1254.学習篇:こうなりたい書き手を持つ

 前回は「師匠」でしたが、今回は「目標にする書き手」についてです。

 ちょっと意味合いが異なるので、あえて分けました。

 芥川龍之介氏のような書き手になりたいな、と明確な目標があれば指針になります。





こうなりたい書き手を持つ


 書き手にはさまざまな人がいます。兼業で執筆している人、専業で執筆している人。朝食を摂りながら書く人、夕食を終えて寝るまでの間に書く人。どれが正解なんてものはありません。

 しかしこれでは「小説を書く」のが漠然としすぎだと思います。

 具体的に「○○氏のような書き手になりたい」人を見つけてくると、執筆も意欲的になるでしょう。




なりたい書き手を設定する

 私たち「小説の書き手」は「目標とする書き手」を設定するところから始めるべきです。

 たとえば又吉直樹氏のように芥川龍之介賞を獲って三百万部売れる作品を書きたい。だから又吉直樹氏を「目標とする書き手」に設定するようなものです。

 田中芳樹氏のように、複数の連載すべてを人気シリーズ化させて、愛読者を増やしたい。それなら田中芳樹氏を設定してもかまいません。

 あなたにとって「なりたい書き手」は誰でしょうか。

 私は戦争小説を主に書きますので、司馬遼太郎氏や宮城谷昌光氏、田中芳樹氏あたりを想定していますが、とくにこれとは決めていません。今日から誰かを「なりたい書き手」にするのなら田中芳樹氏かなと思います。書きたい物語がたくさんあり、そのすべてをヒット作にできれば「小説の書き手」としては将来も万全でしょう。

 MMORPGに親しんでいれば今なら川原礫氏が最も理想的な「なりたい書き手」かもしれません。ゲームは好きだけどMMORPGには疎いので、その点で川原礫氏にはなれないなと感じます。

 もちろん三百万部売れる作品を書いてみたいものです。でもそれは『火花』のように単巻で達成しなくてもよいと思っています。連載小説でシリーズ累計三百万部なら、目指そうと思えば目指せるはず、と考えているのです。だから連載小説を多く書いている方を「なりたい書き手」に想定したい。だから田中芳樹氏かなと思っているのです。

 皆様も「なりたい書き手」は誰か、設定できたでしょうか。

「なりたい書き手」は前回お話しした「師匠」に通じるものがあります。

 あの人は「どんな作品を構想してきたのだろうか」とか「どんな連載をしてきたのだろうか」とか。「なりたい書き手」を「師匠」とすれば、あなたが書くべき作品も見えてきます。

 前述しましたが、川原礫氏なら「MMORPG」でしょうし、伏見つかさ氏なら「妹萌え」でしょう。

「好きこそものの上手なれ」

「なりたい書き手」はあなたの好みが如実に表れます。私は幼少時に『アーサー王伝説』を読んだため戦争小説が好きなので、それを書きたい。ひじょうに単純な理由です。




どの小説賞・新人賞を狙うべきか

 また「なりたい書き手」が明確なら、どの「小説賞・新人賞」を狙うべきかも見えてきます。

 ゲーム小説が書きたければ「電撃大賞」を、「剣と魔法のファンタジー」が書きたければ「ファンタジア大賞」を、ライトノベルの王道が書きたければ「スニーカー大賞」を狙えばよいのです。

 恋愛小説や日常小説はほとんどどの出版社レーベルを狙ってもウケます。だから開催されている「小説賞・新人賞」で恋愛ものや日常ものが求められているのなら、一作でも多く応募して回転効率をよくしましょう。

 すべての「小説賞・新人賞」に千作品応募されていると仮定すれば、大賞が獲れるのは〇.一パーセントです。しかし百の「小説賞・新人賞」に応募できれば、ざっくりとした確率なら一〇パーセントまで引き上げられます。(実際には受賞確率〇.一パーセントと、外れた九九.九パーセントの中の受賞確率〇.一パーセントを足したものが二回の大賞獲得確率になりますので、期待値はもう少し下がります)。

「なりたい書き手」はどんな作品を書いてきたのでしょうか。

『フルメタル・パニック!』の賀東招二氏は『甘城ブリリアントパーク』『コップクラフト』とデビュー作とは異なるジャンルへ果敢に挑戦しています。だから多彩なジャンルに挑戦したいなら賀東招二氏を「なりたい書き手」にしてもよいでしょう。

 その場合どの「小説賞・新人賞」を狙うべきなのか。「ライトノベルならなんでもよい」がいちばん狙いやすいのですが、次に狙うなら「SF」です。『フルメタル・パニック!』は「巨大ロボットが活躍する近未来SF」だったからウケました。小説で「巨大ロボット同士のバトル」は表現しづらいのですが、賀東招二氏は書ききったのです。もし四季童子氏の表紙絵・挿絵がなければ、単なる「SF」でしかなかった。このあたりにライトノベルの有利さが表れています。




ライトノベルの評価は絵師次第

 ライトノベルは作品として面白いのはもちろん、表紙絵・挿絵が読み手へ与えるインパクトもたいせつな要素なのです。

 そして「小説賞・新人賞」を開催している出版社レーベルには、お抱えの表紙絵・挿絵描きの絵師さんがいます。あの絵師さんに描いてもらいたいから、その出版社レーベルが開催する「小説賞・新人賞」を狙う、それも戦略のひとつです。

 もちろんあなたが絵を描けるのなら、自らキャラデザインしてもかまいません。

 しかし生業として小説を選んだ方は、絵に自信がないと思います。それなら絵師さんで出版社レーベルを選べばよいのです。もし理想とする絵師さんに描いてもらえなくても、出版社レーベルはテイストの似た絵師さんを多数抱えています。だから大きなハズレは引かないはずです。

 ライトノベルは作品と表紙絵がマッチしてこそ売れていきます。

 たとえば「なりたい書き手」に水野良氏を選ぶ。だから「剣と魔法のファンタジー」の王道を書けばよい、というほど単純ではないのです。

 その作品に誰が絵を描いてくれるのか。あなたの作品が売れるかどうかは絵師次第なのです。

 現在の書店では、ライトノベルはもれなくビニールでシュリンクされていて立ち読みできないようになっています。だから読み手は表紙絵で読みたい作品を選んでいるのです。

 さらに時代が「電子書籍」へ移行している最中ですから、「電子書籍」ストアで選ばれなければなりません。「電子書籍」のほとんどは「冒頭試し読み」ができます。だから読み手が惹かれる冒頭が書ければ、それだけで売れる──わけでもないのです。

「電子書籍」でも依然として表紙絵が「冒頭試し読み」の重要な役割を担っています。表紙絵に惹かれて「冒頭試し読み」し、面白そうなら購入ボタンをクリックするのです。

「電子書籍」ではタイトルや著者で検索して購読したい作品を決めます。だからベストセラー作家の作品は「電子書籍」でも売れるのです。

 駆け出しのライトノベル作家は検索では探せません。読み手はタイトルも名前も知らないからです。

 そこで新着一覧を見て、気に入った表紙絵ならひとつずつ「冒頭試し読み」して購読するかを決めます。購読する方の数が増えていけばランキングにも載りますから、そこでさらに表紙買いされていくのです。

 正直、ライトノベルの評価は絵師次第。

 読み手の好みの絵師でなければ、どんなに面白い小説もいっさい売れません。

 文芸小説・大衆小説のようなハードカバーの書籍の場合、ライトノベルとは異なりビニールでシュリンクされていないので、いくらでも試し読みできます。だからたとえ表紙が冴えなくても、タイトルと内容次第で売れていくのです。文芸小説・大衆小説は完全な書き手の筆力が売上に直結します。

 ライトノベルは「絵師」の影響力が大きいのです。

 どんなに面白い作品も「絵師」次第で売上に大きな差が生じます。

 だから描いてもらいたい「絵師」から「小説賞・新人賞」を選んでもかまいません。

 その後の書き手人生を大きく左右します。

 ライトノベルで勝負したい方は、そういう人生戦略・書き手戦略で、応募する「小説賞・新人賞」を狙ってください。





最後に

 今回は「こうなりたい書き手を持つ」について述べました。

「なりたい書き手」が明確だから、執筆する意欲が増すのです。

 前代未聞の作品を書きたいから「なりたい書き手」はいません。そんな方もおられるでしょう。しかし歴史と世界を考えれば、もはや「前代未聞」の作品は存在しないのです。たいていはすでに書かれており、惨敗したため文壇に名を残せなかっただけ。つまり「前代未聞」を意識すると、売れない作品ばかり書くようになります。

 すでに評価の高い書き手のようになりたい。だから明確なビジョンが描けるのです。



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