1207.技術篇:読んでわからない作品は書き手がどヘタ

 今回は「わからない作品は書き手がヘタだから」についてです。

 古典はわからなくてもありがたがりますよね。そういう歴史があるからです。

 今を生きる書き手が、今の読み手に「テーマ」を伝えらないのでは「どヘタ」と言われて当然です。





読んでわからない作品は書き手がどヘタ


 古典を読んでわからなければ、読み手に知識がないのです。だから古典を理解できるまで勉強しましょう。今も読まれる古典は、読まれるだけの含蓄が必ずあるのです。

 では今活躍している書き手の作品を読んでみてわからなかったらどうでしょうか。読み手に知識がないのではありません。書き手がどヘタなだけです。




古典はタメになるから生き残る

 基本的に古典は「タメになるから生き残り」ます。なんの意味もない古典はそもそも後世に語り継がれません。

 たとえば中国の春秋戦国時代に「百家争鳴」した諸派の作品のうち、現代まで残っているものは数少ない。兵家だと『孫子』『呉子』『孫ピン兵法』くらいしか残っていません。その他百数十の古典があったとされていますが、現代で確認できるのはこの三つだけです。

 なぜこの三つだけが生き残ったのでしょうか。

「タメになるから」です。

 まず世界最古であり最高であるとされる『孫子』は、紀元前五百年ほどの作とされます。なんと二千五百年以上も語り継がれてきたのです。『呉子』はそれから数十年後の作とされます。こちらも息が長いですね。『孫ピン兵法』は、当初『孫子』と混同されていましたが、一九七二年に中国銀雀山漢墓で出土されて別物であると確認されました。だいたい千七百年くらいの空白期間があっても、現代に語り継がれたのです。

 これらは「タメになるから生き残り」ました。

 他の兵家は一篇たりとも残されていません。それだけの価値がなかったのです。

 中国の兵書には他に五つあり、合わせて『武経七書ぶけいしちしょ』と呼びます。このうち春秋戦国時代に書かれたのは『孫子』『呉子』のふたつのみです。残りの『司馬法』『六韜』『三略』『尉繚子』『李衛公問対』はいずれも秦代漢代以降に編纂されました。この七つが残されたのは宋代の武官養成テキストに選ばれたからです。つまり「タメになるから生き残り」ました。

 つまり現代まで生き残った古典は、それにふさわしい「タメになる作品」なのです。

 それが理解できないのは、読み手側に知識がないから。だから勉強して知識を増やしてから改めて古典を読んで理解できるようになりましょう。




今の作品がわからなかったら

 対して「今活躍している書き手の作品」を読んでみてわからなかったら、それは書き手がどヘタだからです。

 なぜか。読み手と同じ時代を生きているのに、読み手がわかるように書けていないのです。だから書き手がどヘタだとすぐにわかります。

 同時代なのにわからない作品が「テーマ」を正しく伝えられるものでしょうか。

 まず無理ですね。

 書き手は現代の読み手が理解できるように、噛み砕いて表現する工夫をしてください。

 その労力を惜しんで、尊敬する「文豪」の書き方を真似ているだけでは、いつまで経っても「プロ」にはなれません。

 たとえば川端康成氏の書き方を真似ているだけでは、「川端康成氏の真似がうまい」評価しかされません。

 村上春樹氏は英文の小説を数多く翻訳しているため、どうしても英文直訳のスタイルで書いてしまうのです。だから村上春樹氏の作品はわかりにくい。シンパシーを感じるのは、英文小説を好んで読む方くらいではないでしょうか。

 さらにその熱狂的ファンである「ハルキスト」が村上春樹氏の書き方を真似るたら、それは「村上春樹氏の真似がうまい」評価になります。ただでさえわからないものが、さらにわからない作品になってしまうのです。

 芥川龍之介賞最大のヒット作・お笑い芸人ピースの又吉直樹氏『火花』。彼は太宰治氏の熱烈なフォロワーであると自称しています。しかし太宰治氏の書き方を真似していません。『火花』は又吉直樹氏流の文章で書けています。見据える「テーマ」が太宰治氏と同じでも、書き方まで真似てはならないのです。それでよければ早晩AIが小説を書く時代になるでしょう。

 今を生きる書き手は、その人流の文章で読み手に「テーマ」が伝わるよう書かなければなりません。過去の読み手に読んでもらうなんて、タイムマシンでも感性しないかぎり不可能です。未来の読み手を見据えてなら書けます。しかし今受け入れられないものが後世に語り継がれるものでしょうか。『孫子』は二千五百年後の未来を生きる私たちに語り継がれてきました。しかし編纂された春秋戦国時代当時に価値を見出だされていなければ、その時代で消滅していたはずです。

 つまり未来の読み手を想定したとしても、今を生きる読み手にウケなければ生き残れません。たとえば百年後の未来の人に読んでもらいたいとします。しかしその作品が百年後まで語り継がれているなんてまずありえません。「文豪」のように名の知れた書き手の作品なら百年後でも二百年後でも生き残ります。しかしただのライトノベルが百年後も生き残れるはずがないのです。

 生き残るには「マルチメディア戦略」にハメるしかありません。




マルチメディア戦略で生き延びる

 マンガの原作になった。アニメの原作になった。映画の原作になった。

 これならそのマンガやアニメや映画が百年後まで受け継がれていれば、原作のライトノベルも生き残る可能性が高いのです。このようにひとつの原作を他メディアに展開することを「マルチメディア戦略」と呼びます。

 たとえばライトノベルの祖である水野良氏『ロードス島戦記』もOVAとなりテレビアニメとなりマンガ化されて現代まで受け継がれてきたのです。そして二〇一九年八月に新作『ロードス島戦記 誓約の宝冠1』が発売されました。これにより『ロードス島戦記』は実に三十年の時を生き延びてこられたのです。

「継続は力なり」を地で行くのが栗本薫氏『グイン・サーガ』。一九七九年に第一巻『豹頭の仮面』以来現在まで連載が続いています。栗本薫氏本人は二〇〇九年に死去しているのですが、後輩作家二名によって連載が引き継がれています。つまり栗本薫氏だけで三十年、後輩作家が十一年の合わせて四十一年も語り継がれているのです。『グイン・サーガ』はアニメ化もされており、「マルチメディア戦略」にもハマっています。こんな小説は他に類を見ません。

 アニメで考えると富野由悠季氏『機動戦士ガンダム』は一九七九年に放送が始まったため『グイン・サーガ』と同じく四十一年続いています。

 さらに上を行くのが『宇宙戦艦ヤマト』でこちらは初代が一九七四年ですから、最新作『宇宙戦艦ヤマト2202』まで実に四十五年も続いているのです。

『ガンダム』にしろ『ヤマト』にしろ、当時の子どもたちを夢中にさせたので四十年以上も続編が創られる作品となりました。

 小説も『ロードス島戦記』のように「マルチメディア戦略」によって再浮上してくる作品があります。

 たとえば田中芳樹氏『銀河英雄伝説』は一九八二年に連載がスタートし、のちにアニメ化、マンガ化、コンピュータゲーム化などの「マルチメディア戦略」がハマってファンを加速度的に増やしていきました。そして近年再アニメ化、再マンガ化されたことで、新規の若年ファンもとりこにしました。三十八年間にわたり愛されてきた作品なのです。




今の読み手にウケないで未来は望めない

 小説にしろマンガにしろアニメにしろ。絵画や彫刻や映画など。

 創作と呼ばれる作品は基本的に「今の受け手にウケなければ未来には続きません」。

 稀に生前は評価されず、死後再評価された書き手もいます。

 しかしあなたは生きている間に評価されたいですよね? まさか死後に再評価されてビッグヒットしているのを天国から眺めていたいわけではありませんよね?

 それなら「今を生きる読み手にウケ」なければ意味がないのです。

 そしてスタート地点は早ければ早いほど有利になります。

 なにせスタート地点で評価されなくても、五年後、十年後、二十年後に再評価される可能性がないではありません。たとえば二十年後に再評価されるとして、あなたのスタートが七十歳ならもう九十歳になってしまいます。これでは新作なんてまず不可能ですよね。これが十五歳スタートなら三十五歳で再評価になりますから、以後平均寿命八十歳まで四十五年も第一線で活動できます。

 だから小説を書きたいなら、今すぐ書くべきなのです。たとえ今評価されなかったとしても、五年後に再評価されればよしとする。ですが、できれば今評価される作品を書くべきです。毎作「今評価されよう」と書いているから、いつか読み手の需要と合致する作品が書けます。

 再評価はあるとしても、それに頼ることなく、今をなんとかしてください。

 今ウケない小説は未来へ語り継がれません。死後再評価されてもあなたにはそれがわからない。

 実感したいなら、結果を出すのは「今」しかないのです。





最後に

 今回は「読んでわからない作品は書き手がどヘタ」について述べました。

「時代を超えて語り継がれる」物語というものは確かにあります。

 しかしそれは発表された当時「今」にウケたから今日まで生き延びてきたのです。

「今」ウケなくていつ評価されるのか。死んでからでは遅いですよ。

 今を生きる読み手にウケる作品が書けなければ、生きている間に評価などされません。



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