1287.物語篇:物語32.抑圧と解放

 あまり感じない方もいらっしゃいますが、私たちは抑圧されて生きています。

 学校であったり会社であったり。規範という名の抑圧です。

 その抑圧から解放されたいと思う方が多いので、「抑圧と解放」の物語は受け入れられます。





物語32.抑圧と解放


 主人公は世界からまたは組織から「抑圧」を受けています。

 理由は様々です。国家間の問題かもしれませんし、地域サークルの問題かもしれません。学校の優等生グループから抑圧されているケースも考えられます。

「抑圧と解放」は、なにがしかの理由で「抑圧」されている主人公たちが、「解放」される物語です。




抑圧される者たち

「抑圧」される理由は人それぞれです。ですが、なにか原因があるから主人公は「抑圧」されています。

 取り立てて能力がなく才能あふれる周囲から「抑圧」される。少数民族だから「抑圧」される。戦争に敗れて捕虜となって「抑圧」される。

 今挙げた中に「種族と格差」も入っていましたね。そちらと異なるのはその「抑圧」されている状況からの「解放」が描かれている点です。たとえば黒色人種だから底辺の職業にしか就けない。しかし最終的にアメリカ大統領にまで登りつめて「解放」されるのです。しかし白人至上主義者が次期大統領となり、貧困層や有色人種への差別が復活してしまいました。「解放」されたときにどれだけ「抑圧」構造を改革できるかどうか。それが「解放」後の状況を左右します。まぁドナルド・トランプ大統領はせっかくバラク・オバマ大統領が整備した国民保険制度の「オバマケア」を廃止したり移民政策も締めつけたりとやりたい放題ですけどね。これで二期目があったら「差別」をさらに助長するでしょう。

「抑圧」される理由が「能力が高すぎる」「異能力を持っている」場合。主人公は「抑圧」の手から逃れる手段があるのです。

 サーカスの虎や像は「抑圧」されています。自身の思うがままに行動できないのです。枷をはめられています。この場合は調教です。

 個人の家庭レベルで言えば、飼い犬や飼い猫など動物を飼っていたら、その動物が飼い主に不都合なことをしないようにします。この場合はにしつけです。

 いずれにせよ、動物の側から見れば「抑圧」されています。

 本来の力、野生の力が発揮できないのですから。

 強すぎるがゆえの「抑圧」は、その後の活躍を期待させます。しかし弱いがために「抑圧」されているのなら、その先はかなり厳しいものとなるのです。ハラハラ・ドキドキの展開が待っています。




抑圧との戦い

 マンガの白井カイウ氏&出水ぽすか氏『約束のネバーランド』は孤児院で育てられた子どもたちが過酷な環境で「抑圧」されています。もちろん主人公は子どもたちですから「抑圧」の魔の手から逃れるのは難しい。そこで繰り広げられる脱獄の物語はとても興味を惹かれるのでしょう。多くのファンがつきました。主人公たちの「抑圧」との戦いがメインテーマとなっています。

 マンガの堀越耕平氏『僕のヒーローアカデミア』のヴィランは能力がありすぎて社会から「抑圧」されているのです。「抑圧」からの解放を唱えて戦っていた「ヒーロー殺し」ステインの主張に共感した者たちが社会に反乱を起こし、ヒーローたちへと挑戦していくのです。この場合は敵方が「抑圧と解放」の物語を構成しています。主人公たちは「勇者と魔王」の物語で進めているので、ふたつの物語が並走しているのです。だから『僕のヒーローアカデミア』は奥が深い。多くの支持を集めるのもわかる気がします。

「抑圧」されていた主人公はそれと向き合い、徹底的なまでの戦いを始めるのです。

「抑圧」との戦いがなければ、物語は面白くなりません。

 主人公たちにあらゆる方法を試させてください。

 失敗例は多ければ多いほどよいのです。なんの失敗もなくすんなりと「抑圧」から「解放」できてしまったら、それまでがなんだったのか。拍子抜けしてしまいます。

 仮に「抑圧」されていたけど、それは「勇気を持って行動すればたやすく解放される」程度のものである場合。その「勇気」がなぜ今まで出せなかったのかを説明しなければなりません。「居心地がよかった」からも理由となりえます。「へたに逆らって痛い思いはしたくない」からかもしれません。こちらは動物の調教や躾に通じます。

 そんな「居心地はよい」けど「今のままでは駄目だ」と思わせるきっかけが物語には欲しいのです。

 動機もなしに「抑圧」と戦おうとする人はいません。

 そもそも「居心地がよく」て現状「抑圧」されているとは気づかないことだってありえます。

 だから「抑圧」に気づくきっかけが必要なのです。

 太平洋戦争後、シベリアから日本本土へ帰還しようとしてソビエト連邦軍に捕まり、シベリア抑留となった日本人が多かった。抑留中は粗食で過酷な労働を強いられ、仲間たちが次々と死んでいきます。当然「脱出」を図る人も多かったのです。もし捕まってしまうと連れ戻されて見せしめのために「抑留者」の目の前で銃殺に処せられます。

 こうして日本人はソ連兵に反抗する気持ちを薄められていったのです。




解放される

「抑圧と解放」の物語では、とくに「解放」されるのが特徴です。

 囚われたまま動物園で一生を終える猛獣もたくさんいます。たまに脱走する猛獣もいて付近を騒がせますが、たいていは麻酔銃で眠らされて捕獲されるのです。

 猛獣に自由はありません。いつまで経っても「解放」される日はやってこないのです。

 しかし我々人類には知恵があります。「抑圧」に反抗して「解放」を勝ち取る手段は数多くあるのです。

 人種差別も「抑圧」の一種になります。奴隷解放運動、新しいところでは黒人生存権運動「BLACK LIVES MATTER」略して「BLM」が「解放」を目指しているのです。まぁこちらは「人種と格差」の問題になりやすいので、「抑圧と解放」の物語と見るのは難しいかもしれません。

 人間社会はあらゆる人が生きていくために、それぞれの自我を「抑制」されています。もし我を通そうとする人が現れたら、秩序が乱れてしまうからです。

 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って世界各国で実施されたロックダウンは、まさに「抑圧」に当たります。中には耐えかねて外出する人も出てきますが、彼らは警察や軍などによって捕縛されて自宅へと戻されて罰金を支払うのです。人々が「解放」を勝ち取るためには、十四日間家で堪え忍ばなければなりません。日本は幸いに逮捕されるような「抑圧」ではなかったのです。それぞれ個人が「外出自粛」を意識しているだけで混乱は起こっていません。

 まぁトイレットペーパーが売り切れ、マスクが売り切れ、消毒用エタノールが売り切れる。さらには大阪府知事が「ポビドンヨードを含むうがい薬を使えば新型コロナウイルスを減らせる」などと発言してうがい薬がドラッグストアから消えました。

 さまざまな風説が出回って商品の売り切れが発生し、社会は混乱したのです。

 それも日本企業の努力によって、時間はかかりましたが克服できました。

 現在「Go To トラベル」事業によって遠出の旅行もできるまで日本人は「解放」されています。

 しかしこの「解放」は「抑圧」された人の手によるものではありません。

 ですから日本の新型コロナウイルス感染症対策は「抑圧と解放」とはちょっと異なります。

 海外のロックダウンの解除は、住民が勝ち得た「解放」ですね。こちらは「抑圧と解放」と称してもよいでしょう。

「解放」されたらそこで物語が終わるパターンもありますが、多くは別の物語の始まりを意味しています。

 自由を手に入れて、次になにを成すのか。その興味が尽きないからです。

 だから村人に「抑圧」されていた若者がそれに抗って「解放」され、そこから「勇者と魔王」の物語を始めてもかまいません。

 まぁ長編小説では「解放」されたところで紙幅が尽きると思いますが。

 なので「抑圧と解放」の物語を連載小説にする場合は、第一巻で「解放」されて、第二巻から別の物語に発展するようにしてください。





最後に

 今回は「物語32.抑圧と解放」について述べました。

 なにかに「抑圧」されて、抗って「解放」されるまでの物語です。

 どれだけ抗うのか。何度も失敗し、ついに「解放」されたときの爽快感がこの物語のキモです。

『約束のネバーランド』や諫山創氏『進撃の巨人』など、「解放」を目指す物語に人気が集まるのも、我々が日頃からなにかに「抑圧」されているからかもしれませんね。



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