1250.学習篇:前回を読んでから続きに着手する

 今回はキリ番ですね。一万の八分の一です。

 って、一万まで連載するつもりはありませんからね。おそらくまもなく終わると思います。

 ただ、ちょっと「物語」について考えてみたいなとは考えているので、連載に詰まればそちらに舵を切る予定です。





前回を読んでから続きに着手する


 小説とくに連載小説では、毎日執筆するのでどうしても物語の継続性が薄れがちになってしまいます。

 ある程度書き溜めてから投稿するべきなのですが、そんなに待っていられないときもあるでしょう。

 そんなときは、執筆する前に先日書いたぶんを読んでから続きに着手してください。





昨日なんてすべて憶えていない

 よほど記憶力に自信のある方ならいざしらず、一般の方は昨日の出来事なんてすべて憶えていません。

 とくに小説を書いていると「前日書いた内容」と「これから書こうと思っていた内容」とが錯綜してしまいます。

「書いたのに書いていないと思い込む」「書いていないのに書いたと思い込む」

 これは必ず起こるものだと思ってください。

「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」と経ていれば「書いた」「書いていない」はまず間違えません。

 これらを経ずに記憶力を頼りに執筆しているかぎり「書いた」「書いていない」は錯綜します。

 大きな流れだけを決めて、各回の内容はその日の執筆に任せる、というスタイルで連載小説に取り組む方は、まず取り違えるでしょう。

 たいせつな「謎」を書いていないのに「書いた」と思い込むと、なんの面白みもない物語になってしまいます。

「謎」を書いたのに「書いていない」と思い込むと、同じ「謎」が二回出てきてしまうのです。しかも書くのはまったく同じ「謎」。読み手から「記憶力が悪いのか錯乱しているのかわからない」と思われます。

 連載小説は「今から書く内容」を考えるために、以前から「この先どんな展開にしようかな」と思索を巡らせているものです。だからどうしても「書いた」「書いていない」を取り違えてしまいます。

 記憶力があてにならない以上、なんらかの手を打つ必要があるのです。

 どんな手があるのでしょうか。




前回を読んでから今日のぶんを書く

 最も確実なのは「今まで書いたぶんをすべて読む」です。

 こうすれば「書いた」「書いていない」を取り違えません。

 この場合、短編小説ならまだしも、長編小説では毎日相当な分量を読んでから続きを書かなければならないのです。連載小説なんて「今日のぶん」をいつまでも書けない日々になってしまいます。

 そこで次善の策として「前回書いたぶんを読む」ようにしてください。

「今日のぶん」を書くときに、「昨日書いたぶん」がバッテイングしないよう、先に「昨日書いたぶん」を読むのです。

 たった一日ぶんでも、先に読んでから「今日のぶん」を書けば、最低限「昨日書いたぶん」と同じものは書かずに済みます。

「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」を経ていても、「昨日書いたぶん」を読み直してから「今日のぶん」に着手すると作品のトーンが統一できるので便利です。

 すべて書き終わってから分割して投稿していくスタイルで行くのなら、章が書き終わったら章単位で内容のまとまりを確認します。するとその章では「なにを書いていてなにを書いていないのか」が明確になるのです。

 小説にムダは要りません。まったく同じ内容を繰り返し書いても「手抜きだな」としか思われないのです。

 逆に「たいせつなものが書かれていない」なんてことも発生します。とくに伏線は、張ったと思い込んでいて実際には張っていなかったら、それは「謎」ではなくなるのです。唐突に「出来事」が発生してしまいます。

 たとえば「予震」が発生してから「本震」が起こるのが小説の展開です。

「予震」もなくいきなり「本震」が起こるなんてことは小説の展開ではあってはなりません。

「予震」も一度だけでなく二度でも三度でも発生させれば、誰もが来たるべき「本震」を迎え入れる準備を整えます。




伏線がないと読み手の期待を裏切る

 つまり小説で「鉄板の展開」をしたいのであれば、鉄板の「予震」を必ず書いておくべきです。

 たとえば「勇者の実の父親が魔王だった」という「本震」を起こしたいとします。それなのに「実の父親」にはそんな素振りがいっさいない、などあってはなりません。「実の父親が胡散くさい」とか「実の父親に不穏な動きが見られる」とか。必ず「予震」を起こすべきなのです。

 勇者が四天王と戦って辛くも勝利する。そして満身創痍のまま魔王のもとへたどり着いた勇者が見たのは「実の父親」の姿だった。

 これ、事前に「実の父親」が怪しい人物として描かれていなければ、唐突もよいところです。

 読み手は全員ぽかんと口を開けて「なぜ?」と思います。そして「書き手に裏切られた」と感じるのです。

 読み手は書き手の語りをすべて信じてここまで読み進めてきました。それなのに「実の父親」が魔王だったような素振りがなにも書かれていなかったのです。

 書き手としては「読み手の意表を突いてやろう」と考えたのかもしれません。しかし読み手は意表を突かれるより「裏切られた」と感じます。

 小説は書き手の創作物ですが、読み手との共同作業で世界観が築かれていくのです。つまり読み手も物語の展開を「伏線」からあらかた織り込みながら小説を読んでいます。「伏線」もなしに「実の父親」が魔王だった、なんて物語が展開してしまったら、共同作業者として相方つまり書き手を信じられなくなってしまうのも当然です。

 そうなってしまうと、読み手はその小説をもうそれ以上読みたくなくなります。

 書き手に「裏切られた」からです。

「よい裏切り方」というものもあります。

「廃都に住む老人が魔王だ」と偽情報を与えておいて、いざその老人と戦う段になって「儂はお前の父から魔王役をやれと言われていただけだ」なんて言わせてしまうのです。

「実の父親」をさんざん怪しい素振りで書いておき、それでも「廃都に住む老人が魔王だ」という偽情報で読み手の思考にバイアスがかかる。しかし怪しい素振りを見せていた「実の父親」こそが魔王だったと知ると、読み手は痛快な気持ちになります。

 これまでさんざん前フリを読んできたのに、今の今まで「実の父親」が魔王だったなんて気づきもしなかった。これは一本とられたな。

 これが清々しいまでの「よい裏切り方」です。

「伏線」はしっかりと読み手に示しているのに、偽情報を信じ込ませて巧みにミスリードする。ミステリー小説に多く見られる裏切り方です。

「剣と魔法のファンタジー」だとラスボスの正体が最大の「謎」であり、それをどう倒すかに知恵を絞ります。しかし最大の「謎」そのものを勘違いしていたら。しかも「伏線」は至るところに書いてある。読み手の「うっかり」にも程があります。だから読み手は「これは一本とられたな」と思うのです。

 通常「剣と魔法のファンタジー」ではラスボスの正体をミスリードするケースはあまりありません。原稿用紙三百枚・十万字の物語にしては手が込みすぎているからです。怪しい素振りを書きまくり、偽情報でミスリードし、最終決戦で正体を現す。十万字ではギリギリ書けなくはないのですが、かなり周到に計画を立てていないとすぐに破綻します。そのくらいギリギリの展開なのです。

 だからこそ「よい裏切り方」をした物語は読み手から高く評価されます。

 読み手は「俺をだませたんだからたいしたもんだよ」と長州力氏のような気持ちが湧くのかもしれません。


 このように「伏線」をしっかり張ったかどうかを、今日執筆する前に確認するようにしてください。

 前回しっかりと「伏線」を張ったと確認したら、今日のぶんを書くのです。

 確認もせずに書くような真似をしていると、いつか痛い目に遭いますよ。





最後に

 今回は「前回を読んでから続きに着手する」について述べました。

 どんなに筆致がすぐれていようと、矛盾や重複があると物語の評価は下がります。

「実の父親が魔王」の例で、いかに「伏線」がたいせつかおわかりいただけたでしょう。

「書いた」「書いていない」をすべて憶えるのは不可能に近い。

 よほど記憶力に自信があるのならそれでもよいのですが、ほとんどの方はそけほど記憶力はよくありません。

 とくに連載小説は、先々の展開を考えながら当日ぶんを執筆します。「書いた」「書いていない」が「先々の展開を考える」ときごちゃまぜになってしまうのです。

「伏線」管理用のチェックリストを作るのがいちばん確実でしょう。これなら「何話であの伏線を書いた」と視覚化できます。「書いた」「書いていない」も混同しませんよ。



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