1278.物語篇:物語23.苦手と克服

 なんでもこなせるオールマイティーな方は、この世に数えるほどしかいないのではないでしょうか。

 ほとんどの方はなにかしら「苦手」なもの「弱い」ものがあるはずです。

 それを乗り越えていく物語は共感を呼びやすい。つまり評価が高まりやすい作品が書けます。





物語23.苦手と克服


 人はなにかしら「苦手」なもの「弱い」ものがあります。

 それは一種の「劣等感」を生み出すのです。

 主人公は物語の始めに抱いていた「劣等感」を「克服」して終えなければなりません。

「劣等感」が「劣等感」のままで終わると、物語ではないのです。

 物語である以上、「劣等感」を「克服」する必要があります。




苦手と劣等感

 人はすべからく「苦手」や「劣等感」を持っています。

 私は英語が大の「苦手」です。しかし「劣等感」ほどのものではありません。

 どうせ海外へ行くつもりもないし、仮に海外へ行っても今はソースネクスト『ポケトーク』などの「自動翻訳機」がありますから不自由はしないでしょう。

「劣等感」で言えば「女性」に対して頭が上がらないことくらいかな。

 以前からお話ししているように、私は養護施設育ちなので「女性」に対して「未知の生命体」という認識を持っています。

「わからないから怖い」というよりも「わからないなら知る必要はない」と思っているのです。

 だからかわかりませんが、私の小説は「女性」の登場人物が極端に少ない。

 まあ群雄割拠の「戦争」もので、「女性」が大活躍した例は、歴史を遡ってもそうはいません。特殊な事例であり、「百年戦争」のジャンヌ・ダルク氏のように希少なのです。

 そういうふうに話をすり替えるということは、私自身「女性」に対して「劣等感」があると考えられます。

 ここからフラットに書きますが、私は「未知の生命体」である「女性」を、男性よりも上と見ているのです。なにせ私が生まれたのは母親がお腹を痛めてくれたおかげですし、父親は単に種付けをしただけ。そう考えると「女性」のほうが「男性」よりも格上の生命体なのだと思ってもなんら不思議はありません。

「女性」を「未知の生命体」として見ている以上、「自分の考えが及ばない」ものは畏怖するに値するのです。

 私は「畏怖」する対象として「女性」を置いていますが、世の中には「女性アレルギー」の方も数多くいらっしゃいます。そして小説投稿サイトにはかなりの数「女性アレルギー」の人物を主人公にした作品があるのです。

「女性アレルギー」の人はたいてい過去「女性にヒドいことをされた」経験を持っています。またなぜか「恋愛」もの「ラブコメ」ものに多いのです。純粋に「剣と魔法のファンタジー」で「女性アレルギー」の主人公はあまり見ません。

 ここまで私の「苦手」な「英語」や「劣等感」のある「女性」を取り上げました。

 あくまでも私個人の話です。

 ではあなたの小説の登場人物にはなにか「苦手」なもの「劣等感」を抱くものはあるでしょうか。おおかた設定されていないものです。

 しかし人間であれば、まったく「苦手」や「劣等感」を持っていないなんてまずありえません。たとえば本コラムを読んでいるあなた。あなたはなにか「苦手」や「劣等感」を持っていませんか。「納豆が食べられない」とか「梅干しを食べると吐き気がする」とか「どうやってもあの人には敵わないな」とか「絵を描いても小学生レベル」とか。なにかあるはずです。

 私にもあなたにも「苦手」や「劣等感」はあります。小説の登場人物に「苦手」や「劣等感」がないなんてありうるのでしょうか。

 そんな完璧超人を登場させたら、物語のバランスがとれません。

 どんな難題をふっかけても、なにごともなかったかのごとく解決してみせる。これでは物語として映えません。正直に言って、完璧超人は書きやすいのです。なにも悩まず、自然と最適解を導き出して事態を収めてしまいます。

 でもこれで面白い物語になるでのしょうか。

 まずなりません。「完璧超人」が主人公だと、どんな物事もあっさり解決してしまいます。葛藤も懊悩もないのです。ひと騒動が起こらないのですから、面白いはずもありません。




苦手や劣等感があるから面白くなる

「苦手」や「劣等感」を持った人物が、読み手の想像を超えるような解決方法をとるから、面白い物語になるのです。

 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の主人公・比企谷八幡は、女性というよりも他人に対して「苦手」意識「劣等感」を抱いています。中学生までパッとした人間関係を築けず、「高校デビュー」しようと意気込んでいたら入学式当日、交通事故に遭って挫折してしまうのです。他人が「苦手」「劣等感」に位置づけられているので、そのラブコメが一般的な物語になるはずもありません。多重に屈折した「苦手」「劣等感」を持つ八幡が、どのような物語を紡いでいくのか。これだけでも物語として大きな魅力を持っていますよね。

 うまい書き手は、とくに主人公へ「苦手」や「劣等感」を設定し、それをどう物語に絡めるのかに腐心するのです。

「苦手」や「劣等感」は登場人物にかせをハメるためにあります。つまり行動に制限が生じるのです。普通ならこうやって解決すればよいのだが、「苦手」や「劣等感」があるからその方法はとれない。ではどうやって解決させればよいのだろうか。それに頭をひねれば、その人物特有の解決方法が思い浮かびます。

「苦手」や「劣等感」を持っている人がどうやって解決するのだろうか。

 これほど物語が面白くなる要素はありません。

 ド派手な「バトル」描写よりも格段に読み手の興味を惹けます。

 だからこそ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』は『このライトノベルがすごい!』で三連覇を果たして殿堂入りするほどの作品となったのです。

 ド派手な「バトル」が売りの川原礫氏『ソードアート・オンライン』も鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』も成しえなかった偉業を、「ラブコメ」がやってみせました。

 もちろん『ソードアート・オンライン』のキリト(桐ヶ谷一人)にも、『とある魔術の禁書目録』の上条当麻にも「苦手」や「劣等感」はあります。でもそれが前面に出ているわけではないのです。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』は「苦手」や「劣等感」を前面に出した作品だったからこそ、恐ろしいまでの吸引力を生み出しました。




成長と克服

「苦手」や「劣等感」は物語に強い惹きを生み出します。

 しかしいつまでも「苦手」や「劣等感」を抱くだけでは、そのうち飽きられてしまうのです。

 人は必ず成長します。今まで「苦手」だったものも、ある経験を経て成長し、難なくこなせるようになるのです。

 つまり「苦手」や「劣等感」は、人物の成長によって「克服」されます。

 単に「苦手」や「劣等感」だけを書いても、読み手の興味は惹けるでしょうが、大ヒット作とまではなりません。

 人物は物語の出来事を通じて成長します。「苦手」や「劣等感」を少しずつ「克服」していくさまこそが読み手を虜にするのです。

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』が秀逸なのは、登場人物の成長にあります。「苦手」や「劣等感」を「克服」していくさまを丁寧に描けているからこそ、大ヒット作につながった最大のポイントとなったのです。

「苦手」や「劣等感」を「克服」せずに終わる物語が、最近の小説投稿サイトには多く見受けられます。「勇者パーティーを追放された」という「劣等感」を、「克服」ではなく「ざまぁ」で見返して晴らそうとするのです。

 また「苦手」や「劣等感」を持たない完璧超人な「主人公最強」の作品も数多く見受けられます。

「ざまぁ」と「主人公最強」がこれほど増えてくると、それがさも「人気の要因」だと誤解されてしまうでしょう。ですが「ざまぁ」も「主人公最強」も、等身大の「苦手」や「劣等感」に正面から取り組んだ作品には遠く及ばないのです。

 いくら「勇者パーティー」を見返しても「主人公最強」で無双しても、「苦手」や「劣等感」を「克服」する物語には敵いません。

 主人公や登場人物が「成長」していく過程こそ、人々を惹きつける秘訣です。

 マンガの北条司氏『CITY HUNTER』の主人公・冴羽リョウは「飛行機で空を飛ぶ」のが苦手という設定が連載の終わり頃に加わります。それまでは完璧超人だったのです。それなのになぜか多くの読み手を魅了しました。

 その秘訣は主人公ではなく毎回のゲストである依頼人がリョウの活躍によって「成長」していく過程にあります。リョウはただ単に依頼人を守るだけではなく、依頼人が自ら強くなって「克服」するように仕向けているのです。それこそが真の意味で「依頼人を守る」ことにつながります。

 誰かに頼るのではなく、自らが強くならなければならない。

「克服」を描いたからこそ『CITY HUNTER』は名作と呼ばれるのです。





最後に

 今回は「物語23.苦手と克服」について述べました。

 人間であれば誰もが持っている「苦手」や「劣等感」。それをどうやって「克服」していくのか。そういう「成長」が感じられる物語には強い吸引力が働きます。

 いくら小説投稿サイトで「ざまぁ」や「主人公最強」が強くても、「苦手と克服」の物語には敵いません。

 多くの書き手はそのことに気づいていないのです。単にランキングをチェックして、トップに入っている作品のキーワードを見たら「ざまぁ」「主人公最強」が多かった。そういう理由で「ざまぁ」「主人公最強」を書いているかぎり、ランキングには載れません。

「苦手と克服」の物語の可能性は無限です。各地の伝承や神話にも「苦手と克服」の物語はありますからね。



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