1273.物語篇:物語18.提起と解決

 物語には「謎」が不可欠です。「謎」のない物語は深みがありません。

 お伽噺ならなくてもかまいませんが、小説を書くのならやはり「謎」を作るべきでしょう。





物語18.提起と解決


 ほとんどの事象は数学と物理学で説明がつくとされています。

 東野圭吾氏「ガレオシリーズ」は物理学者の湯川学が主人公の連作ミステリーです。

 湯川学は数々の不可能犯罪を、物理学で解き明かしていきます。





読み手に謎を提起する

「提起と解決」の物語では、物語が始まってすぐに「謎」が「提起」されます。

 上記「ガリレオシリーズ」も、まずは読み手に不可解な「謎」を読ませているのです。

 以前書きましたが、人間には「探求心」「探究心」があります。だからこそ「謎」が提起されると先を知りたくなるのです。

「謎」は意味不明であればあるほど「提起」の力を高めます。

 今だとマンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』や、ドラマのテレビ朝日系列『相棒』シリーズなどが例として適当でしょうか。

 いずれも長きにわたって物語が続いており、今さら主人公やヒロインなどの説明をする必要はありません。だからこそ、シリーズ第一話では奇妙な「謎」が登場します。

 この「謎」を解くために主人公は現場を見てまわったり関係者から証言を集めていったりするのです。

 その結果、主人公は事件を解く重要な情報に気づきます。

「だからあの人はあんなことを」

 両作でよく登場するフレーズです。

 基本的に「推理」ものは読み手にすべての情報を開示する決まりになっています。

 読み手が知らない「事実」で「謎を解い」てはなりません。これでは後出しジャンケンです。読み手は主人公の推理に不満を覚えます。つまり作品の価値が下がってしまうのです。

 できるだけ奇抜な「謎」を「提起」し、それすら上まわる真相を解き明かす。

 そこに痛快さを覚えるのが「推理」ものの醍醐味です。

「謎」を「提起」するのは、なにも「推理」ものだけの特権ではありません。

「剣と魔法のファンタジー」だって、より面白いものにしたければ「謎」を混ぜます。

 悪の親玉は竜王だと思っていたのに、実は魔王が竜王を操っていた。このような事例が多いのです。

 このとき魔王の情報がどこかに書いていなかったら後出しジャンケンになります。

 読み手が知らない情報を用いて強引に「解決」してしまうのでは、それまで小説を読んできた意味がないのです。

 どのようなジャンルにも「謎」はつきもの。「謎」が「提起」されない物語に面白さなんてありません。

『桃太郎』は大きな桃から生まれ、『竹取物語』は光る竹から生まれます。どちらも明らかに「謎」ですよね。

『シンデレラ』は「貴族」の家庭で継母や義姉妹から「下女」扱いされています。シンデレラも元々は「貴族」なのですからなぜ「下女」扱いされているのか「謎」ですよね。

 ウイリアム・シェイクスピア氏『ロミオとジュリエット』はなぜモンタギュー家とキャピュレット家が血で血を洗う抗争を繰り広げているのか。これも大きな「謎」です。

 賀東招二氏『フルメタル・パニック!』ではなぜ主人公の相良宗介がヒロインの千鳥かなめの指示に従っているのか。これも「謎」です。なぜ宗介は発煙筒を持っていて、なぜそれを使用したのか。これも「謎」です。




提示したら必ず解決する

 これらの「謎」の多くは「佳境」で明かされますが、中には次のシーンであっさりと「解決」させる物語もあります。

 それは物語を最後まで読ませるための「謎」ではなく、面白くされるための「謎」でしかないからです。そういう面白さを求めた「謎」はいつ「提示」してもよいし、いつ「解決」してもかまいません。「解決」はいつでもできます。ただし面白さを求めた「提示」は、読み手が飽きないうちに「解決」されなければなりません。

 ただ面白さを求めただけの「提示」を延々と何十年も引っ張ってしまったら、そのうち誰にも読まれなくなります。

 小説投稿サイトで連載がストップするのはよくあることです。そもそも毎日連載できるほどの暇人はそういません。しかし連載がストップするときの進行具合が問題になります。面白さを求めて「提示」された「謎」が「解決」されてから休止していればなんの問題もありません。

 面白さを求めた「提示」は、読み手の興味を惹きつける魔力を秘めています。しかしそれがいつまで経っても「解決」されないと、読み手に飽きられてしまうのです。

 連載が止まるのは誰にでも起こりえます。そのとき面白さを求めた「提示」がきちんと「解決」していれば、読み手はいちおうの満足感を持って続きを待っていられます。しかし「解決」していないと、いつ「解決」されるのかで焦れてしまうのです。期待だけが高まり、いっこうに「解決」されないのでは読み手に見限られてしまうおそれがあります。

 田中芳樹氏『アルスラーン戦記』はこれから「佳境」に入るぞ、というまさにそのときから長期休載となったのです。これに焦れてしまった読み手が殊のほか多かった。多くの人が物語を忘れてしまっていたほどです。もう手元にある「紙の書籍」を処分してしまった方も多いはず。そんな忘れられた頃に続巻が発売され、最終巻の予告もされたのです。

 結果として『アルスラーン戦記』は完結しました。これにより一度処分した「紙の書籍」を書い直した方もいらっしゃいます。なにを隠そう私です。「もう続きは書かないよなぁ」と思って処分してしまったのです。まぁ「紙の書籍」はすぐに変色してしまうので、長期保存には向いていませんけどね。もし残していたとしても、黄ばんだページをめくろうとは思わなかったかもしれません。それもあって既刊は「電子書籍」で買い直しました。同じ小説に何度もお金を払うのは好みではないのですが、どんな「解決」なのかが知りたいので致し方ありません。

「紙の書籍」での長期休載なら、お金を払っているぶん死ぬまで待っていられます。

 ですが無料で利用できる小説投稿サイトでの連載は何十万作品もあり、一度興味を失った読み手は二度と帰ってこないのです。

 可能であれば「提起」した「謎」がすべて「解決」するまで連載を途切れさせてはなりません。

 とくに「提起と解決」の物語なら、絶対に途切れてはならないのです。途切れた途端に読み手が急に読む気力を失います。

『アルスラーン戦記』が長期休載となっても、「提起と解決」の物語でなかったのと「紙の書籍」でこれまでお金を払っていたため、連載再開したときに大きく売れたのです。

 小説投稿サイトでは「提起と解決」の物語ならなおさら無料に読める環境なので、長期休載は生命線を自ら断ち切る悪手になります。

 あくまでも他の物語に小さな「提起と解決」を入れていくから、読み手は興味深く読んでくれるのです。




提起と解決で休載するには

『名探偵コナン』も休載する週が多くなりましたが、シリーズ中はけっして連載を落としません。必ずシリーズが完結してから休載し、次のシリーズが用意できたらまた連載される、を繰り返しています。だからこそ読み手は『週刊少年サンデー』で連載を追えるのです。もしシリーズの途中で休載してしまったら、おそらく読み手はすでに飽きてしまったでしょう。青山剛昌氏がきちんと連載をコントロールしているからこそ、読み手は次のシリーズを待てます。

 マンガの冨樫義博氏『HUNTER×HUNTER』はこれまで書いた悪手をかなり派手に打っているのです。『週刊少年ジャンプ』での連載ではネームがそのまま掲載されたりラフだけが描いてあったりでさんざんな出来。ですがそれを踏まえたコミックスが発売されるとなぜか売れていくんですよね。短期集中連載で、ある程度「提起と解決」の区切りをつけているからでしょう。しかし最近は「提起と解決」の途中で切れています。これではもうコミックスすら追わなくなる読み手が増えるはずです。いいかげん連載を終了したほうがよい。

 そもそも主人公ゴンの目的は「ハンターである父親のジンに会う」ことであり、それはすでに達成されているのです。これで連載を終わらせない理由はなにか。メインキャラクターの目的が達成されていないからでしょうか。それは主人公の目的が達成される前に果たしておくべきでした。先に主人公がゴールしてしまってから、後付けでメインキャラクターの目的を果たす連載が続くのは本末転倒。物語の構成を間違えています。

 もしかすると作者は、ゴンの目的が果たされたら連載が終われると思っていたのかもしれません。担当編集さんや編集部が「すべてを解決させてほしい」と懇願して無理やり描かせているような気もします。

 しかし前述したように「提起と解決」の物語である本作は、「ハンターである父親のジン」という「謎」から発したのですから、「ゴンがジンに会ったら終わる」べきでした。終わりどころを完全に見誤っています。誰が悪いのかは、部外者の私が言い当てることなどできません。ですがまずい手を打ったのはわかります。

「解決」したらそのまま終わるべきなのです。「解決」したのに終わらない物語なんて、コース料理を頼んでメインのステーキを食べ終わったのに、延々とデザートが出続けるようなもの。いつになったら食べ終えさせてくれるのか。満漢全席でもあるまいに。

『HUNTER×HUNTER』はこれ以上引き際を間違えないほうがよいでしょう。

 冨樫義博氏に新しい連載を任せたってよいではありませんか。

 すでに終了している「提起と解決」の物語をいつまでも引っ張るなんて悪手以外のなにものでもないのです。





最後に

 今回は「物語18.提起と解決」について述べました。

 皆様も「提起と解決」の物語を書くなら、「解決」したところですっぱりとエンディングまで持っていってください。 

 他の物語の中に「提起と解決」を混ぜるのなら、「提起と解決」が終わってから休載するようにしましょう。そうすれば読み手は次の「提起と解決」の物語を心待ちにしてくれるようになります。

 物語の性質を理解して、休載しても読み手が付いてきてくれる状態になら手を止めてもよいでしょう。



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