1212.技術篇:未来は過去から分析するしかない

 小説は「未来を読んで」書かなければ、タイムリーな作品にはなりません。

 しかし「未来を読める」方はほとんどいません。占い師とか超能力者とか、そういった特殊能力を持っているなら話は別ですが。

 そこで私が提唱したいのが「過去を分析して未来を予想する」方法です。





未来は過去から分析するしかない


 私たちは現在を生きています。しかし小説が世に出るのは、執筆してから幾分未来です。

 少なくとも小説を書きながらリアルタイム投稿できる機能は、小説投稿サイトに備わっていません。

 お絵かきであれば『pixiv』にチャット機能がついていてお絵かきのライブ配信も可能となっています。

 しかし小説にはそんな機能はまずつかないでしょう。

 絵は細部の手直しをしても見た目ではほとんど変わりません。しかし小説は細部の表現を手直しすると全体から受ける印象そのものが変わってしまうからです。




小説は未来を書く

 多くの書き手が勘違いしています。

「小説は今を切り取った作品が一番を獲る」

 これは一面合っていそうですが、正確には誤りです。

「小説は読まれる時点を想定して書き、未来と適合した作品が一番を獲る」

 つまりトップランカーになるのは「未来予知」ができないとまず達成できません。

 ある程度有名になると、書き手が「未来のブームを創り出す」因子ともなります。しかし駆け出しの書き手は「時流を読んで、未来を予測する」だけの眼力が求められるのです。

 小説は執筆と公開までにどうしてもタイムラグが生じる芸術です。

 たとえば今つまり2020年6月に執筆を開始したとして、長編小説一本を丸一年かけて書いたら、発表するのは一年後の2021年6月になります。この一年で世の中にはさまざまな事件・事故が起こります。それがよい内容であろうと、凶悪な事件であろうと、あなたが書いている小説を左右する出来事は起こりうるのです。

 これは時事性のある「テーマ」で小説を書いている際には「壁」となって立ちはだかります。

 たとえば「アニメスタジオを舞台にした青春小説」を書いたとします。アニメの『SHIROBAKO』のようなものです。しかし『京都アニメーション放火殺人事件』が起こりました。これにより「アニメスタジオを舞台にした青春小説」を「小説賞・新人賞」へ応募しづらくなるでしょう。

 もちろん「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」の時点ではそのような事件は想定できません。しかし執筆時に事件が起こってしまったら、その作品をどうするのが最適なのか。判断できる方はまずいらっしゃいません。

 舞台を変えて同じ展開にもできるでしょう。あえて当初の「企画書」どおりに書き進める手もあるでしょう。たとえ九割方完成していたとしても、すべて破棄するのも有力な選択肢です。


 だからこそ、小説は完成したときの時流・事件・事故などを想定あるいは予知して、それにふさわしい作品を書かなければなりません。

 想定・予知は、見据える未来が近いところにあるほどやりやすい。

 ひとつの長編小説を書くのに丸一年かかる方は、発表される一年後を想定・予知しなければなりません。しかし一か月で書けるのなら、一か月後を想定・予知して書けばよいのです。つまり予知する未来がより近くなります。一年は無理でも一か月くらいなら、情報収集である程度の想定・予知は可能ではないでしょうか。

 もちろん突発的な事件・事故を想定・予知するのは不可能です。

 しかしそういったものが介入する時間的な余地を与えなければ、予知する必要なんてありません。

 だから速筆は小説を書くうえでとても有利なのです。

 たとえば丸三日で三百枚・十万字が書けるなら、できるだけそうしてください。丸一年かけて傑作を仕上げようとしても、未来の流行りなんてわかりようもありません。しかし三日後の流行りならだいたい想像がつきませんか。ほとんど今と変わらないはずですからね。




過去に学ぶ未来予知

 未来を想定・予知するには、方法論があります。

「過去に学ぶ」のです。

 以前「温故知新」について語りました。「故きを温めて新しきを知る」ですね。

 小説のトレンドを想定・予知するにも、過去から多くを学べます。

 たとえば同じ「小説賞・新人賞」の募集が始まる頃になったら、前回の大賞作・佳作を読めば去年のトレンドがわかるのです。しかしわかるのはあくまでも去年のトレンドであり、それを取り入れても一年後れの作品しか書けません。

 小説は存外トレンドの転換が激しい芸術です。去年のトレンドが今年も通用するとはかぎらない。というより、まず通用しません。

 ではなぜ「過去に学ぶ」のでしょうか。

 過去がわかれば、それをひねってアレンジしたり微妙に避けたりして、目新しい作風で小説を書けます。

 過去は避けるために存在するのです。

 よく前回の大賞作の「テーマ」や作風をそのままパクって応募する方がいます。

 それでは大賞は獲れません。

 たいていの「小説賞・新人賞」の募集要項に「これまでにない斬新な作品を求む」と書いてあります。

 つまり去年の大賞作に似た作品を書いても、今年は受賞できないのです。

 受賞できない作風がわかるから「過去に学び」ましょう。

 できれば遡れる最古の受賞作まで目を通してください。

 芥川龍之介賞であれば、たいてい書店や電子書籍で販売されていますから、買って読みましょう。古本屋や『Kindle unlimited』なら安価で読めます。とくに芥川龍之介賞作品は「紙の書籍」が大量に売られるため、買取を拒む古本屋もあるほどです。買い取られたとしても売価は百円。まぁ読んだら資源ごみで捨てるくらいしか処分方法はありませんけどね。

 読んだらノートに作品の特徴を書き出していきましょう。

 いつの時代の物語だったのか。どこの国や地域が舞台だったのか。どんな主人公や「対になる存在」が登場したのか。主人公はなぜそうこうしどうしたのか。物語の展開はどうなっていたのか。

 そういったものを記録として残しておけば「それらを避ければ過去の受賞作とはかぶらない」作品が見えてきます。

 必要によってはマトリクスを作り、大賞を獲っていないエリアを見つけ出すのもよいでしょう。もしすべてのエリアが埋まっていたとしても、作品数の少ないエリアなら見つけられます。

 これが「過去に学ぶ」です。

 選考さんに「これはあの作品に似ている」と思われないためには、過去の受賞作とはかぶらない物語を書きましょう。

 未来はわからないものです。しかし過去を回避すれば自ずと未来に求められる作品のトレンドも見えてきます。


 人間は過去から教訓を学ぶ生き物です。そうやって猛獣や荒天から身を守ってきました。食糧を調達する方法も確立し、安定供給されるようになると人口が爆発的に増えます。そうなればあとは弱くても数で圧倒できるのです。

 小説も過去から教訓を学びましょう。過去にどんな作品が大賞を獲ったのか。佳作にとどまった作品は大賞となにが違っていたのか。事前にわかっていれば、次の募集時つまり未来に書くべき作品が見えてきます。

 見えてこない方は分析力が足りないのです。

 小説を書くうえでいちばんたいせつなものは表現力でも構成力でもありません。分析力です。

 次の「小説賞・新人賞」でウケる作品とはどのようなものか。その分析を前もって行なっていれば、大賞の獲れる作品が見えてきます。それを構成して物語にするのが構成力です。表現力は小手先のテクニックにすぎません。

 現在だけでなく過去の作品も分析しましょう。そうすれば未来が見えてきます。

 分析力があれば必ず未来が見えてくるのです。

 気づかなかったものに気づけたら、他の書き手の一歩も二歩も先を行けます。

 いかにして他の書き手を出し抜くか。

 それが大賞を獲る確率を高めてくれます。





最後に

 今回は「未来は過去から分析するしかない」について述べました。

「小説賞・新人賞」を獲るのが私たち書き手にとって第一の目標でしょう。

 大賞を獲って「プロ」デビューする。そして受賞作でファンを集めて「紙の書籍」を売り、次作の構想を練りながら連載を続けていくのです。

 大賞を獲るには、そのときのトレンドを知らなければなりません。

 しかし来年のトレンドは今から把握できません。ですが過去ならいくらでも分析できます。それなら過去を分析し、未来を推測するしかないのです。

「温故知新」はいつどの職業の人にも有用な言葉です。



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