1174.技術篇:「すべき」は間違い、「することができる」は駄目

 今回はちょっとした言い回しについてです。

 私もちょくちょく間違えますので、見つけ次第ツッコんでください。





「すべき」は間違い、「することができる」は駄目


 多くの書き手で見られる日本語の誤用に「すべき」があります。

 正しい「すべき」と誤った「すべき」があると知ったら、皆様驚かれるでしょうか。

 実はこれ、日本語研究の第一人者だった丸谷才一氏が提唱していたことなのです。




正しい「すべき」

 まず正しい「すべき」をいくつか並べます。

「愛すべき」「返すべき」「隠すべき」「殺すべき」「探すべき」「耕すべき」「話すべき」「回すべき」

 なにが共通点かわかりましたか?

 ちょっとしたクイズですね。

 日本語に詳しい方、国語が得意だった方なら一瞬で見抜けます。

 かくいう私も一瞬で見抜けました。とても単純な話なのです。




誤った「すべき」

 では次に誤った「すべき」をいくつか並べます。

 その共通点と正しい「すべき」との違いを考えながら見ていれば、すぐに気づけるはずです。

「運動すべき」「会得すべき」「葛藤すべき」「期待すべき」「決すべき」「絞殺すべき」「察すべき」「選択すべき」「発すべき」

 共通点に気づいたでしょうか。正しい「すべき」との違いはわかりましたでしょうか。

 実はちょっとした引っかけをいくつが入れてあります。

 それでもわかる人にはわかるはずです。




動詞の活用形について

 答え合わせです。

 皆様には「動詞の活用形」を意識していただきましょう。

 まず正しい「すべき」ですが、これはすべて「サ行五段活用」です。

 誤った「すべき」はすべて「サ行変格活用」です。

 わかりましたか?

 この中で引っかけなのが「愛すべき」「決すべき」「察すべき」「発すべき」です。

 昔はすべて「サ行五段活用」とされていました。

 しかし現在「サ行五段活用」として一般的なのは「愛す」だけです。

 他は「決する」「察する」「発する」とすべて「サ行変格活用」が通例となっています。

 ではなぜ「サ行五段活用」なら「すべき」で、「サ行変格活用」なら「するべき」なのでしょうか。

 活用を考えてください。

 連体形は、「サ行五段活用」は「〜す○○」、「サ行変格活用」は「〜する○○」です。

 たとえば「話す人」はよくて、「運動す人」は駄目。「探する人」は駄目で、「期待する人」はよい。

 これは皆様わかりますよね。

 では「べき」はなんでしょうか。これは助動詞「べし」の連体形です。つまり体言へつながります。

 この二点から「サ行五段活用」なら「〜すべき」、「サ行変格活用」なら「〜するべき」が正しいと導き出せるのです。

 つまり「運動すべき」は「運動するべき」、「会得すべき」は「会得するべき」、「葛藤すべき」は「葛藤するべき」、「期待すべき」は「期待するべき」、「決すべき」は「決するべき」、「絞殺すべき」は「絞殺するべき」。「察すべき」は「察するべき」、「選択すべき」は「選択するべき」、「発すべき」は「発するべき」。これが正しいとわかりますよね。


 丸谷才一氏はこの点から「すべき」は誤用と主張したのです。

 初耳かもしれませんが、本来の日本語では「サ行変格活用」では「するべき」が正しい。




なぜ「することができる」は駄目なのか

 では次の話題に移ります。

「することができる」という表現は、あらゆる文章で多用され、今では一般化されています。かくいう私もときどき書いてしまう。気づけば改めてはいますが、完全に根絶するにはまだ時間がかかりそうです。

 ではなぜ「することができる」は駄目なのでしょうか。

「することができる」は「サ行変格活用」の「する」をいったん体言化して、それが可能であるという意味で「できる」という動詞につなげています。

 よく考えてみてください。

「運動することができる」は「運動する」が可能「できる」わけですよね。

 それなら「可能活用」すればよい話ではありませんか。

「運動する」なら「運動できる」と書く。たったこれだけです。

「することができる」は単に「できる」だけで片づいてしまいます。

 なにも「運動することができる」などと書く必要はなく、「運動できる」でよいのです。

 こう言われると「いや、『運動することもできる』のような文もあるではないか」との声も聞こえてきます。

 それなら「運動もできる」でよくありませんか。「すること」を入れる必要なんてありません。

 実はこの「することができる」は、文字数を稼ぐための常套句なのです。

 読書感想文などの課題で四百字詰め原稿用紙五枚書かなければならないとしたら。

 どうしても水増ししたくなりますよね。そんなときに便利なのが「体言化して用言化する」言葉です。

「することができる」の他にも「するのができる」で受けることもあります。

 どちらにしても四文字から五文字も稼げる文末処理なのです。


 これはなにも「サ行変格活用」だけの問題ではありません。

 たとえば「走ることができる」は「走れる」、「泳ぐことができる」は「泳げる」、「飛ぶことができる」は「飛べる」で済みます。上一段活用なら「居ることができる」は「居られる」、「得ることができる」なら「得られる」です。「食べることができる」は「食べられる」。

 すべて「可能活用」で事足りるのです。





最後に

 今回は「「すべき」は間違い、「することができる」は駄目」について述べました。

 書き手の皆様にご提案です。

「サ行五段活用」以外の「すべき」はすべて「するべき」に置き換えてください。

「することができる」は「できる」と短縮してください。

 最初は物足りなさを感じるかもしれません。しかし慣れてくるとこれらの誤用が「水増し」だと一瞬で見破れます。「なぜストレートに書かないかな」と感じてくるのです。

 日本語はいくらでも婉曲に表現できる、世界でも稀な言語です。「しなければならない」のような二重否定も「しよう」と肯定するだけで済みます。

 もし「運動すべき」「運動することができる」に抵抗感がないのでしたら、そのまま使い続けてもよいでしょう。

 少なくとも私の感性では「運動するべき」「運動できる」だよなと。

 同じような印象を、「小説賞・新人賞」の選考さんも持つはずです。

「あ、水増し表現だ。はい減点」とされたら、一次選考すら通過できなくなります。

 小説を書くなら、正しい日本語とはどんなものかについてよく勉強してください。

 捏造が多く、人としてどうかとは思うのですが、日本語について造形が深い本多勝一氏。その著書『日本語の作文技術』は文庫として現在でも重版が売られています。

 まずはこの一冊を読んでみましょう。正しい日本語とはなにかを知るよい機会となるはずです。



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