の真相を知らされて悲嘆に暮れる両家はついに和解します。

 このように「抗争と共存」の物語には両者を取り持つ「重要人物」が不可欠なのです。

『秋暁の霧、地を治む』では主人公のミゲルを「重要人物」にしています。元が中編小説なので、そんなに人物を出せなかったからです。それに主人公が「重要人物」なら「特別感」が生まれますよね。読み手も特別な主人公のほうが読んでいてワクワクするものです。

 できるのであれば、主人公と「重要人物」は分けたほうがよいでしょう。

 私の悪い真似をする必要はありません。

 そもそも「抗争と共存」は長編小説でも描くのが難しい物語です。

 それを中編小説でやってしまおうとした私が甘かった。ですが、物語としてはありかなとは思ったので、長編小説にリライトしようとしています。エピソードを持ち込めばかなり連載が伸ばせる作品でもあるので、「小説賞・新人賞」への応募作としても申し分ないかと思われます。まぁ魔法の出てこない「異世界ファンタジー」で「小説賞・新人賞」を狙いに行くのは無謀ではあるのですけどね。




仲良く共存して終わる

「抗争と共存」が「戦争と平和」と大きく異なるのが「勝ち負け関係なく両者が手を携える」点です。

「戦争と平和」はどちらかが勝ち、負けてから関係を作るため、どうしても戦勝国が敗戦国よりも上の立場で「平和」が訪れます。太平洋戦争で日本とアメリカ合衆国が戦い、日本は敗戦して、アメリカ優位の「平和」となったのです。

 ですが「抗争と共存」は「抗争」している原因さえ解決すれば、両者が手を携えられます。そもそも諍っていた原因はなにか。それを「重要人物」は見抜いているのです。

 だからこそ「抗争と共存」の物語は後腐れなく、すっきりとした読後感を残して終われます。

 そもそも「抗争」を力で終わらせるには、相手を全滅させるかこちらが全滅するかしかありません。憎しみが憎しみの連鎖を呼ぶので、戦いたい人がいなくなるまで「抗争」は続くのです。

 人々はそんな「ゼロサムゲーム」が「抗争」だと思い込んでいるため、争いを呼ぶ根本を解決する人物が必要になります。

 争いの根本は、実はたいしたことではなかった、なんてよくある話です。

 その「実はたいしたことではなかった」ものを正確に見抜いて人々に提示するからこそ「抗争」は終結して「共存」の道へ踏み出せます。

 ですから「重要人物」の果たす役割はとても大きいのです。

 たとえ「戦争」であっても、その根本はとても単純なのかもしれない。

 そこに気づける人物こそが「戦争」を終わらせられるのです。

 でもそうなると「戦争と平和」ではなく「抗争と共存」の物語になります。

 そこだけは注意してくださいね。





最後に

 今回は「抗争と共存」について述べました。

 この物語を成立させるには「重要人物キーパーソン」が必要です。

 その人物がいなければ「抗争」の本質を理解できません。

 もし本質を理解したら、わかりあい「共存」する工夫が凝らせます。

 かなり史実に当たって、さまざまな「抗争」の本質を見抜く目を持たなければなりません。

 単なる「戦争と平和」よりも日頃の勉強が物を言う物語と言えます。



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