1138.鍛錬篇:最高の主人公があなたの適性を明らかにする

 前回あなたにとって「最高の主人公」を創っていただきました。

「最高の主人公」がどんな人物かで、あなたの適性がわかります。





最高の主人公があなたの適性を明らかにする


 前回創り上げていただいた「最高の主人公の一生」ですが、それはどんな世界観だったでしょうか。

 現実世界の人物かもしれません。近未来の人物かもしれません。逆に歴史上の人物かもしれません。そして異世界の人物かもしれません。

 なにげなく思い描いたあなたにとって「最高の主人公の一生」が、あなたの適性を明らかにしてくれます。




現実世界の人物なら

 現実世界の人物なら、最高のサッカー選手、最高の野球選手、最高の科学者、最高の社会人、最高の新入社員、最高の係長、最高の社長、最高の刑事、最高の探偵。「最高の主人公」が現実世界の人物なら、あなたは「日常」「青春」「恋愛」「ラブコメ」「文芸」「推理」「ホラー」などのジャンルに適性があります。

 小説投稿サイトでは「異世界ファンタジー」がダントツで人気がありますが、あなたの適性はあくまで「現実世界」です。少し人気は落ちますが「現実世界ファンタジー」ならじゅうぶんに書けるでしょう。

 また現実世界の人物でも、異世界へやってくる「異世界転移ファンタジー」なら成立します。「異世界転生ファンタジー」も現実世界の人物が異世界に行く話です。しかし一度死んでしまいますから、現実世界の設定はほとんど意味がない。生前の職業によって「現実世界の知識」をフラッシュバックさせながら進めますが、ご都合主義に陥りやすい。もし意表を突く職業なら、予想外な展開にできます。たとえば「神父」が「異世界転生」したらどうでしょう。神が実在するような異世界でもキリスト教を広めようとするのでしょうか。

 現実世界の主人公がよいのは、今のあなたが考えうる最高の選択を主人公にとらせても矛盾が生じにくいところです。「この状況で、あなたならどんな選択をとりますか」という状況をあえて作れば、ドラマチックなストーリーにできます。

 池井戸潤氏『下町ロケット』『半沢直樹』シリーズなどの「企業経営」ものであれば、思わず真似したくなる選択を主人公がとるので、実際の社会人もついつい「のめり込ん」でしまうのです。その鮮やかな選択により「痛快さ」を伴います。

 現実世界の人物は、基本的に読み手の知識に収まる人間像が求められます。しかし主人公のとる「選択」は、読み手の予想を超えなければならないのです。だからこそ「こりゃ一本とられたな」と読み手が「痛快さ」を覚えて思わず「のめり込み」ます。

「そうか! そんな考え方(解決法)もあったのか!」という選択をとる主人公に、読み手は憧れを抱くのです。

 読み手と等身大の存在でありながら、決断は読み手を大きく上回る。そんな主人公に仕立てると映えますね。




近未来の人物なら

 近未来の人物なら、最高の発明家、最高のシステムエンジニア、最高の航宙士、最高のスペースパイロット、最高の公安警察などが考えられます。これらは「SF」ジャンルの適性を示しているのです。

「SF」といえば先端科学や電脳、宇宙など、まさに「サイエンス・フィクション」「空想科学」の作品になります。

 たとえばノーベル医学生理学賞を授かった山中伸弥氏が研究を進めている「iPS細胞」は先端科学としてひじょうに扱いやすい存在かもしれません。理論がわかっていれば、の話ですが。今「新型コロナウイルス」と呼ばれている「SARS−CoV−2(COVID−19)」を「iPS細胞」にして増やせば、ウイルスを短時間で大量に製造できるので、治療薬の開発期間を大幅に短縮できるのです。また不活化させて「iPS細胞」として増やせば、ワクチンも大量に作り出せます。今の「先端科学」は間違いなく「iPS細胞」でしょう。次の電脳ともリンクしますがノーベル化学賞を獲った吉野彰氏等「リチウム電池」も「先端科学」と言えなくもないのですが、その誕生は三十年ほど前なので「先端科学」としてはちょっと古さを感じます。

「電脳」はよく「サイバーパンク」と関連づけられます。半導体チップを埋め込み、コンピュータ・ネットワークと直結させて広大なサイバー空間を舞台にした物語。これがよくある「サイバーパンク」の世界観です。川原礫氏『ソードアート・オンライン』は「VRMMO」ものですが、脳神経と「ナーヴギア」を直結させることで「電脳」「サイバーパンク」としても読めるように仕上がっています。とくに「ゲーム内で死ぬと現実でも死ぬ」というのは「サイバーパンク」にゲームという縛りを設けたようにも映るのです。

 また小松左京氏『日本沈没』のような「パニック」ものも「SF」に含めてよいでしょう。

 ちょっとした未来を生きる主人公は、現代の危うさを照らし出します。今のままで本当によいのか。ここではこう選択するべきではなかったのか。そんな現代の選択が近い未来をどのように変えてしまうのか。

 そう考えるとマンガの藤子・F・不二雄氏『ドラえもん』なんて「SF」の最たるものです。22世紀からやってきたドラえもんが、のび太を手助けしてまっとうな人間にしようとするのがこの物語の本筋。私たちはその過程を楽しみながら読んでいるに過ぎないのです。

『ドラえもん』に明確な最終回が存在しないのも、「ひとりをまっとうな人間に変えようとする」難しさを暗示しています。

 マンガの手塚治虫氏『鉄腕アトム』には明確な最終回が存在し、アトムが地球を救う希望となって終わります。「困った人を助けたい」という正義感を全うすれば、自己犠牲の形で死ぬのだ、と手塚治虫氏は読み手に伝えたのです。そこに人々の「生きる」意義を表明しました。




歴史上の人物なら

 歴史上の人物なら、最高の剣客、最高の将軍、最高の摂政、最高の国王、最高の奉行、最高の百姓、最強の陰陽師などが考えられます。

 これらは史実に基づけば「歴史」もの、ある程度の史実に空想を加えたものなら「時代」ものに分けられるのです。つまり歴史上の人物が「最高の主人公」なら、あなたには「歴史」「時代」ジャンルの適性があります。

「歴史」「時代」ものは、壮年以上でとくに人気があり、いくら時代が進んでも一定の割合で読み手が存在するのです。


 ただ「歴史」ものは史実を踏まえなければならないため、かなりハイレベルの「歴史」知識が要求されます。もしそこまでの知識がないのならフィクションありの「時代」ものとして書くべきです。

 吉川英治氏や司馬遼太郎氏、宮城谷昌光氏といった錚々たる「歴史小説家」が名を馳せてきました。彼らはすべからく「歴史好き」です。病的なまでに「歴史の真実」を探求し、情報を収集し続けました。「歴史小説家」の書く作品は、彼らの研究成果でもあるのです。


 小説が書けるまでの史実を探求できないけれども、「歴史」を舞台にした作品が書きたい。そうして生まれたのが「時代」小説なのです。

 藤沢周平氏、池波正太郎氏、浅田次郎氏、夢枕獏氏などこちらも名だたる作家が揃っています。そもそも「時代小説」とはなんぞ、という方もいらっしゃるでしょう。

 いちばんわかりやすいのがマンガの和月伸宏氏『るろうに剣心 〜明治剣客浪漫譚〜』ですね。明治維新という「史実」の中に「人斬り抜刀斎」こと緋村剣心という「フィクション」の主人公を据えた「時代」ものになります。

 他にも池波正太郎氏『鬼平犯科帳』も長谷川平蔵という「フィクション」の主人公を据えた「時代」ものです。テレビだと『水戸黄門』『大岡越前』『遠山の金さん』『暴れん坊将軍』なども「時代」ものになります。「これなら観た」という作品ばかりですね。これらを「時代劇」と呼ぶのも「時代」もの、つまり「史実を踏まえたフィクション」だと明らかにしたいから。史実なら「歴史ドラマ」と呼ぶことが多い。


 ここで気になるのがNHKの「大河ドラマ」です。

 あれは「歴史」ものなのでしょうか「時代」ものなのでしょうか。

 松山ケンイチ氏主演『平清盛』は明確に「時代」ものです。正直あの時代の史実なんて、どこを探してもほとんど見つかりません。歴史に残る合戦や平清盛の地位などはわかっても、どのような人物だったのかや交友関係まではわからない。わからない部分は脚色する以外にないのです。だから『平清盛』は「時代」もので間違いありません。

 では史実がたくさん残る宮藤官九郎氏&阿部サダヲ氏主演『いだてん』はどうでしょうか。こちらは探せば史実が次々と見つかります。もちろんドラマとして映える脚色はありますが、ある程度史実を踏まえた「歴史」ものですね。

 NHKの「歴史」ものとしてはとくに司馬遼太郎氏『坂の上の雲』が挙げられます。明治時代に活躍した秋山好古、秋山真之、正岡子規などが活躍する群像劇です。精緻な取材力によって浮かび上がる「真実の明治」を十年の歳月をかけて書き上げた、まさに渾身の一作。これ以上の史実を探すのは無理なのではと思わせます。




異世界の人物なら

 異世界の人物なら、最高の戦士、最高の騎士、最高の王子、最高の将軍、最高の軍師、最高の魔法使い、最強の神官、最高の魔王などが考えられます。

 現実世界に存在しない場所で生きている設定なら、たいていは「異世界ファンタジー」の適性を示しているのです。

 最初から「異世界ファンタジー」を狙っていなかったのに、「最強の主人公」が「異世界ファンタジー」になってしまう。そんな方は明らかに「異世界ファンタジー」に向いています。

 そんな方はおそらく現実世界の主人公よりもはるかに書きやすいはずです。世界観もあなたが一から創り出せますからね。

 ですが現実世界にやってきた「異世界の人物」が主人公の物語もたくさんあります。

 そう考えると応用しやすい主人公ですね。

 ですが現実世界にやってくると、現実世界の知識は必要になるので、知識がない方は素直に「異世界ファンタジー」にしましょう。

「異世界ファンタジー」は主に「剣と魔法のファンタジー」ですが、和風や中華風の作品も数多くあります。

 小野不由美氏『十二国記』、雪乃紗衣氏『彩雲国物語』は中華風で有名ですよね。

 和風はゲームの広井王子氏『サクラ大戦』、マンガの久保帯人氏『BLEACH』が有名だと思います。





最後に

 今回は「最高の主人公があなたの適性を明らかにする」について述べました。

 あなたにとって「最高の主人公」は、あなたが本当に書きたい世界観を端的に表しています。

 どんな「最高の主人公」なのか。たったそれだけがわかれば、「小説賞・新人賞」へ応募するべきジャンルも見えてくるのです。

 書きたいジャンル、そして書きやすいジャンルがわかれば、どこに注力すればよいのかもわかります。

 へたに「剣と魔法のファンタジー」に挑むより、あなただから書ける作品を目指したほうがよいのです。

「最高の主人公」による小説を書いて、「小説賞・新人賞」へ応募してください。



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