1192.技術篇:あなたにしか書けない文章

 同じ構想でも、書き手によってまったく別の作品に仕上がります。

 もし他人と同じ物語しか書けないのであれば、なにもあなたが書く必要はありませんよね。





あなたにしか書けない文章


 技術篇では何度も書いていますが、小説投稿サイトでは「同じ構想を使っても、書き手によって別の作品になる」ものです。

 その差こそが「個性」と呼べます。

 では「個性」を形作っているものはなんでしょうか。




文章は書き手の息遣い

 小説を読んでいて「この書き手らしいなぁ」と感慨を抱くのは、構想が斬新だからではありません。

 もちろん「斬新な構想」「奇抜な構想」で小説が書ければ「やはりこの書き手は格別だ」と考える読み手は多くなります。でもそうポンポンと「斬新な構想」「奇抜な構想」を思いつける書き手なんていません。そういう方は、たいていすでに「プロ」デビューしています。

 将来「プロ」を目指す方も、小説投稿サイトでトップランカーを目指す方も、あなたにしか書けない作品を書くべきです。

 その際「あなたにしか書けない文章」を目指しましょう。

「あなたにしか書けない文章」とはなにか。

 月並みに言えば「あなたの息遣いが感じられる文章」です。

 たとえあなたが村上春樹氏の熱狂的ファン「ハルキスト」だとしても、村上春樹氏を真似た文体で書いているかぎり、「あなたにしか書けない文章」にはなりません。ただの猿真似です。

 どうせ真似るなら「構想」だけにしましょう。それを「あなたの息遣いが感じられる文章」で書くから、あなたらしさが表現できるのです。

「構想」はまったく同じなのに、書き手によってさまざまな見せ方があります。

 太宰治氏の熱狂的ファンである芥川龍之介賞作家でお笑い芸人ピースの又吉直樹氏は、太宰治氏風の「構想」を、又吉直樹氏の息遣いで書いたから評価されたのです。

 もし逆に又吉直樹氏の「構想」を、太宰治氏風の文章で書いたら、それは太宰治氏のパクリでしかありません。

 それを証明したのが神田桂一氏&菊池良氏『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』という書籍です。

「カップ焼きそばの作り方を書く」という「構想」は共通しているのに、パロディーにする「文豪」風の文章で書いたら、それぞれの「文豪」らしさが生まれます。

 誰が読んでもその「文豪」っぽい文章に仕上げてしまったこの書籍。逆に「構想」が同じでも、文章は書き手によって異なり、その書き手らしさであることを証明してみせました。

 もちろん日本語として完璧な文章であればなおよいのですが、そのような文章はえてして味けないものです。




完璧な日本語はかえって読まれない

 新聞記事を読んで、その文章に記者らしさを感じるでしょうか。いっさい感じないはずです。

 報告の文章に求められる「5W1H」だけで書かれた文章に、書き手らしさなんてありません。

 これが写真週刊誌の記事になると話は別です。ライターが取材で得た「5W1H」に書き手の印象や憶測を織り込んですぐれた「読み物」に仕立てるのが写真週刊誌の記事。新聞記事にしたら事実だけしか書けないものを、写真週刊誌なら印象と憶測だけで書けてしまうのです。

 もちろん新聞の中にもこのような文章は存在します。朝日新聞の『天声人語』に代表されるコラム欄です。ここは印象や憶測で書いてもよい。自由な言論の場とも言えます。

 政権批判や揶揄をしたり、逆に誰かのご機嫌をとってみたり、読者に偏向した情報を与えたり。コラム欄は新聞社によってカラーが出ます。右寄りなのか左寄りなのか。たとえ右寄りだとしても政権を持ち上げる場合と非難する場合があるのです。

 たとえば安倍自民寄りの読売新聞、自民寄りの産経新聞、野党寄りの朝日新聞と毎日新聞、共産党の機関紙赤旗、公明党の母体である創価学会の発行する聖教新聞などがあります。

 これらはまったく同じ出来事を記事にしても、それ自体はだいたいどこも同じ文章になります。違いは「コラム欄」や「読者欄」などに出るのです。

 最近新聞を読まない方が増えてきました。

 たいていのニュースはスマートフォンで手に入る時代です。それ以外の「コラム」を押しつけられるために新聞代を支払うのはバカらしい。読者欄に応募しても採用されるとは限らず、それなら確実に世間の目につく『Twitter』で情報を発信したほうが確実です。

 テレビ欄と四コマ漫画が最後の砦でした。

 しかし最近のテレビにはもれなく「番組表」機能がついており、またそもそもテレビを観ない若者も増えてきました。

 四コマ漫画は無料マンガ閲覧サイトで無数に存在するので、読み飽きることもありません。

 つまり紙媒体の新聞には、もう活路はないのです。インターネットを利用しない方が購読するくらい。現に販売部数は急角度の右肩下がりで減少しています。

 今ではほとんどの新聞はインターネットでの定期購読形式へと移行しているのです。その契機はApple『iPad』の発売にあります。WebサイトをB5やA4サイズの画面で読める手軽さから爆発的な売上を記録したのです。これにより新聞もWebサイトで提供する体制が整備され、現在の定期購読スタイルが誕生しました。

 そんなこともあって、新聞はすでに役割を終えつつあります。

 小説も紙媒体は存亡の秋を迎えているのです。これからは電子書籍での展開を主軸にするでしょう。

 しかし「紙の書籍」だからこそ愛着を覚えるものです。

 カンでパッと開いてもすぐ読める利便性やパラパラとページをめくりながら目星をつけているページを探す感覚。なにより手触りやインクの匂いなどをこよなく愛する方がいるかぎり、「紙の書籍」の小説は完全にはなくならないと思います。しかしそれは今の人たちがアナログに慣れているからこそ。時代が進むにつれ小説投稿サイトで小説を読むのが当たり前になると、もう「紙の書籍」に愛着を覚える人は減ってくるでしょう。

 そもそも書籍のために木を切って地球環境を悪化させる、という連想が働けば、「紙の書籍」はそもそも非難される的になりかねません。

 となれば、これからの時代、「紙の書籍」化イコール「プロ」デビューという考え方それ自体が「誤り」と叫ばれるかもしれないですね。




あなたの息遣いで書く

「5W1H」を備えた完璧な文章は、どんどん需要を失っています。

 今求められているのは、発信者の意見を付け加えた情報です。つまり新聞ではなくインターネットの時代になりました。

 同じ「真実」でも、書き手の意見を付け加えた情報に優劣が発生しているのです。

 ニュースに優劣がつけられる時代とも言えます。

 前述したように記事にはそもそも優劣なんてありません。「5W1H」だけで書かれた記事に新聞社のカラーは反映されません。どのような内容の記事を集めるか。それが新聞の差なのです。

 しかしインターネットがこれだけ普及すると、偏向報道をしてもネットリテラシーのある方が増えるにしたがって評判が悪くなります。今では朝日新聞社がとても評判が悪い。そもそも戦争を煽ったのが朝日新聞だったという事実が多くの日本人に知れ渡ってきました。そんな朝日新聞なんて、という方が増えたのです。

 新聞の代わりに求められたのがWebのニュースサイト。

 ここならさまざまなニュースに触れられ、しかも偏向報道をしたところで読みたくない記事は読まなくてよい。しかも無料。有料で偏向報道を押しつけられる新聞よりも、無料で正確な情報が手に入るニュースサイトに人気が集まるのは自明です。


 小説でも同様のことが言えます。

 著名な「文豪」の文章を真似しても、生まれるのは猿真似でしかありません。あなたが書き手なのではなく、「文豪」らしさを真似しているにすぎないのです。

 それで「小説賞・新人賞」を授かるなんてできはしません。

 真似ていいのは「構想」だけです。文章・文体はあなた独自の息遣いで書くべきです。

 あなたの息遣いで書いているかぎり、モノマネだパクリだとは言われない。

 もちろん偶然あなたの息遣いとまったく同じ文章を書いていた「文豪」がいたのかもしれません。その場合はなかなか正当な評価は望めない。しかしここで妥協してしまえば、あなたらしさが失われてしまいます。

 あなたらしい、「あなたにしか書けない文章」でなければ、小説を楽しく書けないのです。

 あなたには、目標としている書き手がいると思います。

 無意識のうちにその書き手の文章・文体が息遣いとなって表れてしまうこともあるでしょう。

 ご自身で「これって似ているな」と感じたら、意識して変えてみてください。

 感じなければそのまま書いてかまいません。ただ「○○氏の猿真似」と思われる可能性は残っています。

 もし小説投稿サイトで「これって○○さんを意識していますか?」のようなコメントが付いたら、試しにその方の作品を読んでみてください。本当に似ているようなら、後発であるあなたが意識して書き方を改めるべきです。少なくとも放置してそのまま書くのだけはやめましょう。いつまでも「○○氏の猿真似」と思われ続けると、「プロ」にはなれませんからね。





最後に

 今回は「あなたにしか書けない文章」について述べました。

「5W1H」を完備した日本語の文章は、新聞記事のように味けなくなりがちです。

 もっと書き手の意見を反映させた文章を追求しましょう。

「文豪」が文豪たるゆえんは「自らの文体を持っている」点にあります。

 現代の「文豪」も、それぞれに文体を持っているものです。

 次代を担うあなたも、独自の文体で書きましょう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る