1179.技術篇:落選したら原因を分析する
一世一代の大博打である「小説賞・新人賞」に打って出た。
けれども受賞ならず落選する。
よくある話です。
ですが、そこからなにを学べるのか。それが将来大賞を獲れるかどうかを分けます。
落選したら原因を分析する
誰もが競う「小説賞・新人賞」ではひと握りの受賞者と、その他大勢の落選者が生まれます。
その他大勢の落選者は、ただ悔しがればよいのでしょうか。受賞者を羨めばよいのでしょうか。受賞作より私の作品のほうが出来がよいと思っているのでしょうか。
そのいずれもが、あなたの成長を阻害します。
落選したのは及ばなかったから
前提として認識していただきたいのは「落選したのには、それなりの理由がある」からです。
この認識がないと「私の作品は完璧だった。選考者は見る目がない」と責任転嫁して居直ってしまいます。それでは次の「小説賞・新人賞」でも受賞を逃すでしょう。
もし応募作が一定の質を伴っているのなら、開催者は大賞は何本出してもよいのです。必ず一本と決まっているわけではありません。大賞にふさわしいと思えば複数作が同時受賞するなんて当たり前に起こっています。
記憶がまだ新しい例として、芥川龍之介賞でお笑い芸人・ピースの又吉直樹氏と羽田圭介氏が同時受賞しているのです。
純文学の最高権威といわれる芥川龍之介賞でも複数作が同時受賞します。小説投稿サイトで開催されている「小説賞・新人賞」で同時受賞はいっさいないとは言い切れません。
そんな状況なのに、あなたの作品は大賞を射止められなかった。各賞にも残れなかった。それはあなたの作品がそのレベルに到達していなかった、受賞作には及ばなかったのです。
それを素直に認めてください。
ただし「私の作品はまったく評価されなかった。私には小説を書く才能はないのだ」とは思わないでください。
あなたの作品は「現時点では」受賞するレベルになかっただけです。今後何作も書き続ければ、自然と筆力もついてきますし、一次選考、二次選考を突破できるようになります。
正しく実力を評価しましょう。
「選考者は見る目がない」と過大評価するのも、「私には小説の才能はない」と過小評価するのも間違いです。
どこがよくて、どこが悪かったのか。受賞作と比べて及んでいないところはどこか。
つねに冷静に判断できる目を持ちましょう。
日本語を正しく使っていますか
実は「小説賞・新人賞」で真っ先にチェックされるのは「正しい日本語か」どうかです。
物語がどれほど面白くても、「正しい日本語」が使えるとはかぎりません。また表現力は二の次です。
面白い物語は経験を積めばいくらでも生み出せます。しかし「正しい日本語」は脳に刻み込まれているぶんだけ、いくら編集さんや校正さんから訂正されてもそう簡単には直らないのです。
だから「小説賞・新人賞」では「面白い物語」より「正しい日本語」かが見られます。
本コラムでは折りに触れ「正しい日本語」「正しい敬語」について書いてきました。
それほど「正しい日本語」は身につけるのが難しいのです。
「正しい日本語」を簡単に表せば「一文が短い」「助詞が重複していない」「文の主体(視点)がブレない」「主語と述語が対応している」「誤解を生まない一義性がある」が挙げられます。
「正しい日本語」が書けなければ、一次選考を突破できません。
もしいくら「小説賞・新人賞」へ応募しても一次選考すら通過できないのであれば、「正しい日本語」が書けていない証拠です。
物語が面白いかどうか、表現力があるかどうかよりも、「正しい日本語」かどうかを真っ先にチェックされる。
であれば、まずは「正しい日本語」を身につけましょう。
「新聞記事」を読むのが最も確実です。「新聞記事」は読み手に誤解を与えないために、一義性のある文章で書かれています。それを模写していけば、自ずと「正しい日本語」がどういうものかを会得できるでしょう。
「そんな時間はないな」とおっしゃる方は、以前ご紹介した単行本、本多勝一氏『日本語の作文技術』(朝日文庫)を読んでください。新聞記者が「正しい日本語」について丁寧に書いています。国語の読解力も問われてきますが、理解さえできればこれほどの良書はまたとありません。1976年出版ですが、今も重版がかかるほど多くの方に読まれているのです。それだけ「正しい日本語」の需要があります。
表現が豊かですか
「正しい日本語」が書けているのに一次選考、二次選考を突破できない方は、「表現が乏しい」のです。
小説に求められる「表現」は大きく言えば「語彙」と「比喩」になります。
どれだけ「語彙」と「比喩」を巧みに用いるかが、「表現を豊か」にするのです。
「語彙」は「豊かな表現」には欠かせません。誰かが発言したらすべて動詞「言う」しか使わなければ「乏しい表現」にしかならないのです。適度に散らして「話す」「述べる」「語る」「伝える」「言付ける」「告げる」といった「語彙」に、敬語の「おっしゃる」「申す」などを組み合わせて「豊富な語彙」を駆使してください。
正直に申せば「語彙が乏しい」と児童文学にしかなりません。とても「小説賞・新人賞」を授かれるレベルではないのです。「児童文学」の「小説賞・新人賞」もありますので、語彙力に自信がない方は、いっそ「児童文学」へ進みましょう。どうしても「ライトノベルの出版社レーベル」から紙の書籍を発行したいと思っているのなら、「語彙を豊か」にしてください。単行本の見開きで同じ動詞が使われていない状態がベストです。でもこれはハードルが高すぎると思います。ですので「前後五文で同じ動詞を用いない」ように心がけましょう。このくらいなら語彙をひねり出せば埋められるはずです。
次に「比喩」です。これは「直喩(明喩)」「隠喩(暗喩)」「提喩」などの一文のものと、「感情と気象のリンク」といった段落で表現するものに分かれます。
どちらにしても、視点を持つ語り手がどのような印象を受けたのか。それを「比喩」の形で表現するのです。
「比喩」のない文章という意味では「新聞記事」が役に立ちます。「新聞記事」では基本的に「比喩」は厳禁です。事実をただ淡々と書かなければ、読み手に誤解を与えてしまいます。だから「正しい日本語」が身についたら、次は「比喩」を磨くのです。
「比喩」が巧みになると、それだけで「読ませる文章」に仕上がります。
「正しい日本語」と「豊かな表現」を満たして一次選考を通過しないなんてありえません。
逆に言えば、一次選考を通過できないのは「日本語が誤っている」と「表現が乏しい」のふたつが原因なのです。
基礎が固まっていないのに「小説賞・新人賞」は授かりません。処女作が大賞を獲るのは奇蹟でも起きなければ不可能です。
物語の魅力
二次選考を勝ち抜こうと思ったら、「魅力的な物語」である必要があります。
「魅力的な物語」とは「破綻していない」「自然な流れ」「意外性のある展開」です。
これらはすべて基本である「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」を経れば達成できます。
出来事を強引に起こしたり、予想の斜め上を行く展開だったりすると読み手が離れていきますし、選考さんのウケも悪くなるのです。
だから「自然な流れ」はとくに意識してください。
ときに引っかかりのある展開を作って気を惹くことはあっても、それが毎度だと「支離滅裂」の印象しか与えません。
物語の完成度
二次選考を通過したら三次選考へ進むか、最終候補に残るかします。
ここでは三次選考に進んだと仮定します。
一次選考で「日本語力」、二次選考で「物語の魅力」をチェックされました。
三次選考では残った他の作品と比較されるのです。
「どちらがより完成度が高いか」
この視点を持たないと、完成度の低い作品が大賞を授かってひんしゅくを買います。
「ポプラ社小説大賞」の受賞作・齋藤智裕氏『KAGEROU』を思い出してください。
話題性重視で選考すると、このような完成度の低い作品が大賞となって、賞そのものの価値が落としてしまいます。
近しいところでは「ピクシブ文芸大賞」ですね。これは第一回が行なわれただけで、以後開催されていません。受賞作の売れ行きが芳しくなかったのかもしれない。少なくとも幻冬舎は第二回を開くつもりはないように見えます。
だからこそ、三次選考では「残った作品の中で完成度が高いのはどれか」が問われるのです。「小説賞・新人賞」から紙の書籍でヒット作につなげるパターンを維持するためにも必須です。
もしいずれも完成度が低いと判断されたら、「大賞なし」とされることもあります。それは「小説賞・新人賞」の格を下げてまで受賞作にしない出版社レーベルの意向だからです。
「小説賞・新人賞」には「格」があります。「芥川龍之介賞」「直木三十五賞」には、それにふさわしい作品でなければなりません。ですが、年2回の開催ですから「大賞なし」にするのは難しい。だから最近では両賞の「格」が下がってきています。中には「どんぐりの背比べ」でしかない時期もあるのです。
だからこそ「物語の完成度」はたいへん重視されます。
もし三次選考を通過できなければ、「物語は面白い」のだけど、そもそも「物語の完成度」は低かった可能性が高いのてす。
そのため「物語の完成度」を一段も二段も高めていく努力をしましょう。
最後に
今回は「落選したら原因を分析する」について述べました。
あなたが「小説賞・新人賞」へ応募して、何次選考で落とされたのか。
それを知ることで、あなたに足りないものが如実に現れます。
自分に足りないものを確実に知るためにも、「小説賞・新人賞」はよい場です。
拙くてもかまいません。とにかく「小説賞・新人賞」へ応募して、今の実力を確認しましょう。
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