1133.鍛錬篇:大衆心理を理解する
今回は「大衆心理」についてです。
「大衆心理に飲み込まれるな」とよく言われます。
飲み込まれて同じような作品しか書けないと、差別化が図れないからです。
大衆心理を理解する
よく「大衆心理に飲み込まれるな」と言われます。
他の書き手たちと同じように考えて同じように動いていたら、「小説賞・新人賞」で大賞は獲れません。
仮に一万人が同じような「主人公最強」の「剣と魔法のファンタジー」を書いて応募してきたら。どの作品を大賞にするかは、表現力つまり筆力だけの勝負となってしまいます。
あなたには他の書き手よりも際立つ表現力や筆力をお持ちでしょうか。
大衆心理を理解して、その先を考える
大衆心理は恐ろしいもので、多くの人が同じことを考えています。だから「大衆の心理」なのです。
だからといって「大衆心理」の真逆を行なえばよいのか。と安易に考えてしまいがちです。実はそれも間違っています。
「大衆心理に飲み込まれるな」とはそういう意味ではありません。
たとえば「主人公最強」の「剣と魔法のファンタジー」が大衆心理なので、「主人公最弱」の「現代日常」ものを書く。確かに差別化は図れますが、こんな小説を読みたがる人はいるのでしょうか。「現代日常」ものでも「主人公最強」の「大衆心理」には従うのなら、鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』のような作品に仕上がります。
「大衆心理に飲み込まれるな」とは、大衆が求めているものを理解して、それより先を書いてみることを指すのです。
「剣と魔法のファンタジー」だらけの中で「現代ラブコメ」を書いたから、渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』は『このライトノベルがすごい!』で三連覇を果たしました。
大衆心理を理解して、その先が見えるかどうか。
この「先を見る能力」こそが「先見の明」です。
誰よりも早く、大衆心理の先を行く作品が発表できるかどうか。
それが「小説賞・新人賞」で大賞を獲る秘訣です。
大衆心理の先を行くには、現在の大衆心理を理解してその先でなにを読みたいのか想定する力が求められます。
実はもうひとつ。自ら大衆心理の先を生み出してしまう手があります。
ライトノベルは「異世界ファンタジー」から始まりましたが、ある人が「異世界転移」ものを生み出します。「異世界転移」の原型は、「世界一売れた小説」であるC・S・ルイス氏『ナルニア国物語』や、ルイス・キャロル氏『不思議の国のアリス』でも描かれており、特段新しいジャンルではありません。しかしライトノベルとしてはじゅうぶんに新しかったのです。これは「大衆心理を理解してその先でなにを読みたいのか」を想定していました。
ライトノベルが
普通、小説では「主人公が死ぬ」と物語が終わります。別の人物を主人公にして物語を続けられますが、初代の主人公を超えるのはなかなか難しい。水野良氏『ロードス島戦記』の主人公は自由騎士パーンですが、その続編となる『新ロードス島戦記』の主人公はスパークです。しかしどうしても初代の主人公パーンを超えられませんでした。そもそもパーンはそのときもまだ生きていましたからね。
しかし「異世界転生」は「主人公が死ぬ」ところから物語が始まります。小説の常識をここまで破壊したのはライトノベルならではです。
そもそも「死ぬと別の世界で生まれ変わる」という考え方自体は仏教で広く信じられており、「輪廻転生」の言葉で知られています。キリスト教やイスラム教などの世界観では「死ぬと天国か地獄へ行く」と考えられているので「輪廻転生」の考えがそもそも存在しないのです。
国教のない無信教国家である日本だからこそ、「異世界転生」は生み出されました。
もしアメリカで「異世界転生」を書いたら「主を冒涜する行為」と言われかねません。
「異世界転生」が熱狂しているときに、その先として考えられたのが「主人公最強」です。当初は「俺TUEEE」「チート」として有名になりましたが、現在では「主人公最強」にほぼ統一されています。
今の「大衆心理」は「主人公最強」の「剣と魔法のファンタジー」に向いているのです。
では次に「小説賞・新人賞」の大賞を射止める「その先」があなたに見えるでしょうか。
見えていたら、すでに書き始めていますよね。
大衆心理はどう思うか
「大衆心理」を知るのはたいせつです。
しかし「大衆心理」に従っていると、凡百な作品しか書けません。上記では「主人公最強」の「剣と魔法のファンタジー」しか書くものがなくなってしまいます。
「大衆心理」を知ったらそれを参考にして、「自分はこうアレンジしたいんだけど」とひらめくようになりましょう。
「大衆心理」が「主人公最強」の「剣と魔法のファンタジー」を求めているのなら、「魔法のない世界を舞台にしたらどうだろう」とか「魔法が剣を圧倒的に凌駕している世界を舞台にしたらどうだろう」とか「主人公が実は最強ではなかったらどうだろう」とか。さまざまなアレンジをひらめくのです。
基本的にアレンジはひとつあればじゅうぶん。アレンジの数が多くなるほど原型から遠ざかり、「大衆心理」と乖離して誰にも読まれない作品になります。
「大衆心理」の需要を取り込めるようなアレンジができれば、読んでいて新鮮ですし差別化も図れるのです。
「小説賞・新人賞」で大賞を獲りたければ、新鮮で差別化を図った「大衆心理」のアレンジを書きましょう。
しかし書き手としてこの「大衆心理」のアレンジに納得がいかない。そうであれば、無理に合わせなくてかまいません。新鮮で差別化を図った「大衆心理」のアレンジは、あくまでも大賞を獲りやすい指針でしかないのです。
書きたいものを書きたいように書く。これが執筆の基本です。
書きたくもないものを書かなければならないのは「プロ」になってからでよいでしょう。
ただ、あなたの感性が「大衆心理」と乖離しているのであれば、感性のほうを矯正する必要はあります。なにしろ「大衆心理」は「皆がそう思っている」「皆がそういうものを読みたがっている」ものを示しているのです。それと乖離していると、いくら書きたいものを書いたところで、需要はいっさいありません。
書きたいものを書きたいように書く。
あなたの感性が「大衆心理」を理解しているからこそ可能となるのです。
最低限の「大衆心理」が理解できるまで、人気のある作品を読みまくりましょう。
最後に
今回は「大衆心理を理解する」ことについて述べました。
ほとんどの書き手は「大衆心理に飲み込まれ」て同じような作品を「小説賞・新人賞」へ応募するものです。
そんな中に新鮮で差別化を図った作品があったら、選考さんに目立ちますよね。
そして大賞を獲るのは決まって「新鮮で差別化を図った作品」です。
「大衆心理」を知るのはとてもたいせつ。ですが飲み込まれてはなりません。
「大衆心理」を知り、そのうえでひとつアレンジを加えるのです。
そんな作品が「書きたいように書け」れば、大賞は意外とあなたの近くに落ちているかもしれません。
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