1152.技術篇:ハラハラ・ドキドキはできるだけ延ばす
今回は「緊迫感」についてです。
読み手を作品に惹き込むには「緊迫感」が必要です。
ハラハラ・ドキドキさせるからこそ、読み手はついつい先を読みたくなります。
「緊迫感」のない書き出しには、読み手を惹き込む魅力がないのです。
ハラハラ・ドキドキはできるだけ延ばす
小説投稿サイトに掲載されている小説はたいてい一話千五百から二千字くらいだからかもしれませんが、いまいち緊迫感に乏しい作品が多いように見えます。
なぜ緊迫感に乏しいのか。
ハラハラ・ドキドキさせたいシーンが字数の関係であっという間に終わってしまうからかもしれません。
まさか数話にハラハラ・ドキドキの緊迫感を跨がらせるわけにもいかないですよね。
ヒントは週刊マンガにあり
一話が短くても緊迫感あふれる作品を、我々はよく知っています。
週刊マンガです。
たいていの連載作品は十五から二十一ページで描かれています。
それでも緊迫感あふれる、手に汗握る展開が毎週繰り広げられているのです。
なぜマンガにできて小説にはできないのでしょうか。
おそらく無意識に「別物で参考にならない」と感じているからかもしれません。
実はマンガの「盛り上げ」方は小説投稿サイトの連載の参考になります。
緊迫感が欲しくなったら、まず読み手へひとつ「謎」を投げかけてください。そしてそのまま終わるのです。週刊マンガは一週間「謎」を読み手へ提示します。
この「謎」が不安感つまりハラハラ・ドキドキを与えるのです。この「謎」がどう展開するのだろうかと読み手は一週間心の片隅で意識しながら生活します。これが緊迫感へとつながるのです。
たいていは次回にその「謎」が解かれます。しかし解かれるのではと思わせておいて「謎」のまま温存するのも一つの手です。
マンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』では、シリーズ第一話のラストで「死体を転がせ」をしています。つまり「ここから推理が始まる」と「謎」を読み手へ提示するのです。
聡い読み手なら、シリーズ第一話を徹底的に読み返します。なにかヒントはないかと探すのです。『名探偵コナン』はある程度シリーズ第一話に推理のヒントのひとつが隠されています。ただそれだけでは「謎」の全体像は明らかになりません。推理につながるかどうか判断する情報が少なすぎるのです。
だから読み手は次回を心待ちにします。
大きな「謎」をひとつポンと置いて、読み手にあれこれ考えさせるのです。
「いや、マンガと小説は別物でしょう。しかも私が書きたいのは異世界ファンタジーであって、推理ものではない」とお思いの方、いらっしゃいますよね。
ご安心ください。小説でも同じ効果は出せます。
異世界ファンタジーといえば「剣と魔法のファンタジー」が主ですよね。そして「剣と魔法」はバトルを象徴しています。
であれば連載第一話はバトルで始まってバトル直前で終わるべきです。
基本的にはバトルが二回あります。ちょっと凝った構成にすると、ひとつのバトルを「バトル中」から始めて「そのバトルが開始される直前」を書いて終わる後世も考えられるでしょうか。
バトルが二回の場合、「バトル中」で始まってすぐにバトル終了。次のバトルを予感させて締めるというのがよくあるパターンです。週刊マンガなら連載初回はほとんどが増ページになりますからこんなこともできます。では小説ならどうでしょうか。千五百から二千字程度でバトルを二回はかなりの無理筋です。週刊マンガのように初回増ページという手もあります。しかし連載小説は初回が「一回の長さ」を伝える手段でもあるため、初回を四千字にしてしまうと、その後の回はすべて四千字だと思われてしまうのです。
サクサク読めるのが小説投稿サイトの連載作品のよいところ。その後がたとえ千五百から二千字だとしても、初回が四千字であれば読み手は「一回四千字の作品」だと認識してしまうのです。なぜこんなことが起こるのでしょうか。
読むのに時間がかかるから。とても単純ですね。
マンガは絵を見て物語を進めるため、豊富な情報量を一回に詰め込めます。しかし連載小説は一回を千五百から二千字で書かなければなりません。詰め込める情報量だってたかが知れています。
ここに壁を感じる方もいらっしゃるでしょう。
そこで役に立つのが「謎」です。
初回のラストに謎を仕込む
「剣と魔法」のバトルに「謎」と言われても。そう考えましたね。ごく当たり前の反応です。
「剣と魔法のファンタジー」でテンプレート化している初回の書き方がいくつかあります。
たとえば「バトル中」で始まって「剣と魔法のファンタジー」であると読み手に認識させる。これができていない作品は第二回以降をまず読まれません。
「剣と魔法のファンタジー」の魅力はなんと言っても「剣と魔法が交錯するド派手なバトルシーン」のはずです。それを初回で書けなければ「剣と魔法のファンタジー」とは呼べません。
ですがひとつのバトルを頭から書いてしまうと、初回はそのバトルだけしか書けないのです。それでは次回へ続く「謎」もなにもありません。
そこで「バトルの終わり際」を書いて開始後すぐにバトルを終わらせてください。そうしてから次回へ続く不穏な空気を書いて不安感を煽ります。
二回連続で「バトル」を書けば「剣と魔法のファンタジー」の出だしは万全です。
第二回は「剣と魔法が交錯するド派手なバトルシーン」でなくてもかまいません。陰謀を張り巡らせる敵方の策動であったり、王様から大目玉を食らうであったりと、不穏な空気を書いて不安感を煽った初回の終わりとつながる緊迫感が活かされればよいのです。
ここで考えたいのが登場人物をいかに紹介するべきか。
「バトルの終わり際」ですから、主人公が脇役に指示を出したり逆に命令されたりして人物の名前を読み手に知らせるパターンもあります。
少なくとも「バトル」に参加した味方の名前は全員書きましょう。一投稿が千五百から二千字ですから、同じ名前を何度も書く必要はありません。逆に一回だけ書くように工夫するべきです。
まぁ「バトル」に参加した味方が百人いたら、名前だけで半分ほど埋まってしまいますけどね。そういう特殊な場合を除いて、たとえば五、六人の味方なら全員の名前を書いたほうがよい。また今後重要な役回りを演じる人物の名前も、第一話で書いておくべきです。それが伏線となって、物語に厚みが生まれます。
たとえば田中芳樹氏『銀河英雄伝説』で物語の厚みを考えたとき、第一話からパウル・フォン・オーベルシュタインの名前を出してもよかったのです。地球教のド・ヴィリエ大主教を出してもよかった。このふたりは実質的な第一話から登場するジークフリード・キルヒアイスの死後(第二巻終了後)に物語へ大きく関与してくる人物です。『銀河英雄伝説』は第二巻までの主人公ラインハルトが銀河帝国に覇権を築くまでの話と、自治領フェザーン、自由惑星同盟を制圧して全銀河の覇権を握る話のふたつのパートに大きく分けられます。もちろんヤン・ウェンリーの死も物語に与える影響は大きい。でも群像劇ですがラインハルトが主人公なので、物語が大きく変わるものではありません。
『銀河英雄伝説』は「ライトノベル」ではなく「SF」小説なので、「バトル」シーンから始まりません。ですが戦争を題材にしているので、実質的な第一話は戦場へ向かっている場面から始まります。
「これから始まる戦闘シーン」にワクワク・ハラハラ・ドキドキさせるための仕掛けです。
正直に言えば、小説投稿サイト時代に『銀河英雄伝説』を書いても大ヒットしなかったでしょう。
初回で銀河の歴史をとうとうと書かれても、読み手が飽きてしまうからです。
だから実質的な第一話も戦闘中からスタートしたほうが小説投稿サイト時代に合っています。
戦闘直前から始まるのも悪くはないのですが、千五百から二千字で戦闘シーンが含められるかといえば、かなり難しい。
今なら実質的な第一話で描かれる「アスターテ会戦」の途中から始めて、ヤンが指揮権を委譲されて奇策を繰り出そうかというところで終わるのがベストでしょう。
そうすれば「バトル」も書けますし「謎」も残ります。
最後に
今回は「ハラハラ・ドキドキはできるだけ延ばす」について述べました。
初回は「バトル」の途中から入って「謎」を残しましょう。
「謎」が「ワクワク・ハラハラ・ドキドキ」を第二話まで引き延ばしてくれます。
どうしても世界観や設定の説明をしたいのなら、第二話以降にしてください。
初回は「この作品はこんなジャンルのこんな作風です」と表明する場です。
そのために、ジャンルごとに異なる「バトル」を書きます。
推理ものなら「死体を転がせ」で、知的「バトル」のスタートです。
「剣と魔法のファンタジー」なら、ド派手な魔法が飛び交う「バトル」シーンを初回に据えましょう。いきなり勇者パーティーを解雇されたり、いきなり死んで異世界転生したりするのが流行りのパターンですが、そういった説明よりも「バトル」シーンで読み手を強く惹きつけるべきです。
解雇も異世界転生も第二話か、第一話の終わりに据えたほうがどんな物語かわかりやすくてよいと思います。
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