1175.技術篇:ひとつのお題から話を膨らませる
今回は「お題の膨らませ方」についてです。
「小説賞・新人賞」の多くが「お題」「テーマ」を設定しています。
これをいかに膨らませるかで、個性的な作品が生まれるのです。
本日で毎日連載1111日目となります。
ネタが尽きてきたので、そろそろ都度連載に切り替えたいと思っています。
以後もご愛顧のほどを。
ひとつのお題から話を膨らませる
小説に限らず、文章とは「お題」「テーマ」を設定して、それをいかに読み手へ伝えるかがたいせつです。
「お題」「テーマ」をいかに膨らませるか。ふくらし粉をどのように混ぜていけばよいのかについて考えます。
ふくらし粉
「お題」「テーマ」を設定して、それを膨らませて読み物にする。
簡単に見えてなかなかうまくはできません。
そこでまず材料である小麦粉「お題」「テーマ」を用意します。
「お題」「テーマ」をあらゆる確度から観察してください。
するととがった部分、目につく部分が必ず見えてきます。
この目立つ部分を取り上げて、さらに細分化しながら膨らませていくのです。
私は本コラムを1111日連続で掲載しています。ネタが尽きたときは以前書いた「お題」「テーマ」を別の角度から眺めて、改めて気づきを得る工夫をしているのです。そして気づきを膨らませていきます。
書けるか書けないかは、気づきとふくらし粉を持っているかにかかってくるのです。
たとえば「勧善懲悪」ものを書きたいとします。
すると「正義が悪を懲らしめる」というありきたりなあらすじが浮かんでくるでしょう。
しかしこれをそのまま書いてはなりません。
多くの方がまったく同じ発想をしてしまい、結局「没個性」となって埋もれてしまうからです。
「小説賞・新人賞」を目指しているのなら、他の人たちとはひと味もふた味も違う物語に仕上げなければなりません。目立てなければ大賞は射止められないのです。
『小説家になろう』のように「鉄板の展開」にしないと読み手がつかない小説投稿サイトは、内弁慶を増やしてしまいます。
一歩でも『小説家になろう』から出て活躍しようとしても、『小説家になろう』でウケるための「鉄板の展開」しか書けない。ですから「小説賞・新人賞」にはかすりもしないでしょう。
小説は、時間をかければ努力次第で誰にでも書けます。
問題は「鉄板の展開」をいかに外すのか。あなただから書ける物語に仕上げられるのかです。
「小説賞・新人賞」は、独特のクセのある作品が獲ります。
角やとんがった部分のない作品は、審査員の箸ではつまめないのです。
テンプレートに沿った作品とはまさに角やとんがった部分のない作品といえます。
一点を膨らませる
では角やとんがった部分を生み出すにはどうすればよいのでしょうか。
「鉄板の展開」つまりテンプレートの中で、「この一点」を可能なかぎり膨らませてください。
典型的な「剣と魔法のファンタジー」なら、魔法を可能なかぎり膨らませるのです。魔法の力で宇宙へ飛び出してもかまいませんし、「隕石落とし」の魔法を使ってもよい。テレパシーで相手の心を読みまくってもよいでしょう。
強大な魔法もあれば、日常でもちょっとした魔法が当たり前のように使える世界も考えられます。たとえばかまどに火を点けるのに世の奥様方は火の魔法を当たり前のように使うなんていうのもあります。
また気軽に魔法を使えると『シンデレラ』のように、魔女が下女を貴婦人に変身させられるのです。かぼちゃとネズミを馬車に変えても「魔法」なんだから当たり前。ただ『シンデレラ』はご都合主義です。「ガラスの靴」にかかった魔法は解けなかったのですから。衣類も魔法でドレスに変わり、十二時を告げる鐘の音が鳴り止んだら、本来元のボロ衣に戻るはず。でもなぜか「ガラスの靴」だけは元に戻らなかったのです。
角やとんがった部分をどうやって膨らませるか。小麦粉にふくらし粉を混ぜるように、テンプレートの中にふくらし粉を混ぜるのです。
先に「剣と魔法のファンタジー」で魔法を膨らませましたが、逆に剣を徹底的に膨らませてもよい。
強大な魔法があるとしても、戦争では味方も巻き込むおそれがあるため、基本的には剣や槍などで戦うほかない。どんなに魔法が進化していても、範囲魔法は開戦直後か追撃戦でしか使えません。
大魔法使いが敵だけに効果のある範囲魔法を使えるかどうか。そんな魔法が使えるから大魔法使いだといえなくもありません。
また本来なら「剣と魔法のファンタジー」での戦争は、騎士や戦士、槍兵、弓兵、神官戦士などで構成されます。そこに盗賊がギルド単位で参加するなんていうのも、かなりとがった設定です。
本来盗賊は社会から弾かれる存在ですが、戦争に参加するとなれば、たとえ盗賊といえども存在意義が出てきます。また存在が知られることで、窃盗犯や強盗犯はかなり減るでしょう。社会に及ぼす不安がひとつ減るのです。
そういう観点から盗賊ギルドの存在意義が見えてきます。盗賊ギルドは本来犯罪者集団なわけですから、社会から受け入れられません。しかし戦争で国民の代わりに戦ってくれるのであれば、市民は応援するのではないでしょうか。
このあたりはジャパニーズ・マフィアとも呼ばれる「ヤクザ」にも絡めて考えられますね。地方の「ヤクザ」は用心棒のような役割を担いますが、都会のヤクザは恫喝と恐喝で人々を苦しめている。しかも暴力までふるいますから「鼻つまみ者」なのです。
しかしもし日本が戦争状態に陥った際「ヤクザ」が真っ先に敵兵へ突撃していったら、私たちは彼らを見直すかもしれません。まぁ実際に戦争が始まったら、火事場泥棒に徹するのが今の「ヤクザ」ですけどね。
騎士にも近衛騎士、親衛騎士などが存在し、騎士団によって忠誠を誓う対象が異なります。であれば豪商に忠誠を誓う騎士団があっても面白そうですね。戦争でボロ儲けを企む豪商が、配下の騎士団を使って敵味方の戦力の均衡をとろうとする。これだけで豪商が「闇商人」に見えてくるはずです。
すると主人公たちが倒さなければならないのは、敵兵ではなく豪商の騎士団とその背後にいる豪商となります。これだけで単純な「剣と魔法のファンタジー」世界であっても、ひと味異なる作品に仕上がるのです。
このように「鉄板の展開」「テンプレート」から、なにかひとつを徹底的に膨らませると、新しい世界が開けてきます。
小説投稿サイトでは普遍化した展開であっても、なにかひとつ異なる「差別化」を図った作品だけが群を抜くのです。
ただしこれは「鉄板の展開」ならいつでも書けるという裏づけがあって初めて機能します。「テンプレート」も書けないのに、そこから膨らませるのは困難です。
もちろん最初から「鉄板の展開」を狙わなければ、「テンプレート」に縛られずに済みます。でも小説投稿サイトでの人気は望めません。あくまでも「小説賞・新人賞」狙いのときにだけ威力を発揮します。
たとえば一次選考を読み手に任せている『カクヨム』の「小説賞・新人賞」では、読み手ウケを狙わなければ一次選考を通過できません。だから『小説家になろう』以上に「テンプレート」を踏襲した作品が通りやすくなります。
それを考え合わせても「鉄板の展開」「テンプレート」から、なにかひとつを徹底的に膨らませて、読み手に新味を与えることが重要になってくるのです。
「テンプレート」は悪とまでは言い切れませんが、没個性になりやすい。
「小説賞・新人賞」は個性を競う場です。凡百な「テンプレート」踏襲作品では大賞は獲れません。
つまり「鉄板の展開」「テンプレート」のような入り方で「とっつきやすい」と思わせる。そしてなにかひとつ徹底的に膨らませてこだわった部分を作り「新しい」と感じさせる作品こそが、賞レースで最も有利になります。
最後に
今回は「ひとつのお題から話を膨らませる」について述べました。
ふくらし粉をどのように扱うかでランキングや「小説賞・新人賞」も有利に運べます。
「鉄板の展開」「テンプレート」であっても、なにかひとつを徹底的に膨らませると、他とは違った作品に仕上がるのです。
小説を書きたいけれども、独自の展開は作れそうにない。
それなら「テンプレート」を下敷きに、ひとつ工夫してみればよいのです。
凡百から「凡百一」を生み出せるかどうか。それが初めての作品にはふさわしいのです。
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