1286.物語篇:物語31.汚名と返上

 今回は「汚名返上」の物語です。

 よく「汚名挽回」と書く方がいらっしゃいますが、「名誉を汚していたものを取り戻してどうするのか」と考えれば、「返上」だよねと気づけます。





物語31.汚名と返上


 ある日主人公は人々から「汚名」を着せられます。

 主人公はそれを「返上」するために奔走するのです。




汚名を着せられる

 たとえばスポーツもので「試合に負けたのはお前のせいだ」と言われてしまう。

 なにがなんだかわかりませんが「汚名」を着せられるのです。

 主人公は「汚名」によって不利な状況に陥ります。

 しかしそれで腐ってしまうほど弱い人間ではない。

 いつか見返して「汚名」を晴らそうと努力を重ねます。

 水野良氏『ロードス島戦記』の主人公パーンは、父親が聖国ヴァリスの元聖騎士でした。しかしなにかとんでもないことを起こして追放され、ザクソンの村にやってきたとされていました。父親の「汚名」を晴らしたいパーンは、親友のエトとともに村を悩ませるゴブリンの群れを退治しに向かいます。この冒険がきっかけで村を離れて父の「汚名」を晴らし、自らも聖騎士として語り継がれる存在にまで上り詰めるのです。

 主人公に関係する人物が「汚名」を着せられて、主人公がそれを晴らすために奔走する物語もかなりの数あります。

 この「汚名と返上」の物語は、まず主人公や近しい人に「汚名」が着せられるところから始まるのです。

 それにより立場が悪くなった主人公が「汚名」を晴らすために出立します。

 主人公が自然と村を出られるため、「汚名」は小説でよく使われているのです。

 池井戸潤氏「半沢直樹」シリーズは、つねに主人公・半沢直樹に「汚名」が着せられます。それを持ち前の行動力で「返上」して見返してやるのです。殴られたら盛大に殴り返してやる精神こそ「汚名と返上」の物語の本筋になります。

「汚名」は「濡れ衣」を着せられるパターンもあります。

 アメリカのテレビドラマ『逃亡者』がこれに当たるのです。古いドラマですが、1993年にハリソン・フォード氏主演で映画化もされました。日本でも何度もリメイクされているほど有名な物語です。

 妻殺しの罪を着せられた医師が警察に追われながらも真犯人を見つけ出す「サスペンス」もの。つまり逃げながら真犯人を追い詰める必要がある、とても難しい展開です。

 だからこそ、不朽の名作として語り継がれているのかもしれませんね。

 主人公を冒険の旅に出したければ、最も手っ取り早く確実な方法が「汚名」や「濡れ衣」なのです。

 潔癖な主人公ほど「汚名」や「濡れ衣」に堪えきれません。今の場所から出立して「汚名」や「濡れ衣」を晴らすために行動します。




返上するのがわかっている

「汚名と返上」の物語がよいのは「汚名を返上しなければ物語は終われない」点です。読み手には「ゴールが先に見えて」います。だから「どうやって汚名を返上するのかな」と気になってページをめくる手が止まらなくなるのです。

 では「汚名を返上」すれば物語は終われるのか。長編小説ならそこで終わってもかまいません。

 もし連載小説にするのであれば、第一巻できっちりと「汚名を返上」して、第二巻以降は第一巻の冒険を引き継いで別の物語へと発展させればよいでしょう。

『ロードス島戦記』も父の「汚名を返上」するのはわずか数章で済んでいます。以降は本筋である「勇者と魔王」の物語へ引き継がれているのです。一介の村人を自然と冒険の旅へ出すには「汚名と返上」の物語が最も使いやすい。

「汚名と返上」の物語は主人公が旅立つ理由と、物語の終わり方が明確です。

「汚名」を着せられて、そのまま物語が終わる主人公はまずいません。

 無念の情を抱きながら死んでいく主人公の物語なんて誰が読みたがるでしょうか。そんな人はまずいません。

「汚名」を着せられたら晴らさずにはいられない。それが人の尊厳です。

「裏切り者の名を受けて全てを捨てて戦う男」

 アニメ『デビルマン』の主題歌ですが、「汚名と返上」の物語を表していますね。

「やられたらやり返す。倍返しだ!」

 これなどは、半沢直樹に起きている「汚名と返上」の物語を端的に表しています。

 やられっぱなしの半沢直樹を誰が読みたいでしょうか。観たいでしょうか。

 やり返すさまを読んで、または観て「ざまぁ見ろ」と言ってやりたい心境に駆られる。だから「汚名と返上」の物語は人気があるのです。

 ここまで書いて気づいた方もいらっしゃるでしょう。

 小説投稿サイトで「ざまぁ」ものに人気が集まる大きな理由は、とてもわかりやすい「汚名と返上」の物語だからです。

 突然勇者パーティーから追い出された主人公が、努力を重ねて彼らを見返す物語。

 見事に「汚名と返上」を地で行っています。

 人に尊厳がある以上、「汚名と返上」の物語は誰の心にも響くのです。

 まして尊厳の塊である神が主人公なら、「汚名」など黙って受け入れるはずがありません。必ずや「汚名」を着せた相手が滅ぶまで報復の手は緩めないでしょう。

 このように「汚名と返上」の物語は「汚名」を着せられた主人公が、どうやって「返上」するのかを読ませます。

「返上」するのは物語の形ですでに定まっています。あとはどうやって「返上」するのかです。

「返上」の仕方が斬新であるほど、面白い物語と評価されます。

 ただ単に「返上」するだけ「見返す」だけでは評価されにくいのです。

「半沢直樹」シリーズの人気が高いのは、想定外の「返上」の仕方をするところにあります。なにせただでは済ませておけない。想定外の仕方で「倍返し」するからスカッとするのです。

 小説投稿サイトで「ざまぁ」ものが書きたくなったら、ぜひ「半沢直樹」シリーズを読みましょう。単に「勇者パーティーに裏切られたから見返してやる」だけの物語は「はい、そうですか」で終わってしまいます。

「半沢直樹」シリーズのように想定外の仕方で「倍返し」する作品こそが「ざまぁ」キーワードにふさわしいのです。

 裏切られたから見返しました。

 そんな物語は小説投稿サイトにあふれています。

 どれだけ読み手の想定を超えていくのか。想定を超えられない「返上」ではすっきりとしないのです。

 これも「半沢直樹」シリーズの影響でしょう。





最後に

 今回は「物語31.汚名と返上」について述べました。

 主人公に自然と動いてもらいたければ、「汚名」を着せましょう。

 それだけで主人公は「返上」しようと動き出します。

「汚名」を着せられて甘んじて受け入れるほどの世捨て人はまずいません。

 人が社会で生活している以上、他人からの評価は絶対です。

「汚名」を着せられたら「返上」したくないなんて人はいない。必ず「返上」して立場を回復したり処遇をよくしたりするのが人間です。

「ざまぁ」のキーワードは「汚名と返上」の物語であると示しています。

 それが「半沢直樹」シリーズのように「倍返し」の痛快さがあるかどうかで、評価が定まるのです。



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