1213.技術篇:型破りは型を知らなければできない
今回は「型破り」についてです。
「小説賞・新人賞」で大賞を獲るのは決まって「型破り」な作品です。
ですがどのような作品が「型破り」なのか。
型破りは型を知らなければできない
「小説賞・新人賞」で大賞を獲るには「型破り」な作品がよいとされています。
その一点だけをもって、これまでの創作法をすべて否定する方もいらっしゃいます。
それは誤りです。
「型破り」は「型」を身につけていなければできません。
まず型を修める
小説に限らず、技能は「型」から始まります。
野球でキャッチボールから始める。サッカーやバスケットボールでドリブルから始める。バレーボールでレシーブから始める。
いずれも「型」から憶えていきます。
イチロー氏だって大谷翔平氏だって、リオネル・メッシ氏だってクリスチャーノ・ロナウド氏だって、八村塁氏だって錦織圭氏だって大坂なおみ氏だって。とうてい「型」にハマらないような名選手も、スタートはすべて「型」から入っています。
「型」を無視しても技能は正しく身につきません。
最初から「型破り」な存在になりたいからと「型」を目の敵にする人もいます。
たとえばパブロ・ピカソ氏のような絵が描きたいから、キュビスムの技法から入ろうとする方がいらっしゃるのです。
しかしそれではパブロ・ピカソ氏のような画家にはなれません。
パブロ・ピカソ氏でさえも当初はとてもきっちりとしたデッサンを描いています。ある種の心境の変化によってキュビスムへと舵を切り、デッサンを超越した画風を確立したのです。
つまり「型」がしっかりと身についていたから「型破り」はできました。もし最初からキュビスムの画風で描いていたら、今の名声はありえません。デッサンの基礎がなければ単なる「デタラメな絵」にしか見えないからです。一見「デタラメ」に見えながらも、実はきちんと計算されたデッサンの上に成り立っている。だからキュビスムは価値を持つのです。
型から型破りへ
「型破り」な作品を書きたければ、「型」をたくさん知るところからスタートしましょう。
小説投稿サイトは「型」がたくさん収められているのがよい点です。
とくに各ジャンルのトップランカーたちは、ほとんど同じ「型」を使っています。だからそのジャンルで「型破り」な作品が書きたければ、トップランカーたちが使っている「型」を知るべきです。
まずは作品を読み比べてどのような「型」が存在するのかを見つけ出します。
次に「型」に則った作品を書いてください。できるならそれを小説投稿サイトへ掲載してみましょう。
「型」どおりに書けたら、ある程度の閲覧数・ブックマーク・評価が得られます。それほど得られなかったら、まだ「型」が身についていない証です。結果を焦らず、じっくりと「型」の習得に取り組みましょう。
野球でいう打率三割・ホームラン三十本・三十盗塁の「トリプルスリー」を目指すには、基礎の「型」がそれぞれのレベルで相当高くなければ不可能です。
もし閲覧数・ブックマーク・評価で満足のいく成果があげられたら、そこからひとつずつ「型」から外していきましょう。
王貞治氏が一本足打法を身につけ、イチロー氏が振り子打法を編み出したように、自分の書きやすい方法を手探りで見つけ出していきます。
すでに基本である「型」は身についています。だから焦らず、自分の納得のいく「型破り」を築いていけるのです。
なかなか思いどおりな「型破り」が生まれないかもしれません。
ですが模索を繰り返していれば、いつか必ず思いどおりな「型破り」は生まれます。
その「型破り」こそがあなたの文体や作風となるのです。
どうあがいても望みどおりの「型破り」が生まれなかったら、今度は他の「型」を習得していってください。あらゆる「型」に精通すれば、きっと今まで思いもしなかった「型破り」が生み出せます。
基礎は数多く知っておくべきです。それがあなたの筆力の土台となります。
なにごとも基礎ありき
白鳥は一見優雅に水面に佇んでいますが、水の中では絶えず足を動かしています。
「プロ」の小説家も一見華麗な表現力を難なく使っているように映りますが、その表現に落ち着くまで絶えず推敲を繰り返しているのです。
私たちは結果でしかその人を判断できません。
たとえ「プロ」が一文一字に魂を削っていたとしても、読み手にはそんな努力が伝わらないのです。
洗練された表現力を鍛えるためには、基礎である推敲あるのみ。
もし推敲を疎かにしたら、「プロ」であっても酷評されます。
一度酷評されたら、名誉を取り戻すのにかなりの時間と労力が奪われてしまうのです。
だから「プロ」は生活を懸けて推敲に勤しみ、けっして酷評されないよう不断の努力を重ねます。
私たちアマチュアは日銭を稼ぐために小説を書いていません。だから酷評されようと生活に支障は来しません。だからといって推敲を怠らないようにしましょう。
推敲は文章を書くうえでは「基礎中の基礎」です。
推敲していない文章は、とても読めたものではありません。
伝えたい「テーマ」を読み手に届けるには、書きっぱなしでは不可能です。
文章を書く基礎は推敲であって、華麗な表現力ではない。
華麗な表現力があれば、読み手に「テーマ」が伝えられるわけではないのです。
仮に推敲前の作品を投稿し、推敲後の作品も投稿すれば、評価されるのは「推敲後の作品」になります。
綺羅びやかな表現力は、単調な文脈を飽きさせないためにあるのであって、それだけで物語が面白くなるわけではない。
基礎はあくまでも「わかりやすい文章」で「伝わる文章」なのです。
最後に
今回は「型破りは型を知らなければできない」について述べました。
「小説賞・新人賞」はつねに「型破り」な作品を求めています。
ですがなんの裏づけもない「型破り」は存在しません。
まず基礎の「型」を磨き、それが馴染んでから、少しずつ「型を破って」いきましょう。
そうすればいずれ「型破り」な作品が書けますよ。
「守破離」という言葉があります。
師匠や流派の教え・技や型を忠実に身につける「守」、他の師匠や流派の教え・技や型を知り、よいものを取り入れる「破」、一つの流派から離れて独自の新しいものを生み出す「離」。
この「守破離」こそ「型破り」の極意なのです。
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