1140.鍛錬篇:集中力を研ぎ澄ます
今回は「集中力」についてです。
レベルによって「集中力」には差があります。
しかも「集中力」には限度があるのです。
集中力を研ぎ澄ます
私たちは物事に対処するため「集中」します。
ぼうっとしていては対処できません。
私たちはもっと「集中力」を磨く必要があります。
注意(集中レベル1)
最も低位の集中が「注意」です。
交差点に差しかかって、横断歩道の信号ややってくる車を確認する程度の集中力を指します。
小説では作品選びの段階です。
タイトルや表紙絵などを見て、面白そうか元がとれそうかを判断します。
書店で冒頭試し読みするのも「注意」です。
集中(集中レベル2)
次のレベルが「集中」です。
興味のあるテレビ番組を見ている程度の集中力を指します。
小説では冒頭を読み始めた頃の段階です。
どんな世界観なのか、どんな主人公なのか、どんなものが行く手を阻んでいるのか。
そういったものを見つけ出します。
まだ集中レベルは低いので、周りの情報は遮られずに反応できるのです。
没頭(集中レベル3)
さらに高いレベルが「没頭」です。
ビデオゲームをプレイしているような、周りの情報が遮られるほどの集中力を指します。
小説では世界観が頭の中に展開され、主人公へ入り込んで物語を追体験しようとするのです。
物語を読むのが楽しくてしょうがない状態で、つねにその先が知りたくてたまらない。
読み手を「没頭」まで引きずり込めたら、よほどの矛盾が生じないかぎり読み手は作品から離れません。ブックマークが増えるのも、読み手を「没頭」させているからです。
悟り(集中レベル4)
最高の集中レベルが「悟り」です。
「没頭」のようなのめり込み状態を過ぎて、冷静沈着になります。
あらゆることを先読みし、自分を自在にコントロールできる状態です。
小説では主人公と一心同体となり、読み手の考えが主人公の考えから外れなくなります。
この主人公ならきっとこうするだろう。ということがほとんど当たるような、主人公のすべてを理解できる心境です。
集中レベルは人によって最高が異なります。
多くの方は「没頭」のレベルまでしか引き出せません。
今の若い方は「集中」のレベルが関の山です。もし若い方が「没頭」のレベルまで集中力を研ぎ澄ませるには、ひとつのことに集中する習慣をつけましょう。
食事をするときは、テレビを観ず、人と会話せず、ただ淡々と食べることに集中する。ひと噛みごとに変化する味わいを堪能するのです。
勉強するときもテレビやラジオを消して、無音の状態で参考書やノートに取り組んでください。
そうすれば「没頭」のレベルに到達できます。
では「悟り」のレベルにまで集中レベルを高めるにはどうすればよいのでしょうか。
「没頭」をさらに突き詰め、極限まで一点に精神を集中します。
座禅を組む際、臍下丹田に意識を集中させるよう指導されるのは、その一点に精神を集中させる訓練をするのです。
臍下丹田に意識を集中すると、呼吸も鼓動も自在にコントロールできるようになります。脳内の意識すら操れるのです。
集中するほどに周りの状態を冷静に見られ、即座に反応できるようになります。
将棋においては羽生善治永世七冠の集中力は凄まじく、まさに「悟り」の域に達しているのです。盤上で繰り広げられる戦いを冷静に見て、最善手をつねに見抜く目を持ちます。だからこそ永世七冠という前人未到の境地にまで到達できたのです。
今は藤井聡太七段が期待されていますが、「悟り」のレベルにまでは達していません。まだゲームに「没頭」するレベルであり、得意の「詰将棋」の才能だけで指しています。もし序盤から全体の流れを掌握できるようになれば、新たな永世七冠にも近づくでしょう。強いけど七大タイトルの一角を崩すには、序盤の展開から鍛え上げたほうがよい。そこまで集中できれば「悟り」の境地にまで到達します。まだ「没頭」のレベルにいても二十九連勝ができたのです。もし「悟り」の域まで到達すれば、すぐにでも七大タイトルを手に入れられるでしょう。
集中力は定量
実は無限と思われている「集中力」には一定の容量があります。
高い集中力を維持するには大量の精神力を消費し、それが尽きると集中力は途切れるのです。
だからこそ人は「アフォーダンス」で、集中力を使わずに「プログラム」のストックから自動的に選んで動きます。
読み手に注目してもらいたい箇所だけ高い集中力を発揮すれば、表現が凝れるのです。
もしすべての文章に高い集中力を用いてしまうと、結局は全般的に平凡な表現となります。
小説で高い集中力が必要なのは、書き出しと
ここをいかに凝れるかで、作品の満足度は大きく左右されます。
巧みな書き出しをして、第一回で確実に読み手をつかまえるのです。
第一回に全力を注げなければ、第二回以降は読まれません。だから第一回は高い集中力を総動員して「悟り」の境地へ達し、読み手の心を鷲づかみするような文章を書くのです。
第二回、第三回と「没頭」レベルで書きます。ここまで読み手をつかまえられたら、以降の連載は「アフォーダンス」に頼って集中力を温存できるのです。
書き手が集中して書いた部分は、読み手も集中力が誘われます。だから毎回「悟り」の境地で書いてしまうと読み手がついてこれないのです。集中力にはメリハリをつけましょう。
「アフォーダンス」で書ける日常シーンを挟むなどして、次々とやってくる
集中力と自動化のバランスがたいせつです。
「悟り」と「アフォーダンス」はともに脳の機能でありながら、両極端に位置します。
「悟り」だけに傾倒せず、「アフォーダンス」だけに頼るのではなく、その絶妙なバランスがとれていること。それが読みやすく面白い小説につながります。
最後に
今回は「集中力を研ぎ澄ます」ことについて述べました。
最も集中力が高まると「悟り」の境地に到達します。
しかし集中力は定量であり、何時間も「悟り」の境地ではいられません。
また集中力の高いときに書いた文章は、読み手にも集中力を要求します。
だから面白い小説には息抜きのエピソードが不可欠なのです。
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