1277.物語篇:物語22.特技と応用

 小説の主人公は平凡な人物が多い。等身大なので多くの読み手に受け入れられるからです。

 しかしたまには心がワクワクするような「冒険」にも出かけてみたい。

 今の自分にはできないものをできる体験をしてみたい。

 そんな欲求が「特技と応用」の物語の需要となっているのです。





物語22.特技と応用


 主人公には他の人にはない特別な力があります。

 その力を使って問題を解決するのですが、最後の問題はそのままでは解決できません。

 そこで特別な力の「応用」を考えつきます。それこそが最後の問題を解決する鍵なのです。




必殺技や個性

 最近のスポーツマンガの特徴なのか、主人公たちは「最初から強い」のです。強いんだけど勝負には負けてしまう。負けて初めて「チームの和」の重要性に気づきます。そこでチーム力を磨いて頂点に立つ物語が多いのです。

「新技」を身につけてレベルアップする物語は昔からありました。

 たとえば梶原一騎氏&川崎のぼる氏『巨人の星』の主人公・星飛雄馬は、魔球「大リーグボール(バットへわざと当てさせて凡打にする魔球)」を引っさげて花形満や左門豊作らライバルとの戦いに挑みます。「大リーグボール」によって連戦連勝するも、ライバルに破られるときがやってくるのです。そこでさらなる修練をして「大リーグボール2号(消える魔球)」で勝ちます。しかし「大リーグボール2号」も花形満や伴宙太らに破られるときがやってくるのです。そして「大リーグボール3号(スイングの風圧でバットを避ける魔球)」が登場します。

 このように『巨人の星』では魔球⇒戦う⇒勝つ⇒戦う⇒負ける⇒新たな魔球開発へとつながるのです。

 古くから「スポーツ」ものには「大リーグボール」同様「必殺技」が不可欠でした。藤巻忠俊氏『黒子のバスケ』の主人公である黒子テツヤの「視線誘導ミスディレクション」なんて「必殺技」以外のなにものでもありません。

「スポーツ」ものから発想が飛躍し、「バトル」マンガにも「必殺技」が欠かせなくなりました。

 堀井雄二氏&三条陸氏&稲田浩司氏『DRAGON QUEST −ダイの大冒険−』では主人公ダイは勇者アバンから必殺技「アバンストラッシュ」を伝授されます。

 冨樫義博氏『HUNTER×HUNTER』に出てくる「念」も使用者による個体差のある「必殺技」ですよね。

 近頃の集計ですが、アメリカで最も観られている番組で二位を獲得した堀越耕平氏『僕のヒーローアカデミア』に出てくる「個性」も個体差のある「必殺技」となっています。

「念」と「個性」は使用者による個体差が大きく、それが「バトル」をド派手に演出する要素にもなっているのです。だから『僕のヒーローアカデミア』は世界中で続きが待たれている作品となっているのだと思います。まぁ主人公・緑谷出久へ「個性」を譲渡したオールマイトがアメコミ作画なのも効果的だったのでしょうけれどね。




必殺技が通用しない

 当初「必殺技」「個性」は万能でした。しかしそれが通用しなくなるときがくるのです。

 上記した『巨人の星』では「大リーグボール」が破られて敗北し、「大リーグボール2号」の開発が始まります。

 黒子テツヤの「視線誘導ミスディレクション」も、緑谷出久の「ワン・フォー・オール」も、破られてしまうのです。

 そこから「必殺技」「個性」を見直す時期がやってきます。

 まず考えられるのが「必殺技の強化」です。

 黒子テツヤの「視線誘導ミスディレクション」はこの「必殺技の強化」で欠点を補強してライバルを超えていきました。

 次に考えられるのが「新しい必殺技の創出」です、

 星飛雄馬の「大リーグボール2号」「大リーグボール3号」もこのパターン。「スポーツ」ものの主人公はたいてい「新しい必殺技の創出」で難局を乗り越えていきます。マンガの森末慎二氏&菊田洋之氏『ガンバ! Fly high』では主人公の藤巻駿がオリンピックで金メダルを獲るために鉄棒で「トカチェフ前宙」という技を編み出すのです。これに触発された元平成学園体操部の「三バカトリオ」は各自オリジナル技を身につけてオリンピック代表を目指すこととなります。藤巻駿は全種目へ、内田稔は跳馬のスペシャリストとして代表に選出され、それぞれが大舞台に向けて「必殺技」を磨くのです。そして内田稔は跳馬で「前方三回宙返り半ひねり」を成功させて、藤巻駿は鉄棒で離れ技の「フジマキII」と下り技の「後方抱え込み四回宙返り下り」を決めて十点満点を獲得して、それぞれ金メダルに輝きます。




必殺技の応用

「スポーツ」ものでは定番の「必殺技の強化」「新しい必殺技の創出」ですが、「バトル」ものではなかなか難しい。とくに命懸けのバトルをする場合、「必殺技の強化」「新しい必殺技の創出」はなかなかできないものです。

 そこで今の「必殺技」を「応用」できないか考えます。

『僕のヒーローアカデミア』ではヒーロー科1年A組の全員が「必殺技」を編み出す回を「あえて」描いているのです。これまでは「個性」をそのまま使っていました。それを有効に活かして最大の効果を発揮する「必殺技」へ「応用」するのです。緑谷出久はこれまで個性「ワン・フォー・オール」を無計画に使ったため腕部を骨の髄から爆発させたような後遺症がありました。「個性」を授けてくれたオールマイトの戦い方をそのまま真似ていただけだからです。体が出来ていない高校生が使いこなせるような「個性」ではなかった。そのため無意識に「個性」を全開で振るっていた名残です。そこで「5%」「8%」と開放する個性の強さを操れるようにします。さらに蹴り技を主体とする「シュートスタイル」を編み出したのです。これで体を壊すことなく「ワン・フォー・オール」を使いこなせるようになりました。

 命懸けの戦いの場において、瞬時に「必殺技の強化」「新しい必殺技の創出」はできません。できたらかなりの「ご都合主義」になってしまいます。

 しかし「必殺技の応用」であれば、頭を切り替えるだけで使用可能です。

 緑谷出久は「必殺技」である「ワン・フォー・オール」をさまざまな形で「応用」しています。この発想力も読み手を惹き込む力となっているのです。この事態に「ワン・フォー・オール」をどう「応用」して乗り越えるのかが明確に示されます。それが毎度読み手の想像を超えてくるところに『僕のヒーローアカデミア』が世界で期待されている作品である証なのかもしれません。





最後に

 今回は「物語22.特技と応用」について述べました。

「スポーツ」ものには「必殺技」が不可欠です。

 マンガの高橋陽一氏『キャプテン翼』は、サッカーマンガとは思えないほどの「必殺技」であふれていました。大空翼の「ドライブシュート」に日向小次郎の「タイガーショット」、立花兄弟の「スカイラブハリケーン」など。

 意外かもしれませんが「バトル」ものよりも「スポーツ」もののほうが「必殺技」が必要なのです。なぜなら「バトル」ものは勝てさえすればなんでもよい。それに対して「スポーツ」ものは、スゴい技を見せなければスゴさが伝わりません。

 もちろん「バトル」ものは「必殺技」があるとわかりやすいし伝わりやすい。とくに勝ち方にこだわりがあるなら「必殺技」で締めたいですよね。「仮面ライダー」シリーズや「戦隊ヒーロー」シリーズのように。

 戦う要素があるのなら、ぜひ「必殺技」を創りましょう。



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