1196.技術篇:ネタバレするな、ネタバレを恐れるな

 今回は相反するものを対比で書きました。

 ネタバレは怖い。だから避けたい。でも恐れてはならない。

 小説を書くのは、「ネタバレ厳禁」でも「ネタバレを恐れない」心構えが必要です。





ネタバレするな、ネタバレを恐れるな


 小説を書いていて、物語の途中でネタバレしてしまう。ない話ではありません。

 しかし回避できるネタバレもあります。

 そう「企画書」「あらすじ」と進めていれば、盛り込む出来事エピソードはコントロールできるのです。そして「箱書き」で具体的な出来事イベントを決めるわけですが、ここまでくれば、まず結末は「ネタバレ」しません。

 意図的にネタバレしたいという奇特な方を除いては。




ネタバレで興醒めされる

 小説は「先が読めない」からこそ楽しめるのです。

 もし読んでいて「これってこういう結末だろうな」と気づかれてしまったら。

 それは書き手であるあなたの「構成力」が足りなかった表れです。

 私は「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」を経てから本文を執筆するよう説いてきました。場数を踏むことで「構成力」が鍛えられるからです。

 読んでいてワクワクする小説は「構成力」が巧みで「先が読めない」作りをしています。

「先を読まれたら負け」だと思ってください。

 全体の流れをある方角に向けていたとしても、文章だけでそれに気づかれてはならないのです。

 たとえ「悲劇」の物語であっても、物語全体が最初から暗い雰囲気で書き進んでいくと、読み手も「あ、これは悲劇だな」と見抜いてしまいます。

「悲劇」を引き立てるのは正反対の性質である「明るさ」です。

 物語が「明るい」のに、話が進むにつれ事態は深刻さを増していく。でも主人公やパーティーの仲間たちは「明るい」まま。だから結末に訪れる「悲劇」は無防備な胸に突き刺さってくるのです。


「これから痛い思いをするぞ」と思ってぶたれるのと、まったくの不意を衝かれてぶたれるのと。どちらが痛いのか。

 人間は「危機を予測」する力で地球最強の存在となりました。「備えなくては殺される」とわかっているから木の棒や火で野獣を遠ざけようとするのです。

 また「これから痛い思いをするぞ」と思っていれば、たとえ強烈なビンタを食らっても案外痛さを感じません。あらかじめ脳の痛覚を感じるエリアに「痛い」信号を送っているから、そこに実際の痛さが加わっても、すでにある程度の痛さを受信しているのでそれほど「痛くない」のです。

 本当に痛いのは、備えておらずまったくの不意を衝かれてぶたれたとき。痛覚の前フリがなく、いきなり強烈なビンタを浴びると脳へ振り幅の大きな痛覚が襲いかかります。

 痛みの覚悟が決まっていれば痛くない。

 これは「火渡り」の儀式や「バンジージャンプ」にも通じます。

 薪を燃やしてその上を素足で駆け抜ける「火渡り」の儀式が世界各所にあるのです。

 火ですから当然熱い。ですが躊躇せず一気に駆け抜けると、実はそれほど熱さを感じません。足の裏が熱せられて角質が焼けるよりも、すぐに足を上げて一気に駆け抜けるスピードのほうが速いため、熱せられた角質が適度に冷やされた結果ヤケドをしないのです。それでも少しは角質が焼けますから多少の痛みはあります。それもあらかじめ「火だから熱い」と覚悟しているから「思ったよりも痛くなかった」と認識するのです。

「バンジージャンプ」も、橋の上から深い川面へ向けてジャンプするのはとても恐怖を感じます。しかし「どうせ飛ばないといけないし、ゴムも付けているから川へ直接飛び込むわけじゃない」と想定される危険を受け入れる覚悟ができていれば、川面へ飛び下りるのも怖くありません。もし命綱なしでいきなり橋の上から突き落とされたとしたら。怖いなんてものじゃないですよね。「なんとかしてでも生き延びなきゃ」と慌てふためいてしまいます。怖いなんて言葉では言い表せないほどの恐怖です。

「バンジージャンプ」だとわかりにくいかもしれないので、パラシュート降下を例にします。航空機で高度一万メートルへ行き、そこからパラシュートを背負って飛び降りる。このときあなたは「パラシュートがあるから」という安心感から、空気を切り裂きながら引力に引かれて落下する状況を楽しんでいるでしょう。そしてパラシュートを開いてブレーキがかかり、安全な落下速度を維持して地上へ降り立ちます。

 ではもしパラシュートが開かなかったら。パラシュート降下の経験がある方ならおわかりでしょうが、パラシュートは必ずふたつ背負って飛ぶ決まりになっています。万一最初のパラシュートが開かなかったら、ただちにそのパラシュートを捨てて、予備のパラシュートを開けばよいのです。この保険があるおかげで、パラシュート降下はレジャーとして人気となりました。しかしもし保険のパラシュートも開かなかったとしたら。さぁたいへんです。というよりたいへんだと思っている暇はありません。なんとかしてパラシュートを開く以外生還できない絶体絶命の状況です。できうるかぎりの悪あがきをするでしょう。もしインストラクターと一緒に飛んでいるのなら、その状況を見たインストラクターがあなたに近づいてフックを付けて助けてくれるかもしれません。しかし単独ジャンプだったら。もはや地面に叩きつけられて死ぬまでの数分間が地獄です。できうるかぎりの悪あがきをする人が多いはず。人によっては諦観が湧いて死への状況を受け入れてしまうでしょう。

 お化け屋敷がわかりやすい方もいらっしゃるでしょう。

 最初から「お化け」が出るとわかっていれば、不意を衝かれないので怖くない。それでもいきなり飛び出してくるのでドキッとはしますよね。そこまで織り込んでいれば、ドキッともしません。


 この先どうなるかわからない。

 だから人々は物語に惹き込まれるのです。

 ネタバレをしていたら、読み手はそこで興醒めします。

 タネのバレたお化け屋敷にスリルはあるのか、というそもそも論です。




ネタバレを恐れるな

 ここまで書いてきて「ネタバレしては駄目なんだ」とご理解いただけたと思います。

 ですがこの見出しでさらに「?」が浮かんだことでしょう。

「ネタバレするな」と言っておいて「ネタバレを恐れるな」と書く。お前はなにを考えているんだ。耳の痛い言葉が聞こえてくるようです。

 基本的にネタバレすると、そこで読み手は興味を失います。

 だから「ネタバレ厳禁」なのです。

 では「ネタバレを恐れるな」の真意はなんでしょうか。

「ネタバレしない」を意識するあまり、かえって「ネタバレ」してしまうのです。

 たとえば「竜王を倒したら、ラスボスの魔王が現れた」という流れにしようと思います。このとき「ラスボスは魔王」という「ネタバレ」を極力回避するためにあれこれ頭を使います。しかし頭を使いすぎて「本当に竜王を倒せば平和は取り戻せるのか?」と読み手に思われてしまうのです。「竜王」の裏に何者かがいる。そう思われてしまえば、それはネタバレです。

「ネタバレしない」と誓ったのに、実践したのにネタバレした。

 これ、実はよくあるパターンなのです。

 とくに紙の書籍の場合、残りのページ数を見ると竜王戦の後にもかなりの紙幅がある。となれば「ラスボスはこの竜王じゃないのでは?」と思われてしまいますよね。

 もちろん本当に「竜王がラスボス」で、単に結末エンディングが長いだけの場合もあります。

 しかし小説を数多く読んできた読み手の方々は、その不自然に残されたページ数から「ラスボスは竜王じゃないのでは?」と推測するのです。

 これが「ネタバレしない」を意識するあまり、かえって「ネタバレ」してしまう代表例と言えます。

 また主人公を罵倒し続けるヒロインが、実は主人公のことが大好きだった。ラブコメではよくあるパターンですね。

 この場合も、あまりに「ヒロインが主人公を必要以上に罵倒する」姿を読ませられると「これって照れ隠しだよな?」と見抜かれてしまいます。

 しかもその後一回も主人公を褒めないようなら「見え透いているよな」と感じて興醒めしてしまうのです。

「実は主人公が大好き」という「ネタバレ」を避けようとしすぎて、かえって不自然になってしまう。

 こういう場合は適度に「ヒロインが主人公を褒めて」やって、「このヒロインは主人公が嫌いなのか好きなのかわからない」と思わせます。

「ネタバレを恐れず」適度に匂わせたほうが目くらましにはちょうどよい場合が多いのです。

「ネタバレ」は読み手の中で確定されるから見限られます。混乱させてしまえば、たとえ「ネタバレ」情報を書いてもこんがらがって読み手が勝手に迷路へ踏み込んでしまうのです。

「木の葉を隠すなら森の中」と言います。

「ネタバレ」を気にするくらいなら、情報の海を作り出してそこに「ネタバレ」を書いてしまうのです。これなら「ネタバレ」を気にせず物語を進められます。

 これは「推理」ものでは常套手段です。「推理」ものは、推理に必要な情報をあらかじめすべて文章で書いていなくてはなりません。

 もし「ネタバレ」が怖いのであれば、「推理」小説をいくつか読んでみてください。そして一度読み終わったら、結末から遡ってどこに「ネタバレ」「伏線」が書いてあるのかを確認しましょう。そしてどのようにして「ネタバレ」を隠しているのかに習熟するのです。

「ネタバレしないためにネタバレを恐れない」スタンスで文章を紡げるか。それが「筆力」なのです。





最後に

 今回は「ネタバレするな、ネタバレを恐れるな」について述べました。

 実践するのはとても難しいかもしれません。

 それでも意識があるのとないのとでは雲泥の差となります。

 読み手に先を確定させないよう、うまく「ネタバレ」を操りましょう。



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