1211.技術篇:読み手にテーマを考えさせる

 今回は「テーマを考えさせる」ことについてです。

 小説には「テーマ」がある。それは当たり前です。

 しかしよい小説とは「テーマ」を提示するだけでなく、それについて考えさせるように出来ています。





読み手にテーマを考えさせる


 書き手は小説を通して読み手に「テーマ」を突きつけます。

 このとき読み手が「テーマ」を考えるきっかけを作れるかどうか。

 それがタメになる小説か、なんの共感も抱けない作品かを左右します。




小説にはテーマが不可欠

 これまでも「テーマ」について幾度となく書いてまいりました。

 読み手が小説を読むのは、提示された「テーマ」が自分のタメになるかならないかを吟味し、タメになると思っていれば先を読むのです。

 前回「小説はサバイバルブック」だと書きました。それも「物語世界を生き残る術を書いた書物」としての小説の一側面です。そこはどのような世界で、どのような脅威に満ち、どのように撃退すればよいのか。その手順が記されている書物こそ、あなたが読んでいる小説だからです。

 このように「サバイバルブック」であれば「生き残る術」を知るために書物を読むきっかけを作れます。

 物語には他にもさまざまな「テーマ」があります。

「恋愛」なら「恋愛成就」もあれば「悲恋」もある。

「推理」なら「密室殺人」もあれば「時間差殺人」もある。

 これらは「テーマ」というより「題材」です。しかし「テーマ」はもっと根源的なものになります。

「恋している人に受け入れられたい」「強い者は凶暴な者から人々を守らなければならない」中には「推しに武道館でライブしてほしい」なんてものもありましたね。

 人々は「テーマ」に「願望」「規範」を求めます。

 なにがしかの夢やあり方を見出だすのが小説であり、物語なのです。




テーマは夢になる

 男性なら一度は憧れる「世界最強」の存在。そんな夢のような存在になれるのが「主人公最強」「俺TUEEE」「チート」「無双」の類いです。

 そして多くの男性は、いつになっても「世界最強」でありたいと夢見ています。

 スポーツで世界一になろうとしますし、今ならeスポーツで世界一も目指せるのです。

 でも現実は、世界最強なんてなろうとしてなれるものではありません。

 たいていの男性は自身に限界を感じて夢をあきらめます。

 しかし「主人公最強」の小説を読むと、昔挫折した夢が蘇るのです。

 だから「主人公最強」系の小説は今も小説投稿サイトでランキング上位に存在します。

 では女性はなにに憧れるのでしょうか。もちろん男性のように「世界最強」を目指している方もおられます。しかしたいていの女性は「誰かにとっての最高」になろうと努力するものです。

 異世界が舞台だとしても、男性なら「剣と魔法のファンタジー」を望みます。女性は『ロミオとジュリエット』や『白雪姫』など「恋愛」「悲恋」要素のある物語を望んでいます。小説家になろうなら「恋愛」ジャンルの「異世界恋愛」「現実世界恋愛」ですね。主人公が努力して自分を磨き、誰かの一番になる。

 女性は現実の「自分磨き」に気を配るけど、男性は理想の「世界最強」だけしか見えていない。

 このふたつをミックスすると、ふたつの物語が生まれます。

 ひとつは「最強の主人公」が理想の女性と結婚する話。

 もうひとつは「自分磨き」に余念がない主人公が、最強騎士と結婚する話。

 ともに「異世界ファンタジー」「異世界恋愛」では定番です。男性・女性それぞれの「夢」が詰まっています。

 読み手の「願望」を文章にして読ませれば、その作品は「夢」になるのです。




テーマは規律になる

 小説の中で罪人が処刑される。

 こんなシーンがたったひとつあれば「悪さをしたら処罰される」と読み手へ伝えられます。

 学校に遅刻しそうになって、焼きたてのパンを加えながら道を走っていたら、十字路で好みの男性とぶつかってしまう。

 こんなシーンがたったひとつあれば「慌てていればよい男性と知り合える」と錯覚するのです。

 まぁ小説のワンシーンを読ませただけでは、読み手のマナーをすべて整えられません。ですが因果はめぐります。いつか似たような場面に遭遇しないともかぎらない。

 もし似たような場面に遭遇したら、すでに頭の中でストックしてあった行動しかとれなくなります。「コラムNo.1200」で運転手が急死した自動車を路肩へ安全に止めた話をしましたよね。あれもそういう状況に遭遇したらどうしようか、事前に頭の中でストックしてあったのです。

 小説であろうと、状況に対する適切な対処が書かれてあれば、読み手はその行動をとれます。

 つまり物語の形で状況で実行するべき「プログラム」を脳内へインストールしておくのです。




文章には魔力がある

 書き手の多くは忘れがちな事実があります。

「文章には、読み手の思考を変える魔力がある」のです。

 たとえば強国から攻め込まれたとき、檄文を飛ばして周辺諸国から援軍が呼べるのも、文章の力なのです。

 その檄文には「もし私たちが負けたら、次はあなたの国の番ですよ」と書くだけでよい。たったそれだけで周辺諸国は援軍を出してくれます。

 これは中国戦国時代に実際行なわれていたのです。「戦国七雄」の中で最強の秦に対して他の六国が団結して立ち向かう。これを「合従策」と言います。たとえ一国でも秦に敗れれば、次はあなたたちの国が狙われる。縦横家・蘇秦そしんが六国をこのように説き伏せて対秦連合を築きあげました。

 古代中国では、それぞれの国の君主へ当てて上奏文をしたため、仕官を求めた「ぜい」という職業があったのです。今風にいえば「君主を説得」して就職口を探していました。しかもただの就職ではなく、君主の顧問になるためです。当時の就職活動はとても野望が大きかったのですね。その代表格が『論語』で知られる孔子とその弟子たちです。彼ら儒家は「三皇五帝」の政治を拠り所にした政治を目指していました。当時の君主たちがその道から外れそうになると「それは先帝の教えに反します」と言って改めさせたのです。

 当時の中国では重職に就くため、「説」はさまざまな著書を携えていたとされています。世界最古にして最強の兵法書『孫子』も孫武が諸国へ仕官先を探すためにしたため、呉王闔閭こうりょと謁見する際に献上したものとされているのです。口先だけで仕官できる時代はとうに過ぎていました。


 このように「文章には魔力がある」のです。

 適切に書けば百人力、いや大国の庇護さえ受けられます。

 反対に全世界を敵にまわすことだってできるのです。





最後に

 今回は「読み手にテーマを考えさせる」について述べました。

 小説は物語の形で「テーマについて考えさせる」機能を有しています。

「テーマ」を読み手に伝えるだけが小説の役割ではない。

 そこから「テーマについて考えさせれ」ば、小説が人生を左右する一冊にもなれます。

 ただの娯楽で終わるのか。人生についても考えさせられるのか。

 その差が凡作と傑作の分かれ道かもしれません。

 文章の持つ「魔力」を最大限に活かしましょう。



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