1194.技術篇:誰にどう刺さるか
小説には読み手がいます。
それはどんな読み手なのでしょうか。あなたが想定する読み手層はどこにありますか。
中高生男子なのか成年男性なのかでも書き方は変わってきますよね。
誰のために書くのか。それを決めなければ小説の書きようがありません。
誰にどう刺さるか
小説には明確な読み手が存在します。それを無視して持論を展開しても、受け入れられないものです。
自分の考えた物語に酔っていたり書いた文章に執着していたり。
書き手はよく読み手を見失って一人悦に入るものです。
それで読み手に伝わればよいのですが、たいていはまったく伝わりません。
特定の人物にターゲットを絞る
小説を書く際に「企画書」は書きますよね。私は書けと言っていますが、書かない方も多いようです。
そこへ
もし身近にターゲットがいるのであれば。そのひとりへテーマを直接伝えるように書くのです。
あなたが想定する読み手層はあなたより若いかもしれません。年かさの書き手なら、ほとんどの読み手は自分よりも若いはず。若者に届く書き方をしなければ、あなたの物語は読み手へ届きません。
基本的に書き手よりも年かさの読み手を想定して小説は書かないですよね。若者に向けて書く小説は、自身の若かりし頃を思い返せば書けなくはない。ですが、高齢者に向けて書く小説は、書き手に経験のないものが多数求められます。それらを想像で書ける方もいますが、ごく少数です。
たとえば戦争小説は今の若者には響きません。司馬遼太郎氏『坂の上の雲』はドラマで人気になりましたが、原作が大ヒットしたとは聞きませんよね。
アニメ映画になったこうの史代氏『この世界の片隅に』は戦時下の物語ですが、主人公が戦うシーンがあるわけでもない。戦争に日常を振り回される主人公たちの姿が感動を呼んだのです。
そもそも日本が最後に直接戦争を行なったのは太平洋戦争であり、その終戦は1945年。今から75年も前のことです。5歳で物心がついたとしても、戦争を体験したのは八十歳以上であり、それ以下の世代には戦争小説は真に迫りません。
それに比べて勧善懲悪ものは童話『桃太郎』から連綿と続く日本の伝統となっています。『ウルトラマン』『仮面ライダー』『戦隊ヒーロー』も、勧善懲悪はいつの時代も子どもをターゲットにしてきました。もちろん時代劇の『水戸黄門』『暴れん坊将軍』のような年配者向けの勧善懲悪ものもありましたから、勧善懲悪ものは日本人のメンタリティーに相当な影響力を発揮しています。
新型コロナウイルス感染症により国や都道府県から外出自粛要請が出ても、その和を乱さず要請ベースできちんと遵守するのが日本人です。そして勧善懲悪が行きすぎて「自粛警察」と呼ばれる無法者をも生み出してしまいました。
ヒーローは「自粛警察」などしません。正々堂々敵と対決します。「自粛警察」は話せばわかることを嫌がらせで憂さ晴らししているようにしか見えません。
あなたが憧れたヒーローは「自粛警察」などするのでしょうか。
こう考えたとき、小説のネタとして「ヒーロー」を自称する「自粛警察」に鉄槌を下す勧善懲悪もの、というのが思い浮かびました。今の時代にしか響かないかもしれませんが、外出自粛が明ける前までは話題性があるかもしれません。
ひとつ言えるのは「想定される読み手層を明確にして、その人たちに刺さるような物語でないとウケない」。
たとえば小学生に戦争ものを読ませても楽しく読んでもらえるでしょうか。勧善懲悪ものではない、純粋な「戦争」ものです。おそらくウケません。
戦争ものを書きたいなら、実際に戦争を経験した世代に向けて書かなければならないのです。ですが書き手が戦争体験者でないかぎり、年かさの読み手には響かないでしょう。
だから小説投稿サイトの「異世界ファンタジー」「剣と魔法のファンタジー」でも、戦争ものより「主人公最強」の勧善懲悪もののほうがウケがよいのです。
想定される読み手層によって、刺さるジャンルや題材が異なります。リサーチしておけば、読み手層を変えるか物語を変えるかできるでしょう。
ミスマッチのまま作品を書き進めても、対象とする読み手層には届かないと思ってください。
どの角度で刺すか
たとえば『仮面ライダー』と『水戸黄門』の場合、対象となる受け手はどのように分けられるでしょうか。
『仮面ライダー』は若いイケメン俳優が変身して敵を倒します。主人公が若手ですから、児童少年が主な受け手層ですよね。それだけでなく若いイケメン俳優ですから母親も受け手層に入ってきます。『仮面ライダー』の人気が出たのも「母親も受け手層」に入れたからです。『ウルトラマン』はなかなか続きませんが、『仮面ライダー』は平成に入ってから次々と登場して続いていますよね。それは児童少年に変身ベルトのようなグッズが売れているだけでなく、母親も積極的にお金を使うような仕組みが出来あがっているからです。
では『水戸黄門』はどうでしょうか。主人公は先の副将軍・水戸光圀公。児童少年が感情移入できないほどのおじいさんです。想定される受け手層は熟年から老年なのは間違いありません。しかし勧善懲悪ものですから、おじいさんと一緒に児童少年が観れば子どもたちもハマるんですよね。物語がひじょうにシンプルなのでわかりやすい。つまり『仮面ライダー』の反対が成り立つのです。『仮面ライダー』は子どもから母親へ、『水戸黄門』は老人から子どもへ波及して人気を博しました。
だからどの受け手層をターゲットとするかを決めたら、どの角度で刺すかを決めましょう。単に「特定の読み手層」だけを狙わず、そこからどう波及させるかを考えるのです。
人気のある作品は「特定の読み手層」だけでは終わりません。必ず周囲へ波及しています。
「どの角度で刺せ」ば周囲へ波及できるのか。単に「児童少年」をターゲット層にするのでは範囲が広すぎます。「勧善懲悪ものが好きな児童少年」をターゲット層に据え、そこから周囲へ波及するような工夫が必要です。
たとえば「勧善懲悪」として「探偵」ものを書く。そうすれば「推理」が好きな人にも波及していきます。これで成功したのがマンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』です。
コナンが「真実はいつもひとつ」と言って次々と謎を解く「勧善懲悪」もの。それだけで対象とする「児童少年」だけでなく「推理好き」な人も惹き込まれます。そこにFBIや公安などの登場人物たちが増えていき、またとあるアニメの影響を受けた人物たちが出てきて複雑な人間関係を織り成すのです。これでそのアニメの受け手もファンに加わってきて、さらにファン層が広がりました。
また『名探偵コナン』はテレビでは「推理」メイン、映画では「アクション」メインとして、一作ごとに映画の興行収入が高まっています。2020年の新作映画『名探偵コナン 緋色の弾丸』は新型コロナウイルス感染症の営業自粛要請により公開が延期されていますが、解禁された際には多くの観客が押し寄せると期待されているのです。
このように「どの角度で刺す」かは、表面的な読み手層からどこへ波及させるかを左右します。
名作と呼ばれる作品は、そのジャンルの固定ファンだけでなく、その周辺へも波及するだけ懐が広いものです。
小説を書く際には「読み手層」を明確にしましょう。そのうえで「どう波及させるか」も目論見に入れておけば、爆発的なヒットにもつながりますよ。
最後に
今回は「誰にどう刺さるか」について述べました。
特定のターゲットに絞るのが第一段階です。最低でもひとりの読み手を魅了できれば、それに近しい方々にも必ずヒットします。
そこからどのように波及させるか。どう刺すかを工夫してください。
刺し方次第で、さらに多くの方々へ波及させられますよ。
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