1167.技術篇:コメディーの作り方

 皆が好きな「ラブコメ」ってどうやって創ればよいのだろうか。

 そんな皆様に向けて「ラブコメ」を〜〜と思ったのですが、私には「ラブ」がないため分析できませんでした。

 とりあえず「コメディー」に焦点を当てて「コメディー」の作り方を取り上げます。

「ラブコメ」は私が理解でき次第書く予定ですので、本コラムをお読みいただいて「わからなかった」方はコメントをくださいませ。





コメディーの作り方


 コメディーを存分に表現するには、文体とシチュエーションを巧みに操らなければなりません。

 そのうち文体は意識しないで書ける方もいます。とくに話術が得意な方はコメディーを書かせると万人ウケする文章に仕上がるものです。

 文体はそう簡単には手に入らないので、始めはシチュエーションに凝りましょう。




シチュエーション・コメディー

 コメディーと聞いて真っ先に思い浮かぶのは「シチュエーション・コメディー」だと思います。

 そんな言葉は思い浮かばなかったかもしれません。

 しかし「コント」と呼んだらどうでしょうか。

 お笑い芸人がテレビや演芸場などで観せる「コント」は「シチュエーション・コメディー」です。

「状況を設定して、そこでどれだけ笑わせるか」。状況つまりシチュエーションを決めて、そこで笑いをとりにいく。これを「シチュエーション・コメディー」と言います。

 日本に「シチュエーション・コメディー」を普及させたのは、ハナ肇とクレージーキャッツ、ザ・ドリフターズ、コント55号です。中でも植木等氏、加藤茶氏・志村けん氏、萩本欽一氏が数多くの「コント」を生み出しました。

 近しい方で言えばウッチャンナンチャンの内村光良氏です。今でも『LIFE』などで「シチュエーション・コメディー」を量産し、人々に笑いを提供しています。

 たとえばホームドラマふうのセットを組み、そこで子ども役がボケ倒す。老人役がボケ倒す。それを父親役がひとつひとつフォローしていく。

「シチュエーション・コメディー」は一時期、テレビをつければ各局が競うように数多く放送していました。今はお笑い番組自体が縮小してしまい、毎週放送しているお笑い番組は『笑点』くらいしかないのです。しかし元々「話芸」である「落語」の番組ですから「シチュエーション・コメディー」に厳しいのかもしれません。(なお後述しますが「落語」は「シチュエーション・コメディー」です)。

「落語」や「漫談」に代表される「話芸」は「トーキング・コメディー」とでも呼べばよいのでしょうか。英語が苦手なので適切な表現ではないかもしれませんが。

 少なくとも「話芸」は次に紹介する「文体のコメディー」に類します。


「シチュエーション・コメディー」で難しいのは、「ひとりではなかなか笑わせられない」点です。

 たとえば「無人島に雨傘一本しか持たずひとり取り残されてしまった」とします。このシチュエーションで笑いをとれと言われて、笑わせられる方はまずいません。この難題に挑戦したのが無声映画時代の三人の偉人。サー・チャールズ・スペンサー・チャップリン氏、バスター・キートン氏、ハロルド・ロイド氏です。とくにチャップリン氏はセットを組んでカメラの前にひとりで現れて笑いをとりにいくスタイルを確立した、まさに「シチュエーション・コメディー」生みの親とも言えます。

 ここで名を挙げた中では、内村光良氏以外は現役でないので、「シチュエーション・コメディー」で今参考にするなら内村光良氏だけでしょう。


「無人島に雨傘一本しか持たずふたり取り残されてしまった」のなら、多くの方を笑わせられます。ひとりがボケて、もうひとりがツッコめばよいのですから。

 近年人気の出たお笑いコンビは、たいてい「シチュエーション・コント」を得意としています。「話芸」だけで笑わせられるお笑いコンビは今ではさまぁ~ず、爆笑問題、ナイツくらいではないでしょうか。

 よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑いコンビは、もれなく「シチュエーション・コメディー」を得意としています。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑いコンビが繰り広げる「シチュエーション・コメディー」を「漫才」と呼びます。つまりよしもと芸人以外がやるのは「漫才」ではないのです。だからあえて範囲の広い「漫談」と書いています。


 笑わせたい「シチュエーション」を用意して、その場にふさわしくないイレギュラーな「ありえない」行動をとらせれば、それが笑いに変わります。

 これが「シチュエーション・コメディー」の王道です。

「剣と魔法のファンタジー」でシチュエーション・コメディーは成立するのか。そうお考えの方も多いでしょう。

 成立するのです。

「シチュエーション・コメディー」の定義は「お約束をぶち壊す行動」にあります。

「剣と魔法のファンタジー」であれば、勇者が魔王を倒すというお約束を、どれだけ派手にぶち壊すかで笑いを誘えるのです。

 たとえば神坂一氏『スレイヤーズ』なんて「剣と魔法のファンタジー」で本来最強であるはずのドラゴンすらもイチコロの主人公を登場させています。さらにひとりでは笑いがとりにくいので相棒に頭の弱い剣士ガウリイ=ガブリエフを据えて、ひたすらボケまくるのです。主人公リナもボケなら、ガウリイもボケ。ツッコむ人がいません。だから読み手がツッコミにまわります。「ボケ倒し」はいかに読み手にツッコませるかが鍵です。

「ボケ倒し」の場合「話芸」つまり「文体のコメディー」に近くなります。

 よほど巧みな語り口で書かないと、読み手がノッてこないのです。

 ですので、もし「文体のコメディー」に自信がないのであれば「シチュエーション・コメディー」にしてひとりをボケ、もうひとりをツッコミにしてください。

 それだけで結構笑える作品に仕上がりますよ。




文体のコメディー

「シチュエーション・コメディー」と対をなすのが「文体のコメディー」つまり「話芸」です。

 日本では落語家や一部のお笑いコンビが得意とする笑いになります。

 ですが実際「落語」は「シチュエーション・コメディー」をひとりで行なっているようなものです。名作「芝浜」だって夫婦や他の登場人物をひとりの語り手(落語家)が演じ分けて笑いをとりにいきます。

 言葉遊びとしての「文体のコメディー」は、最近ではお笑いコンビ・ナイツの十八番おはこです。

「インターネットのヤホーで調べてきました」とか「クソソソのことか〜〜!」とか。シチュエーションを持たない「語り」だけで笑いをとれる稀有な才能だと言えます。

 逆に「シチュエーション・コメディー」の名手がアンジャッシュです。ひとつの「シチュエーション」を設定し、そこに前提の異なるふたりを放り込んで生まれるすれ違いの笑いこそ「シチュエーション・コメディー」そのもの。

 近年のお笑い芸人において、ひとりで「シチュエーション・コメディー」を成立させた人物こそ陣内智則氏です。彼は音や写真などを巧みに使いこなして、たったひとりで「シチュエーション・コメディー」を成立させました。音や写真がボケで、陣内智則氏がそれにツッコんでいくスタイルは「斬新」の一言です。


 ナイツはなぜ「文体のコメディー」を演じられるのでしょうか。

 それは徹底した「言葉遊び」に秘密があります。

「ヤフー」を「Yahoo!」という字面からローマ字読みして「ヤホー」と読んだり、「ン」も「リ」も「ソ」と読むことで「ドラゴソボール」とか「クソソソのことか〜〜!」と叫んでみたり。

 とにかく「言葉」を徹底的に遊んでみるという姿勢は、小説で「文体のコメディー」をやるうえでとても参考になります。

 私の持ちネタですが「大人気ない」を「だいにんきないんですか?」と返してみたり、「人気ない路地」を「にんきのない路地ですか?」と返してみたり、「敵は何人だ?」に「日本語を話しているので日本人ですね」と返してみたり。

 こういった言葉遊びを日頃からしている方でないと「文体のコメディー」は使いこなせません。(それぞれ元は「おとなげない」「ひとけないろじ」「てきはなんにんだ?」です)。

「文体のコメディー」は使い手が本当に少ないのです。小説で「文体のコメディー」を書いている方はほとんどいらっしゃいません。笑える小説のほとんどは「シチュエーション・コメディー」です。お笑い芸人ピースの又吉直樹氏『火花』も、カラテカの矢部太郎氏『大家さんと僕』も、差し込まれているのは「シチュエーション・コメディー」であって「文体のコメディー」ではありません。

 お笑いの専門家でも「文体のコメディー」は難しいのです。

 逆に言えば「文体のコメディー」を使いこなせれば、「小説賞・新人賞」を授かれます。

 ナイツは「M−1グランプリ」の決勝進出者でしかなく大賞を授かってはいません。しかし今でもテレビや演芸場では引き合いが跡を絶ちません。

「文体のコメディー」には、それほどの魅力があるのです。老若男女問わず、誰でもわかりやすい「シチュエーション・コメディー」ではない。「文体のコメディー」は知っている人にしか通じない、ある程度の知識が要求される笑いなのです。

 たとえば「文豪」のパロディーを書いてみる。神田桂一氏&菊池良氏『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』という書籍があります。これなどはその「文豪」の作品を知っているからこそ、思わず笑ってしまう書籍に仕上がっているのです。明確に「文体のコメディー」を追求しています。

 もしこれから「文体のコメディー」を勉強してみたいのであれば、この『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』を購入して読んでみてください。

 どういったものが「文体のコメディー」なのか、ひと目でわかりますよ。





最後に

 今回は「コメディーの作り方」について述べました。

 簡単に作れるのが「シチュエーション・コメディー」です。

 状況を設定して、ありえないことが起こるだけ。それだけでも笑いに転じられます。

 現在小説投稿サイトで「ラブコメ」が人気上位にあるのも、「シチュエーション・コメディー」がとても使いやすくて笑いを起こしやすいからです。

 人間には「恋愛」と「笑い」が不可欠。だから双方を取り込んだ「ラブコメ」に人気が集まります。

「文体のコメディー」はよほど「言葉遊び」が好きでなければ使いこなせませんので、ひたすら「言葉」に親しみましょう。

「あ、この文字をこう読んだら面白いかも」「こういうときあの人はこういうだろう」

 その気づきがなければ「文体のコメディー」は浮かんできません。

「文体のコメディー」には知識と才能が必要です。「シチュエーション・コメディー」には知識や才能なんて不要ですので、最初は「シチュエーション・コメディー」に徹しましょう。



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