1139.鍛錬篇:ライトノベルの歴史を考える

 今回は東京都の外出自粛前日なので、少しまったりした更新と致します。

 そもそも「ライトノベル」ってどんなものなのでしょうか。

 昔は「キャラクター小説」とも呼ばれていましたが、現在では「ライトノベル」表記だけが生き残っています。





ライトノベルの歴史を考える


 小説は水ものです。絶えず変化を繰り返しています。

 いつまでも「主人公最強」の「剣と魔法のファンタジー」がトップを走っているとはかぎりません。

 そもそもライトノベルが生まれてからずっと「主人公最強」の「剣と魔法のファンタジー」がトップだったわけではないのです。




ライトノベルの成り立ち

 確かにその時代時代に「主人公最強」の「剣と魔法のファンタジー」は存在していました。

 嚆矢は水野良氏『ロードス島戦記』です。しかしその後のライトノベルの流れを決定づけたのは神坂一氏『スレイヤーズ』だとされています。

 とんでもなく強力な攻撃魔法を得意とする主人公リナ=インバースが、相棒の剣士ガウリイ=ガブリエフとともに旅をする「剣と魔法のファンタジー」です。本伝は「シリアス」ですが、外伝は底抜けに「コミカル」になっています。

 その後のほとんどの「剣と魔法のファンタジー」がコメディタッチになったのも『スレイヤーズ』の影響が大きい。

 とくに本伝を「シリアス」に、外伝を「コミカル」にするのがライトノベルの主流となりました。「剣と魔法のファンタジー」ではありませんが、皆様の知っている作品だと賀東招二氏『フルメタル・パニック!』が挙げられますね。

『ロードス島戦記』はTRPG版を読むと「スパーク君、不幸!」のようなセリフが飛び交うとても明るくコメディタッチな作品です。ですが小説版ではとてもシリアスな作品に仕上がっています。「剣と魔法のファンタジー」としての王道を歩んでいるのです。

 異世界ファンタジー小説としては栗本薫氏『グイン・サーガ』のほうが『ロードス島戦記』よりも早い出版なのですが、同作は当初から「SF」小説だとみなされていました。実際二〇〇九年に栗本薫氏が膵臓がんで死去した年に「日本SF大賞特別賞」、翌年「星雲賞日本長編部門」が捧げられています。

 時代(『ロードス島戦記』)が『グイン・サーガ』に追いついた頃、ライトノベルが花開いたのです。


 ライトノベルは「メディアミックス戦略」が最大の売りと言えます。

「メディアミックス戦略」とは、ひとつの作品をさまざまなメディアで展開することで相乗効果を出そうとする戦略です。

『ロードス島戦記』がライトノベルの祖と呼ばれるのも理由があるのです。

 パソコン雑誌『コンプティーク』上でのTRPGリプレイ、ノベライズ(小説化)、ドラマカセットテープ化、OAV、PCゲーム化、コミカライズ(マンガ化)の順に展開されています。

 この「メディアミックス戦略」が功を奏し、『ロードス島戦記』は日本ファンタジーの礎を築いたのです。影響を受けなかったファンタジー小説はないとまで言われています。とくにエルフの耳がうさぎのように長いというのは『ロードス島戦記』由来です。また騎士、戦士、盗賊、神官、精霊使い、魔法使いのパーティー編成も『ロードス島戦記』から始まっています。

 その後「メディアミックス戦略」をとった「剣と魔法のファンタジー」がライトノベルの代表格となったのです。




出版社レーベルによるメディアミックス戦略

 とはいえ、すへてのライトノベルが「メディアミックス戦略」を採用したわけではありません。

「メディアミックス戦略」には出版社レーベルの規模が大きくかかわってくるからです。

『ロードス島戦記』は『コンプティーク』でのTRPGリプレイから始まっています。その『コンプティーク』を出版していたのが角川書店です。

 当時の角川書店は文芸誌で地歩を固めて急速に勢力を拡大していました。森村誠一氏『人間の証明』、横溝正史氏『悪魔が来りて笛を吹く』、大藪春彦氏『蘇える金狼』、半村良氏『戦国自衛隊』を相次いで映画化して話題をさらったのです。

 そして角川書店初のアニメ映画・平井和正氏&石ノ森章太郎氏『幻魔大戦』を公開します。同年のアニメ映画首位の興行成績を叩き出すのです。

 サンライズ『機動戦士Ζガンダム』が発表される前にアニメ情報誌『月刊ニュータイプ』を創刊し、多くのアニメファンにその名を轟かせます。つまり『ロードス島戦記』までに資金が潤沢にあったのです。

『ロードス島戦記』は角川書店による「メディアミックス戦略」の代表格となり、「角川スニーカー文庫」というレーベルを冠して、以後数多くの作品が展開されることとなりました。


「メディアミックス戦略」でいえば富士見書房も挙げられます。こちらは「富士見ファンタジア文庫」というレーベルを打ち出し、当初から「ファンタジー」に焦点を絞った「メディアミックス戦略」をとったのです。『スレイヤーズ』はその筆頭格。またライトノベル・ファンタジーの小説誌『ドラゴンマガジン』を発売しています。同誌から多くの作品が紙の書籍化していきました。六道慧氏、冴木忍氏、吉岡平氏など連載陣も豪華です。

 ご承知の方も多いのですが、富士見書房は角川書店の分派のひとつです。『ドラゴンマガジン』の好評で資金が潤沢にあった富士見書房は『スレイヤーズ』の他にも、SFコメディに類する吉岡平氏『無責任艦長』シリーズを「メディアミックス戦略」に乗せて大ヒットを飛ばします。これにより「富士見ファンタジア文庫」は「ファンタジー」の他にも「現実世界でない」作品を多く抱えるようになったのです。


 そして角川書店のお家騒動により誕生したメディアファクトリーも外せません。この騒動により角川スニーカー文庫のお抱え作家が数多く移籍しました。

『ロードス島戦記』の連載が終了した水野良氏は同社が出版する雑誌『電撃王』で『漂流伝説クリスタニア』を連載し、電撃文庫レーベルから紙の書籍化を果たします。

 現在では電撃文庫レーベルがライトノベル界で覇を唱えています。

 上遠野浩平氏『ブギーポップは笑わない』、川原礫氏『アクセル・ワールド』『ソードアート・オンライン』、鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』、伏見つかさ氏『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『エロマンガ先生』といった近年アニメ化された作品も数多くあります。近年ライトノベルの「メディアミックス戦略」は主に電撃文庫レーベルによるものでした。


 角川書店のお家騒動が、同社社長・角川春樹氏の逮捕によってメディアファクトリーの角川歴彦氏が角川書店社長に就任することで収束します。

 ここからライトノベル界の再編が進むのです。上記した角川書店関連の出版社、富士見書房、メディアファクトリーなどがすべて角川書店へ吸収され、現在のKADOKAWAとなります。

 つまりKADOKAWAは、ライトノベルのレーベルとして角川スニーカー文庫、富士見ファンタジア文庫、電撃文庫という超大物三レーベルを抱える巨大企業へと進化したのです。

 これによりライトノベルといえば「KADOKAWA」という体制が構築されます。当然資本が集まりますから「メディアミックス戦略」を数多く手がけるようになるのです。


 そういう観点からすれば、ライトノベルで生計を立てたいのならKADOKAWAのライトノベルレーベルに所属するのが最も手堅いでしょう。

 KADOKAWAは『カクヨム』という小説投稿サイトを共同運営しています。

 現在小説投稿サイトの筆頭は『小説家になろう』ですが、機能やレイアウトなどに古臭さが漂っています。対する『カクヨム』は機能の充実や洗練されたレイアウトなどでとても利用しやすいサイトです。

「小説賞・新人賞」を獲ればKADOKAWA系列から「紙の書籍」化されやすいため、KADOKAWAのライトノベルレーベルから出版されたいのなら『カクヨム』で開催されている「小説賞・新人賞」を獲るのが最短距離でしょう。

 ただその魅力から筆力の高い書き手がこぞって参加するため、「小説賞・新人賞」はかなりハイレベルな戦いとなっています。

 初めての「小説賞・新人賞」を『カクヨム』開催に選ぶとかなり苦労するでしょう。

 比較的参加者の少ない『エブリスタ』『アルファポリス』や玉石混淆の『小説家になろう』などの「小説賞・新人賞」から始めるのも悪くない選択だと思います。





最後に

 今回は「ライトノベルの歴史を考える」について述べました。

 ライトノベルの歴史とは「メディアミックス戦略」の歴史であり、KADOKAWAの歴史であるといって差し支えありません。

 他の中小出版社レーベルはアニメ化、マンガ化までが精いっぱいです。

 逆に言えば、中小出版社レーベルは競争率が低いため、大賞を獲りやすい。「どんぐりの背比べ」をしているようなものですからね。

『カクヨム』開催の「小説賞・新人賞」はハイレベルなので、初めての方は一次選考すら通過できずに落ち込むことでしょう。ただハイレベルな作品に揉まれたほうが伸びていくものです。筆力をつけたいなら『カクヨム』で大賞を授かった作品を読んでみてください。このくらいの作品が書けなければ大賞には届かないんだと知れば、自分との差を実感できるはずです。



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