1276.物語篇:物語21.強敵と撃破
単純に「勇者と魔王」とは言い難い物語の形が「強敵と撃破」です。
最初はひとつの村で起こった出来事かもしれません。
しかしそれを解決したら、より大きな問題が生じ、さらに解決したら。
このようにスケールがどんどん大きくなっていくのが「勇者と魔王」との違いです。「勇者と魔王」では最初から倒すべき「魔王」が決まっていました。
「強敵と撃破」は最終目標などなく、目の前に立ちはだかる強敵を撃破していくだけです。
これはとくに「スポーツ」ものでよく採用されています。
物語21.強敵と撃破
主人公に「強敵」を「撃破」する任務が与えられます。
とはいえ国王から依頼されるケースばかりではありません。
村人が悩まされている問題を解決していくと、次第に「強敵」へと近づいていくケースもあるのです。
勇者と魔王の変形
ここまで読んで「勇者と魔王」だな、と思った方も多いはず。
私もこれを別に切り出すのはためらったのですが、明確に異なる点があるのであえて一本書きました。
まず「強敵」です。これは「魔王」でもかまいません。主人公が「勇者」でもよいのです。このあたりが「勇者と魔王」の変形たる理由です。
ただ明確に異なる点があります。主人公は最終目標が「魔王」であると知らないのです。
単に「強い者を倒していく」だけで、最終目標もあくまで「最も強い者」としか認識していません。
主人公が目指すは「魔王」討伐ではなく「強敵」撃破。だから「スポーツ」ものでよく取り入れられる物語です。
「スポーツ」ものでは倒すべき「魔王」は存在しない。もちろん「絶対強者」がいて、それを倒すのが最終目標の物語ならあります。
たとえばマンガのあだち充氏『TOUCH』は主人公・上杉達也が、甲子園出場校の須美工業高校で四番を打つ「絶対強者」の天才・新田明男に挑む県大会決勝戦。そこへ至るまでのふたりの関係性や決勝戦での死闘など、まさに「絶対強者」に挑む物語です。
「絶対強者」と戦うまで、条件を整えていくのが主人公に与えられたミッションとなります。
「スポーツ」ものと相性がよい理由は、条件を整えていく過程で主人公が成長していくところです。「勇者と魔王」でも一戦ごとに主人公たちは成長するように書けます。
「勇者と魔王」は魔王を倒して勇者が帰還すれば終わりです。「強敵と撃破」は「強敵」を「撃破」したら次なる強敵が控えています。最強の存在になるまで「強敵」は現れ続けるのです。
つまり「勇者と魔王」はたとえレベル1の「勇者」でも「魔王」を倒しさえすれば物語が終わります。「強敵と撃破」はレベル99でカウントストップとなっても「強敵」が現れれば物語は終わらないのです。
ライバルの存在
「スポーツ」ものであれば、世界王者や世界一位が存在していますから、これらを倒して世界一になれば物語は終われます。
しかし「ライバル」がいれば話は別です。仮に世界一になっても、最後には宿命の「ライバル」と勝敗を決する必要があります。
ここも「勇者と魔王」の物語とは異なる点です。
「勇者と魔王」の「ライバル」は「魔王」より前に戦います。「魔王」の後で戦ったら「ライバル」が「対になる存在」となってしまい、「魔王」の存在が形骸化してしまうからです。
「強敵と撃破」は最後に戦う相手が誰になるか。これが重要です。
ボクシングマンガの森川ジョージ氏『はじめの一歩』では、主人公・幕之内一歩の「ライバル」は宮田一郎となっています。通常「ライバル」とは折に触れて戦うものですが、本作ではプロ入り前のスパーリングで戦ったのみ。プロになってからは一度も戦っていません。その時々で戦うのは千堂武士です。彼とは全日本新人王戦、日本タイトルマッチで戦っています。そういう意味では千堂武士のほうがわかりやすい「ライバル」ですね。
では「魔王」は誰でしょうか。手が届かないほどレベルの高い相手。日本なら日本タイトル保持者・伊達英二、世界では世界タイトル保持者リカルド・マルチネスですね。彼らが一歩にとって乗り越えなければならない壁となっています。伊達はマルチネスとのタイトルマッチで再起不能となって現役を引退していますから、明確に「魔王」として残っているのはマルチネスだけです。
となれば「強者と撃破」の物語として典型的なのは「魔王」マルチネスを撃破して世界王者となり、宮田と「最高の舞台」で再戦して勝つ。これ以外にありません。というより、世界タイトルマッチをして主人公が負けて終われるボクシングマンガってあまりありませんよね。余韻は残るでしょうが。
梶原一騎氏&高森朝雄氏&ちばてつや氏『あしたのジョー』は世界タイトルマッチでジョーが敗北して終わります。ですが『あしたのジョー』は「勇者と魔王」の物語であって「強敵と撃破」の物語ではありません。「ライバル」は前半で亡くなってしまう力石徹です。「魔王」が世界王者のホセ・メンドーサ。つまり先に「ライバル」戦をしてから「魔王」と戦っているのです。「ライバル」の力石戦にも負けているわけですから「撃破」には当たりませんよね。
戦って勝つ
「強敵と撃破」の物語は、戦って勝つことが求められます。
何度負けたってかまわないのです。最後の最後に勝てればそれでよい。
とくに命を懸けない「スポーツ」の試合であれば、いくら負けてもかまいません。
ですが負けたことで改善点が見つかり、それをひとつずつ克服していけば主人公たちの地力がつきます。つまりレベルアップできるわけです。
レベルアップすれば以前負けたチームにも勝てます。すると次なる強豪が立ちはだかるのです。このように戦う⇒負ける⇒改善する⇒戦う⇒勝つ⇒さらなる強敵現る、と続いていくのが「強敵と撃破」でよくある展開になります。
いくら負けたってかまわないのです。「戦って勝つ」まで連載は続けられます。
とくに世界一になれば、それ以上連載を続ける必要はありません。
マンガの藤巻忠俊氏『黒子のバスケ』も誠凛高校バスケ部が「キセキの世代」を相手にウインターカップで優勝するまでの物語でしたね。
戦って戦って勝ち抜いて、最後に敗れる物語というものもあります。「常勝と終焉」とでもいうべきパターンですね。共和政ローマ末期の三頭政治の一角であり内戦に勝利し終身独裁官となったガイウス・ユリウス・カエサル氏や日本で天下布武を唱えた織田信長氏などが挙げられるでしょう。戦になれば連戦連勝。しかし内憂によって身を滅ぼします。
こちらはトップに君臨して戦いにすべて勝って、トップを維持する。しかし最後の一戦に敗れて玉座から引きずり降ろされるのです。
田中芳樹氏『銀河英雄伝説』は常勝の英雄ラインハルト・フォン・ローエングラムが連戦連勝して最後、病に斃れる物語になっています。であれば「強敵と撃破」の物語とも言えるでしょう。
このように「強敵と撃破」の物語にはふた通りあります。
何度負けても最後に勝って終わる「敗戦と逆襲」と呼ぶべき物語と、連戦連勝しても最後に敗れる「常勝と終焉」と呼ぶべき物語です。
どちらにしても戦うことには変わりないので、バトルや勝負をしっかりと描写できるようになったら挑戦してみてください。
最後に
今回は「物語21.強敵と撃破」について述べました。
「スポーツ」ものでは、負け続けても最後に勝てばよい。
しかし命を懸けた「真剣勝負」なら、一度の負けで命を落としてしまいます。それなら「勝ち続ける」しかないのです。それでも物語の最後まで「勝ち続ける」のは難しい。単なる「主人公最強」ならそれでもよいですが、物語をドラマチックにしたければ、最後はあえて「負け」るべきです。
ガイウス・ユリウス・カエサル氏や織田信長氏が魅力的に映るのは、彼らが勝ち続けた挙げ句に裏切られて死ぬからではないでしょうか。
「負け」ることで感慨を抱かせる物語もあります。
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