1195.技術篇:逆向きに読んで分析する
今回は「構成力」を高めるために、小説を「逆向き」に読んでみることについてです。
だからといって一文ずつ戻るわけではありません。
逆向きに読んで分析する
小説の面白さは、展開の妙にあります。展開を決めるのが「構成」です。
物語の「構成力」を鍛えるには、たくさんの小説を読むのが一番。
──なのですが、ただ数多く読むだけで「構成力」が鍛えられはしません。
どのような展開になるのかを予想しながら読まなければ、どこに展開の妙があるのか見抜けないからです。
しかも読解力が求められますから、これから小説を書こうとしている方にはハードルが高いと思います。
そこで一度読んだ小説を逆向きに読んでみましょう。
逆向きで読む利点
小説を読むだけなら、冒頭の一文から順に読んでいくのが最も楽しめます。
しかし「構成力」を鍛えたいなら、「なぜこの小説は面白いんだろうか」の目線で小説を読まなければなりません。
一度読んだ小説をもう一度頭から読み直しても、なぜ面白いのかはなかなかわかりません。もちろん伏線を発見して「あ、ここにこう書いてあった。だからああいう展開になったのか」ともわかります。でもそれは作品の魅力のごく一部にすぎません。
書き手がどれだけ工夫しているかは、「結末」から逆に読めば明確になります。
一文一文を逆に読むのではありません。
すると「ごの
そうなのです。
もし逆向きで読んでも書き手の意図を見抜けなかったとしたら、その方はまず読解力を鍛えましょう。
その
多くの「文豪」は他人の作品をひたすら研究していました。つまり異常なまでに読書家だったのです。
芥川龍之介賞史上最多の販売部数を誇る『火花』の著者、お笑い芸人ピースの又吉直樹氏も、異常なまでの読書家っぷりをテレビ番組『アメトーーク!』で発揮していました。
読めば読むほど強くなる。酔拳ではありませんが、すぐれた小説を書くにはすぐれた作品を数多く読むにかぎります。
読むなら断然「名作」です。「名作」だけを読んできたから「名作」が書けます。
「駄作」を数多く読む出版社レーベルの編集さんが「小説賞・新人賞」に挑戦しても一次選考すら通過できない、できても二次選考は通過できない。理由は選考さんとして「駄作」を数多く読んでいるからです。
では最終選考を担う著名な書き手はなぜ「名作」を書けるのか。
自明ですよね。最終選考まで残るほどの作品が「駄作」とは考えづらい。
つまり一定レベル以上の作品しか読まないから、「駄作」は書かないのです。
名作を読む
では「駄作」を読まないためにはどうするべきでしょうか。
書店で売られている「紙の書籍」なら、日販や東販などの取次店が売上ランキングを発表しています。
お金を出して読む「紙の書籍」のランキングに載っていれば、「駄作」とは考えづらい。
たいていアーリーアダプター(初期採用層)が読んでみて、面白かった小説をアーリーマジョリティー(前期追随層)に教え、それが面白ければさらにレイトマジョリティー(後期追随層)へと伝播していきます。その積み上げが「売上ランキング」に反映するのです。
だから「紙の書籍」なら売上ランキングをチェックしてください。まぁ中には書き手のネームバリューだけで売上ランキングを席巻する書籍もありますから、これが万能とは言えませんが。
「電子書籍」も基本的には「販売ランキング」をベースにしてください。ただこちらのランキングは伝播せず、読み手が「冒頭試し読み」をして「面白そう」だと思ったものが買われます。つまり「冒頭だけが面白い作品」でも上位にランクインする可能性があるのです。書評が書ける「電子書籍」サイトもありますが、感想はほとんど残されていません。
Amazonの『Kindle』であれば、ECサイトに書評や感想がたくさん書かれていますので、そちらで販売されている作品なら、「電子書籍」を購入する前に一度Amazonの商品ページをチェックするとよいでしょう。
そして無料で作品が読める小説投稿サイトを利用する方もいらっしゃるでしょう。
こちらのランキングほどあてにならないものはありません。流行りのジャンル、キーワードを用いた作品が上位にランクインするため、代わり映えしませんし、面白いかどうかは読んでみないことにはわかりません。
しかもランクインしている作品はほとんどが「未完」です。つまり「どんなオチが着いて終わるのか」がまったくわからないのです。だからどれを読めば「名作」に当たるのかはバクチのようなものです。
だから「完結済み」の作品だけを検索してランクインしたものだけを読むようにするとよいかもしれません。ですがブックマークがたくさん着いているからランキングが高い作品もあります。そういう作品は結末まで読まれていないのかもしれません。
ネタバレになりますが、まず第一話と最終話だけを読んでみて、「面白そうだ」と思った作品だけを読むようにしてください。純粋に作品を楽しめなくなるでしょう。しかしあなたが他人の小説を読む理由は「名作」を分析するためです。楽しむために読むわけではありません。であれば、第一話と最終話から読んで「面白そう」な作品はチェックに値するでしょう。
結末で感情を動かせるか
皆様は大学で卒業論文に苦労しなかったでしょうか。私は高卒なので卒業論文とは無縁でした。これまで能動的に文章を書いてこなかった学生がいきなり素晴らしい卒業論文なんて書けやしません。
同様に、これまで筋の通った小説を書いてこなかった方々がいきなり素晴らしい小説なんて書けるはずもないのです。
小説で最も求められるのは、綺羅びやかな比喩の利いた表現ではありません。表現を飾り立てれば、確かに一見さんは読みに来てくれます。しかしそれが面白さとはイコールではないのです。ときに年間十本の長編小説を書く鮮やかな比喩が映える古強者の作品よりも、初めて書いた表現の拙い小説のほうが面白いなんてこともざらにあります。
その差はなにか。
「心を動かされる結末」だからです。
三百枚・十万字の長い旅路によってたどり着いた結末で「心が動かされない」のでは、時間をかけて読んできた意味がありません。
小説投稿サイトにはこんな「時間泥棒」な作品が多いのです。
「玉石混淆」とはいえ、あまりにも石だらけなのが小説投稿サイトの特徴といえます。
そもそも連載中の作品がランキングの上位を占めるようでは、その作品たちを読んで「心が動かされる結末」かなんてわかりはしません。先ほども申しましたがただのバクチです。
だから分析するなら「完結済み」の作品にしてください。「紙の書籍」「電子書籍」の作品をオススメしているのも「完結済み」が確定しているからです。未完のまま出版されるのは、「文豪」の遺稿くらいなものでしょう。
小説ではありませんが、フランスの軍事的天才ナポレオン・ボナパルト氏の戦術を分析したカール・フォン・クラウゼヴィッツ氏『戦争論』。実はクラウゼヴィッツ氏自身の著書ではありません。妻のマリー氏がクラウゼヴィッツ氏のメモ書きをまとめて一冊の書物に仕立てたものなのです。だから難解な言葉で書かれており、主張もクラウゼヴィッツ氏の遺志を汲んでいるとは思えません。そもそも国民総動員での全面戦争は、ナポレオン・ボナパルト氏率いるフランス軍の得意とするところですが、クラウゼヴィッツ氏がそれに倣う趣旨はなかったとされています。しかし『戦争論』の全面戦争論がヨーロッパを舞台とした第一次世界大戦、第二次世界大戦で多くの戦死者を出した論拠ともなったのです。
つまり遺稿が書籍化されても、必ずしも「名作」にはなりません。
小説投稿サイトで「連載中」のままの作品は遺稿でしかないのです。面白いかつまらないかすら存在していません。なにせ「未完」なのですから。
最後に
今回は「逆向きに読んで分析する」について述べました。
あなたにも読んで感動した作品がひとつやふたつあるはずです。でなければ「自分も小説を書こう」とは思わない。
感動は結末で生まれます。「未完」の作品に「感動」はしないのです。
あなたが小説を書くのなら、必ず「完結」させるよう、始めから「結末」を確定させておきましょう。
私が「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」を経てから本文を執筆するように主張しているのも、まず「結末」を確定させてから連載を開始していただきたいからです。
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